インボイス制度に備える

初めての「消費税の確定申告」のポイントは? インボイス制度で課税事業者になった人は要チェック!

「2割特例」を理解して最適な計算方法を選ぼう

弥生株式会社の大江桂太郎氏。初めての「消費税の確定申告」のポイントについて聞いた

 所得税の確定申告の期限が近付きつつあるこの時期、2023年10月のインボイス制度施行にあわせて消費税の課税事業者となった事業者には、もう1つ新たにやらなければならないことが加わった。それは、3月31日を期限とする「消費税の確定申告」だ。

 一般的に「確定申告」と言えば所得税の確定申告を指すことが多いが、消費税の確定申告については、初めてということでどのようにすればいいのか分からない事業者も多いのではないだろうか。

 そこで今回は、会計ソフトで知られる弥生株式会社にて、インボイス制度導入に向けた事業者のためのコミュニケーション企画立案・推進を担当する大江桂太郎氏(クラウド・サービス セールス&マーケティング部セールス&グロースマネジメント)に、消費税の確定申告についてのポイントを聞いた。

3通りある消費税額の計算方法

 弥生が個人事業主を対象に行ったアンケート調査によると、課税事業者のうち、インボイス制度を機に課税事業者に登録したと答えた事業者は50.6%と半数を超えたという。

 このように2023年10月から新たに課税事業者となった場合は、2023年10月~12月に得た課税売上における消費税を2024年3月31日までに確定申告し、申告した額を納付する必要があるが、その際は売上に含まれる消費税分を全額納めるわけではない。仕入れにかかった消費税や通信費や交際費、会議費、PC導入などの経費にかかった消費税を差し引くことができる(仕入税額控除)。その際の消費税の納税額の計算の方法には以下の3つのやり方がある。

【消費税の納税額等の計算方法】

【1】本則課税(一般課税)

 消費税の納税額を、売上で受け取った消費税から仕入れや備品購入の際に支払った消費税の分を差し引いて算出する方法。例えば、年間の売上が770万円(うち消費税は70万円)の小規模事業者で、仕入れにかかった額が165万円(うち消費税は15万円)の場合、納める消費税は70万円―15万円=55万円となる。

 本則課税は事前の届け出が不要で、この方法に則って申告する場合は、仕入れにかかった額を細かく計算して、それに含まれる消費税額を算出する必要があり、他の方法に比べて最も手間がかかる方法といえる。

【2】簡易課税

 消費税の納税額を、売上で受け取った消費税に、業種ごとの「みなし仕入れ率」をかけた額を差し引いて算出する方法。みなし仕入れ率は業種ごとに下記のように設定されている。

  • ①第一種事業(卸売業):90%
  • ②第二種事業(小売業):80%
  • ③第三種事業(製造業):70%
  • ④第四種事業(飲食店業・その他①②③⑤⑥以外の事業):60%
  • ⑤第五種事業(金融業及び保険業・運輸通信業・飲食店業を除くサービス業):50%
  • ⑥第六種事業(不動産業):40%

 例えば、前述した年間売上770万円(うち消費税は70万円)の事業者が第5種事業にあたるサービス業の場合は、みなし仕入れ率は50%で、仕入れにかかったとされる消費税は35万円(70万円×50%)となるため、納める消費税は70万円-35万円=35万円となる。

 なお、簡易課税を利用するには、基準期間の課税売上高が5000万円以下であることが条件となる。簡易課税を選択する場合は税務署への事前の届け出が必要で、いったん簡易課税を選択すると2年間は変更できないという縛りがある。

 国税庁のウェブサイトによると、簡易課税の届け出(消費税簡易課税制度選択届出書)を提出するタイミングは、原則では適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要がある。

 ただし、免税事業者が2023年10月1日から2029年9月30日までに適格請求書(インボイス)発行事業者の登録を受けて、登録を受けた日から課税事業者となる場合、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を、その課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用することができる。

 つまり、2024年分の消費税を簡易課税で申告する場合は、2024年12月31日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出すればいいということになる(ただし、課税期間の末日が土・日曜日・祝日にあたる場合でも提出期間は延長されない)。なお、2023年分の消費税を簡易課税で申告する場合の提出期限はすでに過ぎているので、今からではもう間に合わない。

【3】2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)

 インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者となった事業者であれば、業種を問わず利用できる方法。消費税の納税額を、売上で受け取った消費税の「2割」とする計算方法だ。例えば、年間売上770万円(うち消費税は70万円)の事業者の場合、2割特例を利用することで消費税の納税額は70万円×0.2=14万円となる。

 簡易課税と比較すると、みなし仕入れ率が80%よりも低い第三種~第六種事業については、2割特例を選択したほうがお得となる。逆にみなし仕入れ率が90%と高い第一種事業の場合は、簡易課税を選択したほうが負担は少ない。

 2割特例を適用できる期間は2023年分の申告から2026年分の申告までで、簡易課税とは異なり事前の届け出は不要。事前に簡易課税の届出書を提出してしまった人も含めて、要件に合致してさえいれば申告時に申告書に付記するだけで利用できる。

 なお、2割特例が適用できるのは、基準期間(課税期間の前々年)の売上が1000万円以下である必要があるほかにも細かい要件がいくつかあるので、詳しくは国税庁のウェブサイトに掲載されているフローチャートで確認していただきたい。

国税庁によるフローチャート

計算方法を選択するうえでの考え方

 消費税の納税額の計算方法には上記の3種類があるが、それでは、どれを選択すればいいのだろうか? 選択するうえでの考え方について、弥生の大江氏は以下のように語る。

 「最も重要なのが、赤字で還付を受ける事業者の場合です。本則課税であれば、売上で受け取った消費税額が仕入れに支払った消費税額より下回っている場合、マイナスになった分の還付を受けることができますが、2割特例の場合は黒字と赤字に関係なく売上にかかる消費税の20%という計算になるので、還付を受けることができません。そのため、事業が赤字になっていないかをきちんとご確認いただいたうえで判断する必要があります。また、赤字にはならなくても、仕入れで払った消費税が非常に多い場合(売上で受け取った消費税額の8割を超えるような場合)は、2割特例を使用せずに本則課税にするほうがよいかと考えます。

 簡易課税についても2割特例と同じで、やはり赤字の場合は簡易課税を選んでしまうと還付を受けることができないので、本則課税を選択するほうがよいです。なお、簡易課税については一度選択すると最低2年間は継続しなければならないという縛りがあるので、将来2年間に業務内容が変化して仕入れの割合が増える可能性についても考慮して決める必要があります。」

 大江氏は、選択するうえで業種ごとの違いを考慮することが大切であると述べた。例えば、サービス業など仕入額が少ない業種や、原価率の低い業種の場合は簡易課税または2割特例を使ったほうが本則課税と比較してお得になる可能性が高いので、本則課税を選ぶと損になってしまうため注意が必要だ。

 手元に残る額を最大にするための考え方としては以上のようになるが、選択にあたってはもう1つ考えなければならないことがある。それは、会計の手間についてどのように考えるかだ。本則課税の場合は仕入税額控除額を計算する必要があり、このとき適格請求書の確認が必要となるが、簡易課税または2割特例を選択する場合はこのような手間が不要となるので、その点に魅力を感じる事業者もいると思われる。

「2割特例」の注意点

 それでは2割特例を利用するうえでの具体的な手順を紹介しよう。消費税の確定申告で提出する書類については、国税庁の「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」のページに記載されている通りだ。2割特例を利用すると決めた人は、申告書での意思表示と、「付表6」の添付が必要となる。申告書で付記する箇所は消費税申告書の第一表の中段にある「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」に○をつける。

 付表6では、まず売上高から免税売上金額等を除外して課税売上金額のみを記載する。課税売上高とは、以下の4つの要件を満たしている売上のことを意味する。

  • 国内において行う取引(国内取引)
  • 事業者が事業として行う取引
  • 対価を得て行う取引
  • 資産の譲渡、資産の貸付け又は役務の提供

 なお、課税売上高の計算を行う場合は、10%で課税された分と軽減税率(8%)で課税された分を分けて記載する必要があるので注意が必要だ。

 国税庁のウェブサイトの「確定申告書作成コーナー」では、課税売上高を入力すれば付表6も含めて自動的に計算して申告書を作成してくれる機能があるので、会計ソフトなどを使っていない場合はこちらを使うと便利だ。

 会計ソフトの多くは、所得税だけでなく消費税の申告にも対応している。所得税と消費税の申告業務を一気通貫して対応できる、そのようなソフトを利用するのも手だ。大江氏は会計ソフトを利用するメリットについて以下のように語る。

 「課税売上高の集計については、普段どれくらいきちんと経理処理をしているかが大きく係わってきますので、このような作業に会計ソフトを使っていただきますと非常に楽に集計できるメリットがあります。もし集計が間違ってしまうと、誤った額での消費税申告をしてしまうことにつながり、後ほど修正申告などの手間がかかってしまう場合もありますので、日頃からきちんと計算しておくのがよいでしょう。

 また、2割特例は期限付きの特例であり、2023年から2026年までの4回しか使うことができず、2027年になる前に本則課税か簡易課税かを選択する必要があります。簡易課税は一度届け出をするとと2年は変更できないので、ある程度、将来を予測して選択する必要があり、その将来予測のために会計ソフトを使って判断していただくと便利です。」

 最後にもう1つ注意しなければならないのが、資金繰りの問題だ。所得税の確定申告では還付を受ける人も多いと思うが、消費税の確定申告の場合は還付ではなく納付を行う人が多いと思われる。納付する場合、振替納税やダイレクト納付、e-Taxによる口座振替、クレジットカード納付、スマホアプリ納付、コンビニ納付、現金納付などさまざまな方法があるが、振替納税を選択した場合は引き落とされる日がいつ頃になるのかをきちんと確認し、口座に資金が残っているかを確認することをお忘れなく。

 なお、納期限までに納付できない事情がある場合は、申請により猶予が認められることもあるので、税務署に相談するのも手だ。詳しくは国税庁のウェブサイトを読んでいただきたい。