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「新型コロナのある社会」に適応しつつある「記者会見」の現場事情、「増えるオンライン会見」で変わるものとは?

3月12日に日本マイクロソフトが開催した「Microsoft Security Forum 2020」はオンラインのみで実施。メディア関係者もオンラインを通じて参加した。こんな様子でのイベントや記者会見がこれから増えることになる

 2020年2月27日に、本誌で「新型コロナウイルス対策、各社の『記者会見』はどう対応しているのか?」の記事を掲載したところ、企業の広報担当者や、PR会社の担当者から、多くの反響をいただいた。

 それから約2週間を経過し、新型コロナウイルスの感染はさらに拡大し、終息の気配はまったく見えない。

 先が見えない感染拡大に呼応する形で、イベントを中止あるいは延期したり、記者会見をオンラインだけで行ったりといったケースが一気に増えてきた。

 5月のゴールデンウイーク中に、米ラスベガスで開催が予定されていたデルテクノロジーズの年次イベント「Dell Technologies World」と、同じ時期に米サンフランシスコで開催予定だったIBMの年次イベント「Think」は、いずれもオンラインでの開催に変更。いよいよ5月まで影響が及んできたと思っていたら、2020年6月10日~12日に、中国・上海で開催が予定されていた「CES Asia 2020」も延期になり、続いて6月9~11日に米ロサンゼルスで開催予定だったゲーム見本市「E3」も中止になった。

 6月といえば、その翌月には、東京オリンピックが開幕を迎える。つまり、新型コロナウイルスの影響によるイベント延期は、東京オリンピックに、もうすぐ手が届く時期にまで及びはじめているというわけだ。

【様々なイベントが「新型コロナ対応」を迫られている】
IBMの年次イベント「Think」の昨年の様子。今年はオンライン開催に変更された
Dell Technologies Worldもオンライン開催となった
6月開催予定だったCES Asia 2020は延期
同じく6月予定だったE3。こちらは中止

 この2週間に渡って、オンライン記者会見の開催など、新型コロナウイルス対策を視野に入れたIT業界の対応は速かった。

 前回の記事で紹介した私の手書きの手帳にも、これまでにはなかった「オンライン」という文字がいくつも書き込まれるようになった。

 IT業界の企業がいち早くオンライン会見を実施できたのは、テレワークに率先して取り組んでいたり、各種ツールを活用する環境を構築し、その操作に慣れていたことも理由のひとつだ。また、編集部やライターも、もともとこの分野に明るいだけに、オンラインによる会見を開催しても、大きな混乱を招いていないのが現状だ。

 会社によって、Zoomを利用したり、Microsoft Teamsを利用したり、あるいはYouTubeCisco Webexを利用したりと様々であり、当初は、それにあわせて最適なブラウザをインストールしたり、アプリをダウンロードしたりといった作業が必要だったが、これもひと通り終わった。すでに、自宅用のデスクトップPCと、外出用のノートPCのどちらでも利用できる環境が整っている。

 自宅では、光回線によるネットワーク環境や23型ディスプレイを搭載したオールインワンPCなど、安定して作業ができる環境が整っているが、外出先でも、NTTドコモのWi-Fiルーターを使用して、オンライン会見に出席してみたところ、まったく問題なく参加できた。ヘッドフォンを装着していれば、どこにいても会見に参加できることを感じた。

 また、ひとつのオンライン会見が終わった直後に、別のオンライン会見に出席できるというメリットも大きい。自宅にある複数のPC環境を使えば、同じ時間に開催されたオンライン会見も、一度に2つ以上に出席することができる。これもデジタルならではのメリットといえるだろう。

 もちろん、そうしたなかでも、リアルの記者会見にこだわる企業もある。実際の製品を見せたり、施設を見せたりしないと、ニュースとしてのバリューが伝わらない場合もあるからだ。この2週間の間にも、会見場に出向いて取材をすることが何度かあった。

 一方で、エレクトロニクス業界の動きは遅い。家電メーカーなどがオンライン会見を行った例は手元では皆無だ。ソニー、パナソニック、日立製作所、シャープなどは、この間記者会見を控えてきた。たぶん、ほかの業界でも同様なのだろう。その点でもIT業界の積極ぶりが際立つ。

 では、IT業界各社はどんな形で、記者会見を開催しているのか。あれから2週間の様子をお伝えする。

リアルの記者会見で進む「対策の徹底」「全員マスク」「長机に記者1人」「赤外線サーモグラフィ」……

リアルの記者会見では、参加する記者の検温を行い、手袋をした担当者が、マスクを渡すというケースもあった

 まずは、リアルの記者会見の例を紹介しよう。

 ある大手IT企業の会見では、まさに厳戒態勢といえるなかで、社長会見を開いた。

 記者は、受付手前に設置された消毒液のスプレーボトルを使って両手を消毒、その後の受付では、担当する社員が手袋とマスクをして待機。名刺は手袋をした担当者に手渡す。

 さらに、参加する記者全員がマスクの着用が義務付けれ、マスクを持っていない記者にはマスクを配布。加えて、その場で検温を行い、体温が高い記者は会場に入れないようにした。また、会場に入ると横長の机ひとつに、記者一人という環境を作り、濃厚接触しない形で記者を着席させた。

 社長自身は、マスクをしない形でぶら下がりにも応対したが、記者はずっとマスクをしたまま会見に参加する形だった。

会見場の入口にはこんな表記も出ていたケースもあった

 また、あるIT企業では、3月下旬に開催する会見で、通知のなかに、以下のような内容で行うことを明示した。

【あるIT企業の対策の例】
●会見場の席は、間隔を前後左右2メートル以上空けるレイアウトで準備
●参加者全員がマスク着用。会場でもマスクを用意する
●会場にアルコール消毒液を設置。アルコール製剤が使えない人は手洗いの協力をお願いする
●来場時に赤外線サーモグラフィーで体温を計測し、37.5度以上の人は入場を断る
●感染予防の徹底のため、記者会見後の登壇者へのインタビューはなし。個別インタビューは後日調整する

 ここまでの徹底ぶりが示されているのだ。

横長の机に1人だけが着席するという環境を作った会見も
会場入口の消毒とマスクの配布は前提となっている

 一方、別の大手企業の会見では、午前11時から午後5時まで、毎時00分にスタートする製品説明会を開催。一日6回にわけて説明を行った。これによって、1回あたりの参加者は3~4人に限定することができ、やはり机ひとつに1人の記者を座らせ、少人数の開催によって、濃厚接触のない会見を実現してみせた。

 さらに別の企業では、約50人が入れる会議室で、2人の記者だけが参加した会見を開催。記者同士も少し間を開けながら、がらんとした状況で会見を行った。説明者は壇上からマイクを使って行ったが、これまでにはない不思議な雰囲気であったのは確かだ。ここでは、質疑応答の際には、説明者や広報担当者全員がマスクをして、答えるという様子が見られた。

 この2週間で、いくつかの会見に出席したが、「会見場に入る前の消毒液の使用」と「記者のマスクの着用」は必須となってきた。

 そして、会見資料も担当者からの手渡しではなく、置かれている資料を自分で取るというケースもあった。リアルの会見では、ここまで配慮する形で行われており、従来の仕組みのまま、会見を行う企業は皆無になったといえる。

オンライン会見は一気に増加、質問はチャットで「見逃し配信」が用意されることも

 オンライン会見の数は一気に増えた。

 オンラインだけで行う場合と、会場参加とオンライン会見を併用する場合とがあり、なかには、オンライン会見を前提としながらも、限定した記者だけを会場に呼んで、記者自らが写真撮影を行えるようにしたり、ぶら下がり取材を実施したりする例もあった。

オンラインだけで会見を行った富士通は、資料のほか、オフィシャル写真、見逃し配信なども提供していた

 ある企業のオンライン会見は、海外からのVIPの参加が難しくなり、リアルの会見を延期していたものだったが、VIPがいる海外拠点と日本法人本社からそれぞれ参加。当初予定していた参加者には変更がないまま実施した。時差の問題さえ解決すれば海外拠点のVIPも、日本でのオンライン会見に参加できることを示した事例ともいえる。これもオンライン会見のメリットのひとつだろう。

 オンライン会見の場合、会見通知に返事をすれば、当日までに参加用のURLが送られてくることが多い。会見開始5~10分前ぐらいに接続すれば参加できる。ちなみに、URLは、登録者だけで共有するものとし、編集部内の他の記者や、外部ライターにも、転送することを禁止することが明記されている場合が多い。

 オンライン会見は、通常の会見と同じように、司会者の挨拶から始まり、担当者による説明が行われる。説明時には画面に説明用資料が大きく表示されることが多いが、担当者の顔も小さく表示されているので、それを拡大して、顔写真のキャプチャーを撮ることもできる。

 会見の資料は、別途送信されてくる場合もあるので、それを見ながら参加することも可能だ。海外のVIPの場合、英語の資料を使う場合があるので、手元に別途送られてきた日本語の資料があると、ディスプレイ上に表示できて便利である。

 ひと通りの説明が終わると、質疑応答になる。チャットボックスに質問事項を書き込んで、司会者が読み上げる場合と、音声をつないで記者が質問するという例がある。いまはチャットボックスに書き込むやり方が多い。筆者もチャットボックスに質問を書き込んでみたが、書いている途中で操作を誤って送信してしまい、先方に迷惑をかけてしまった例があった。

 ちなみに、リアルで参加する記者とオンラインで参加する記者がいる場合、まずは会場からの質問を受けて、そのあとにオンライン参加者の質問を受けることが多い。

 オンライン会見終了後には、会見に参加した担当者の写真や会場全体を押さえた写真が用意され、メディアはそれを利用することができる。なかには、プロのカメラマンを使って撮影した写真を提供するという例もあったほどだ。日本のメディアは、海外メディアに比べて写真を多用することが多いため、こうした配慮はありがたい。ただ、その一方、他誌とは違うオリジナル性を重視する媒体が多いため、写真の枚数はなるべく多めに提供してもらうことを望みたい。

 また、オンライン会見を行った企業のなかには、「見逃し配信」を用意してくれる場合もあった。ある企業は、会見終了後2時間後ぐらいから見られるようになっており、一定期間の視聴が可能だった。オンライン会見の時間が重なった場合などには、「見逃し配信」を使って会見の様子を確認できるので便利なサービスだ。

参加する記者も「適応」進む、ディスプレイを追加したり、ヘッドフォンを活用したり……カラオケボックスが実はねらい目?

リアルの会見が終わった後に会場の一角を借りて、別のオンライン会見に出席したこともあった

 オンライン記者会見に参加する記者側も、それに向けた準備を進めてきた。

 筆者も先に触れたように、最適なブラウザやアプリのダウンロードのほか、モバイル環境でも利用できるような環境を整えたが、もう少し快適な形でオンライン会見に参加できないかとも思っている。

 たとえば、自宅にある23型のディスプレイを搭載したオールインワンPCを使っていても、オンライン会見の画像を表示しながら、原稿を書くとなると、もう少し大きいサイズが欲しいと感じる。

 筆者の場合、普段から原稿執筆には、キングジムのポメラを利用しているので、オールインワンPCには、会見の内容を表示し、原稿はポメラで書くという使い方をしていることが多い。

 だが、デュアルディスプレイにしてみたり、タブレットに会見内容を表示して、原稿はPCで書くといった環境にすることも検討に値するだろう。

 また、家族に迷惑がかからないように、ヘッドフォンをして会見に臨んでいるが、今後、オンラインでの取材などが始まれば、対話に適したヘッドセットもあった方がよさそうだ。

 ちなみに、自宅にあるオールインワンPCは、カメラ部分が物理的に隠れるようになっているので、気分的にちょっと安心感がある。

 一方で、外出先でオンライン会見に参加する場合は、安定したネットワーク環境や電源確保が鍵になる。ヘッドフォンをしていれば喫茶店でも参加は可能だろうが、音声で質問をするとなると、閉鎖された空間が望ましい。その点、外出先で参加するという環境を前提にすれば、質問はチャットボックスから行えるようにしておいてもらった方がいいかもしれない。

 ただ、会見は約1時間行われるため、事前の設定や会見後の原稿執筆を考えると、少なくとも1時間30分程度は長居をすることになるので、喫茶店はあまり適切ではないかもしれない。

 実は、昼間のカラオケボックスがねらい目だと思っている。閉鎖された空間であり、広い机があり、電源も確保でき、大手チェーンのカラオケボックスではWi-Fiも用意されている。そして、長時間いても問題はないし、昼間の時間帯はコスト的にも優位だ。もしかしたら、オンライン会見への参加のために、これから、カラオケボックスの会員証をつくることになるかもしれない。

 もうひとつ気になるのが、月末の「ギガ不足」。これまでは気にしたことがなかったが、外出先でのオンライン会見への参加が多いと、ギガ不足といったことにも注意しなくてはならないのかもしれない。

 記者にとっても、オンライン会見に参加するためのノウハウ蓄積が必要だといえる。

記者から見た「オンライン会見に対する要望」とは?「50分ルール」の適用を!

 この2週間、オンライン会見に出席したり、リアルの会見に出席したりといったことを行ってきたが、記者の立場から、いくつか感じたことがある。

 ひとつめは、オンライン会見はできれば午前中に開催してほしいという点だ。

 まず、オンライン会見へは安定した環境で参加したい。そうなると自宅にいることが多い午前中の開催が、記者の立場からは望ましい。たとえば、午後1時から、オンライン会見が設定された場合、午前中に取材が入り、夕方に取材が入っていると、外で参加するということになる。そうなると、参加するための環境を探さなくてはならない。

 また、オンライン会見の場合は、00分からスタートして、50分で終わるといった「業界ルール」ができるとありがたいと思っている。これまでの記者会見は、基本的には1時間の設定となっていたが、オンライン会見では場所を移動せずに次の会見に参加することができるため、設定の切り替えやトイレ休憩、飲み物の補充のために10分間のインターバルがあるとありがたいからだ。

 たとえば、午前10時から午前10時50分、次が午前11時からスタートというように各社が設定してくれれば、参加する側は助かる。先日、VMwareが行ったオンライン会見では、45分終了という時間設定をしており、参加する側に配慮したものであると感じた。

 また、これまでの会見では、午前10時スタートというのはあまりなかったが、自宅から参加することを考えれば、会見場までの移動時間を差し引いて、午前10時スタートの会見が設定されてもいいと思っている。

 ちなみに、3月17日午前11時からは、手元の手帳で5件のオンライン会見が設定されている。すべて、IT関連企業だ。正直なところ、1社でもいいので、午前10時開始に移動してもらえないかと思っている。広い会場の確保などの問題が緩和され、記者も移動するスケジュールの段取りをしなくていいということを考えれば、設定した時間の移動は以前よりも容易だろう。かつては、記者クラブが、会見が重ならないような調整を行う役割を果たしていたが、オンライン会見時代における新たな調整機能を果たす仕組みが生まれるといいとも感じる。

 オンライン会見では、事前にURLなどを通知してもらい、それによって参加できるが、そこも各社の対応はバラバラだ。ある企業は、オンライン会見を開催する通知のなかで参加用のURLを送信するが、別の企業では、参加を表明した記者にだけ、URLを通知するという仕組みだ。その返事をしなかったため、開始時間に参加できなかったという記者の声も聞いた。

 これだけオンライン会見の数が増えてくると、実際、どこに返事をして、どこに返事をしていなかったのかを把握することが難しくなってくる。また、同じ時間に開催されるオンライン会見が増えると、ぎりぎりまでどちらの会見に出るかを決めかねることがある。どちらの会見に出るかと当日に決めるということは、リアルの会見の際にも同様だった。できることならば、会見参加用のURLは、会見の開催通知段階で入手できると、余計な手間を踏まないで済むのでありがたい。

 オンライン会見においては、いまのところ、会見開始の10分前にはアクセスして、環境を確認するようにしている。多くの場合、30分ぐらい前から接続ができるようになっているようだ。オンライン会見では、とくに音声がしっかりと入ることを確認することが大切だ。ブラウザによっては、オーディオ機能がサポートされていない場合もあり、音声が聞こえないと会見に出る意味がなくなるからだ。

 その点で、できればオンライン会見開始10分前には、動画コンテンツや音楽を流すなど、音声チェックが可能な環境を作っておいて欲しい。「これから会見を開始します」という第一声が聞こえず慌てることがなくなる。

 また、会見で使用する資料を事前に配信してもらうこともありがたい。会見場でも、着席した時点では、手元に、発表内容をまとめたリリースや、会見で使用されるパワーポイント資料が置かれているのと同様に、会見10分前には手元に配信されていると理解が進みやすい。記事を書いたりする点でも、会見後に資料を配信するよりはありがたい。

 実は、会見直前まで、原稿執筆などの別の仕事をしていて、それに集中してしまった結果、会見開始の時間になって慌てたこともあった。これも、注意しておきたいことのひとつだ。会見開始時間までのカウントダウンなどを表示したり、開始が近づいたことを音楽の音量を少し大きくする形で伝えるといった工夫をしてもらえるとありがたい。

 一方、質疑応答については、これから課題が生まれそうだ。

 オンライン参加者の質問は、事前にチャットボックスに入力をしておく必要があり、質問内容が、他者とだぶったりといったことも出てくる。

 また、文字で書くことにより、機微を捉えた質問ができにくいという課題もある。登壇者の表情やその場の状況を捉えながら質問をするというのは記者会見では重要な点だが、オンラインではそれがやりにくい。あの答えがあったから、この質問をするということもやりにくくなり、記者会見ならではコメントを引き出すことが難しい場面も出てきそうだ。

 一方で、オンラインによる質問が殺到した場合、司会者がその内容を取捨選択するのではないかという疑問も残る。会見場での質疑応答では、指名した記者がどんな質問をするのかがわからない。だが、オンラインでは事前に質問内容を確認できるため、答えやすい質問ばかりを取り上げるということにもなりかねない。

 ある会見では、5人の登壇者がいたが、司会者が読み上げた質問は、すべての登壇者全員に質問が行くような形で行われた。司会者が忖度した形で質問を選んだとも思われかねない。

 最初から質問事項は何問受けるというように宣言をした上で質問を区切ったり、場合によって、質問にはすべて答えるといったように、質疑応答の際の透明性を示すことがこれからは必要だといえそうだ。

 オンライン会見は、これからますます増えていくことになるだろう。もしかしたら、新型コロナウイルスが終息したあとも、オンライン会見の仕組みはそのまま活用されることも考えられる。

 新たな仕組みだけに改善点や工夫すべき点は多い。改善を加えることで、開催する側、参加する側の双方に良いメリットをもたらすものにしたい。