インボイス制度に備える

インボイス制度が始まって初の確定申告がやって来る! 気を付けたいポイント、そして「電帳法」対応の肝とは

再びマネーフォワード山田一也CSOに聞きました

株式会社マネーフォワードの山田一也氏(グループ執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSO)

 インボイス制度が2023年10月1日にスタートし、早くも4カ月が経過した。この制度は、年商1000万円以下の個人事業主にとっては事実上の増税だ。しかし取引先から仕事を切られないためには、免税事業者であっても、消費税の課税事業者へ転換すべきか、多くの“一人社長”が迷ったことだろう。

 そして今、インボイス制度スタート後で初となる確定申告シーズンを迎えようとしている。慣れない消費税の申告に不安を感じる個人事業主も多いはずだ。そこで今回、株式会社マネーフォワードの山田一也氏(グループ執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSO)へ再びインタビューを敢行。インボイス制度スタート前後の期間にどんなことがあったのか? インボイス登録の有無に関わらず、今回の確定申告で事業者はどんな点に注意すべきなのか? お話を伺った。

年商1000万円以下の個人事業主よ、結局インボイス登録はどうした?フリーランスライターA氏は免税事業者の継続を決断

 前回、山田氏にお話を伺ったのは2023年3月のこと。「令和5年度税制改正大綱」(2022年12月発表)の詳細解説を通じて、「個人事業主は果たしてインボイスに登録すべきか?」を助言していただいた。

 その記事では、フリーランスのITライターA氏の収入をもとに、インボイス登録による税負担増についても具体的に紹介した。A氏の2022年1~12月の売上は417万4500円だったので、これを消費税率10%で計算すると、417万4500円÷110×10の答である37万9500円が消費税分に相当する。ただし消費税の計算には仕入税額控除の概念があり、さらにA氏は売上規模的に「簡易課税」を選択できる。ライターを含む「サービス業」の分類では50%のみなし仕入率が適用されるため、37万9500×0.5=18万8250円が、消費税の納税額ということになる。年収約400万円の世帯にとって、20万円近い出費増は重い。

 そのA氏だが、迷いに迷った挙げ句、最終的にはインボイス登録をせず、免税事業者のままでいることを選択したという。ライター稼業は取引先の数が小売店などと比べれば少なく、取引先との意思疎通はしやすい。「どうしてもインボイス対応の請求書を発行してほしい」という取引先がいた場合は、値下げしても最悪構わない。免税事業者のままで、消費税の確定申告の手間を減らすことを優先した格好だ。もし値下げで年収が減れば、その分、住民税や社会保険料も一応は減る。

 ちなみに、インボイス制度がスタートした2023年10月1日から期末(12月31日)までに、A氏が取り組んだ仕事に対する報酬は83万1200円だった。計算すると、消費税相当額は7万5563円。これを簡易課税のみなし仕入率50%で計算すれば3万7781円、令和5年度税制改正で経過措置として追加された「2割特例」を適用するなら1万5112円が消費税の納税額になる。

 一見して少額に見えるが、これはあくまで10月から12月までの3カ月間の数字。単純に4倍して12カ月分にならすと、それぞれ約15万円、約6万円になる。PCなりデジタルカメラなどの設備投資を1回ガマンしなければならない金額感だ。

 今のところA氏は、免税事業者だからということで取引先から値下げを要求されたことはない。取引が極端に減った印象もない。しかし「本当はみんな、私との取引を面倒くさがったり、減らしたいと思っているのではないか」と、疑心暗鬼の一歩手前の日々を過ごしている。

意外と少なかった? 免税事業者から納税事業者への転換

 こうした悩みを方々で誘発しながらインボイス制度がスタートしたわけだが、会計ソフトへの特需などはあったのだろうか? クラウド業務ソフト「マネーフォワード クラウド」などを提供するマネーフォワードの決算発表によれば、2023年11月期末時点の課金顧客数は30万1000件。これは前年同期比で27.8%の増加だった。また、(法人を除いた)個人事業主を見てみると、2022年11月期末で12万1000件だったのが、1年後の2023年11月期末には15万2000件に増えている。

2023年11月期の決算では、課金顧客数が前年同期比で27.8%増加(出典:マネーフォワード2023年11月期決算説明資料)

 とはいえ、マネーフォワードは数年来、“前年同期比20%超”というハタから見ればうらやましいくらいの成長が続いている。それを考慮すると、インボイス登録申請の当初の期限であった2023年3月、インボイス制度スタートを控えた9月を経ても、伸び率は“平年並み”だったと山田氏は述懐する。

 「これまでの決算の数字を見ると、個人事業者の伸び率は法人と比べてやや落ち着いています。その理由について弊社でも掴みきれていませんが、免税事業者から課税事業者へ転換される方の数が、国税庁の試算よりも少なかった可能性はありそうです。」(山田氏)

 マネーフォワードが個人事業主向けに展開している「マネーフォワード クラウド確定申告」の契約プランは、消費税計算・申告に対応しているものと対応していないものがある。しかし、未対応プランから対応プランへの移行が急増するような傾向は見られないという。ただ、インボイス制度スタート時点では最低限、請求書処理だけインボイス対応(適格請求書)になっていれば実務上の問題はない。確定申告の直前になって、消費税対応プランへ慌てて移行するような事態があるかどうかは、見守る必要があると山田氏は話す。

個人事業主向けの「マネーフォワード クラウド確定申告」の契約プランのうち、「パーソナルミニ」は消費税集計に非対応。よってインボイス登録者(=消費税の課税事業者)は「パーソナル」を選択することになる

 なお、東京商工リサーチのレポートによれば、2023年5月末時点でのインボイス登録件数は315万9235件で、このうち個人事業主は116万9196件。また、免税事業者からの移行によるインボイス申請は同年3月末時点で約50万件と推計している。一方、国税庁によると、インボイス登録件数は2023年5月末の約316万人から、同年12月末時点で約427万件に増えている。内訳は公表されていないが、このうちの個人事業主についても登録数が比例して増加しているはずだ。

 他方、「税理士ドットコム」が2023年9月、個人事業主444人を対象に実施したアンケートの結果によれば、インボイス未申請者が66.2%を占めており、さらに「登録申請するつもりはない」との回答が全体の33.6%に上った。申請していない・決めていないという理由としては、81.1%が「課税売上高が1000万円以下だから」と回答している。

 こうした前提に立てば、企業は、「個人事業主の相当数が免税事業者のままである」という前提のもとで取引を行う必要がありそうだ。

インボイス制度への「理解そのもの」がまだ進みきっていない実態

 このような状況の個人事業主に対し、法人におけるインボイスの備えはどうだったか? 一般論として、いくら小規模の法人であっても、正社員を2~3人雇用していて給料を払っていれば、少なくとも年商1000万円を超えていなければ経営を維持できないはずだ。であれば、インボイス制度スタート以前から消費税を納税していたとみて間違いなく、結果としてインボイスに登録しない理由はほぼない。制度開始の告知は平成28年度(2016年度)税制改正にまで遡り、システム導入云々を差し引いたとしても、5年以上の猶予があった。

 しかし、山田氏の実感としては、それでも法人のインボイス対応が2023年10月の直前ギリギリに行われたケースが少なくないことが見てとれるという。

 「2023年10月になってギリギリ対応した法人が、そのタイミングになってから取引のある個人事業主に『適格請求書を送ってください』と連絡したりしている。個人事業主側もそこから急に調べ始めるケースが普通にあります。」(山田氏)

 2023年は一般マスコミでもインボイス制度について取り上げる機会が相当増えた実感が、筆者にはあった。しかし、マネーフォワードに寄せられたユーザーからの問い合わせとしては、同社プロダクトの対応機能や具体的な操作方法についてよりも、そもそもインボイス制度とは何なのかといった初歩的なものが多かったという。山田氏も「(インボイス制度が始まって数カ月たった)今もなお、制度への理解が進みきっていない」と分析する。

インボイス制度スタートに伴う事務負担~質問に答えてくれるのは……?

 インボイス制度のスタートによって、市井の生活者にとって一番見た目が変わったのが、領収書・請求書だろう。T+13桁の数字からなる登録番号が、コンビニのレシートはもちろん、食券制飲食店の小さな領収書にも表記されるようになった。会社の従業員ならば、経費精算する際にこの登録番号の有無が重要になるとの説明が、経理担当者からもあったはずだ。

こうしたレシートにも、登録番号がしっかり記載されている

 山田氏が前回の記事でも懸念を示していたのが、こうした証憑類の扱いだ。領収書や請求書に登録番号が記載されているか確認し、それを正しく帳簿などに転記しなければならない。記載すべき項目が増える以上、事務負担は確実に増える。無視できるレベルの問題では到底ないと山田氏は指摘していた。

 例えば、端数処理の問題。税率10%・本体価格148円の商品の消費税相当額は14.8円だが、日本では1円未満の通貨単位は存在しない。よって0.8円を四捨五入して消費税を「15円」にするのか、あるいは一律に切り下げて「14円」にするのか、何らかの端数処理が発生する。

 しかし、こうした端数計算を、品目別に都度都度で計算すると金額がおかしくなってくる。ましてや8%の軽減税率が適用された商品を一度に購入したりすると、さらに事態は複雑だ。そこでインボイス制度下では、1つの適格請求書においては、各税率に対して1回のみ端数処理ができるとされた。こうした細かなルールを、10月以降になって初めて知った方も多いだろう。

 また、消費税については「取引区分」という概念がある。「輸出に消費税はかからない」という話はご存知の方も多いが、これは取引区分的には「免税取引」にあたる。

 これ以外にも「課税取引」「不課税取引」「非課税取引」がある。例えば、商品券・プリペイドカードの譲渡は非課税取引だ。つまり、会社の経費で商品券とボールペンを一度に買ったら、1枚の領収書に非課税取引と課税取引が混在する。当然、経費精算でもそのあたりを意識しなければならない。

 「『○○を買ったけれど税区分はどれか』との問い合わせをいただくこともあるのですが、税務に関する相談のため、税務署や税理士の領域なんですね。そこは何とも苦しいところです。」(山田氏)

例えば「マネーフォワード クラウド請求書」では、品目の登録時に税区分を4つ(軽減税率、さらには税率改定前の旧税率も考慮すると全部で7つ)から選ぶことになる

確定申告シーズンになって発覚する不備も?! 早めの準備が肝心

 懸念はまだある。インボイス制度で重要な適格請求書だが、これは既存の請求書へ単に登録番号を付記するだけの話ではない。複数の消費税率ごと(現在は10%と8%の2種類)に、個別の取引額総計・消費税額を書かねばならない等の条件もある。よって「2カ月前に受け取った請求書が、実は適格請求書の条件を満たしていなかった」という可能性があり得るのだ。

 確定申告シーズンが近づき、事業者が税理士に確定申告作業を依頼する段になって初めて、「これ間違ってますから請求書を再発行してもらってください」といった話になることは、十分予想される。

筆者がサンプルで作った請求書。登録番号が記載されていないので、これは「適格請求書」ではないが、税率別の価格表記などには一応準じている(はず)

 現に確認されているトラブルとしては、紙の領収書を伝票処理しようとしたとき、登録番号の文字が“薄くて読めない”ことが少なからずあったという。もともと用意していた領収書用紙に、登録番号のスタンプを押し、それをもって適格請求書にするという方法は、よくある。しかし、登録番号スタンプを押す側は100枚超の用紙に手当たり次第スタンプを押しまくるわけで、そこまで厳密に印影を確認するはずもない。思わず「ありそう!」とつぶやいてしまうエピソードだ。

 こうした不備に、確定申告の直前になって初めて気付く可能性があることも、しっかりと念頭に置くべきだと山田氏はアドバイスする。

 「(前述したような)請求書の不備に気付けるのはまだいい方で、おそらく多くの方が、受け取った請求書をそのまま信頼しているでしょう。普段より1週間でも2週間でもいいので早く締めの処理を行って確認していただくのが安全だと思います。」(山田氏)

 迷った場合は、税務署に相談するのがオススメという。税務署では「記帳指導」というかたちで相談窓口を設けており、帳簿のつけ方以外のアドバイスもしてくれるとのこと。

 また、マネーフォワードでは有料会員を対象に1月16日から3月29日まで、一部のチャット相談に対する回答を税理士が行うサービスを実施している。

「そんなに益税益税言うなら、じゃあ消費税請求しないよ!」イレギュラーな請求にはどう対処すればいい?

 インボイス制度を巡る議論の中でひときわ注目を集めているのが、免税事業者の扱いだ。例えばA氏のようなライターが1万円の仕事を請け負ったとする。そこへ消費税分の10%を載せ、請求書では1万1000円を請求するのがこれまでだった。しかしA氏は免税事業者。1000円を受け取っておいて、それを納税しないのは何事か……という批判がある。いわゆる“益税”だ。ただし、年商1000万円以下の事業者が免税事業者であることは、間違いなく法律上規定されている点もお忘れなく。

 では、A氏が「そんなに益税益税言うなら消費税請求しねぇ! 1万円でいい!」と、金額を1万円・消費税ゼロの請求書を突きつけたら、どうなるのか。これは筆者の知識に基づく推測になるが、その願望が額面通りには果たされないはずだ。おそらくA氏の取引先は、1万円の内訳を本体価格9091円・消費税(10%)909円として解釈し、記帳するだろう。つまり消費税は、A氏の意図に関わらず、発生してしまう。

「取引額1万円・消費税ゼロ」の請求書を仮に作ったとしても、受取側はこのように本体価格9091円・消費税909円の請求として、処理するはずだ

 そしてA氏はインボイスに登録していないので、取引先側は2026年9月末まで適用される「80%控除」の経過措置を適用させ、909×0.8=727.2円を、仕入税額控除へ算入する可能性が高い。

 それでももし、免税事業者が本体1万円の仕事を消費税分1000円を上乗せせずに請求する場合、「マネーフォワード クラウド請求書」では品目登録時の税区分を「免税」「非課税」「不課税」にすれば、一応は金額1万円の請求書を発行できる。もしくは「課税」にして、本体価格を1万円ではなく9091円と入力すれば、帳尻が1万円の請求書にはなる。

 ただし、どの区分を利用するかは税務相談の範疇となってしまうため、具体的には税理士や税務署に相談してほしいと山田氏は言う。また、筆者が情報収集した範囲では、「調整額」という品目を立てて、経過措置(2026年10月1日までの「80%控除」など)を反映させた消費税を請求するという例があった。例えば本体1万円の商品・サービスは、1万800円として請求するといった具合だが、本稿ではこれ以上言及しない。

「改正電帳法」のハードルは下がったが、長期的視点でしっかり対応を

 インボイス制度に加えて、もう1つ考慮しておきたいのは、電子帳簿保存法(電帳法)だ。核心となるのは「電子データとして受け取った証憑類は、電子データのまま保存する。紙へ印刷し直すことは原則禁止」ということ。だが、これは「令和5年税制改正」で条件が緩和された。

 「まず1つ言えるのは、電帳法対応に緩和条件が追加された、という点ですね。確かに昨年の12月31日で宥恕期間は終了したのですが、令和5年税制改正で盛り込まれたように、『相当な理由』があれば紙保存が認められます。ヒト・モノ・カネといったリソース不足も理由になると例示されているので、よほどのことがない限りは問題にならないはずです。」(山田氏)

 「当座をしのぐためにとにかく何かしなければならない」という事態とはならなかったが、とはいえ今後、取引における電子データの増加は、ほぼ間違いない潮流。最終的には電子データをどう保存するか考える必要があると山田氏は話す。

「マネーフォワード クラウドBox」の利用画面。レシートをスマホのカメラで撮影し、OCR処理することで、取引日や金額がデータとして格納されている

 請求書が添付されたメールがGmailに保存されているとしよう。現状ではこれで特に問題はない。しかし、それが2年、3年と継続していったとき、すぐにその請求書を探し当てられるだろうか? 税務調査では「2年前の資料を出してください」と言われるのも普通とされ、結果として証憑の未整理は将来の負担にも繋がっていく。

 「確定申告と合わせて一気にやってしまうか、あるいは状況が落ち着いたらでもいいですが、とにかく整理はしておくべきです。」(山田氏)

 マネーフォワードでは、証憑類をデジタルで保存するサービスとして「クラウドBox」を提供している。当初は“書類を保管し、検索するための場所”に特化していたが、マネーフォワードが近年掲げている「SaaS×フィンテック」のもとでさらに拡張したいという。

 具体的には、保管した書類をしっかりデータ化し、さらに決済、運転資金のサポートといった別のサービスにも活かす。2023年12月からは「マネーフォワード クラウド確定申告」で「AI-OCR自動仕訳機能(アプリ版)」の提供を開始し、レシートなど画像読み込みによる取引仕訳がさらに利用しやすくなったが、これも将来構想への布石だと山田氏は明かしてくれた。

 「送金プラットフォームの構想はすでに発表しましたが、事業者がどのような事業者と取引しているか分かれば、『信頼できる事業者のため、もっと運転資金をサポートできるのではないか?』とか、いろいろ発展が期待できると思います。」(山田氏)

 個人事業主としても、証憑をしっかりとデータ化しておくことで、帳簿付けの円滑化以外のメリットを享受できる可能性が高そうだ。

確定申告の作業は「早めに、慌てず、不備が出たら着実に修正」を

 マネーフォワードとしては、個人事業主向け「マネーフォワード クラウド確定申告」での消費税申告機能を2023年10月に公開。インボイス制度関連の機能開発も完了しており、2023年1月下旬には、今回の2023年度(令和5年分)確定申告書様式に対応するアップデートなども行なわれた。

 個人事業主は、税の専門家に比べれば確定申告の知識は限られる。ましてや、インボイスに登録して初めて消費税の手続きをするとなれば、不安も大きいだろう。だが、山田氏は「自分だけができていないと心配したり、焦ったりする必要はない」と呼び掛ける。

 「マネーフォワードもそれなりの規模の会社ですが、やはり昨年9・10・11月は社内がだいぶ混乱して、イレギュラーな事態もありました。(その経験からは)過度に不安に思わず、とりあえず進める。確定申告の書類も例年通り作ってみて、それが1週間でも2週間でも早ければ、リカバリーできない不備はあまり出ないのではないかと思います。」(山田氏)

 例えば「受け取った適格請求書が要件を満たしていなかった」というのが想定されうるトラブルだが、これは先方に連絡して再発行してもらえばよい。また、できあがった書類を税務署でチェックしてもらうこともできる。特に個人事業主は、法人に比べれば経営規模が小さいので、帳簿の修正は容易だ。焦らず着実に締めの作業を行うこと――。ありふれているが、これが最も重要だというのが山田氏の指摘だった。


 インボイス制度がスタートするまでは、「企業がインボイス未対応の個人事業主を忌避し、結果的に個人事業主が苦境に立たされるのではないか」というのが、大きな懸念点であった。

 しかし4カ月が経過してみると、「インボイス未対応の個人事業主に仕事を発注せざるを得ない企業」もまた、苦しんでいるとの声が聞こえる。そこで消費税負担を肩代わりするのは、発注側だからだ。準備期間は長くあったが、制度が始まってようやく顕在化する課題も、やはり存在するのだなと、改めて筆者は実感した。

 いずれにせよ、所得税・消費税の確定申告シーズンはやって来る。免税事業者は昨年、インボイス登録申請で相当悩んだはずだが、この2~3月は消費税の確定申告をしなくてもいい分、ラクができる。課税事業者への転換者は、取引先との関係構築という意味では安心だが、確定申告は大変だ。「2割特例」の存在を念頭に置きつつ、山田氏のアドバイスどおり「早めに、慌てず、不備が出たら着実に修正」の心構えで、確定申告に臨もう。