【業界動向/回線】
総務省もびっくり!?
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フリービットの石田社長(左)と田中副社長 |
フリービットはISP事業者へのインフラ提供をはじめとして、オンラインサービス企業へのコンサルティングや開発受託など、インターネットビジネス全般を支援する事業を展開している。現在同社がインフラ提供を行なっているISPは、「Livedoor」や「DreamNet」をはじめとして全国130に上り、パートナーISPの契約数では国内最大という。
同社は総務省が行なった“NTT東西による地域IP網の県間接続(以下NTT案)に関する意見募集”にも意見書を提出しており、今回表明するものも基本的には意見書と同じ内容だ。ただ、KDDIなどキャリア事業者による反対意見とは異なるスタンスを持つため、その立場を明確にする目的で改めて表明する形となる。
フリービットの石田宏樹代表取締役社長は、NTT案での“100Mbpsで50万円”という広域IP網価格を「確かに低価格で脅威でもあるが、一番の問題はそこではない。ISP同士が競争できる範囲が狭まり、将来的に価格の硬直化や競争の制限が起きてくる可能性が高いことが問題」だと言う。
■NTT案がユーザーやISPに与える影響とはフレッツADSLで見た場合、現在の提供区分はADSL(回線)・地域IP網・広域IP網・Transit(IX)・サービスの5つのエリアに分かれていると石田氏は説明する。このうち、現状ではADSLと地域IP網がNTTの持ち分で、ユーザーはどのISPを利用しても、NTTに対して支払う分は変わらない。ISPが負担するのは残りの広域IP網・Transit・サービス部分の料金で、この部分でISP同士が努力、競争することで、ISP間の料金の違いやサービスの差が生まれてくる仕組みだ。
NTT案の認可が下りた場合、NTT東西が広域IP網を実現することで、ADSL・地域IP網に加えて広域IP網までがNTTの持ち分となり、ISPの持ち分がTransitとサービスの部分に限定される可能性が高いという。このため、「一時的には料金が下がることはあっても、より小さい範囲で競争を行なわなければならず、将来的にはISP同士が疲弊して競争が難しくなり、ユーザーが不利益を被る可能性が高い」と石田氏は指摘する。
またフリービットが行なっている事業のひとつに、全国の地域IP網を接続したバックボーンをISP事業者向けに提供する“フレッツサービスのローミング事業”がある。これは全国47カ所に設置された地域IP網のPOI(相互接続点)を接続し、全国網として提供するもので、大規模インフラを持たない中小ISPなどにメリットのあるサービスとなっている。同種の事業は大手ISP事業者なども提供しているが、NTT東西による広域IP網が実現した場合、これらローミング事業者とNTT東西との間で新たな競争関係が生じ、ローミング事業者が駆逐される恐れもあるという。
左が現在の状態。NTT案が認可された場合は右図のようになり、ISPが競争できるエリアが狭まる可能性が高い |
こうした点を踏まえてフリービットが提案するのは、ISPなど事業者とNTTが競争できる範囲を、これまで以上に増やす方法だ。具体的には、NTT東西の広域IP網進出を認める一方で、地域IP網をNTTの持ち分から切り離し、これまでADSLと地域IP網部分で成り立っていたフレッツADSLの料金を、ADSL部分だけユーザーが支払い、地域IP網の料金はISP事業者がNTTに支払う形に変更する(フレッツサービス料金からの地域IP網料金のアンバンドル)。これによってユーザーの負担が軽減することに加え、ISP事業者が価格決定できる範囲が広がり、一層の競争が期待できるという。また広域IP網をローミングで利用する中小のISP事業者と、自社で持つISP事業者との競争も可能になるとしている。
石田氏は「地域IP網がNTT以外にも開放されれば、ISPは地域IP網をNTTから買うことも、自社構築することも、ローミング事業者から購入することも可能になる。選択の幅が広がることで価格も多様化し、ユーザーもさらにメリットが得られる形だ。地域IP網がISP負担になると、ユーザーがNTTに支払う料金は1,500円前後になり、その上にISPの価格努力が加わるので、一層の価格差が期待できる。場合によってはISP料金が500円というところも出てくるかもしれない」と述べている。「キャリア事業者などからADSL部分を含めて開放すべきという意見も出ているが、うちのはいわばソフトランディング案と呼べる内容。広域IP網を100Mbps50万円でやるのなら、地域IP網も同じ値段で下ろしてくれというもので、最終的な目的はユーザーに安くサービスを提供することだ」(石田氏)。
NTT案に対する意見募集では多数の意見が提出されたが、ISPでも概ね賛成のところが多く、「競争範囲までは考えていない」(フリービット 田中伸明代表取締役副社長)という捉え方が主体だったという。「とにかく反対を表明するところもあるが、うちはそれとは別で、競争範囲を増やそうという提案をしている。フリービットの案は総務省の方も予想していなかったようで、驚いていた」と田中氏。ギリギリまで詰めていたため単独での意見提出と表明になったが、「賛同してくださるISPも多いのでは」(石田氏)として、広くアピールしていく構えだ。
フリービット案では、ISPにも地域IP網の利用を可能にすることで、競争範囲を増やす狙いがある |
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(2003/1/16)
[Reported by aoki-m@impress.co.jp]