サービス増強を続ける「ServersMan@VPS」
Twitterからの要望も毎朝の会議で即決


 ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が4月に開始した仮想専用サーバー(VPS)サービス「ServersMan@VPS」は、月額490円で初期費用無料という価格で衝撃を与えた。それまで海外のサービスが知られていた格安VPSサービスが、それより安い価格で国内の名のある事業者から提供されたためだ。

 その後、国内でも安価なVPSサービスが登場するようになった中、ServerMan@VPSでは9月1日に、メモリー容量を倍にするなどの増強を発表。さらに「毎月1回の機能向上」を謳っている。今回は、サービス拡充を支えるDTIの取り組みについて、サービス部門を担当しているDTIの田中智浩氏、浅海彩乃氏、田中直人氏、技術部門を担当しているフリービットの牧山将太郎氏、山森郷司氏、市橋佑弥氏、マーケティングを担当する植松聡介氏に話を聞いた。

予想外の申し込みで、毎日のように設備を増強

DTIの浅海彩乃氏(左)と田中直人氏(右)

――あらためてServersMan@VPSについてご説明ください。

田中(直):ServersMan@VPSは、その名の通りVPSのサービスで、そこに加えて「ServersMan」としてファイルサーバーの機能を持っています。ワンコインで始められる低価格のサービスである点も特徴です。一番安いEntryプランが月額490円、その上のStandardプランが月額980円、その上のProプランが月額1980円と、3プランを用意しています。

――4月にサービスを開始して約半年経ちましたが、ユーザーの反響は?

田中(直):この種のサービスとしては、かなりのユーザー数の伸びです。VPSのサービスがここまで急速に伸びるとは思っていませんでしたし、DTIが提供しているサービスの中でも最も急速にユーザーが増えています。

山森:VPSを始める際には、これまでのインターネットサービスの経験から、このぐらいの設備があれば大丈夫という想定をしていました。しかし、いざサービスを開始すると、当初の想定より何倍もの反響があり、毎日のように設備増強を行うような状態になって、非常に驚きました。現在は問題ありませんが、開始当初は申し込みが1カ月待ちといった状況も作ってしまい、その点は申し訳なく思っています。

――2カ月という長い無料期間を設けているのはなぜでしょうか。

田中(直):もともと、DTIのインターネット接続サービスも2カ月の無料期間を設けているので、それに合わせた形です。ただし、これは2カ月間お試しいただいた後でも、ご満足いただけるサービスだという自信の現れでもあります。

――DTIというとインターネット接続サービスというイメージですが、VPSとの関連性は?

田中(直):現在では、DTIは接続サービスとは切り離して考えていて、主に個人向けサービスのブランドがDTIという位置付けです。

山森:設備面で、DTIは接続サービスのために潤沢なネットワーク設備を持っているという関連があります。そのため、今回のように予想を超える入会があっても、ネットワークには余裕があるといったメリットがあります。

――IPv6アドレスが標準で利用できる点も特徴となっていますが。

田中(直):フリービットグループではIPv6に積極的に対応していく態勢ですので、IPv6は特に意識して標準で対応しました。

Twitterでも積極的にサポート、ユーザーからの要望が次のサービス増強に

Twitter(@serversman_vps)によるユーザー対応も積極的に行っている

――ServersMan@VPSのTwitterアカウントを通じたサポートも盛んで、毎日かなりの数の返事をしていますね。

田中(直):Twitterは浅海と、もう2人の計3人で担当しています。返事はその日に返すようにしています。多い日では、1日に200件以上の返事をしたこともありました。

浅海:いちばん大変だった日は、5時間かけてすべてお返事しました。ただ、夜にまとめてお返事をしているので、見る方からすると一気につぶやきが流れてくるので、ご迷惑をおかけしています。

 Twitterは、ユーザーさんの声を直接もらえるのが、とてもうれしいですね。アンケートなどはなかなか書いてもらえないのですが、Twitterは気軽にご意見を書いてもらえるのがいいところだと思います。

――質問や要望はどのくらいあるのでしょうか。

浅海:お礼やお褒めの言葉が大半で、リツイートもあったりして、要望や質問は3割程度ですね。

植松:要望については、社長の石田(宏樹氏)もフォローしてチェックしていますので、会うといきなり「あの件早くやろうよ」と言われたりします(笑)。

――パワーユーザーの方も多いと思うので、Twitterでの回答も大変では?

浅海:すぐには回答できない質問もあるので、そうした質問は技術部門に依頼して調査しています。

田中(直):Twitterは文字数が限られているので、細かい点までは状況がわかりにくい場合もありますので。

――ユーザーからの声を見て、こういう使い方があるんだと発見したりすることは?

市橋:提供者側の想像を超えた、ユニークな使い方をする方がいますね。使い方は本当にユーザーによって千差万別なので、ユーザーからの意見を見て、こういう使い方もあるのかと気付いて、対応を考えたりもしています。

山森:具体的な例としては、9月1日にinode数を3倍に引き上げた件がそうでした。inode数とは、ファイルを作成できる上限数のようなものです。我々としては、これぐらいあればニーズに応えられるだろうという数値で決めたのですが、サービス開始から3カ月ほど経って、数人のユーザーさんから「inodeが足りない」という声をいただくようになりました。使っているうちにファイルが増えて上限を超えたということで、状況を調査して上限数を引き上げる対応をしました。

植松:最初は、ハードディスクにはまだ空き容量があるのにファイルが作成できないという報告があって、こちらでも調査していたのですが、inodeの上限数の問題だったと判明しました。

市橋:inodeの問題はお盆前に話が挙がっていましたが、お盆明けに出社したらもう月内に対応することに決定していました。技術的にはさほど難しいことではないのですが、検証環境を作って問題がないかどうか確認する必要があったので、急いで対応しました。

浅海:この対応の件はTwitterでも話題として取り上げてくださった方が多く、その影響もあって、9月初めにはTwitter経由の要望がユーザーさんから積極的に上がってくるようになりました。要望がたくさん来るのはとてもうれしいですね。対応は大変ですが頑張ります(笑)。

植松:他社のサービスとの競争もありますし、こうしたユーザーの声はとても大事にしています。

田中(直):9月1日の発表では、メモリー増強の反響も大きかったようです。おかげさまで、多くのユーザーさんから「太っ腹」という評価をいただきました。

ユーザーからの意見は毎朝の会議で対応を即決

フリービットの市橋佑弥氏(左)と牧山将太郎氏(右)

――ユーザーの意見が寄せられてから、対応までがかなり早いですね。

山森:毎朝、DTIでは「クオリティ会議」という会議を開いていまして、そこでServersMan@VPSについても方針が決められます。DTIの役員を含めて主要メンバーが集まって、Twitterやサポートなどから上がってきた要望を検討しています。対応も、やるかやらないか、やるならそれはいつまでにやるか、といった決定をすぐにその場で行います。

市橋:その場で技術的な質問も出るので、Twitterで寄せられた質問などもあらかじめチェックして検討しています。技術的にハードルの高いものと低いものとがありますので、そのあたりも検討しておかないと、すぐに方針が決められません。

――ユーザーからの声で、予定していた増強策の優先度が変わることもありますか。

田中(直):予定はあるのですが、やはりこちらの機能の方がお客様からの要望が多いということで、対応の順番が変わることはありますね。

市橋:リリースの順番については、それこそ毎日のように変わりますね。

植松:先日の発表で、今後は「毎月アップデートしていく」ことを発表しましたが、毎月のアップデートがお客様からの評価や関心の高さにつながっていると思います。

サービス拡充の早さも、仮想化ならではのメリット

――これだけのスピードでサービスを拡充していくというのも、これまでのサービスには無かったのではないでしょうか。

山森:従来のインターネット接続サービスやホスティングサービスなどでは、サービスの拡充にはハードウェアの拡充が必要で、そのための機器の調達などに時間がかかっていました。

 しかし、VPSでは基礎となるサーバーなどの部分以外はソフトウェアベースで構築しています。ソフトウェアのレイヤーだけに集中してサービスを検討できることが、素早い対応ができる要因になっていると思います。

――サービス拡充に迅速に対応できるような設計になっているのでしょうか。

市橋:最初からサービスがスケールするように、シンプルな構成を意識した設計になっています。

山森:IPアドレスの管理など、従来のインターネットサービスで培ってきたノウハウが活かせる部分はそのまま使って、なるべくシンプルに、ユーザーが増えてもなるべく手がかからないようにしています。

 仮想化も構築が大変なのは最初だけで、いったん回り始めれば、あとはその上のレイヤーの変更だけになります。しかも、ソフトウェアとして抽象化されているので、変更も一斉にできます。たとえば、各サーバーのメモリーを2倍にしますと決めても、専用サーバーの場合は実機を一度止めて、筐体を開いて、メモリーを増設してといった作業が全部のサーバーに対して必要になります。VPSであればその必要はありません。

 実機のサーバーレンタルですと、新しいサービスを導入しても提供されるのは新規に申し込んだユーザーだけ、といったことが起こりがちですが、ServersMan@VPSであれば初期に申し込んだユーザーも、今日申し込んだユーザーも、サービス内容は同じです。むしろ、サービスに差があると管理の手間が増えてしまいますので、サービス増強は一斉に行うようにしています。

ユーザーの用途は千差万別。ServersManでオンラインストレージとしても活用

――ユーザーはServersMan@VPSをどのように使っているのでしょうか。

山森:使い方は千差万別ですが、用途としてはやはりウェブが多いですね。

田中(直):Entryプランですと、これまではメモリーが256MBだったので高機能なウェブアプリでは重いという声もいただいていましたが、メモリーを倍増したことでさらにいろいろな使い方をしていただけるようになったと思います。

――かなりヘビーな使い方をしているユーザーもいるのでは?

山森:ウェブに大量の画像や動画を置くような用途は、やはりサーバーには負荷がかかりますね。中には、サーバー上でクローラーを動かしたり、ベンチマークをとったり、リレーサーバーを置いたりといった用途もあるようです。さきほどの話にもあった、inodeを大量に消費する用途はメールサーバーが多かったですね。

――他社のVPSと比較した場合の、ServersMan@VPSの特徴は?

田中(直):初期状態でApacheが使えるようになっていたり、コンソールパネルでサーバーを管理できるなど、いわゆる専門家でない方にも使いやすいようにしています。

 また、ServersMan機能により、オンラインストレージとして使えるのも特徴です。VPSには興味が無いけれど、ストレージとして使いたいというユーザーの方も多いです。

植松:Eye-Fiと組み合わせて、デジカメのストレージとして使っているという方もいるようです。

市橋:小さい会社さんで、数人で仕事のデータをやりとりするためのファイルサーバーに使っている、という例もありました。

――共用のレンタルサーバーでもそうでしたが、VPSでもヘビーな使い方をするユーザーが同じサーバーに集まると、パフォーマンスに影響が出ることは無いのでしょうか。

市橋:かなり余裕を持ってリソースを割り当てていますので、ヘビーなユーザーが集まることで問題になることは無いと思います。

――今後は実際の物理サーバーも性能をアップさせていくのでしょうか。

山森:今はハードウェアの進歩が早いので、そのときどきで費用対効果の高いモデルを投入していかないと、1~2年経つと古くなります。ただ、あまり特殊な構成にすると入れ替えられなくなるので、それは避けています。

 現在はまだサービスを開始して半年なので物理サーバーの構成は変えていませんが、やがてそのタイミングも来ると思います。物理サーバーを新しくしても、ユーザーはそのまま新しいサーバーにコピーするだけでいいという点もVPSのメリットです。

他OSへの対応も検討中

ServersMan@VPSのサービス紹介サイト

――今後、どのようなサービス増強を検討していますか。

田中(直):要望として多いのは、CentOS以外のOSへの対応や、バックアップ機能、冗長化機能などです。OSの種類が増えると、さらにユーザーの幅が広がるのではと期待しています。

――どのようなOSへの対応が要望として多いですか。

田中(直):Debianが多いですね。ほかにもUbuntu、FreeBSD、Fedoraなど、いろいろな要望をいただいておりますが、現在はどのように提供していけるのかを検証しています。

――Windows OSに対応する可能性はありますか?

山森:技術的には可能です。ただし、ライセンス費用が発生しますので、それも含めてどのぐらい要望があるか次第ですが。

――バックアップはオプションサービスのような形になるのでしょうか。

田中(直):現時点ではその方向で検討しています。

――SSLへの対応予定はありますか。

田中(直):SSL対応も要望をいただいていて、検討を進めているところです。ただ、これも別に料金がかかりますし、手続きも必要になりますので、どのようなやりかたで提供できるかを考える必要があります。

――さらにハイスペックなVPSサービスの提供予定は?

植松:ハイエンドのVPSサービスを考えると、グループのフリービットで提供しているVDC(仮想データセンター)のサービスと重なってくるので、その議論もしています。

山森:ただし、それぞれのサービスがハイエンド版のサービスやローエンド版のサービスを提供していくと、結果として重なりあう部分が出るのは自然な姿で、線引きを決めるほうがむしろ不健全だとは思っています。一部のスペックだけを見れば似たサービスであっても、技術的なアーキテクチャは全く違いますし、当然できること・できないことも違ってきます。

――現在のServersMan@VPSのプランは、これからも性能が向上していきますか。

田中(直):はい。これからも機能追加などを進めていきます。

――アプリケーションやミドルウェアの追加予定は?

田中(直):こちらも要望をいただいていますので、対応を進めていきます。

――最後に、ユーザーの方々にメッセージを。

牧山:今後もよりよいサービスを提供します。

植松:進化し続けるServersMan@VPSにご期待ください。

田中(直):Twitterでのご意見もお待ちしています。

――ありがとうございました。


関連情報

(高橋 正和)

2010/9/28 00:00