5分でわかるブロックチェーン講座

Linux Foundation、「コロナワクチン接種をブロックチェーンで管理する」プロジェクトを発足

マイニングを100%再生可能エネルギーで実施、ブロックチェーンを持続可能なネットワークへ

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

ワクチン接種証証明書をブロックチェーンで管理

 Linux Foundationが、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書をブロックチェーンで管理するプロジェクトを立ち上げた。オープンソース化することで、ゆくゆくは参画団体以外にもシステムを提供していく予定だという。

 Linux Foundationは、エンタープライズブロックチェーンの領域で高いシェアを誇るHyperledgerの開発を手がける非営利団体だ。現状のワクチン証明書は、各国で異なる規格や管理システムを使っているため、自国で発行した証明書が他国では効力を持たないといった問題が発生しているという。

 Hyperledgerの共通規格を活用することで、特定の管理者を必要とせず共通の証明書を発行・管理できることが期待される。今回Linux Foundationが立ち上げた「Global COVID Certificate Network(GCCN)」では、「ワクチン接種証明書」「感染からの回復証明書」「検査結果証明書」をサポートするとのこと。紙とデジタルの両方に対応するといい、まずはGCCNの参画団体・政府・自治体で効力を持つようになるという。

 Hyperledgerのようなエンタープライズブロックチェーンは、複数の管理者を設けるコンソーシアム型のプロジェクトに使用されることが多い。コンソーシアム型の場合、複数とはいえ管理者を信用する必要があるため、用途によってはブロックチェーンである必要性に欠けることがある。

 今回のワクチンのケースでは、前提として政府や医療機関を信用する共通認識が浸透しているため、コンソーシアム型との相性が良いと言える。逆にパブリック型の場合、旗振り役に欠け開発スピードが落ちるため、今回のケースではあまり適していないと言えそうだ。使用するブロックチェーンを選択する際は、どのような情報を記録・管理するのかが重要な観点となる。

参照ソース


    Linux Foundation Public Health creates the Global COVID Certificate Network (GCCN)
    [Linux Foundation]

再生可能エネルギーによるビットコインマイニング施設

 米決済プラットフォームSquareとブロックチェーン開発企業Blockstreamが提携し、100%再生可能エネルギーによるマイニング施設の建設計画を発表した。オープンソースの太陽光発電を軸にしたマイニングマシンを開発するという。

 ビットコインへの積極投資を進めるSquareと、ビットコインのブロックチェーンを中心に開発を手がけるBlockstreaの利害が一致し、ビットコインを持続可能なものにするための取り組みが開始された。

 Squareが資金面を、Blockstreamが技術面を担当するという。マイニング施設に設置されるマシンには、オープンソースのソフトウェアが組み込まれる予定だ。まずは実証実験として位置付け、結果次第で他のマイナーへソフトウェアの公開を行いたいとしている。

 ビットコインのマイニングには膨大な電力が必要であり、環境に負荷をかけすぎるとして度々問題視されてきた。今回の共同プロジェクトにより、100%再生可能エネルギーによるマイニング施設が建設される。

 今週は、暗号資産・ブロックチェーン業界で進む地球環境を考慮した取り組みについて考察していきたい。

参照ソース


    Blockstream and Square, Inc. Join Forces to Build Solar-Powered Bitcoin Mine in the US
    [Blockstream]

今週の「なぜ」再生可能エネルギーによるマイニングはなぜ重要か

 今週はコロナワクチンをブロックチェーンで管理する取り組みや再生可能エネルギーによるマイニングに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

分散型システムは集権型システムよりもエネルギー効率が悪い
マイニングを100%再生可能エネルギーで実施する取り組みが増えている
分散型ネットワークとエネルギー効率はトレードオフなのか

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ブロックチェーンの電力消費問題

 ここ数年、ブロックチェーンエコシステムにおけるカーボンニュートラルの取り組みが顕著になってきた。大きく話題になったのは、テスラのイーロン・マスク氏が環境負荷を危惧してビットコイン決済を取りやめた一件だろう。

 それ以前より、ビットコインの電力問題はブロックチェーンエコシステムの大きな課題となっていた。イーサリアムは、電力消費の激しいPoWからPoSへの移行をまさに進めている最中だ。

 非中央集権型のイーサリアム取引1件あたりのカーボンフットプリントは、集権型のクレジットカード決済8万件に相当するというデータまで出ている。分散性を求めるWeb3.0は、プラットフォーマーに依存するWeb2.0よりも明らかにエネルギー効率が悪い。

 管理者からの脱却を図ることで広く長く使用されるためのプロトコルを作ろうとしているWeb3.0が、地球環境の観点からは逆に寿命を縮めているのだ。

マイニングを100%再生可能エネルギーで

 PoWの電力問題を解消すべく、イーサリアムはローンチ当初よりPoSへの移行を進めてきた。こちらの記事でも紹介した通り、PoSへの移行により必要な電力は99.95%削減されるという。

 それでもやはり、従来の集権型サービスと比較するとエネルギー効率は劣る。そのため、今回のSquareとBlockstreamの取り組みのように、せめてカーボンニュートラルだけは実現しようとする動きが出てきている。

 ビットコインを法定通貨として採用したエルサルバドルでも、マイニングを地熱発電による100%再生可能エネルギーで行うよう大統領が自ら指示した。ブロックチェーンエコシステムにおける最大のカーボンフットプリントは、何と言ってもマイニングであるため、絶対量を減らすにはまずマイニングから改善していく必要があるのだ。

分散型ネットワークの抱えるジレンマ

 マイニングは元々、ビットコインネットワークのセキュリティ(分散性)を担保するための仕組みとして組み込まれた。PoWにおける膨大な単純計算を要することで、ブロック形成の難易度を調整し特定のマイナーによる支配を排除している。

 マイニングを100%再生可能エネルギーで行うようにすることは最低限の環境対策だとしつつも、再生可能エネルギーを生み出せる国は世界にそこまで多くはない。例えば、日本には起伏の激しい地域が多く、安定した風力発電を確保することは困難だ。

 そうなると、マイニングを行える地域が一部に集中してしまい、ネットワークの分散性が損なわれることになる。分散性は、ブロックチェーンを維持するために最も重要な要素の1つだ。

 こういった事態に備え、イーサリアムはPoSへの移行を進めているわけだが、依然としてビットコインではPoSへの移行が提案される様子は見受けられない。一概にPoSへの移行が正しいわけではないが、ビットコインを持続可能なものにするためには抜本的な対応が必要になる。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami