レビュー
Wi-Fi 6のゲーミングルーターが1万3千円!メッシュもイケるASUS「RT-AX56U」
QoSもサポートで、テレワークにもメリットが
2020年6月16日 10:00
ASUSが4月から発売しているWi-Fi 6対応ゲーミングルーター「RT-AX56U」は、同社の製品群ではエントリーモデルに位置付けられる製品だ。6月時点では、家電量販店などで1万1000円弱と、他社のWi-Fi 6対応ルーターと比較してかなり安価な部類に入る。
記事目次
□1. 安価
□2. 小さい
□3. 設定が楽
□4. 速い
□5. 2.4GHz帯でも速い
□6. 混雑時にも低遅延
□混雑時に通信帯域を確保できる「Adaptive QoS」
□家中くまなくつながるメッシュWi-Fi機能「AiMesh」
□IoT機器までを保護できるセキュリティ機能「AiProtection」
同社のルーター製品は、エントリーからハイエンドまで幅広いラインアップで展開されているが、ゲーミング向けの機能については、一部のエントリー向けを除いた多くのモデルが搭載している。本機もその例に漏れず、ゲーミングルーターと呼べる製品だ。
一般的には、こうしたゲーミング向けの製品は「高価で当たり前」というイメージがある。実際、同社のWi-Fi 6対応ルーターには、実売で5万円を超える高級品もある。
となると、「ゲーム用途なのに、安価なエントリーモデルで大丈夫なのか?」という不安が出てくるかもしれない。後々、性能不足やトラブルで困る可能性を考えると、最初から高価なものを買った方が安心と考えるゲーマーは少なくないだろう。
もちろん、本機が安価なことには理由がある。その説明と合わせて、安価な本機であっても、ゲーマーの利用環境や活用法によっては十分な性能を発揮できる、ということをお伝えしたい。
エントリーながらWi-Fi 6対応、ゲーマーにも多くのメリットが?
本機がエントリーモデルに位置付けられているのは、もちろん性能の違いによる。無線通信の速度を決めるのは、Wi-Fi 6という規格だけではないからだ。
本機の通信速度は、Wi-Fi 6では5GHz帯で最大1201Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsとなっており、それぞれが2ストリーム(2×2)ずつのデュアルバンドとなっている。
これが、ASUSの最上位機種「ROG Rapture GT-AX11000」なら、5GHz帯の4ストリーム(4×4)で最大4804Mbpsが2つ、2.4GHz帯も1つ(最大1147Mbps)のトライバンドとなっている。同じWi-Fi 6対応ルーターでも、スペック上の速度は4倍も違う。
そうした中で、エントリーモデルの「RT-AX56U」を選ぶメリットは何だろうか。
1. 安価
最初に述べたように、価格が安いことは確かなメリットだ。一般的にWi-Fi 6対応ルーターは、まだハイエンドに位置付けられる製品が多く、実売価格では本製品のほぼ4倍程度となる約5万円前後だ。こうした製品がスペック上も優れていることは間違いないのだが、果たして適材適所なのか、必要十分かどうか、という話だ。
2. 小さい
高性能を売りにするWi-Fiルーターは、どうしても本体が巨大になっていく。特に通信を高速化するにはアンテナの数を増やす必要があるため、何本ものアンテナが本体から飛び出すことになる。デザインには好みの差があるだろうが、仰々しさは多くの人が感じるだろう。
その点、本製品のボディは比較的小型に収まっている。アンテナも2本で、見た目の違和感は少ない。本体は横置きが基本だが、アンテナの向きを本体と水平にすれば、壁掛けでも使用できる。設置場所の融通が利くというのも、Wi-Fiルーターとしては大事なポイントだ。
具体的には、223.5×129.3×47.5mm(幅×奥行き×高さ)のサイズで、アンテナ上向き時は高さ160mmとなっている。
3. 設定が楽
ASUSのWi-Fiルーターに共通して言えるのは、初期設定がとても簡単なことだ。ルーターのIPアドレスをウェブブラウザーに入力し、設定画面を開くと、大きな文字やボタンで表示される質問に答えていくだけで初期設定が完了する。マニュアル要らずで簡単に設定ができるのは、ネットワークにそれほど明るくないゲーマーにとってはありがたい。
また、ルーターをカスタマイズして使いたい人向けのメニューも充実している。ゲームでよく使うポートフォワードの設定などはもちろん、ブリッジモードへの切り替えや、ルーターのCPU負荷状況の確認など、細かな設定やチェック項目が並んでいる。不慣れな人に対しても、ほぼ自動で接続できるよう配慮し、詳しい人に向けては、細かい設定や機能も見られるようにしているので、誰にとっても扱いやすいと言える。
4. 速い
Wi-Fi 6によって、5GHz帯で最大1201Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsとなる通信の高速化は最も重要なものだ。Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)では、5GHz帯の2ストリームであれば最大866Mbpsだったので、およそ1.4倍高速化されたことになる。
実際にどのくらい速くなったのか、実測データを見てみよう。本製品から1mほどの距離に置いたノートPCから、ルーターと1000BASE-Tの有線LANで接続されたデスクトップPCへの通信速度を測定した。ノートPCのドライバーの設定で、通信規格をWi-Fi 6とWi-Fi 5へ切り替えてテストした(ハードウェアは共通)。
実機でのリンク速度は、Wi-Fi 6では1201Mbps、Wi-Fi 5では866.7Mbpsとなっていた。
Wi-Fi 6 | Wi-Fi 5 | 速度比 | |
下り | 824.5 | 690.4 | 119.4% |
上り | 744.1 | 583.0 | 127.6% |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載 |
実測での比較だと1.2~1.3倍といったところだが、Wi-Fi 6での瞬間的な速度は900Mbpsを超えることも多かった。また、本機の設定は、あえてNATを使う無線ルーターモードとしていることや、通信相手となるデスクトップPCの有線接続の限界(1000Mbps)に近いことを考えると、ほぼ上限と言っていい値だ。
もし、これ以上の速度を求めるとなると、接続先となる有線LANをより高速な規格のものへと交換しないと、そこがボトルネックになって通信速度が上がらなくなる。例えば「ROG Rapture GT-AX11000」であれば、最大2.5Gbpsで通信できる2.5GBASE-Tのポートを備えているので、より高速なWi-Fi環境を導入する意味が出てくる。
つまり、有線LAN側として1000BASE-Tの環境を維持するつもりなら、1201Mbpsという無線の通信速度は、ちょうどいい塩梅と言えるのものとなるわけだ。
5. 2.4GHz帯でも速い
Wi-Fi 6対応で、もう1つ注目したいのが、2.4GHz帯での対応だ。5GHz帯に比べて通信速度では不利な2.4GHz帯だが、伝達距離では有利になる。遠くの部屋まで通信範囲をカバーしたい、といったニーズには特に重宝する。
しかし、2.4GHz帯は、Wi-Fi 5では採用されず、これまでWi-Fi 4(IEEE 802.11n)止まりだった。本製品は、Wi-Fi 4での接続は最大300Mbpsなので、Wi-Fi 6の576Mbpsと比べ、およそ2倍の高速化がなされていることになる。
こちらも、5GHz帯の時と同じテスト環境で実測データを見てみよう。リンク速度は、Wi-Fi 6では286.8Mbps、Wi-Fi 4では144.4Mbpsとなった。
Wi-Fi 6 | Wi-Fi 4 | 速度比 | |
下り | 205.3 | 107.1 | 191.7% |
上り | 145.1 | 89.7 | 161.8% |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載 |
さすがに2世代のジャンプアップとあって、実測値でも下りで2倍近い差となった。絶対値として見ても、200Mbpsを超えて通信できるのであれば、普段の使用でそう困ることはない。特にスマートフォンなどの小型端末であれば、使用する上で、何ら不満を感じることはなさそうだ。
ただし、2.4GHz帯に特有の弱点として、電子レンジやBluetoothといった通信機器からの影響を受けやすいことが挙げられる。ルーターから通信機器までがそれほど離れておらず、5GHz帯の電波が安定して届く距離なら、5GHz帯を使う方が、安定かつ高速な通信環境が得られるだろう。
では、距離が大きく離れた場合はどうか。筆者宅の3LDKのマンションで、扉を3枚隔てた遠方の部屋で計測した。5GHz帯ではギリギリで接続が途切れてしまうが、2.4GHz帯なら電波は弱いながらも接続は安定していた。
Wi-Fi 6 | Wi-Fi 4 | 速度比 | |
下り | 31.7 | 24.8 | 127.8% |
上り | 21.7 | 14.7 | 147.6% |
※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載 |
電波が弱く、計測される速度が不安定なこともあり、近距離での通信ほどの差は出なかった。とはいえ、高速化されていることは間違いなく、遠距離通信での快適性は高まっている。
6. 混雑時にも低遅延
Wi-Fi 6では、複数端末が同時に通信する際の混雑緩和も図られている。
まず、Wi-Fi 5の一部で実装され始めたMU-MIMOが標準となり、さらに特に上りで強化がされている。Wi-Fi 5では、アクセスポイントやルーターから複数の端末へ同時にデータを送信でき、通信速度の低下を緩和していたが、Wi-Fi 6では、複数端末からアクセスポイントへの同時送信にも対応したのだ。これにより、送受信とも安定した通信が可能になった。
また、Wi-Fi 6では新たに「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」が実装された。これも複数端末での同時通信時をスムーズにする技術で、特に遅延を減らす効果が大きい。
このMU-MIMOとOFDMAにより、複数端末が同時に通信しても、速度低下や遅延がより少なくて済むようになった。昨今、1人1台のスマートフォンに加え、さらにPCやタブレット、ゲーム機、スマートデバイスなどなど、Wi-Fi接続端末は、家の中だけでも意外と増えてきている。
そんな中、スマートフォンのシビアなゲームで少しでも遅延を減らしたいのなら、Wi-Fi 6は効果的に働いてくれる。目に見えるのは最大通信速度だけだが、ゲーマー目線では低遅延性という部分の意味も大きい。
豊富な機能で在宅勤務でのテレワークにも便利
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による影響をきっかけとして広まった在宅勤務でのテレワークが、今後も根付いていく可能性が高まってきたようだ。
そうはいっても、自宅のWi-Fi環境が貧弱だと、例えば子どもがスマホやタブレットで動画を見始めると通信が遅くなったり、またビデオ会議のしやすい場所でWi-Fiの電波が入らないなど、これまで経験しなかった困りごとに遭遇した人も多いかもしれない。
ASUS製のルーターに搭載された、さまざまな独自の機能には、こうした問題を解消できるものも含まれている。例えば、端末やアプリごとに通信帯域を制御できる「Adaptive QoS」や、対応するASUS製ルーターを複数台組み合わせ、1台では電波の届きにくい環境で広いエリアをカバー可能にする「AiMesh」などだ。
混雑時に通信帯域を確保できる「Adaptive QoS」
Adaptive QoSは、ゲーマー向けと位置付けられている機能ではあるが、動画視聴やテレビ会議でも、ワンボタンで簡単に設定して通信を優先できる機能だ。
このQoSとはQuality of Serviceの略で、特定の通信を優先したり、通信帯域を確保したりして、通信品質を保とうという仕組みのこと。Adaptive QoSではよりシンプルに、ゲームやストリーミング、ブラウジングなど、指定したジャンルの通信を優先し、混雑時にも指定ジャンルの通信を安定させてくれる。例えば「Video Conferencing」を選べば、PCやタブレット、スマートフォンなどの端末を問わず、ビデオ会議の通信を優先してくれる。
ASUSによると、6~10Mbpsの通信速度下でAdaptive QoSを使用したところ、オンラインゲームのPING値が9.5%程度改善するという。昨今の光インターネット回線は1Gbpsが当たり前なので、10Mbpsという値はありえない……と思うかもしれないが、夜間などの混雑時で、しかも混雑しやすいPPPoEの回線であれば、環境によってはそれ以下になることも十分あり得る。加えて家庭内で複数の通信が同時に使われることが多ければ、ある程度の改善が期待できそうだ。
ちなみに、筆者宅のインターネット通信環境は、常時1Gbps近い速度が出ている。試しにWAN側の有線接続のリンク速度を100Mbpsに落とし、大容量ファイルのダウンロードやストリーミング動画再生で高負荷をかけつつゲームをプレイし、Adaptive QoSの効果を検証してみたが、ゲームのPING値に大きな変化は見られなかった。ここから回線に余裕がある時に、さらにPING値を改善するというものではないことも分かる。
家中くまなくつながるメッシュWi-Fi機能「AiMesh」
AiMeshは、エントリーの一部モデルを除き、多くのASUSルーターが対応するメッシュWi-Fiの機能だ。
在宅勤務時にビデオ会議をする際に、家の中で1人になれる寝室や書斎などへ移動すると、Wi-Fiの電波が十分に届かないといったことがあるかもしれない。
「Wi-Fiルーターを買い換えればつながるようになるかも」と考えて新しいルーターを導入しても目当ての場所でWi-Fiがつながらない、といったリスクもAiMeshに対応した製品であれば回避できる。Wi-Fi 6に対応しながら安価な本製品は、まさにこうした状況にもピッタリだ。
さらに将来、よりストリーム数やバンド数が多い高速な製品へ交換した際にも、本製品をメッシュWi-Fi機器としても活用できる。「とりあえずWi-Fi 6を使ってみたい」というニーズを安価に満たしつつ、将来的にも無駄にならないというのは安心感がある。
IoT機器までを保護できるセキュリティ機能「AiProtection」
AiProtectionは、セキュリティ専業メーカーであるトレンドマイクロの技術を採用しており、ルーターに接続された各種デバイスのセキュリティを確保できる機能だ。
ネットワーク内の機器に対する脆弱性スキャンや、悪質なウェブサイトへの通信を感知してのアクセス遮断、外部からの不正アクセスに対する通信のブロック、ウイルスに感染した機器からの外部への通信のブロックなどの機能を備える。
テレワークでは、業務に関する情報も当然扱う必要があるので、セキュリティ対策を万全にしておく必要があることは、言うまでもないだろう。
また、PCやスマートフォンであれば、セキュリティ対策ソフトをインストールすれば、こうした保護が可能だが、ネットワークカメラやIoT機器などでは、そうしたソフトのインストールは不可能だ。AiProtectionではこうした機器を保護できることも大きなメリットだ。
なお、本機は発売当初、新しいWi-Fiセキュリティ規格であるWPA3に非対応だったが、ファームウェアアップデートによりWPA3-Personalに対応した。筆者も最初は「安価な製品だからWPA3が使えないのは仕方ないのかな」と思っていたが、後からきっちり対応してくれたのは嬉しかった。売りっぱなしにならず、製品の品質を上げてくれるのは先々の安心感がある。
Wi-Fi 6対応に加えて豊富な機能と拡張性、安価でもゲーマー向けのメリット多数
Wi-Fi 6の通信を利用するには、ルーターだけでなく、PCやスマートフォンなどのデバイスがWi-Fi 6に対応している必要がある。対応機器は徐々に増えてきており、今後主流となっていくことは間違いない。弊誌でもWi-Fi 6対応機器のリストを掲載しているので、併せてご覧いただきたい。
とはいえ、本製品はWi-Fi 5以前の通信規格にも対応しているし、Wi-Fi 6の機器と混在利用しても問題はない。今は対応機器がなくとも、古いWi-Fiルーターを置き換える際に、先行投資として導入しておくというのはアリだろう。さらに「ASUS AiMesh」機能により、高速な製品に交換したときにも、本機をメッシュWi-Fi機器として活用できるのも大きなメリットだ。
テレワークでも大きなメリットがあることはお伝えした通りだが、ゲーマー的な目線でも、ことオンラインゲームにおいては、インターネット回線の多くが実測で1Gbps未満であり、本機の通信速度は必要十分だ。さらにWi-Fi 6の規格レベルでの恩恵は大きく、Wi-Fi 5以前からの環境更新には低遅延性などの明確なメリットがある。Wi-Fi 6の対応機器を手に入れた際には、手軽なステップアップとして本機を導入してみてはいかがだろうか。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)