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「オンライン疲れ」はなぜ起きる? 心理カウンセラーはこう考える

コロナ禍で増えた「不安や孤独感」の声、その理由は?

最近はオンラインでのコミュニケーションが増えていますが、それを起因とするすれ違いや不安感、さらには「ズーム疲れ」といった心理的トラブルも増えています。そこで今回は、心理カウンセラーとして、年間400件以上のカウンセリングを行っている浅野寿和氏に、コロナ禍以降増えているというオンラインコミュニケーション特有の問題点や、その特徴、そしてその解決方法を、心理カウンセラーの視点で解説してもらいました。

心理カウンセラーの浅野 寿和(あさの ひさお)氏

 私はカウンセリング団体「神戸メンタルサービスカウンセリングサービス」に所属する心理カウンセラーです。

 弊社は月間3800件以上のご相談をいただき、所属カウンセラーは約80名という、日本では数少ない大規模カウンセリング団体で、日々、恋愛・夫婦問題から、職場の人間関係、自分自身の性格などあらゆる相談を伺っております。

 私も年間400件以上の対面カウンセリングの依頼をいただいており、その他、講座、セミナー、取材企画協力などの活動を行っています。

 今回はカウンセリングの現場から見た、オンラインコミュニケーションとその心理についてお伝えしたいと思います。

「職場の問題」の相談内容が変わってきた「対人関係」より、「不安や孤独感」が中心に

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 従来より職場の問題についての相談を多数いただいておりますが、昨今のコロナ禍以前と以後では、その内容に変化が起きています。

 コロナ禍以前は、職場に関する相談内容は、対人関係の悩みが大半を締めておりました。例えば、上司、同僚との関係性の悩み、人付き合いの難しさによるストレスなどに関するもので、それらが「仕事の辛さ」を作っているというご相談です。

 しかし、コロナ禍以降は「人と関わる機会が失われたことによる不安や孤独感」といった声を伺う機会が増えております。

 具体的なカウンセリング事例は守秘義務がありますので、カウンセリング事例に似通った私の知人の事例を一つご紹介しましょう。

 ある知人は「オフィスワークなら同僚などに気軽に質問できたが、今はそうはいかない。自宅で一人仕事と向き合うという環境にストレスを感じている」と訴えておりました。

 具体的にリモートワーク環境について伺うと、オフィスとはチャットツールで常時連携できており、当然ながら電話も繋がる環境です。頻繁に相互に事務連絡を交わしており、チャット上での挨拶も頻繁にかわされています。自ら質問をしようと思えばいつでも可能な環境が整っています。オンラインミーティングも定期的に開催されていると言います。

 しかし、その本人は「仕事がやりにくい」「不安である」と感じているのです。たしかにこのような声は私のもとに複数届いています。

 この問題を作る要因は様々考えられますが、その一つに「リモートワーク導入によって生じたコミュニケーション不足」があると私は考えています。

 私たちは実際に人とふれあい、言葉をかわし、気持ちを表現することを通じて安心感を得て気持ちを安定させています。

 しかし、急にその機会が失われると、今まで人との関わりによって解消していた不安を一人で抱え込んで我慢するようになるのです。そのような状態が続くと、次第に気分の落ち込みや不安を感じやすくなります。

 また、人は不安を抱え込むと、その不安を通じて日常を見つめるようになります。これは「投影」と呼ばれる心の動きによるもので、自分の感情を物事に映し出す作用によって起きる現象です。

 まさに不安が不安を呼び、いつしか自分の不安に飲み込まれる状態になるというわけです。

 ただ、この心の動きは気がつきにくいもので、クライアント自身も「コミュニケーションをとっているのになぜ不安を感じるのか」と疑問を感じていることが多いのです。

心理カウンセリングをオンライン化して見えた課題は「言いたいことが言えない」だった

 さて、ここからは私のカウンセリング現場での実体験から、オンラインコミュニケーションのメリットと課題についてお伝えしたいと思います。

 実は私も今年3月からオンライン対面カウンセリングを開始しました。緊急事態宣言が発令され、対面カウンセリングを自粛したことが導入の契機となったわけですが、このサービス開始以降カウンセリングの依頼数は増加しています。

 特に相談が困難だった遠方の方、海外在住の方からの依頼が増加し、「ようやく相談することができた」「日本語で相談できることの安心感は大きい」という声もいただいているところです。

 しかし、以下のような声を伺う機会も増えたのです。

 「オンラインカウンセリングを試したが、納得感やすっきり感をあまり感じない。従来の対面式を希望する」

 この声を分析していくと、次第にオンラインカウンセリングに潜む課題が見えてきたのです。その一つが「人は得られる情報が少ないと、言いたいことを言わなくなる」という事実でした。

 例えば、初対面の相手、特によく知らない相手の場合、必要最低限のやり取りで会話を済ませがちになることはないでしょうか。

 ウェブカメラを通じたオンラインカウンセリングは、メールや電話など、文字や音声のカウンセリングとの比較ですれば得られる情報量が多くなります。しかし、やはり対面と比較すると得られる情報量が少ないのです。

 この情報量の少なさがクライアントの不安を刺激し、知らず知らずのうちにクライアントは言葉を飲み込み、自分の気持ちを表現できずにいたというわけです。

 やはり自分の言葉や気持ちを飲み込み我慢すると、解放感が得られません。よほど丁寧なフォローがない限り、不安やそれに伴う不満だけが残るものです。

 この経験から、私はオンラインコミュニケーションの課題とは、伝わらないこと以上に「言い出せないこと」にあると考え、改めてカウンセリングのあり方を見つめ直しました。その結果、現在は対面式を希望されていた方の約半数が、オンラインに切り替えられています。

 やはり、オンラインコミュニケーションは対面コミュニケーションと異なるものと認識したほうがいいでしょう。特に何が伝わっていないか以上に、「自分、そして相手は何を言い出せていないのか」に思いを巡らせる必要がありそうです。

 もちろん対面コミュニケーションにおいても同じことが言えますが、得られる情報量が少ないオンラインコミュニケーションでは、より細やかな配慮と工夫が必要になるのです。

コミュニケーション問題は「後になってから分かる」もの

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 これはオンラインコミュニケーションに限った話ではありませんが、コミュニケーションの問題は気がつきにくい性質があります。私たちが今のコミュニケーションに問題があったと気がつくのは、今ではなく、実際に問題が発生した時だからです。

 気づいたときには手遅れとなり、悩ましい問題を引き受けなければならないこともしばしば起こります。事実として私どもに対人関係にまつわる多くの相談をいただいていることが、その数の多さを証明しているでしょう。

 また、コミュニケーションの問題は、人の気持ちが変化することによって起こります。そもそも人の気持ちは見えないものであり、どのように変化するかも個人差があり、いつ、なぜ、どのように問題が起きたのかが非常に分かりにくいのです。

 ですから、問題が現実化する前に、何らかの対策を講じた方が非常に効率的だと言えます。

 そもそも一度こじれた人の感情を取り戻すことは容易ではなく、多くの時間とエネルギーを要します。とにかく後手に回ると大変です。これは10年以上カウンセリング現場にいる私の実感であり、みなさんに心からお伝えしたいことの一つです。

 しかし、現実はそううまくはいかないようです。

 たとえ問題があると気がついていても、それが未だ現実化していないならば、その時感じた気づきや違和感は「些細なこと」とされ、心の中で否定されることが少なくありません。

 そもそも人は問題の存在を認めることに不安を感じるのです。だから、問題を認識し不安を受け入れるぐらいならば、何もなかったことにしたいと思うようになります。

 これは「否認」と呼ばれる心の動きで、私達の日常の中で実に頻繁に起きていることです。

 実際の相談でも「なぜ気づけなかったのか」という後悔の声は多数伺います。中には「問題に気がついていたが、受け止める勇気がなかった」と感じ、何も行動しなかった自分を責められる方も多いのです。

 これはなんとも切ない話です。問題に気づく能力はあったのですから。しかし、自分の感覚より、問題が起きていない現実を選択し、不安を否認した結果、後になって問題を引き受けることとなるケースはとても多いのです。

 これは特にコミュニケーションを伴う、職場の対人関係、恋愛、夫婦問題の原因となっています。

最後に

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 さて、今回お伝えしたようにオンラインコミュニケーションには対面コミュニケーションとは違う要素があると私は考えています。しかし、だからといって難しく考えすぎる必要もないとも考えています。

 日頃からコミュニケーションを円滑に行う秘訣があるとしたら、「どうすれば相手に良い影響を与えられるか」を知り、実践することです。これはオンラインコミュニケーションにおいても同じなのです。

 当然のことながら、私たちには心があります。相手を思いやる優しさ、人の話を聞く力、相手に興味を持つ力、そして経験から学び取ったコミュニケーションスキルがあります。

 私たちが持つ様々な要素を、オンライン上で発揮すればコミュニケーションはうまくいくのです。

 誰かの笑顔を見て気持ちが和むように、気持ちの良い挨拶一つでお互いの気分が良くなるように、よほどこじれた関係でない限り、「こんなことで」と感じるような些細な行動の積み重ねによって、コミュニケーションの質は高まっていきます。

 どのような形態のコミュニケーションであっても、少しの知識と行動、それを実践する一人ひとりの勇気によってより良く変化するものです。

 これが日々カウンセリングの現場にいる私の率直な実感です。

【編集部よりお知らせ】

今回の内容を発展させた、浅野氏によるオンラインコミュニケーション入門講座「オンライン会議をうまく乗り切るために…そのメカニズムと解決法を心理学で理解する」が10月27日(火)に開催されます。

時間は 18時~20時で、受講料は2200円(10月12日までの申し込みで早割特別価格1650円)。定員は300名(最少開講人数90名)です。対象は「在宅勤務」や「テレワーク」を実施しているビジネスパーソン全般で、オンライン会議に「不安」や「疲れ」を感じている方、あるいはオンライン会議を効果的に実施したいと考えている方で、対面とオンラインでのコミュニケーションの違いや、オンラインコミュニケーションを円滑にする具体的な方法などを紹介。また、Zoomの「Q&A」機能を使ったQ&Aセッションも実施します。ご興味のある方は、ぜひこちらより申し込みをお願いいたします。