レビュー

ゲーミングルーターは普通のWi-Fiルーターと何が違う?ポイントを比べてみた

縁の下の力持ち?

 ゲーミングPCやゲーミングマウスなど、ゲーム向けをうたうさまざまな製品が存在する中、ネットワークまわりでも“ゲーミングルーター”という製品ジャンルが存在する。

 ルーターは、一般の家庭においては、インターネットモデムと接続し、家庭内のネットワーク機器の間に入って通信を仲介する機器だと言える。

 そして最近は、Wi-Fi機能を内蔵したWi-Fiルーターと呼ばれる製品がほとんどで、スマートフォンをWi-Fi接続するなどの理由で多くの家庭に設置されている。

ASUSのゲーミングWi-Fiルーター「TUF Gaming AX5400(TUF-AX5400)」

 では、一般的に使われるルーターとゲーミングルーターの違いは何だろうか?

 「普通のルーターを使っていて、オンラインゲームも遊んでいる」という人は多いだろうし、それで不満や問題を抱えているという人は少ないと思う。それだけに、ゲーミングルーターの違いやメリットを説明するのは、実はなかなか難しい。

 そこで今回、ASUS、ゲーミング向けの機能を多数搭載するゲーミングルーター「TUF Gaming AX5400(TUF-AX5400)」をお借りした。

 この製品を例に、ゲーミングルーターが、一般的なルーターと何が違うのか、見ていきたい。


ゲームの通信を優先して混雑回避!「QoS」

 オンラインゲームにおける通信では、通信速度の速さよりも通信にかかる時間の短さ、つまり応答速度が重要になる。いわゆるPing値と言われるもので、この数値が低いほどいい。

 しかし多くの機器やアプリが同時に通信すると、インターネットに出ていく1台のルーターに通信が集まり、混雑する。こうなるとルーターは多数の通信を順番に並べて、1つずつ処理していく。

 これがウェブブラウジングであれば、サイトの表示が遅くなる程度で済む。しかしオンラインゲームでは通信が遅くなると、操作の反応が遅れたり、最悪の場合は通信が途切れてゲームが強制的に中止されてしまう。特に動きの激しいアクションゲームなどでは、通信の一瞬の遅れが著しいストレスになりうる。

 ゲーミングルーターに搭載される「QoS(Quality of Service)」機能では、ゲームなど特定の通信を優先させる機能を持つ。ゲームのほかに、ストリーミングビデオやファイルのダウンロードなど、さまざまな通信で混雑する状況になっても、ゲームの通信を優先して流すことによって遅延を最小限に抑えるという機能である。

 ゲームの通信を優先した結果、その他の通信は遅れることになる。ただオンラインゲームの通信というのは、実は「微量のデータを頻繁にやり取りする」ものが多い。そのため、他の大容量通信を妨げるほど影響が大きくなることはまずない。

 なお、優先する通信はゲーム以外のものを指定することも可能だ。例えば仕事のビデオ会議を最優先という設定もできるので、テレワークにゲーミングルーターを活用することもできる。インターネットを使う家族が多かったり、通信機器が多い環境では、QoSを有効活用できるだろう。

「TUF-AX5400」のQoS機能「Adaptive QoS」では、通信の種類ごとに優先順位を決められる


特定の有線LANだけ優先通信!「ゲーミングLANポート」

 通信の種類によって優先順位を切り替える「QoS」と違って、LANポートの挿し口によって通信を優先させるのが「ゲーミングLANポート」だ。

 昨今はスマートデバイスが増えたり、PCの自動アップデート機能が働いたりして、利用者が意識しないタイミングで通信を発生させることも増えている。たとえひとり暮らしであっても、シビアな通信を要求するゲームを遊ぶマシンをゲーミングLANポートに接続しておくと安心感が増す。

 注意点としては、通信を優先するつもりがないデバイスをゲーミングLANポートに接続してもメリットはないので、本機能を搭載するルーターを使用する際には、どの有線LANポートに接続するか注意が必要だ。

「TUF-AX5400」の有線LANポートのうち1つは、通信を優先する「ゲーミングLANポート」になっている
ちなみにASUSでは、ゲーマー向けのLANケーブルとして「ROG CAT7 Cable」も発売している。これは、10GBASE-Tで求められるカテゴリ6Aを超える「カテゴリ7」に対応するシールド付きツイストペア(STP)ケーブル。通信品質を低下させるクロストークやノイズにも強いとしている。デザイン的にもユニークだ。


スマートフォンのゲームの通信を最優先!「モバイルゲームモード」

 「有線では接続できないスマートフォンのゲームの通信を優先させたい」という人に向けた機能もある。ASUS製のゲーミングルーターに搭載されている「モバイルゲームモード」がそれだ。

 モバイルゲームモード機能をオンにすると、Wi-Fiを使ったスマートフォンからのゲームの通信が優先される。スマートフォンの高性能化に伴い、ゲームも複雑化し、瞬発力が必要なものも増えている。有線接続とは違いWi-Fiは目に見えないだけに、通信を優先してくれる機能は安心感がより強い。

 ただ本機能はWi-Fiの電波を強化するといった類のものではない。まずはWi-Fiの電波が安定して届いているかどうかを確認するのが重要だ。その上で、家族などが他の機器で通信を使っている状況でも、安定したスマートフォンゲームの通信が期待できるようになる。

スマートフォンのゲームの通信を優先する「モバイルゲームモード」。専用アプリ「ASUS Router」でも設定できる


「ゲーミングルーターだから」といって、ダウンロードは“基本的には速くならない”対応する通信規格を確認しよう

 ここまで、さまざまな形で通信に優先順位をつけることで、混雑時にも応答遅れをなくす機能について紹介してきた。しかしゲーミングルーターについて語る上で踏まえておきたいのは、一般的なルーターと比較してダウンロードが速くなるといったことは“基本的にはない”ということだ。

 ゲーミング○○、という製品には、おおむね高性能なものが多い。となれば、ゲーミングルーターは高性能、つまり通信が高速になるというイメージを持つのも無理はない。

 しかし、ウェブブラウジングやファイルのダウンロードの速度が、「ゲーミングルーターだから劇的に速くなる」ということは、実際のところ、ない。

 ダウンロードの速度で重要なのは、ゲーミング要素ではなく、通信の規格の方だ。Wi-Fiなら、最新規格のWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)で最大4804Mbps(約4.8Gbps)に対応する製品がある。しかし旧規格のWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)やWi-Fi 4(IEEE 802.11n)が現役で使われている環境もまだまだ多く、通信速度にも差が出てくる。

 有線LANなら、現在は最大1000Mbps(1Gbps)の1000BASE-Tが主流で、最近は2.5Gbpsや10Gbpsといったより高速な規格に対応する製品も増えてきている。古いものだと、最大100Mbpsの100BASE-TXの製品も現役で残っているかもしれない。

 もし、ネットワーク環境を高速化したいのであれば、有線・無線を問わず、こうした通信規格を確認するのが先。

 とはいえ、メーカーが最も推すゲーミングルーターは、その時点で最もよい規格に対応しているものが普通だ。今回お借りした「TUF-AX5400」も日本で利用できる最新の規格であるWi-Fi 6に対応しており、理論値では最大4804Mbps(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)の通信帯域に対応する。

 最新規格による通信は親機(ルーター)と子機(PCやスマートフォンなど)の両方が対応している必要があるので、使用する機器とルーターの通信規格に差がないかも確認しよう。

通信速度は規格で決まる。「TUF-AX5400」は最新のWi-Fi 6に対応している


通信経路を便利に切り替え!「VPNフュージョン」

 VPN(Virtual Private Network)は、VPNサーバーへ仮想プライベートネットワークを構築する機能。ざっくり言うと、自分と通信相手の間にVPNサーバーを介した通信となり、通信相手からはVPNサーバーから通信が来ているように見えるというもの。

 オンラインゲームの中には、個人でゲームサーバーを建てられるものもある。そこに他のユーザーが接続すると、サーバー側からはどこの誰が接続したかが簡単にわかってしまう。サーバーの管理者がネットワーク攻撃やハッキングを仕掛けてくる可能性もなくはない。VPNを使って通信相手に素性を知られないようにすれば、そういった危険性をある程度回避できる。

 またVPNを使うとユーザーの所在地に関わらず、VPNサーバーが置かれた国からの通信に見える。適切なVPNサーバーに接続することで、海外にあるゲームサーバーに接続するオンラインゲームのPing値を下げられるという話もあるようだ(実際に活用できるシーンはかなり限定的と思われるが)。

 ASUS製のゲーミングルーターでは、「VPNフュージョン」というVPN機能を搭載したものがある。複数のVPNを切り替えたり、端末によって接続するVPNを変えたりといった柔軟な機能を持っている。本機能はVPNに関する理解が必要で、使い方もある程度複雑なので、詳細は別記事にてご確認いただきたい。

VPNを複数接続し、使用する端末を自在にコントロールできる「VPNフュージョン」


セキュリティ機能の高さも重要!

 オンラインゲームは通信が必要になる以上、他人に通信元を知られるリスクは常にある。また稀なケースではあるが、ゲーム側のセキュリティホールによってインストールした機器にリスクが発生することもある。さまざまなオンラインゲームやツールを使うゲーマーは、セキュリティの重要性がより高くなる。

 ゲーミングルーターには多彩なセキュリティ機能を持つものが多い。ASUS製ゲーミングルーターでは、「AiProtection」と呼ばれるセキュリティ機能があり、悪質なウェブサイトをブロックしたり、外部からの攻撃を感知・遮断したりといった機能が使える。また存在するリスクをあらかじめチェックし、セキュリティを高める評価機能も用意されている。

 またゲームと直接は関係ないが、ペアレンタルコントロールも便利だ。子供がリスキーなオンラインサービスを使わないようにしたり、夜遅くまでゲームで遊ばないようにしたりといったことを、ルーターの通信を制限することによって実現する。どんな通信を許可するかも選べるので、子供の成長に応じて機能を開放していくことも可能だ。

セキュリティ関連機能を総括する「AiProtection」
ペアレンタルコントロールで特定の端末に通信制限をかけられる


長時間のゲームでも安定する耐久性!

 ゲームプレイにおいて必要なのは、通信の速さだけではない。常に安定して動いてくれることも重要だ。

 ルーターは通信を扱う一種のコンピューターであり、PCと同様にCPUやメモリを搭載している。負荷が上がれば発熱するし、長く使えばメモリ不足で不安定になることもある。

 ゲーミングルーターを名乗る機種では、高性能なCPUや大容量のメモリを搭載することで、多量の通信や長時間の使用でも安定動作できるように設計されているものが多い。あまりスペックに現れてこないこともあるが、一般的なルーターに比べれば高負荷や長時間の利用が想定されるので、より高性能で安定性を重視するのは必然だ。

 ただし、どんな高耐久の機種でも使っているうちに多かれ少なかれ疲弊はする。ゲーミングルーターに限らず、たまには再起動をかけてリフレッシュしてやるのがいい。再起動自体は長くて数分程度で終わるので、ゲームのプレイ後、家族が誰も使っていないタイミングを狙って再起動をかけよう。不調を感じた時はもちろん、何もなくとも数カ月に1回くらいは再起動をおすすめする。

「TUF-AX5400」では設定画面でCPUの負荷やメモリの使用状況を確認できる


ゲーミングなら見た目も大事! LEDライティングを搭載した機種も

 最後は見た目の話。ゲーミングPCを始めとしたゲーミングデバイスは、外見も凝ったものが多い。よく知られているのがLEDライティングで、サイバーな外装と相まって未来感を演出してくれる。

 また最近はゲーミングデバイスでもさまざまなカラーを採用した製品も多い。PC周りは全部ホワイトで統一したいという人など、何かしらテーマを持って揃えたいという人は多いだろう。

 ASUS製ゲーミングルーターでは、ポリゴンチックで特徴的な外装やLEDライティングも特徴。ルーターはそれなりに見える場所に置いておかないと通信を阻害する可能性があるだけに、気に入った見た目の製品を選ぶのは意外と重要なのだ。

「TUF-AX5400」の本体にはLEDライティングが搭載されている。前面のインジケーターもユニーク
ロゴ部分のLEDは光り方や色のカスタマイズも可能


v6プラスでゲームの通信をさらに高速化!

 NTT東西が提供しているインターネット接続サービス「フレッツ光」で、夜間を中心に通信が遅くなる現象がしばしば発生している。使用する地域やプロバイダによって状況は異なるが、根本的な通信経路を変えることで混雑を回避する「IPoE IPv6インターネット接続サービス」が始まっている。そのうちの1つが「v6プラス」と呼ばれるサービス。

 記事によると、「TUF-AX5400」とv6プラスの組み合わせにより、通信速度は10倍以上、Ping値も1/10程度まで改善したという実証結果が出ている。どの程度改善するかは利用者の環境やタイミングによるので一例として見ていただきたいが、v6プラスを利用する以前よりも大幅に改善したという声はとても多い。

 ゲームの通信で重要なPing値が改善するのはゲーマーにとって大きなメリット。また最近はゲームのダウンロード容量が100GBを超えるものも出てきており、通信速度の改善も大きな意味がある。

 ASUS製ゲーミングルーターでは、今回扱っている「TUF-AX5400」のほか、「TUF-AX3000」、「RT-AX82U」といった機種がv6プラスに対応している。使用しているプロバイダがv6プラスに対応しているのであれば、ゲーミングルーターも対応する製品を選ぶようにしたい。

v6プラスを利用するには、対応するルーターが必要だ


ゲーミングルーターは縁の下の力持ち!

 ゲーミングルーターを導入する利点を紹介してきたが、正直なところ「ピンと来ていない」人もいると思う。

 実はそれも当然だ。

 一般的なルーターでもオンラインゲームは普通にプレイできるし、それで「特に困っていない」という人も多いはずだ。だから、そういった方がゲーミングルーターを導入して、「すぐに劇的な変化があるか」と聞かれれば、やはり「そうではない」と言わざるを得ない。

 しかし、ゲーミングルーターの独自機能は、「通信が混雑した時にだけ効果を発揮する」「特定の機器の通信を安定させる」など、どれも「すぐに効果を体感できる」というよりは、いざという時の備えであり、縁の下の力持ちと言うべき機能が中心だ。

 オンラインゲームでたまに発生する遅延や通信切断は、たまに、であっても気分がいいものではない。それが許せないからこそゲーマーであり、その可能性を下げてくれることに最大の意味がある。その価値が「わかる人」は、ぜひゲーミングルーターの採用を検討してみていただきたい。

(協力:ASUS JAPAN株式会社)