5分でわかるブロックチェーン講座

GMOが世界初の円建てステーブルコインを発行。巨大市場インドでようやく暗号資産の規制整備が始まる

集権型と分散型のステーブルコインについて考察

 INTERNET Watch読者の皆さま、明けましておめでとうございます。本連載も2年目に入りました。今年も、暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップし、1週間分の最新情報となぜ重要なのかを解説していきます。

 なお、こちらの記事では2021年ブロックチェーン業界の見通しを書かせていただきました。肌感覚としては、ブロックチェーンは既に社会実装フェーズを抜けて実用化フェーズに入ってきています。インフラ技術であるため、なかなか普段の生活で感じる機会は多くありませんが、Web3.0は着実に普及してきています。

GMOが世界初の円建てステーブルコインを発行

 GMOインターネットグループが、日本円を担保資産にしたステーブルコインGYEN(ジーエン)を発行すると発表した。円建て発行のステーブルコインは世界初になるといい、早ければ1月中のローンチを予定している。

 GMOは、2020年6月時点でGYENを発行する方針を明らかにしていたが、ライセンスの取得などが難航しこのタイミングとなった。まずはニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)よりライセンスを取得し、海外居住者に対して先行提供を開始する。

 日本ではステーブルコインは暗号資産として定義されておらず、規制の整備も追いついていない。世界中の主要取引所にステーブルコインが次々と上場する中、日本でだけ上場していないのは暗号資産として定義されていないことが理由だ。GMOは国内で取引所事業を運営しているため、日本でのステーブルコイン規制が整い次第、真っ先に自社取引所に上場させる計画を立てていることだろう。

 今回GMOが取得したライセンスでは、円建てだけでなく米ドル建てでもステーブルコインを発行することができる。ステーブルコインの強みは送金手数料が劇的に安い点にある。GYENが米国と日本の両方で取り扱い可能になった場合、国際送金の観点からも非常に大きなメリットを提供できるのではないだろうか。

 ステーブルコインは、2020年時点で総発行額が約250億ドルに及ぶとされている。その多くがイーサリアム上で稼働しており、GYENも例に漏れない。なお、市場を先行するTether(テザー)やFacebookのDiem(ディエム、旧Libra)のように、特定の管理者が存在するステーブルコインが急増している中、より本質的なものはDai(ダイ)だろう。

DaiはMaker Foundationを中心にコミュニティによる分散管理が機能しているステーブルコインであり、法定通貨建てではなく暗号資産建てで発行されている。そのため、特定の管理者による影響を受けづらくDeFi市場とも相性が良いのだ。後半パートでは、Daiを代表とする分散型のステーブルコインの重要性について考察していきたい。

参照ソース


    SUPERINTENDENT LACEWELL ANNOUNCES GRANT OF DFS TRUST CHARTER TO ENABLE GMO TO ENGAGE IN NEW YORK’S GROWING VIRTUAL
    [NYDFS]
    GMO、円連動「ステーブルコイン」発行へ
    [日本経済新聞]

インド政府が暗号資産税制を整備

 インド財務省の管轄下にある中央経済情報局(CEIB)が、国内におけるビットコイン取引に18%を課税する法案を提出したことが明らかとなった。ビットコインを無形資産として定義し、物品サービス税を課すという。

 インドは、暗号資産に対する規制が明確化されていない数少ない国の一つだ。以前であれば法規制の穴をぬって事業を展開することができたものの、これだけ市場が成熟している中では規制の不明確さはマイナスに影響する。

 実際、今回の動きに対してインド最大手取引所CoinDCXからは、今後の事業展開をスムーズに行うことができるようになり非常にポジティブなニュースである、とのコメントが出されている。

 現在、インド国内では年間で約55億ドルのビットコイン取引が発生しているという。規制が未整備の状態でこれだけのボリュームが出ているということは、将来的に更なる増加が期待できるだろう。

 なお、今回の法案が可決された場合に政府は約10億ドルもの税収を得ることになる。インド政府の歳入の中心となる税収は2019年時点で約23兆円となっているため、中長期的なビットコイン取引による税収は決して少なくないものになるのではないか。

 インドでは13億人を超える人々が暮らしており、暗号資産などのデジタルアセットに明るい若年層も多くの割合を占めている。インドの暗号資産市場が本格的に稼働することで、世界的にも非常に大きな影響を与えることに繋がるだろう。

参照ソース

今週の「なぜ」分散型のステーブルコインはなぜ重要か

 今週はGMOのステーブルコインGYENや、インドにおける暗号資産税制に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

集権型のステーブルコインは実用化に乏しい
Web3.0の基軸通貨は分散型のステーブルコインにしか担えない
集権型と分散型は分けて議論する必要がある

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

集権型のステーブルコインは実用化に乏しい

 ステーブルコインがなぜ重要なのかに関しては、以前にもこちらの記事で考察している。今回は、「分散型」のステーブルコインの重要性について解説していきたい。

 もはやレッドオーシャンになりつつあるステーブルコイン市場だが、そこには様々なものが存在する。一般的なものとしては「Tether問題」の記事でも紹介したTether(テザー)やFacebookのDiem(ディエム)などの法定通貨建てものだろう。

 ただし、これらの実用化はあまり進んでおらず、発行量が多いことから時価総額が高くなっていたり、Facebookが発行しているからといった理由で取り上げられていたりといった背景がある。実際に出来高が出ているものは、やはり先述のDai(ダイ)だ。

 Daiは、ここで紹介したい分散型のステーブルコインであり、ほとんど唯一、分散型の状態で機能している。

Web3.0の基軸通貨は分散型のステーブルコインにしか担えない

 分散型のステーブルコインがなぜ重要か、それはWeb3.0が分散型を前提にしているからだ。最近は、ステーブルコインが世界統一通貨になるとの意見も目にすることが多くなったが、個人的にはその未来はあまり想像できない。

 なぜなら、国境が存在する限りそこには政府や中央銀行が存在し、安定した金融サービスを求める国民が生活しているからだ。そのため、ステーブルコインはWeb3.0を中心としたデジタル世界の基軸通貨として繁栄していくと考えている。

 Web3.0は、基本的に全てスマートコントラクトによって稼働するため、そこに一切の恣意性を介入させることはできない。つまり、分散型ではないステーブルコインはWeb3.0の基軸通貨としては機能しないのだ。

 TetherやDiemのような集権型のステーブルコインは、例えば資金の逃げ先としてポジションを築いていくことが予想される。昨今のアルゼンチンやベネズエラのように自国通貨が信頼を失った国では、デフォルトする前に他の資産に逃しておきたいという需要が一定存在するだろう。

集権型と分散型は分けて議論する必要がある

 米国や欧州諸国では、ステーブルコインに対する規制の整備が急ピッチで進められている。具体的には、特定の管理者が存在するステーブルコインに対して、発行時に追跡プログラムを組み込むよう実装すべきとの見解だ。

 これは、ステーブルコインを集権型と分散型とに分類した上で、集権型のもののみを規制対象としている点が秀逸だ。分散型のものは、インターネットに対する規制と同様で現実的ではなく、イノベーションを保護した方が享受できるメリットが大きいと捉えているのだ。

 今後、日本でもステーブルコインに関する規制が整備されることが予想されるが、DeFiのようなイノベーションを促進するためにも、ステーブルコインを決して一括りにはせず適切な対応が進むことを期待したい。Web3.0にとって、基軸通貨となる分散型のステーブルコインは無くてはならない存在のだ。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami