中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/9/10~9/17]

菅内閣始動――「デジタル庁」創設へ ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 被害が広がる銀行口座への不正アクセス事件

 「ドコモ口座」と地方銀行のひも付け問題に端を発した銀行口座への不正アクセスと不正出金事件はさらに広がりを見せている。「ドコモ口座」以外のスマホ決済サービスでも同様な事案が報告されている。また、被害のあった銀行や銀行口座も増えている。もはや、スマホ決済サービスを利用していなくても、銀行口座を持っていたら、不正にアクセスされる可能性があるといっても過言ではなさそうだ。そうしたなかでも、「自分は大丈夫」と信じ、口座を確認していない人は多数いると思われ、さらに被害の報告が広がる懸念もある。

 こうした状況から、金融庁も銀行や決済事業者に不正利用対策を、全銀協は各銀行に口座振替手続き時の認証プロセスの再確認を要請している。そもそも、こうした不正アクセスを防ぐために、多くの金融機関などでは多要素認証などの対策を取り入れていたはずだが、どうやらそれすらも何らかの手法によって突破されたのではないかという報告も耳にするに至っては、早急に具体的な不正手法の分析とそれを踏まえた技術的な対策を確立する必要がある。

 ここまで定着しつつあったスマホ決済もこれらの事件によって水を差されたかたちになるばかりか、あらためてデジタル社会のリスクを認識させられる。

ニュースソース

  • 「Bank Pay」、新規口座登録と一部金融機関の口座で決済サービスを停止[ケータイWatch
  • Kyashでもゆうちょ銀行から不正チャージ 新規登録やチャージを停止[ITmedia
  • LINE Pay、ゆうちょ銀の連携停止と不正引き出し被害を公表[ケータイWatch
  • みずほ銀でも、過去に不正出金 「速やかに対応済み」[ITmedia
  • ゆうちょ銀行、不正引き出し発生のサービスは「調査中のため非開示」[ケータイWatch
  • ゆうちょ銀行が8つの決済サービスに対する即時口座振替を一時停止 「PayPay」「LINE Pay」では不正出金も確認[ITmedia
  • 地銀偽サイト情報転用か、19年末大量発覚 ドコモ口座被害[ITmedia
  • 「ドコモ口座」不正利用、金融庁が報告求める[ケータイWatch
  • 「ドコモ口座」問題の甘かった本人確認、悪用された非ドコモ回線向けdアカウント――被害額は1800万円に、全額補償する方針を表明[INTERNET Watch
  • ドコモ口座の不正利用、被害総額は2676万円に 27銀行でチャージを停止[ITmedia
  • 全銀協、各銀行に口座振替手続き時の認証プロセスの再確認を依頼[ケータイWatch
  • ゆうちょ銀行、ずさんな本人確認 なぜ二要素認証の導入が遅れたのか 田中副社長「決済事業者と合意に至らず」[ITmedia
  • 金融庁、銀行や決済事業者に不正利用対策を要請。「完了までは新規登録停止を」[Impress Watch
  • 高市総務相、ドコモ口座不正利用で「金融機関は被害確認を」[ケータイWatch

2. 国勢調査スタート。インターネットを利用してできるだけ接触を避ける

 9月14日から国勢調査が開始された。今年はコロナ禍ということもあり、回答者と調査員の接触を最小限にする意味からもインターネットでの回答が強く推奨されている(Impress Watch)。ただ、昨今の状況を見ていると、締め切り前での一時的なアクセス増大によるサーバーダウンやセキュリティなどの不安も拭いきれないのは正直な感想だ。運営者の方には事前の対策をあらためてお願いしたい。

 そのようななか、国勢調査の調査員が利用するバッグなどがメルカリに出品されていたことが判明した。高市総務相が取り下げを要請する事態となった。こうした用品が転売されることで、調査員へのなりすましなどが起きかねない(ケータイWatch)。

 いろいろな意味で、かつてうまくいっていた方法を踏襲しているだけでは通用しない時代になっている。

ニュースソース

  • メルカリに国勢調査バッグ出品、高市総務相が取り下げ要請「厳に控えて」[ケータイWatch
  • 国勢調査がスタート。「できるだけインターネットで回答を」[Impress Watch

3. 菅内閣始動――「デジタル庁」創設へ

 安倍晋三氏の首相辞任を受け、菅義偉氏が新たな首相に選ばれた。新内閣に与えられている課題は新型コロナウイルス対策をはじめ山積しているが、注目すべき政策の1つが「デジタル庁」の創設だ。コロナ禍において、さまざまな場面で日本のデジタル化の遅れと、結果としての非効率さが浮き彫りになった。新型コロナウイルス対策だけでなく、今後の少子高齢化に伴う労働人口の減少などを踏まえても、デジタル技術を積極的に活用した効率的な社会システムが必要だろう。さらにはそこから新たな価値の創出も期待されるところだ。

 菅首相も「各省庁に分散しているデータを統合し、柔軟に利活用できる仕組みを築く考え」を示した上で、「法改正に向け、早速準備を行っていきたい」と述べている(ITmedia)。所管するデジタル改革担当大臣として平井卓也氏を任命した(NHK)。平井大臣は自民党のデジタル社会推進特別委員長などを務めたことからも、今後は具体的な成果が期待される。

 また、菅首相はこれまでも携帯電話料金の値下げについて言及しているが、新政権ではさらにその意向を踏まえた動きが強まることになるのではないかとみられる。早速、日本トレンドリサーチが携帯電話料金の値下げ政策が実現するかどうかについて市場調査をしたところ、67%が「実現する」と期待を込めた回答をしている(ニュースリリース)。ほとんどの人が利用するようになった携帯電話料金の経済的な負担は小さくなく、安くなることはうれしいのだが、一方で、今後の情報通信技術の研究開発やインフラ整備などを担うキャリアの収益に影響を及ぼすことになり、そこで開発される技術の国際競争力維持やサービス品質維持とのバランスを考えると、結論はそう簡単ではないだろう。

ニュースソース

  • 菅新総裁、「デジタル庁」創設に意欲 各省庁に散らばるデータを統合、法改正も視野[ITmedia
  • 平井デジタル相「民間から人材を取り入れ新省庁を作りたい」[NHK
  • 「携帯電話料金の値下げ」、67.8%が実現すると「思う」[ニュースリリース

4. アップルが新製品・新サービスを発表。iPhoneはまだ

 アップル社が新製品と新サービスの発表を行った。残念ながらiPhoneは含まれていない。

 今回発表されたハードウェアとしては、まずApple Watchの新型で、新たに血中酸素濃度の計測が行えるというもの(ケータイWatch)。また、iPadとiPad Ariの新型もお披露目された(ケータイWatch)。ソフトウェアとしては、iOS 14がリリースされた(ケータイWatch)。そして、コンテンツメディアサービス分野では「Apple One」という、Apple Music、Apple TV+、Apple Arcade、iCloudがセットになったサブスクリプションサービスも発表されている(ケータイWatch)。

 さらに、App Storeでゲームストリーミングを条件付きで許可されたとも報じられている(CNET Japan)。汎用の再生ソフトウェアではなく、ゲームタイトルごとにアプリとして実装し、その都度、審査をするとしている。今後、5Gインフラの整備ともあいまって、リアルタイム性のあるゲームストリーミング型ゲーム配信は広まることになろう。

 期待されていたiPhoneの遅れはすでに指摘をされてきたところなので、発表されなかったことに驚きはないが、5Gの普及と活性化の象徴としては市場からの注目度も高い。年内には発表・発売されることを期待したい。それ以外にもこれまで噂されているいくつかの製品がどうなるのかということも注目点だ。

ニュースソース

  • アップルの発表まとめ――血中酸素測定の「Apple Watch Series 6」やデザイン一新「iPad Air」など[ケータイWatch
  • 「iPad」第8世代、USB-C対応の「iPad Air」が発表[ケータイWatch
  • 「iOS 14」、9月17日より提供スタート[ケータイWatch
  • 「Apple One」今秋登場、Apple MusicとApple TV+、Apple Arcade、iCloudがセット[ケータイWatch
  • 「Apple Watch」のフィットネスサブスクサービス「Fitness+」、月額9.99ドル[ITmedia
  • 「Apple Watch」単体で電話番号と通信機能、家族で使えるファミリー共有設定、日本ではauから[ケータイWatch
  • アップル、「App Store」でゲームストリーミングを条件付き許可--MSは批判[CNET Japan

5. ソフトバンクがArm株式をNVIDIAへ売却――それぞれの思惑は?

 噂どおり、ソフトバンクがArmの全株式をNVIDIAへと売却をすることが発表された。取引価値を最⼤400億ドル(約4兆2500億円)と報じられている(CNET Japan)。それについて、NVIDIAの社長兼CEOのジェンスン・ファン氏、ArmのCEOサイモン・シガース氏が説明をした(ケータイWatch)。一方で、Arm Holdingsの共同創業者であるハーマン・ハウザー氏は「アームのビジネスモデルが崩壊する」とコメントしたことが伝えられている(ロイター)。

 ここのところ、ソフトバンクはWeWorkにまつわる問題や、コロナ禍による投資先企業の株価下落などで大きな影響を受けてきた。すでに、米国のT-Mobile(合併前のスプリント)、アリババ、通信事業子会社のソフトバンクの株式の一部を売却して現金化を進めてきた。今回もその一環の判断だとみられる。ただし、「売却額のうち現金で支払われるのは120億ドルで、残りの215億ドルがNVIDIAの株式で支払われるとされている。その結果、ソフトバンクグループはNVIDIAの発行済み株式の約6.7~8.1%を保有する見込みで、NVIDIAの大株主の1社となる」ことから、両者は完全に関係を絶つことにはならない、むしろNVIDIAと共に影響力を持つのではないかという分析もある(CNET Japan)。

 ソフトバンクによるArmの買収時、IoT時代において重要な事業であることを説明をしていたが、そうした社会的、技術的な意味は変わらないが、再編によるプラスとマイナスの効果により、それぞれが狙う成果を上げられるかどうかが今後の注目点になる。

ニュースソース

  • ソフトバンク、ArmのNVIDIAへの売却を発表--最大4.2兆円[CNET Japan
  • NVIDIAのジェンスン・ファン氏、Arm買収に関して説明[ケータイWatch
  • エヌビディアへの売却は「最悪」、事業モデル崩壊=アーム創業者[ロイター
  • ソフトバンクはなぜ、わずか4年で「Arm」を手放したのか--買収するNVIDIAの思惑は?[CNET Japan

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。