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「ブランドTLD」がAIの引用シグナルを強化する? AIO時代に注目したい企業ドメインの新たな選択肢

“信頼の証明”としてブランドTLDが担う役割を考える<後編>

 AI検索の概況について説明した前編に続いて、後編では、「ブランドTLD」が担うAI検索時代の信頼基盤としての役割について、具体的に考えていきます。

 ブランドTLDとは、.com/.netのようなgTLD(Generic Top Level Domain:分野別トップレベルドメイン)の1つとして、企業が社名やブランド名の文字列を「新gTLD」として創設して自社で利用できるもの。現在、じつに14年ぶりとなる新gTLDの申請受付が8月12日(米国時間)まで行われている。

 GMOインターネットグループのGMOブランドセキュリティ株式会社では、企業がブランドTLDを申請・運用するためのサポート/コンサルティングを提供する「GMO『.貴社名』申請・運用支援サービス」を展開。企業のブランド保護や偽サイト防止などの観点からブランドTLDの意義をアピールしているが、そこにもう1つ、AI検索時代における“AIO(AI最適化)”の視点からの期待も浮上しているという。

 なぜ、ブランドTLDがAI検索時代の「信頼の証明」となる可能性が考えられるのか? 後編は、GMOブランドセキュリティ株式会社の寺地裕樹氏による寄稿をお届けする。(編集部)

“信頼の証明”としてブランドTLDが担う役割を考える[目次]

  1. <前編>AIに「公式」と認識される企業サイトになれる? 「ブランドTLD」にはAIOの期待も(別記事)
  2. <後編>「ブランドTLD」がAIの引用シグナルを強化する? AIO時代に注目したい企業ドメインの新たな選択肢(この記事)

従来のウェブの「信頼証明」が機能しなくなっている

 まず最初に説明しておきたいのは、「このサイトが本物なのか」を客観的に確認する手段が、実は今、ものすごく減ってきていることです。具体的な背景として、以下の3つが挙げられます。

1. WHOISの形骸化

 EUのGDPRをはじめとした個人情報保護規制の強化に伴い、WHOIS登録情報の多くが非公開化されました。特に欧州地域においては、そのドメインを誰が所有しているのかという情報が全て個人情報として隠されてしまっています。ドメイン所有者の実態把握は、従来と比べて著しく困難になっているのです。

2. SSL/TLS証明書の信頼性低下

 SSL/TLS証明書にはもともと、サイトとの通信を暗号化するという機能に加え、そのサイトを運用している企業の実在性を証明するという機能もありました。しかし、Let's Encryptの普及以降、SSL/TLS証明書は無料・自動取得が一般化し、企業認証をしないDV SSL(ドメインの認証のみ)が好まれてきているという背景もあり、サイトを本当に誰が運用しているのかが第三者から分からないような状況になってきています。今後、SSL/TLS証明書の有効期限の短サイクル化(将来的に47日への短縮が業界で議論されています)も相まって、ドメイン認証のみの比率はさらに高まる見通しです。

3. 生成AIによるコンテンツ自動生成

 生成AIを使えば、本物に酷似したコンテンツを短時間で大量生成することができます。テキストの質だけで真正サイトと偽サイトを見分けることは事実上不可能になっており、「AIがAIをだます」状況が現実に起き始めています。

 以上のように、かつては機能していた、WHOIS、SSL/TLS証明書、コンテンツの質という3つの“信頼証明”が、いずれもAI検索時代において機能不全に陥ろうとしているのです。

 では、AIに対して「ここが公式だ」と証明するためにとるべき、次の一手は何か? その答えの1つが「ブランドTLD」です。

ブランドTLDがAI検索時代の「信頼インフラ」になる――その5つの理由

 ブランドTLDとは、トヨタ自動車の「.toyota」やキヤノンの「.canon」のように、企業が自社名・ブランド名をTLD(トップレベルドメイン)として取得・運用する仕組みです。インターネットのドメイン名・IPアドレスの割り当て管理を行う非営利組織のICANNによる厳格な審査を通過した組織のみが所有でき、第三者が同じ文字列のTLDを取得して利用することは、原理的に不可能です。

 なお、ブランドTLDがAIOの評価指標に直接寄与するという公式なエビデンスは、現時点では存在しません。OpenAI、Google、Anthropicのいずれも公式に言及しておらず、あくまでも、筆者の個人的な見解であるということは留意しておいてください。

 しかし、前述のようにWHOIS、SSL/TLS証明書、コンテンツの質という従来の信頼証明が機能不全に陥った今、「TLDそのものが公式性を担保する」というアプローチは、他の手段では代替できない独自の論理的価値を持っています。以下の5つの観点は、「効果が証明された施策」としてではなく、「AIが信頼性を判定する構造に対して、ブランドTLDがどう作用しうるか」という仮説として読んでいただければと思います。

理由1:ブランド言及量の増幅――AI引用の「最強予測因子」に直結する

 Ahrefsが世界の7万5000ブランドを対象に行った調査では「ブランド言及量はAI引用の最強予測因子(相関 r=0.664)」というデータが示されています。ブランドTLDの導入は、TLDの文字列自体がブランド名と一致するため、外部メディアやソーシャルでの言及・引用時に、ブランド名とTLDが同時に記述される機会を構造的に増やします。AIOにおいて「誰がそれを言っているか」の権威性が重要視されるなか、ブランド言及量の積み上げに直接寄与するこのメカニズムは見逃せない点です。

理由2:E-E-A-Tの構造的強化――ICANN 審査通過が「権威性の証明」になる

 AIOにおいてAIがコンテンツを評価する基準の1つが、Googleの定義する「E-E-A-T(Experience:経験、Expertise:専門性、Authoritativeness:権威性、Trustworthiness:信頼性)」です。ブランドTLDの取得にはICANNによる厳格な審査が伴い、審査を通過したという事実そのものが「この組織は実在し、相応の審査に耐えた」という権威性の客観的証明となりえます。コンテンツの質だけでは示せない「組織レベルの信頼性」を、ドメインのレイヤーで担保する点が構造的な優位性です。

理由3:引用安全性の担保――AIが「安全に引用できる一次情報源」を識別する

 AIがコンテンツを収集・引用する際、ブランド名=TLDという同一性は信頼判定スコアに作用すると考えられます。AI技術が進化するに伴い、公式サイトによく似せたサイトを誰でも簡単に作れるようになっているなかで、リアルタイムで公式かどうかを判断するような場面において、識別子としてブランドTLDを持っていることは強力です。「ブランドTLDから配信される情報は、なりすましが原理的に不可能」という構造をAIが学習・参照するようになれば、その優位性はさらに高まるはずです。

理由4:情報の一貫性――ブランドTLDのエコシステムがAIのブランド理解を最適化する

 ブランドTLDでドメインエコシステムを統合することで、AIが一貫したブランド情報を取得・引用しやすくなることが考えられます。例えば「.sharp」というブランドTLDに対して、「global.sharp」「jp.sharp」とサブドメインで地域を表し、「jp.sharp/soundpartner」のようにどの地域で売られている何の製品かを表すルールを体系化してグローバルで統一展開すると、AIはそれらを「シャープという単一の権威ある情報源」として一貫して認識しやすくなります。.com/.jp/.co.jpなど分散・混在した状態と比較して、AIがブランドのエコシステム全体を「公式情報の集合体」として把握する精度が高まると考えられます。

理由5:ネガティブ対策――なりすましドメインを「原理的に」排除できる

 ブランドTLDは、ICANNの厳格な審査を通過した組織だけが独占的に使用できるものです。攻撃者が本物に似せたブランドTLDを取得することは非常にハードルが高く、経済合理性の面でも見合いません。.comや.jpなど一般に開放されているTLDでは避けられない「タイポスクワッティング」や「なりすましドメイン」の問題を、構造レベルで根絶できる点は、他の手段にない強みです。例えば「.toyota」を使ったURLをトヨタ自動車に断りなく第三者が使用することは不可能という原理的な排除力が、AIへの偽情報の流入を防ぐ防波堤となります。

1. ブランド言及量の増幅:言及量はAI引用の最強予測因子(相関 r=0.664)。2. E-E-A-Tの構造的強化:ICANNの厳格な審査通過が権威性の証明となる。3. 引用安全性の担保:AIが「安全に引用できる一次情報源」として優先的に扱う可能性がある。4. 情報の一貫性:.brandでエコシステムを統合することで、AIが一貫したブランド情報を取得・引用しやすくなる。5. ネガティブ対策:なりすましドメインを原理的に排除、フィッシングや誤情報サイトを根本から防御。
ブランドTLDがAIOに作用すると考えられる観点(筆者の見解)

14年ぶりの「新gTLD」申請受付が進行中

 2012年に行われた前回の新gTLDの申請受付(2012年ラウンド)では、グローバルで1930件の申請があり、審査などを経て1241件の新gTLDが誕生しました。例えば、Googleだけでも101件を申請・取得しています。日本の企業においても40社が46件の新gTLDを取得しました。

 今回の2026年ラウンドはそれから14年ぶりとなるもので、2026年4月30日に申請受付を開始。申請期限は米国時間の8月12日となっています。

 申請後の審査などに1年以上かかる見通しで、申請した新gTLDが実際に利用可能になるのは2027年後半以降が想定されます。申請フェーズで約4000万円、運用フェーズで年間約800万円程度の費用が見込まれ、大企業向けのインフラ投資として位置付けられます。

 インフラレベルで企業サイトの公式性を担保し、偽情報の入り込む余地を根本から減らす――。ブランドTLDは、前述のようにAIOへの直接効果こそ証明されてはいませんが、従来の信頼証明が機能不全に陥った今、「TLDそのものが公式性を担保する」という構造的アプローチとして、他の手段では代替できない独自の論理的価値があります。

 申請期限まで、あと1カ月余り。膨大なICANNの申請書類の準備・確認作業などを考慮すると、これからの申請はギリギリ間に合うかどうかのタイミングでしょう。ブランド防衛とAIO投資対効果の両面で検討する企業にとって、早期の情報収集と判断が求められます。

“信頼の証明”としてブランドTLDが担う役割を考える[目次]

  1. <前編>AIに「公式」と認識される企業サイトになれる? 「ブランドTLD」にはAIOの期待も(別記事)
  2. <後編>「ブランドTLD」がAIの引用シグナルを強化する? AIO時代に注目したい企業ドメインの新たな選択肢(この記事)

寺地 裕樹(てらち ゆうき)

GMOブランドセキュリティ株式会社
営業・マーケティング事業本部 本部長
中央大学法学部を卒業後、大手情報セキュリティ企業の株式会社ラックに入社し、中国オフショア開発プロジェクトを統括。2008年、GMOブライツコンサルティング株式会社(現・GMOブランドセキュリティ株式会社)に入社。2023年より現職。ブランドセキュリティの専門家として、ドメインガバナンスやブランドTLD(トップレベルドメイン)、模倣品・不正サイト対策・メールセキュリティなど多数の講演や執筆を行う。