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第121回:ARでスマホ向け観光案内、「中山道佐久っとナビ」体験レポート


 AR(拡張現実)を利用した観光案内サービスが全国各地で増えている。スマートフォン上でカメラを通して見た映像に観光案内を付加して、さらに地図と組み合わせることでユーザーに観光情報をわかりやすく提示するこれらのサービスは、旅好きな人にとって実に魅力的だ。

 そこで今回はAR観光ナビの一例として、10月1日から31日まで長野県佐久市で実施されているiPhone/Android向け観光ナビゲーションシステム「中山道佐久っとナビ」を取り上げてみたい。実際にスマートフォンを手にして現地を歩いてみたレポートをお届けしよう。

 このサービスは佐久市観光協会によって提供されているものだ。アプリはTIS株式会社が提供するGPSとARを活用した情報配信プラットフォーム「SkyWare」をベースに開発されたもので、App StoreまたはAndroid Marketから無料でダウンロードできる。なお、今回のレポートにはiPhone版を使用した。

「中山道佐久っとナビ」地図画面

Google マップ上に200件以上の観光情報をアイコン表示

 SkyWareのアプリを立ち上げると、メイン画面としてGoogle マップの画面が表示される。拡大・縮小は右側のメニューボタンで操作し、ピンチ操作には対応していない。メニュー上の「切替」をタップすると、航空写真と地図を切り替えられる。また、「現在地」をタップすると、GPSで取得した位置情報をもとに現在地を地図上に表示する。

 アプリのレビューの前に、まず佐久市について少し紹介しておこう。佐久市は中山道が市の東西を貫いており、街道沿いには江戸から数えて22番目の宿場である「岩村田宿(いわむらだじゅく)」、23番目の「塩名田宿(しおなだじゅく)」、24番目の「八幡宿(やわたじゅく)」、25番目の「望月宿(もちづきじゅく)」、そして望月宿やその隣の芦田宿で対応できない大通行の際に両宿の加宿として使われた「茂田井間の宿(もたいあいのじゅく)」と、5つの宿場町が存在する。

 今回の「中山道佐久っとナビ」はこの中山道沿いの宿場町の見どころを中心に紹介している。マップを縮小して全体を俯瞰すると、中山道に沿って観光スポットを示すアイコンが数多く配置されており、宿場町ごとにアイコンが密集している様子がわかる。

 アイコンは「歴史建造物」(60件)や「史跡」(29件)、飲食店情報を収録した「ご当地グルメ」(36件)、地元に伝わる民話や祭りを紹介する「伝承」(64件)、携帯端末の充電が可能な充電スポットなどを紹介する「公共」(19件)、イベント情報を紹介する「見学・体験」(17件)、宿泊情報を集めた「宿泊」(4件)、「自然」(7件)などさまざまな種類があり、コンテンツは全部で236件を収録する。

中山道の宿場町に沿ってアイコンが配置アイコンが密集している個所をタップするとリストが表示される
観光コースの起点となる佐久平駅前現在地を地図上に表示

カメラを通して見た実際の景色の上にアイコンを表示

 現地でメニューの「AR」を押すと、カメラで取得した映像が表示されて、カメラを向けた方向に観光スポットがあれば空間上にアイコンが浮いて表示される。

 右上の円で画面にアイコンを表示する範囲を決められる。現在地の半径50m、100m、200m、1km、5km、10kmの6段階で切り替えられるようになっており、指定した半径に応じてアイコンの数が増減する。表示されるアイコンの位置は右下のレーダーのような円に描かれる。

 各アイコンにはスポット名とその施設までの距離が記載されている。アイコンと実際の施設がずれて表示されることもあるが、アイコンに表示されている施設は目立つものばかりなので、実用上はそれほど困るわけではない。

岩村田宿の商店街施設や店にアイコンが重なって表示される
範囲を1kmに広げると表示されるアイコンが増えるアイコンが実際の施設とずれるときもある
神社の前にアイコンが表示されない範囲を5kmに広げた状態

 アイコンをタップすると詳細情報が表示される。ガイドブックのように写真入りで解説しているものも多く、なかなか充実した内容だ。中には動画や音声、絵画などのコンテンツもあり、「望月榊祭り」や「岩村田祇園祭」の動画、「望月小唄」「塩名田節」などの音声が視聴できる。

 施設情報やグルメ情報などはガイドブックでも読めるが、ほかにユニークなコンテンツとして「伝承」というジャンルがある。ここには地元に伝わる民話や伝説などが収録されており、なかなか読み応えがある。

 また、コンテンツの中には「隠しコンテンツ」としてクイズを出題しているものもあり、実際にその場に行かないと正解がわからない内容となっている。正解を佐久市観光協会アドレスに送信すると、正解者の中から抽選で佐久の特産品をプレゼントするキャンペーンも行っている。

 アイコンの数が多いので、この中から隠しコンテンツを見つけ出すのはなかなか大変だが、筆者も現地に行って1つずつ名所を回っていくうちに発見することができた。ちなみに今回紹介されているスポットを効率よく巡るには、車での移動がベストだと思う。登録されている観光スポットの中には、今回の企画に参加している人なら無料で利用できる駐車場もあった。

施設情報ご当地グルメを写真入りで紹介
昔、佐久市観光協会で設置したという「間違えた看板」伝説や民話なども紹介
今回の企画の参加している人なら利用OKの駐車場もある

旅行ガイドとして優れてはいるが残念な点もあり

 これまで佐久市に何回か訪れたことがあるが、今回ARアプリを使って名所を見て回ると、新たな発見が数え切れないほどあった。味わい深い宿場町の光景は大通りから少し外れた場所にあり、そこを目指して行かないとなかなか気付きにくい。スキーなどのレジャーのついでに少し立ち寄ったくらいではわからない魅力にいろいろと気付かされた次第だ。

 ただし残念な点もいくつかある。まず第一に、アプリが不安定であること。ARを立ち上げたり、地図画面に戻ったりしたときにアプリごと落ちてしまうことがけっこう頻繁に起こってしまった。このアプリはARと地図画面と切り替えながら使うものなので、もう少し動作を安定させてほしかったと思う。

 地図画面で検索機能が使えないのも不便だ。佐久市はけっこう広いので、住所や宿場名で検索して見たいエリアに直接飛べるようにしたほうが便利だと思う。前述したようにピンチイン/アウトができないのも残念だ。せっかくのスマートフォンアプリなのだから、もう少しUIを使いやすくしてほしかった。

 また、このアプリのタイトルには「ナビ」という言葉が入っているが、実際にはナビゲーション機能は付いていない。宿場町に沿って道路上に観光ルートを示す緑の線が入っているだけだ。「ナビ」というからにはスポットからスポットへの簡単な道順を示すくらいの機能は盛り込んでほしいところだ。コンテンツの収録数も236件と多いので、○○コースといった名称を付けておすすめの観光ルートをいくつか提示してくれるとよかったと思う。あと細かい話だが、画面が横向き専用なので、縦向きにも対応させてほしかった。

 このような不満はあるものの、スポット紹介の記事内容は充実しているので、旅行ガイド本の代わりとして十分使えると思う。時間はかかるがルートに沿って端から端まで訪ね回れば、市内の観光スポットにはかなり詳しくなれるだろう。

 ARで実際の景色にアイコンが表示されるのもわかりやすく、スマートフォンならではの楽しさを味わえるコンテンツだと思う。ガイドブックとの最大の違いは、常に自分の現在位置がカメラを通した実画面やデジタル地図上で確認できることだ。そこからダイレクトにスポット情報を見られる便利さに一度慣れると、いちいちページをめくってコンテンツを探さなければならない書籍や雑誌の旅行ガイドには戻れなくなりそうで怖い。まだ完成度は今ひとつと言わざるを得ないものの、このような新しい観光スタイルを先取りしてみたい人は、ぜひ期間中にスマートフォンを片手に佐久市を訪れてみてほしい。

「榊祭り」の情報ページ「榊祭り」の動画




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2011/10/13 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。