5分でわかるブロックチェーン講座

PayPalが暗号資産市場に本格参入、ビットコインの価格も高騰

不動産領域で国内初のSTOが誕生

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

PayPalが暗号資産市場に参入

 米決済大手のPayPalが、暗号資産の売買・管理を開始する方針を発表した。まずは、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)の4銘柄に対応する。

 全世界で2600万以上のショップに導入されているPayPalは、約3億2500万ユーザーを抱える巨大サービスだ。将来的に、全てのユーザーがPayPal導入店舗で暗号資産決済を行えるようになる。このインパクトは相当大きいといえるだろう。実際、今回の発表を受けてビットコインの価格が大幅に高騰している。

 PayPalは、暗号資産への対応に際しニューヨーク州の規制当局より条件付きのライセンスを取得した。このライセンスは、正式に認可されている企業と合同であれば、一定の条件下でサービスを提供することができるものだ。そのため、米Paxosとの提携も明らかにしている。

 暗号資産の取り扱いは、まずは米国を対象に展開し、2021年上半期中に傘下のソーシャルペイメントサービスVenmoを通して全米に拡大する計画だという。

 今回の動きは、背景に中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の存在が影響している。PayPalは、いずれ発行されるCBDCに備え、いち早く対応するために先んじて暗号資産への対応を進めたとのことだ。

 また、時を同じくして暗号資産カストディ最大手のBitGoを、買収先候補としてリストアップしているとも報じられた。このディールが成立すれば、業界有数の巨額買収になることが予想される。

参照ソース


    PayPal Launches New Service Enabling Users to Buy, Hold and Sell Cryptocurrency
    [PayPal]
    PayPalの仮想通貨サービス、今後の事業展開と収益への影響は?
    [CoinPost]

国内初の不動産STOが誕生

 不動産大手のLIFULLが、国内初となる一般投資家向けの不動産STO(Security Token Offering)を実施すると発表した。セキュリティトークンの発行・管理プラットフォームを運営するSecuritize Japanと共同で、エンジョイワークスの「葉山の古民家宿づくりファンド」の資金調達をサポートする。

 エンジョイワークスの「葉山の古民家宿づくりファンド」は、一口5万円から参加可能な一般投資家向けの投資ファンドだ。ここで集まった資金に対してセキュリティトークンを付与する。

 こうすることで、従来のような第三者の証明なしに投資家の持ち分を証明することができ、権利譲渡をデジタル上でスムーズに行うことができるようになるという。

 今回の取り組みは、こちらの記事で紹介した不動産STOスキームを、実際に活用した事例となっている。日本では2020年5月に金融商品取引法(金商法)が改正され、金融庁の認可企業であればセキュリティトークンを発行・管理できるようになった。

 しかしながら、金商法はある程度の規模感を想定して制定されているため、小規模の事業者には適していない。そこでLIFULLは、金商法ではなく不動産特定共同事業法(不特法)の枠組みで実施できるようスキームを設計している。

 これにより、不動産領域における法規制のみ気にすればよく、小規模事業者にもセキュリティトークンの発行スキームを提供することが可能だ。実際、今回の取り組みにおけるファンドサイズは、1500万円とかなり小さい金額となっている。

 前回の記事では、SBIグループにおける日本初のセキュリティトークン事業の開始を紹介した。暗号資産・ブロックチェーンがより広く受け入れられるために、今後のセキュリティトークンの普及に期待したい。

参照ソース


    国内初の一般個人投資家向け不動産STOを実現、不動産特定共同事業法に準拠したセキュリティトークン発行・譲渡システムを提供
    [LIFULL]

今週の「なぜ」PayPalによる暗号資産市場への参入はなぜ重要か

 今週は国内初の不動産STOとPayPalの暗号資産市場への参入に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

暗号資産の拡大が低調な理由
暗号資産決済における需給の不一致
PayPalが暗号資産を一般層に広げる可能性を持つ

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

暗号資産の拡大が低調な理由

 2008年に誕生した暗号資産だが、10年以上が経過した現在もまだまだ黎明期を脱却できているとは言い難い。理由としては、本来の目的であった送金・決済シーンでの導入が進まない点があげられるだろう。

 何と言っても投資対象としてのイメージが強く、送金・決済に使用後、価格が急騰するかもしれないといった考えを誰しもが持っていると思われる。

 また、ビットコインの場合はその仕組み上、支払い後10分間は正式な決済が完了しておらず、承認されるまで待たなければならない。これは、一般的な送金・決済手段としては少々受け入れ難い仕様だといえるだろう。

暗号資産決済における需給の不一致

 そこで誕生したのがステーブルコインだ。ステーブルコインは、暗号資産の抱える価格変動(ボラティリティ)の課題を解消し、より現実に即した形に設計されている。

 そんなステーブルコインも、実はさほど新しいものではない。2016年~17年には既に存在しており、業界内では大きな存在感を発揮していた。それでも一般層に普及しない理由は何なのだろうか。

 個人的に最も大きな課題だと考えているのが、暗号資産を使った支払う側と受け取る側のニーズが合っていない点だ。つまり、暗号資産で支払いたい人が一定数いるのに対して、暗号資産を受け取りたい人がほとんどいないのである。

 支払いに暗号資産を使いたいと考える人は、既に知識を有している場合が多い一方で、支払いを受ける側は知識を有していない場合が多い。暗号資産で受け取るよりは、より多くの場面で活用できる法定通貨で受け取った方が嬉しいと考えるのは自然なことだろう。

PayPalは集権型の良い例

 この問題を解消するのがPayPalだ。PayPalを使って暗号資産決済を行う場合、店舗側は暗号資産で代金を受け取るのではなく、PayPal内で換金された上で法定通貨を受け取ることができるようになっている。

 つまり、暗号資産で支払いたい側と法定通貨で受け取りたい側のギャップをPayPalが吸収しているのだ。非中央集権を思想に持つ暗号資産だが、これは集権型の良い例だといえるだろう。

 PayPalは、将来的にステーブルコインへの対応を進める計画を、間違いなく練っていると考えられる。現状、投資対象としてのイメージが強いビットコインやイーサリアムでは、支払い需要がそこまで多くはないからだ。

 なお、PayPalの競合である決済大手のSquareでも、既に暗号資産決済が導入されている。今後は日本の決済サービスでも導入が進むことを期待したい。

【編集部よりお知らせ】

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田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami