趣味のインターネット地図ウォッチ

第169回

任意の場所の地震危険度を診断書にする「地震ハザードカルテ」ほか

 この記事が公開となる9月5日は今年の防災週間の最後の日ということで、今回は防災関連の地図サービスで最近リリースされたものを中心に紹介しよう。今年も震災や豪雨関連などさまざまなサービスやアプリが登場しているが、これらのリリースをきっかけとして、日ごろの防災意識向上に役立てていただきたい。

防災科学技術研究所が実験的に公開した「地震ハザードカルテ」
日本気象協会が提供するiOSアプリ「Go雨!探知機 -XバンドMPレーダー」

東北大学、津波の痕跡をGoogle Earth上で見られる「ヒトの目に映る 3.11 津波浸水」

 東北大学災害科学国際研究所が7月に公開したウェブサイト「ヒトの目に映る 3.11 津波浸水」は、東日本大震災の津波の痕跡をGoogle Earth上で見られるサービスで、利用にあたってはGoogle Earthプラグインのインストールが必要となる。

 同サイトでは、東日本大震災の津波の痕跡高をGoogle Earth上にポリゴンバーで表示し、津波の痕跡高を鳥瞰的に見られる。表示するのは津波高(遡上する前の津波の高さ)と、遡上高(陸に押し寄せた波の高さ)の2種類で、下部のチェックボックスで切り替えられる。また、震源情報や津波浸水域(宮城)も表示可能だ。

 Google Earthを拡大していくと、地区ごとに細かくポリゴンバーが立っており、ポリゴンバーの根本にあるアイコンをクリックすると調査データを確認できる。このポリゴンバーをさらに拡大すると、「ヒトの目線」まで画面が自動遷移して、津波被害が起きた現場の目線から痕跡高を見られる。ポリゴンバーの根元にはヒトのアイコンも表示されるので、どれくらい高い波が来たのかを実感できる。

 ポリゴンバーが高く伸びている様子をヒトの目線から見上げると、そのあまりの高さに震撼させられる。津波の恐ろしさを改めて認識させられるサイトと言えるだろう。

ヒトの目に映る 3.11 津波浸水
ヒトの目線に切り替ええられる
調査データ
震源情報
津波浸水域

防災科学技術研究所、任意の場所の地震危険度を診断書にする「地震ハザードカルテ」

 独立行政法人防災科学技術研究所は、各地の地震ハザード情報をまとめた「地震ハザードカルテ」を7月に実験的に公開した。同サイトは、国により一元的に評価された地震ハザード情報の見せ方の1つとして検討中のコンテンツを使って、実験的に開発したサービス。任意の場所に関する地震危険度の診断書を作成して、健康診断書の結果通知書のように危険度を一覧表示することができる。

 アクセスするとGoogle マップが表示されるので、地図を拡大しながら診断したい地点をクリックで指定して赤いマーカーを設置する。この時、上部の検索窓で地名や施設名を入力して調べることも可能だ。地図を拡大した状態でマーカーを設置すると、評価するエリアが四角い枠(250mメッシュ)となって表示される。地点が決まったら地図の下にある「診断する」ボタンをクリックすると、別ウィンドウが立ち上がってカルテが表示される。

 カルテには、緯度・経度および住所、標高、メッシュ内人口などの基本データに加えて、「表層地盤」「深部地盤」「30年、50年地震ハザード」「ハザードカーブと影響地震カテゴリー」「長期間平均ハザード」の6項目について、総合評価としてレーダーチャートが掲載されている。

 レーダーチャートのカテゴリごとに詳細データも掲載されており、「表層地盤」では「地盤増幅率」(揺れの増幅率で、値が大きいほど揺れやすいことを示す)と「微地形区分」、「30m平均S波速度」(地表から深さ30mまでの平均S波速度で、値が小さいほど揺れやすいことを示す)、「深部地盤」については「Vs=1,100m/s上面深さ」(堆積層の深さ)と「Vs=2,700m/s上面深さ」(固い岩盤の深さ)を掲載している。

 「30年、50年地震ハザード」では、「超過確率の値」(今後30年間にある震度以上の揺れに見舞われる確率)、「震度の値」(30年/50年間に、ある値以上の確率で見舞われる震度)、「地表の最大速度の値」(30年/50年間に、ある値以上の確率で見舞われる地表の最大速度)を掲載している。

 「ハザードカーブと影響地震カテゴリー」では、評価地点における、すべての地震と地震カテゴリー別の地震のハザードカーブ(揺れの大きさとその超過確率の関係を表したグラフ)と、代表的な値を表示。「長期間平均ハザード」では、数百~数万年といった長期間の再現期間に対応する震度の値を掲載している。

 これらのうち、「表層地盤」のコーナーでは「ゆれやすさ上位○%」というランキング情報も分かるようになっており、全国の中で該当地点がどれくらい揺れやすいのかを手軽に調べられる。

 カルテの内容については専門用語が多いものの、トップページから「地震ハザードカルテの見方」にアクセスして見方や用語を学べるので分かりやすい。自分の家や会社がある地域が果たしてどれくらい危険度が高いと診断されるのか、一度調べてみてはいかがだろうか。

評価する範囲が四角い枠で表示される
診断結果
地震ハザードカルテの見方

日本気象協会、iOSアプリ「Go雨!探知機 -XバンドMPレーダー」

 今年は各地で豪雨災害が相次いでいるが、このような豪雨を探知できるiOSアプリがリリースされた。一般財団法人日本気象協会が提供開始した「Go雨!探知機 -XバンドMPレーダー」だ。「XバンドMPレーダー」とは国土交通省が試験運用を行っている新型高性能レーダーで、従来の広域レーダー(Cバンドレーダー)よりも詳細かつリアルタイムに観測できる。

 空間分解能はCバンドレーダーの1kmメッシュに対してXバンドMPレーダーは250mメッシュで、観測時間もCバンドレーダーが5分間の平均値であるのに対してXバンドMPレーダーは1分と短いため、降雨のピークを捉えられる。さらに、地上雨量計による補正も不要で、配信にかかる時間も約1分と速いため、急激に発生・発達するゲリラ豪雨の監視に有効だ。

 今回リリースされたアプリ「Go雨!探知機」はこのXバンドMPレーダネットワーク(XRAIN)の雨量データを、AR(拡張現実)でカメラ画像に重ねて表示できる。カメラに写っている上空の雲に、実際にレーダーで観測された雨量情報が重ねて表示されるため、現在地の周辺で雨が降っているかどうかが一目で分かる。現在地で雨が降っている場合は雨の強さを、雨が降っていない場合は近くにある雨雲までの距離と方向を表示できる。

 レーダーの映像は、端末を上に向けると上空に雨量分布が250mメッシュで表示される。端末を水平にすると現在地を中心とした円形レーダーで5km圏内の雨雲の位置が分かるようになっている。時間がない時などは水平にした状態で円形レーダーを確認したほうがすばやく状況を把握できる。

 このほか、下部メニューから「広域」を選ぶと広域の降雨状況も分かるようになっており、5分ごとに1時間後までの予測を表示することも可能だ。この予測雨量データについては、日本気象協会独自のレーダー解析・予測技術によって算出している。ちなみに地図は「Yahoo!地図」のAPIを使用している。降雨状況のAR画像を用いて分かりやすく表示するだけでなく、円形レーダーや広域情報も分かるので、実用性はかなり高い。急な豪雨をいち早く察知するためにも、入れておいて損はないアプリだ。

ARで雨量情報を表示
端末を水平にすると円形レーダーが表示
広域の降雨状況
XバンドMPレーダーの解説も収録

昭文社の「震災時帰宅支援マップ」最新版、帰宅困難者用の一時滞在施設を本格掲載

 株式会社昭文社の「震災時帰宅支援マップ 首都圏版」は、大地震が発生して都心の交通網が麻痺した場合に、自宅まで徒歩で帰ることをサポートする地図として、累計120万部のベストセラーとなるほど人気を呼んでいる。同地図の最新版が8月20日に発売されたが、これと同時にiOS/Androidアプリ版も8月下旬に最新版となるバージョン3.0へとアップデートされた。

 新しく発売された書籍版では、帰宅困難者が一時的に滞在(避難)できる「一時滞在施設」の情報が充実している。一時滞在施設は以前から掲載されてはいたが、2013年4月に「東京都帰宅困難者対策条例」が施行されたことにより、「震災時帰宅支援マップ」においても東京都のほか千葉県・埼玉県・神奈川県も含めて情報量が大幅に増えた。そしてアプリ版でも書籍版と同様に、一時滞在施設の数が大幅に増えている。

 一時滞在施設のほかにも、地図データや検索データのスポット情報、帰宅支援ルート上の危険個所などの防災情報がアップデートされている。関東エリアに住む人にはおすすめの防災アプリだ。

起動画面
帰宅支援マップ
「周辺検索」で一時滞在施設を選択
地図上に一時滞在施設を表示

日本気象、全国のユーザーの防災対策力がわかる「全国防災レベルマップ」

 日本気象株式会社は、ウェブサービス「防災の輪プロジェクト」を開始した。同プロジェクトでは全国のユーザーの「防災対策力」が分かる「全国防災レベルマップ」を掲載している。「防災レベル」とは、ユーザーの防災力を5段階で判定したもので、レベル判定のチェックテストを行った結果で判定される。チェックテストはスマートフォンからのアクセスで行えるが、利用にあたってはdocomo IDやau ID、My SoftbankのIDなどが必要。なお、防災レベルマップの閲覧だけならPCからでも行える。

 チェックテストは全16問で、「タンスやテレビなど、家具の横ずれ転倒落下防止対策をしている」「窓ガラスには飛散防止フィルムを貼っている」「玄関や出入り口に、避難の邪魔になるような荷物を置いていない」「携帯ラジオ・懐中電灯を用意している」などさまざまな質問が用意されている。

 テストを終えると判定結果とともにGoogle マップが表示される。地図上には防災レベルが記載されたマーカーが配置されており、各マーカーはレベル別に色分けされているので、各地の状況を直感的に把握できる。9月1日時点で1210人がこのテストに参加しているとのことだが、今後、参加人数が増えれば、地域ごとに何らかの傾向が見えてくるかもしれない。

防災の輪プロジェクト
「みんなの防災力チェック」の質問項目
防災レベルを判定
防災レベルマップ

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。