【N+I 2003 レポート】
乗り物におけるインターネット環境の現状~N+I コンファレンス■URL 千葉・幕張メッセで開催されているインターネット関連の大型イベント「NetWorld+Interop 2003 Tokyo」。開催3日目となる4日には、「乗り物インターネットワーキング」と題したコンファレンスが行なわれた。 コンファレンスでは、姉妹誌PC Watchでも連載コラムを執筆しているテクニカルライターの本田雅一氏をコーディネーターに迎え、乗り物におけるインターネット環境に深く関わる各業界から、シスコシステムズの郭 宇氏、インテル IA技術本部 阿部 剛士氏、西日本旅客鉄道(JR西日本)鉄道本部技術部 森 崇氏、横河電機 米沢 正明氏がそれぞれスピーチを行なった。 ●飛行機でのインターネットサービスはサービス開始間近まずマイクを取ったシスコシステムズの郭氏は、飛行機におけるインターネットについて、技術的側面から解説。搭乗時間がほかの乗り物に比べて長いことを理由に、「インターネットへの需要が高い場所」とし、シスコシステムズがシステム構築に関わった実証実験について解説した。 独Lufthansaが行なった機内インターネット接続サービスの実証実験「Lufthansa FlyNet」は、今年1月から4月まで、フランクフルト/ワシントンDC間の延べ140便を対象に、衛星回線を利用した下り3Mbps、上り128kbpsのインターネット接続を乗客に提供するというものだ。毎便およそ50~80名の乗客が利用したという。 郭氏は、アンケートの結果、体感速度はADSLとISDNの中間程度に感じているということ、95%の利用者が満足していると回答したこと、7~8時間のフライトならば、サービスに35米ドル程度まで支払ってもよいという意見が多かったことなどのフィードバックを紹介。「飛行機でのインターネットサービスへの自信を付けた」と語った。 また、「東京から(シスコシステムズのある)サンノゼまで11時間あるが、35ドルだったら会社は絶対出してくれるはずだ。11時間もの間、寝ているのではなく仕事をするのだから」と冗談まじりに語り、聴講者の笑いを誘う場面も見られた。 2004年1~3月期にジャンボジェット4機を対象にサービスを開始し、2006年までにすべての長距離旅客機80機が対応する予定だという。料金は1回のフライトにつき30~35米ドルになる見込み。サービス開始までの課題として郭氏は、無線LANによってワイヤレス化すること、Mobile IPを利用して衛星、GPS/GPRS、空港ターミナルの無線LAN乗り入れなど複数の接続環境にシームレスに対応することを挙げている。 一方で、シスコにとっては乗客向けのサービスだけではなく、業務利用も大きな収益源だという。業務利用による効率化、コストダウン、同業他社との差別化などが「インターネット飛行機」のメリットと述べた。 スピーチ終了後、本田氏から「一番大変な部分はどこか」と質問を受けた郭氏は、「衛星関連は非常にコストがかかる。あとは飛行機への実装技術だ。一歩間違えると人命に関わる問題なので慎重にやらなければならない」と語った。
●電車内インターネットサービス「関西人は無料じゃないと使わない」
同氏は現在、阪神地区をベースに無線LANを利用した車内インターネット接続の実証実験に携わっている。では、電車におけるインターネット接続の課題とはどんなことであろうか。 森氏は、「(電車は収納される場所が変わることがあるので)メンテナンスをどうするのかということ、VoIPやMPEG2の伝送など、リアルタイム系コンテンツの利用には高速ハンドオーバーも必要になってくる」と語っている。その一方で「乗客がWebが見られればいいのか、ストリーミングを見たいのか。このあたりで取り組みがずいぶん変わってくる」とも話しており、今後の状況次第で実現されるサービスは大きく変わってきそうだ。 常に動いている乗り物では、新しい技術の導入も必要だ。森氏は「乗客へのドロップは基本的にIEEE 802.11bだが、ノードが多くなるので、IPv6もぜひ使っていきたい。当然、常に動いているのでMobile IPを確保するようにシステム設計している」と発言。これら技術を積極的に取り入れ、研究を重ねていることを示した。携帯電話による情報閲覧に乗客のニーズが集まっていることについても触れ、「携帯電話でどうやって接続できるようにするかという問題にも取り組まなければならないだろう」とも話す。 阪神地区の実験では、802.11bを利用した車内ネットワークにおいて実効で3Mbpsほどの速度が出ており、同氏は「まあまあいいところではないか」と評価する。しかし、問題はバックボーンにあるという。「光ファイバは大阪近辺までしか通っておらず、そのほかは下りが1Mbps、下りが500kbpsほどのDSL回線に頼っている。乗客向けサービスを考えたときには心許ない」と語った。 商用サービス化については、「車掌がインターネット接続に関してサポートできるのかという人的な問題」があるという。また、「情報に対してお金を払うというのは関西人のメンタリティには難しい部分がある。関西人は無料じゃないと使わない。無料でノーサポートが合っているのではないか」などと語り、「昔、冷房があったのは一部の特急列車だけだったが、今は当たり前になった。列車内のインターネットも同じ。無料提供を目指し、できるだけのことをやっていきたい」と締めくくった。
●2003年はコンピューティングとコミュニケーションの融合の第一歩
阿部氏はまず、XScaleやCentrinoなど同社のモバイル系の製品群について触れながら、「2003年はコンピューティングとコミュニケーションの融合の第一歩」と語り、そのプラットフォーム作りに積極的に関わっていくことをアピールした。 また、「日本は全世界的に見てもブロードバンド先進国。このような形で普及しているのは日本以外ない。今後、光ファイバのサービスがどんどん伸びていくだろう」と「一方、日本はまた、モバイルの世界でもある。売り上げのうちノートパソコンは6割。こんなにモバイルノートパソコンが普及している国はない」と語り、ノートパソコンとブロードバンドを結ぶワイヤレス技術が日本市場において特に重要になっていることを指摘した。 デバイスメーカーとしての現在の目標は、「コストを下げていくこと」だというが、将来に向かって、インテルはどのようなネットワーク技術を考えているのだろうか。 同氏は、「まずは802.11xに代表される無線LAN、Bluetoothなど機器間のワイヤレス接続を可能にする無線PAN、PHSのような直接インターネット網へと接続する無線WANの3つを統合していかなくてはならない。これをいかに少ないデバイスで実現するかが2005年までの目標で、おそらくCOMS技術(によるソフトウェア無線機能)がキーテクノロジーになるだろう。将来はアンテナも1本にして、すべてフラッシュメモリのソフトウェアに書き込むようになるだろう。そのころには現在のUSBのように、すべてのパソコンに無線機能が入っているようにしたい」と語り、今後のロードマップを語った。 その後、インテルが考える理想的なモバイルパソコンのコンセプトモデル「Newport」を紹介。今後のノートパソコンは、複数の無線技術を実装すること、セキュリティ面で優れていること、より長いバッテリー持続時間、かっこいいデザインのものをいかに小さなパッケージにまとめるかという実装技術が鍵になると述べた。また、無線LANも将来、10Gbクラスまで発展させたいとも語っている。 最後に同氏は、「モバイルに関しては日本の技術者が世界をリードしているので、ぜひ盛り上げていって欲しい」と語り、スピーチを締めくくった。またスピーチ終了後、本田氏の技術的な質問について、「無線の世界で一番大変なのは法規制。これは日本だけではなくて世界においても同じ。技術はいつもなんとかなっている」と語る場面も見られた。
米沢氏は、これらを乗り物で活用するアプリケーションとして、美術館の音声案内などを「耳先案内」を使ってIP化すること、新幹線車内でぐっすり眠れるよう、乗客の生体情報を収集しデータベース化することなどを挙げた。 最後に同氏はまとめとして、「ワイヤレス化、IP化によって今まで専門のシステムを構築しなければならなかったのが簡単にできるようになった。これは大きなことだと思う」と締めくくった。
(2003/7/4) [Reported by 伊藤大地] |
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