【業界動向】
慶大病院ほか、インターネットを使った
|
内視鏡下手術の様子。モニターには患部の様子に加え、慶大側の専門医の画像が映っている |
慶應義塾大学医学部外科学教室(以下慶大)では、1999年よりISDN3回線(384kbps)を専用回線とした“遠隔手術指導システム”の臨床応用を行なっている。内視鏡下手術の様子を遠隔地の専門医に動画で送信し、専門医が動画上へ書き込みを行なったり、音声によってリアルタイムに指導を行なうものだ。内視鏡下手術は患部にカメラを挿入してモニター画像を見ながら行なう手術であり、動画を用いた実験が展開しやすい面があったという。この臨床応用を通じて、遠隔指導があれば、経験の少ない外科医でも安全に難易度の高い手術が可能であることが明らかになっている。
その一方で、低速なISDN回線を使っているため、狭い範囲でしか遠隔指導ができない点が問題となっていた。ADSLや光ファイバーなどの高速回線を用いる場合、インターネット経由での送受信となるため、医療情報という機密性の高い情報を保護する高いセキュリティが必要となる。同時に、手術指導という目的では精密な動画をリアルタイムで伝送することも必須条件だ。しかし、暗号による通信の安全強度を高めると通信速度が低下するという問題があり、この両立が課題となっていた。
こうした問題を解決するため、慶大らが共同研究を展開。フォーカスシステムズの開発したストリーム系共通鍵暗号方式「C4S」を採用したVPNを用いることで、インターネット経由でもセキュリティを確保し、かつ高速な動画伝送が可能なシステムを構築した。昨年10月より月に2回ほどの実証運用を行ない、安全性や有用性が確認されているという。
17日に行なわれたデモでは、東京・世田谷区の東京医療センター(光ファイバー回線)と、新宿区の慶大病院(ADSL 12Mbps利用)間をVPNで接続し、腹腔鏡下胆のう摘出手術の遠隔指導を行なった。慶大側が遠隔指導を、東京医療センター側が実際の手術を担当。モニターには胆のうや胆管など患部の様子がメインに、指導医師の姿がサブに写しだされ、要所要所で指導側がタブレットを用いて患部動画に矢印を書き込んだり、音声での注意を行なっていた。また発表会場の様子が手術室に配信されていたため、会場から慶應義塾大学の北島政樹医学部長が胆のうの大きさを注意する場面もあった。動画や音声の遅延は特に感じられなかった。またシステムにはセキュリティ監視用のハッキングモニターが備えられ、手術中は常に監視状態を続け、問題が発生した場合は通信を即座に遮断できるという。
慶大らによれば、現在は実証中の段階で具体的な価格や商用化の時期などは決まっていないが、複数の病院や診療所間の連携、また医療教育といった面で、このシステムの活用が考えられるという。今後は運用ノウハウや実現可能なサービスを検証するほか、内視鏡以外の手術への対応も検討しながら実証を続けていく方向だ。
手術指導を担当した慶大の田辺稔医師。タブレットから手術のポイントを手書きで入力 | 手術側の画像。田辺医師が緑色のラインで胆のう管などを指示しているところ |
セキュリティ状況を監視するハッキングモニターの画面 | デモで使用したテレビ会議システムとVPN機器 |
(2003/1/17)
[Reported by aoki-m@impress.co.jp]