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腕時計感覚でオフライン地図が使えるGPSウォッチ、カシオ「PRO TREK Smart WSD-F20」を試してみた

カシオのアウトドアGPSウォッチ「PRO TREK Smart WSD-F20」

 カシオ計算機株式会社が「PRO TREK Smart」シリーズとして4月21日に発売したGPSウォッチ「WSD-F20」は、カシオならではの防水性と堅牢性を兼ね備えたアウトドア用ウォッチであると同時に、OSにAndroid Wear 2.0を採用したスマートウォッチでもある。その最大の特徴は、オフラインで使用できるカラー地図を表示できる点。スマートフォンが無くても地図上で現在地を確認することが可能だ。このWSD-F20のベータ版を借りることができたので、その使い勝手をレポートする。

フィールドではスマホ無しでも、オフラインでカラー地図を表示

 GPSを搭載したリストデバイスは数多くあるが、そのほとんどは現在地を緯度・経度で表示し、軌跡ログを記録するだけであり、リストデバイス上で地図を見られる製品は少ない。Apple WatchやAndroid Wear搭載スマートウォッチであれば地図を見ることは可能だが、スマートフォンとの連携が前提であり、オフラインで地図を見ることができなかった。

 ところが、カシオが発売したWSD-F20は、フィールドでスマートフォンと接続することなく、オフラインでカラー地図を利用できる点がほかのデバイスと大きく異なる。これにより、モバイル通信サービスの電波が届かない山間部や、スマートフォンを携行できないウォータースポーツなどにおいても、WSD-F20単独で地図を表示し、現在地を知ることが可能となる。

本体カラーバリエーションは、オレンジ/ブラックの2種類。写真は、オレンジの「WSD-F20-RG」
サファイヤガラスなど高品位な外装を施した特別仕様モデル「WSD-F20S」。500台限定で6月発売予定

 WSD-F20のボディ部分のサイズは61.7×57.7×15.3mm(縦×横×厚さ)、重量(バンド含む)は約92g(※500台限定で6月発売予定の特別仕様モデル「WSD-F20S」は、厚さが15.1mm、重量が105g)。アウトドア用ウォッチとしては大きく重い部類に入るが、GPSを使用した場合の電池寿命は最大25時間と長めだ。なお、時計としてのみ使用した場合、電池寿命は約1カ月以上となっている。

 バッテリーはリチウムイオン電池を採用。充電は独自のマグネット圧着式充電端子を使用し、USB接続の専用ケーブルが付属している。マグネットで簡単に取り付けられるので使い勝手はとてもいい。充電時間は約2時間となっている。

 防水性能は5気圧で、米国MIL-STD-810Gに準拠している。センサーは気圧/高度センサーおよび加速度センサー、ジャイロセンサー、方位(磁気)センサーを搭載。GPSはGLONASSおよび準天頂衛星「みちびき」にも対応している。

 ディスプレイは、サイズが1.32インチで、モノクロ液晶とカラーTFT液晶の2層構造となっており、カラーTFT液晶の解像度は320×300ピクセル。防汚コーティングを施した静電容量タッチパネルを採用している。

 操作ボタンは向かって右側に3つ並んでおり、反対側に充電端子がある。無線はBluetooth 4.1(Low Energy対応)およびWi-Fi(IEEE 802.11n/g/b)に対応する。

操作ボタンは3つ
ボタンの反対側に充電ポートを装備
充電ケーブルとAC充電器
充電コードはマグネット圧着式
液晶ディスプレイは2層構造。時刻の常時表示はモノクロ液晶で行い、地図やアプリの表示はカラー液晶で行う。このように使い分けることで、視認性を確保するとともに、消費電力を抑制するという
モノクロ液晶で時刻を表示した状態

オフライン地図はOpenStreetMapベースの「Mapbox」、オンライン地図は「Google マップ」

 スマートフォンと接続した状態でなくても地図を見られる点がWSD-F20の特徴ではあるが、スマートフォンの通知設定やインターネット通信などを行う場合は、「Android Wear」アプリをインストールしたAndroidスマートフォンまたはiPhoneと連携させる必要がある。ただし、地図の設定やダウンロードなどの設定はリストデバイス側で行う仕様となっている。

「Android Wear」アプリ
ウォッチフェイスの選択

 なお、この製品はAndroid/iOSの両プラットフォームと組み合わせて利用可能だが、WSD-F20との通信は、Androidスマートフォンの場合はBluetooth(クラシックBluetooth)、iOSデバイスとの通信はBluetooth Low Energy(BLE)となる。

 そのため、iPhoneと連携させて使う場合は、航空写真など容量の大きい地図データの読み込みにかかる時間が長くなる。ただし、Android/iOSどちらと連携する場合も、WSD-F20を直接Wi-Fiネットワークに接続することは可能で、事前にWi-Fi経由で地図をダウンロードしておくことができる。自宅ではもちろん、屋外でもモバイルルーターを併用することで、この問題は解消する。

 操作ボタンは、好きなアプリを割り当てられるTOOLボタンとAPPボタン、ホーム画面(ウォッチフェイス)に戻る電源ボタンの3つ。デフォルトでは、TOOLボタンに高度計・気圧計・コンパス・活動量計などが使える「ツール」アプリ、APPボタンに地図を見られる「ロケーションメモリー」アプリが割り当てられている。

 このデバイスの最大の売りであるオフライン地図は、地図上に音声認識によるテキストやマーカーを残せる「ロケーションメモリー」と、トレッキングやサイクリング、フィッシング、スノーなどさまざまなアクティビティに役立つ情報を計測できる「アクティビティ」アプリで利用できる。

「ロケーションメモリー」
「ロケーションメモリー」で記録できるマーカーの例
「アクティビティ」アプリ(フィッシング)
「アクティビティ」アプリ(スノー)

 地図データは、オンライン地図として「Google マップ」、オフライン地図には「Mapbox」を採用している。Mapboxの地図データは、フリーでオープンな地図データ「OpenStreetMap」を使ったもので、デザインは特注のものではなく、Mapboxが標準で提供しているものを利用している。

 Google マップは「地図」「地形」「航空写真」の3種類から選択可能で、Mapbox地図は「ストリート」「衛星画像」「アウトドア」「ライト」「ダーク」の5種類から選べる。いずれかを選択すると、ディスプレイに表示される地図が切り替わり、現在地が表示される。オフライン地図はMapboxに限られている。等高線が表示されるMapbox地図の「アウトドア」では、縮尺を大きくしたときの等高線は標高10mステップで、50mごとに標高が記載される。

「ロケーションメモリー」での地図表示(Google マップ)
「ロケーションメモリー」での地図表示(Mapbox「ストリート」)
「ロケーションメモリー」での地図表示(Mapbox「衛星写真」)
「ロケーションメモリー」での地図表示(Mapbox「アウトドア」)
「ロケーションメモリー」での地図表示(Mapbox「ライト」)
「ロケーションメモリー」での地図表示(Mapbox「ダーク」)

 なお、Androidスマートフォンと組み合わせた場合は、Google マップとMapboxのいずれも事前ダウンロード不要で利用可能だが、Wi-Fiネットワークがない環境でiPhoneと連携させる場合は前述した通り、デバイスとの接続が速度の遅いBLEに限られるため、容量の大きい地図を常時iPhone経由で取得することは実用上難しく、Mapboxを使う場合は事前ダウンロードが必須となる。

 事前ダウンロードの操作自体は、地図を見ながら範囲を指定するだけで簡単に行えるが、通信環境によっては時間がかかることもあるので注意が必要だ。

地図のダウンロード画面

GPSの軌跡ログを記録して地図上にルート表示、登山アプリ「YAMAP」もインストール可能

 WSD-F20では、地図上で現在地を表示するだけでなく、軌跡ログを記録することもできる。「ロケーションメモリー」での記録間隔は1分/6分のいずれかを選択可能で、「毎日の位置情報を記録する」という項目をオンにしておくことで、常に記録することができる。「アクティビティ」アプリでは、より細かい記録が可能で、トラッキングの方式は「精度優先」と「バッテリー優先」から選択できる。それぞれの更新間隔は非公表で、「バッテリー優先」にした場合は位置情報の更新間隔が長めになる。

 記録中は地図上に軌跡が「ルート」として表示されるが、「ルート表示」をオフにすることで表示させないことも可能。なお、今回試用したベータ版では「ロケーションメモリー」「アクティビティ」で記録した軌跡ログは、「ロケーションメモリー」内の「履歴表示」に日単位でまとめて保存されるが、そのログをスマートフォンと同期したり、ファイルにしてPCに出力したりすることはできなかった。しかし、つい先日の4月28日にアップデートが行われ、ログの出力が可能となった。

「アクティビティ」で軌跡ログを表示
「アクティビティ」のトレッキング機能では、上りはオレンジ色、下りは水色で表示される
「ロケーションメモリー」では、任意の位置にマーカーを記録することもできる

 なお、WSD-F20では、カシオ製のアプリだけでなく、登山アプリ「YAMAP」をインストールすることも可能だ。同アプリも「ロケーションメモリー」と同様、地図の上に現在地を表示させることが可能で、事前に地図を転送しておけば、WSD-F20単体でGPSの軌跡を記録することができる。記録後は、ログがサーバーにアップロードされる。

 カシオのオリジナルアプリとしてはこのほか、コンパス、気圧・高度、日の出・日の入時刻、タイドグラフ、活動グラフなどを計測できる「ツール」アプリが用意されている。また、Androidスマートフォンとの組み合わせ限定ではあるが、仲間の位置を地図上に表示したり、テキストメッセージをやりとりしたりできるアプリ「CASIO MOMENT LINK」も用意されている。さらに、カシオ製デジタルカメラ「EXILIM Outdoor Recorder」と連携して操作できる「EXILIM Controller」というアプリも使用可能だ。

コンパス
気圧・高度
日の出・日の入時刻
タイドグラフ
「CASIO MOMENT LINK」アプリ

リストデバイス上で地図を見られるのは快適

 WSD-F20を装着して実際に山を登ってみた。最初に「アクティビティ」アプリを起動して山頂の標高をセットしてから歩き出す。山行中にリストデバイス上で等高線の入った地図を見られるというのは予想以上に快適で、いちいちスマートフォンや携帯型GPSを取り出して地図を確認する手間が省けるし、スマートフォンと違って手がふさがることもない。カメラを持って撮影しながら歩く人や、トレッキングポールを使っている人にお勧めだし、山行中はバッテリーの消耗を防ぐためスマートフォンの電源はオフにしておくという人にも最適だろう。

 なお、筆者が満充電の状態で家を出発し、2時間の山行を終えてから帰宅するまで計5時間ほどかかったが、その時点でバッテリー残量は31%だった。トラッキングの記録方式は「精度優先」を選んだ上に、登山中ほとんど地図を表示させ続けたため、バッテリーにはかなり厳しい条件だったので仕方ないが、軌跡ログを長時間記録する場合は、バッテリー残量にある程度、気を遣いながら使う必要はあるだろう。

 ちなみに充電用ポートは時計の側面にあり、腕に装着した状態でもマグネット式のコネクタを取り付けて充電できるので、いざというときはモバイルバッテリーをつないで歩きながら充電することも可能だ。

 ディスプレイは晴天下でも見やすく、オフラインで利用できるMapbox地図も、ディスプレイが小さいにもかかわらず、分かりやすいデザインで使い勝手はとてもいい。ただし、今回はベータ版だったためかもしれないが、Wi-Fi接続が少し不安定で、地図をダウンロードするときに時間がかかったり、突然、再起動したりしたことが何回かあった。

 総合的に見ると、GARMINの「fenix 5X」などの競合製品と比べて価格(※)も安いし、オフラインのカラー地図を使えるというメリットは登山者にとってかなり魅力的だ。ベータ版では軌跡ログを出力できない点がとても残念だったが、軌跡ログの出力機能は先日のアップデートにより可能となった。オフライン地図を手軽に見られるスマートウォッチということで注目の製品だ。

※「WSD-F20」のメーカー希望小売価格は5万1000円(税別)、特別仕様モデルの「WSD-F20S」は8万円(税別)

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。