インボイス制度に備える

インボイス制度開始で何が変わる? 請求書の様式と、もう1つは……?

「制度開始前後にすべきこと」を徹底解説した本の著者&税理士が本音対談

 10月1日より施行される「インボイス制度」はフリーランス・個人事業主・自営業者への経済的影響が大きいとされるとともに、実際どういった事務手続きをすればいいか分からないとの声も現場からは漏れ聞こえる。そうした疑問に答えるべく、制度開始前後に取るべき対応を徹底解説した書籍『マンガと図解でよくわかる インボイス 消費税の基本と手続きの仕方がわかる本』が株式会社インプレスから発売された。

 今回、同書の著者である経済ジャーナリストの酒井富士子氏と監修を務めた税理士の西原憲一氏がオンラインで対談。インボイス制度についての基礎から、インボイス発行事業者の登録申請の仕方、さらには書籍執筆の舞台裏まで、さまざまな話題を語り合った。

酒井 富士子
経済ジャーナリスト/金融メディア専門の編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。リクルートの「赤すぐ」副編集長を経て、2003年から現職。「お金のことを誰よりもわかりやすく発信」をモットーに、暮らしに役立つ最新情報を解説する。著書に『マンガと図解でよくわかる つみたてNISA&iDeCo&ふるさと納税 ゼロからはじめる投資と節税入門』『マンガと図解でよくわかる お金の基本 高校生から理解できる資産形成&金融知識』(以上、インプレス)、『おひとりさまの終活準備BOOK』(三笠書房)などがある。

西原 憲一
西原会計事務所代表。株式会社UFPF 代表取締役。税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。個人・法人に関するマネー全般の実務に携わる。税務・会計支援の他、FPコンサルティング、セミナー講師、書誌やWebでの執筆・監修など、全国で活動中。

インボイス制度開始で何が変わる?請求書の様式と、もう1つは……?

酒井:では西原先生、本日はよろしくお願いいたします。まずはインボイス制度の基礎から伺えますか? そもそもの「インボイス(Invoice)」とは、英語で「請求書」という意味でしたが。

西原:日本ではまだまだ聞きなじみのない言葉ですが、ヨーロッパや東南アジア、特に輸入や輸出に関わっている企業の間では「インボイス」が浸透しています。

 そのうえでの話になりますが、日本におけるインボイスとは、(単純な意味での請求書というよりも)制度の通称に相当します。国内の法律上は「適格請求書等保存方式」というのが正式名称です。

 「適格請求書」と聞くとだいぶ難しく感じるかもしれませんが、要は「法律の要件に則った請求書」です。

 中身はそこまで難しくありません。すでに皆さん実務では、消費税のやり取りを書類上はしているはずです。消費税8%とか10%といった、税率別の区分も当たり前のようにできています。

 インボイス制度がスタートすると、それらの書類に、(書類の発行主が)インボイス発行事業者として登録していて、かつ、消費税課税事業者であることを示す「登録番号」を記載しないとならなくなるほか、消費税率だけでなく消費税額も併記する必要が“追加される”。これだけの話ではあるんです。

酒井:日本のインボイス制度とは、言うなれば“新しい請求書の方式”という理解でいいですか?

西原:厳密には、請求書以外に、事業者が発行する「納品書」や「領収書」などにも登録番号を記載することになるので、それらもインボイス制度の対象と言えます。とはいえ、概ねその理解で間違いないと思います。

 国がインボイス制度を導入する主旨としては、消費税率が8%と10%の2種類、つまり複数税率になっているので、この税額の計算をより厳密化しようというのが1つ目です。現状でも8%と10%を区別して皆さん帳簿処理しているはずですが、ルーズになっている可能性はあるので、そこはシビアに計算しよう、と。

 2つ目として、免税事業者を課税事業者に転換するよう、政府として誘導する狙いも大きいです。

 新たに課税事業者になるということは、登録番号を記載するとか、消費税額を計算するとか、いろいろな義務が発生します。そこにしっかり取り組んでいこうというのが国の狙いでしょう。

大前提として、年間の課税売上高が1000万円以下の事業者は、免税事業者となっており、消費税の納付が免除されている。取引先から消費税名目の代金を受け取っても、納税についての記載は消費税法にはない。

しかし、インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録番号を取得するには、課税事業者であることが条件となっている。よって年商1000万円以下の個人事業主などでも、適格請求書発行事業者として登録するということは、課税事業者へ転換し、消費税の申告を毎年行うことになる。経済的および事務的負担はほぼ間違いなく増加すると言える。

免税事業者との取引では「仕入税額控除」ができずに消費税の負担が増加

酒井:インボイス制度は請求書に関するルールのようでいて、免税事業者の課税事業者への誘導のほうがむしろ狙いとしては大きな、隠れたテーマになっている気がします。そこが反発を集めている部分かもしれません。

 では、「免税事業者」「課税事業者」といった部分をもう少しかみ砕いて教えていただけますか。

西原:多くのフリーランスの事業者や“一人親方”などの自営業者は、経営規模が小さいため、消費税の納税が免除されています。やや乱暴に申し上げますが、自営業者側も消費税の扱いに無頓着だったのは確かでしょう。請求書に金額だけを書いて、消費税が含まれているかどうかは強く意識したりせず、請求するといったことが常態化していたかもしれません。

 しかしインボイス制度が始まると、消費税を納付している課税事業者にとっては、取引先が免税事業者だったとしても、正しく消費税を計算してくれないと困ります。自分たちが納付すべき消費税額の計算がままならなくなるという、切実な問題が発生します。

酒井:それはどんな問題ですか?

西原:国に納付する消費税額は、ざっくりと言えば、取引先から受け取った消費税の総額から、取引先へ支払った消費税の総額を差し引いた金額になります。取引先にいくら消費税を支払ったか書類上で証明することは、消費税の納税額をきちんと計算する――というか、納税額を減らすためには、大変重要な要素なのです。

 しかし先ほど申し上げたように、取引先が免税事業者の場合、発生している金額に対して消費税が含まれているかどうか、書類上はあいまいだったりします。今まではそれでもよかったのですが、インボイス制度が始まるとそうは言っていられません。

酒井:「仕入税額控除」と言われる部分ですね。

西原:はい。インボイス制度が始まると、登録番号の記載など要件を満たした請求書・領収書でなければ、仕入税額控除ができません。そして免税事業者は適格請求書(=インボイス)を発行できませんから、そうした事業者と取引する企業はその部分の仕入税額控除ができません。つまり、自社が支払う消費税の負担が増すということなのです。

 インボイス制度によって請求書の様式が変わるのはそこまで大変なことではありません。しかし、消費税の納税額を計算するうえでは極めて大きな影響が出ると考えられています。買い手には、仕入税額控除の対象になる業者と取引したいという動機が発生しますからね。継続的に取引していた相手を(適格請求書発行事業者ではないとの理由で)敬遠することにもつながります。

 そして免税事業者も「取引を切られては困るから」と、課税事業者へ転換する動きも出るでしょう。

 結果、国の本音としては、免税事業者から取りっぱぐれていた消費税を国庫で確保できる……という具合です。

10月1日以降も免税事業者のままだと、どうなる?

酒井:免税事業者が適格請求書発行事業者として登録するために課税事業者になるべきか。ここは難しい判断になります。もし免税事業者の方がそのまま10月1日を迎えると、どんな影響がありそうでしょうか?

西原:B2B、つまり一般消費者ではなく事業者を相手に取引されている法人や個人事業主には、特に大きな影響が出るかもしれません。免税事業者が発行する請求書や領収書では、取引先で仕入税額控除ができませんから、課税事業者は免税事業者との取引を避けようとするかもしれません。

 ただし公正取引委員会は、自己(課税事業者)の取引上の地位が相手方(免税事業者)に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定することは優先的地位の濫用に当たるとして独占禁止法上で問題となるおそれがあるとしています。簡単に言うと、インボイスの発行を強要することはできないのです。その分、取引を避けようという動きにもつながっていくと想定されます。

 対してB2C、一般消費者を相手に商売をされている事業者はどうか。こぢんまりと営業されている喫茶店、八百屋といったところであれば、客から適格請求書を要求されるケースは相対的に少ないはずです。個人客の多くは消費税を納付していませんから、仕入税額控除の必要もありません。免税事業者のままでいるというのも1つの選択肢です。

酒井:例えばSEだったりデザイナーだったり、企業から仕事の依頼を受けるフリーランスは相当数います。となると、影響は極めて大きそうですね。漫画家も、直接の取引先は出版社であって、読者ではありませんからね。

西原:そうですね、事業者が取引相手の方はインボイス制度を無視できないはずです。取引先としっかり協議する必要があります。制度開始まで残り少ないですが、それまでの期間中にしっかりやるべきことの1つです。

「経過措置」についてしっかり理解を。 「2割特例」も3年限定で使える

酒井:もう少し具体的な事例を聞きたいのですが、例えば会社員が副業をしている場合、課税事業者になるべきなのでしょうか。

西原:そこでもやはり、取引相手の意思確認のため、しっかり協議すべきだと思います。「今まで通り消費税分を支払う」という事業者もいらっしゃるかもしれませんし、それならば免税事業者のままでその恩恵をしっかり受けるべきです。

 もちろん多くの企業では、消費税額の申告計算に適格請求書の有無が影響します。その後の関係のためにも、やはりしっかり話し合って、課税事業者になるかならないか決定すべきだと思います。

 協議の際には、ぜひ「経過措置」も念頭に置いておくとよいでしょう。課税事業者が免税事業者と取引する場合、インボイス制度の開始から合計6年間分は経過措置があります。受け取る請求書がインボイス制度の条件を満たしていなくても、一定額を仕入税額控除できるのです。前半3年間は80%、後半3年間は50%です。

 この6年間は、様子見の期間である一方、協議を進めるうえでの交渉カードだと言えます。

酒井:インボイス制度が始まったからといって、免税事業者との取引が全て仕入税額控除ゼロになるわけではない、と?

西原:そうです。インボイス制度開始と同時にいきなり課税事業者へ転換することに逡巡する方にとっては、(取引相手の出方を探れる)一応の様子見の期間になります。

酒井:ただし「様子見できる」と言っても、制度開始からほんのわずかな期間で取引を切られてしまったら元も子もありません。それを避けるためにひとまず課税事業者になるという選択をした場合、何か手立てはありますか。

西原:「2割特例」があります。インボイス制度開始に合わせて課税事業者になった場合など、適用には条件がありますが、取引先から支払われた消費税の金額分のうち、自身は単純にその2割だけを申告・納税すればよいという制度です。税負担増を緩和でき、仕入税額控除を一件一件計算する手間も省けます。

酒井:消費税の免税事業者でも、大半の方が所得税の確定申告をしていたはずです。それに消費税の確定申告が加わるので、多少とはいえ事務負担は増えますね。

西原:おっしゃる通りです。個人事業主にとっての所得税の確定申告は、支払い時に源泉徴収されていた税金を還付してもらうための手続き、と理解されている方が多いでしょう。

 しかし、消費税は仕組みが所得税とは全く違います。税額を計算して、(報酬から事前に天引きされることもなく)自身で納付します。受け取った消費税より支払った消費税が多い場合は還付もあり得ますが、一般的な企業活動だとそのケースは大変少ない。

酒井:なるほど。消費税の課税事業者になったら、消費税を年に一度に納付できるよう手元に現金を用意しておかなければならないといけない。

西原:はい、その覚悟が絶対必要です。資金負担と、請求書変更などの事務負担、2つの存在を考えておかなければなりません。

 ちなみに2割特例は3年限定の措置ですから、それが過ぎれば本来の納税が発生します。国はあくまで「事務負担軽減」と言いますが、とにかく課税事業者へ一旦は誘導するのが狙いでしょう。

取引先から「登録番号」の確認依頼が増加中?!

酒井:統計データも公表されていますが、個人事業主で課税事業者へ転換した人はまだまだ少ないという話です。

西原:(対談を行っている時点で)制度開始まで約2カ月ですが、それでもまだ様子見をしている方が多いのが実態でしょう。税負担増が大きな壁なのだと思います。すでに課税事業者の方であれば、インボイス制度への登録率は9割を超えるとの話ですが。

酒井:今ちょうど私の会社には、いろいろな取引先から適格請求書発行事業者の登録番号を教えてくださいという郵便が届くようになっています。周囲で聞いてみてもそれは同じでした。免税事業者であっても、取引先から登録番号を聞かれる機会は増えているでしょうね。

西原:そのようです。少なからず「課税事業者になれ」というプレッシャーにはなっています。インボイス制度について詳しくない方は、その連絡だけでもう「取引が切られるのでは」という恐怖感につながる方もいるでしょう。

 買い手側の事業者としては、インボイス制度対応の経理システムも組んでいるでしょうから、取引先の登録番号を把握しておいて、10月1日から支障なく運用したいと考えるのはある意味当然かもしれません。とはいえ、個人事業主側の心理的負担は大きいですね。

酒井:西原先生が答えられる質問ではないでしょうが、もし、そうした要請を無視し続けたらどうなるでしょう?

西原:うーん、ちょっと分かりかねますが、しかし10月1日以降はどのみち、請求書に「登録番号」があるかないかで、相手が免税事業者かどうかは判別されます。そのタイミングが今か10月1日以降か、という話かとは思います。

INTERNET Watchでは、本書の内容の一部を抜粋・再構成した記事を別途掲載しています。あわせてご参照ください。

  1. インボイスの申請、いつまでにやればいい?
  2. インボイス発行事業者になるための申請方法は主に2種類

執筆裏話:e-Taxによる登録申請がとにかく大変だった件

酒井:書籍の第4章では、適格請求書発行事業者の登録申請の流れをかなり詳しく解説しています。その下準備のため、私個人でも番号の取得にチャレンジしてみたんです。PC、スマホ、書類(郵送)という3つの手順があるうち、私はPCを選んだのですが……それがもうとにかく大変で!

 分厚いマニュアルを印刷して、すでに登録を済ませた友人が隣に居て、それでもうまく登録できない。PCに詳しいライター仲間に来てもらってそれでようやくできたんです。

西原:なるほど。私たちは日常的に税制関係の申請をオンラインでやっているので、もう完全に流れ作業的にできるのですが、多くの個人事業主にとっては、そうした申請自体が初めてでハードルが高そうです。用語も独特ですしね。

 これは常々感じていることなのですが、e-Tax周りのオンライン申請って、なぜか“紙の申請書”の様式をオンライン上に再現して、そこへ入力するような画面デザインなんです。様式に拘らず、必要な項目を順番に入力させればいいだけのはずなんですが。

酒井:それに、私が今「番号」と言いましたが、e-Taxの「利用者識別番号」と、インボイス制度における「登録番号」って、全く別の存在なんですね。e-Taxを全く使ったことがない人が「インボイスの番号が欲しい」と他人に相談しても、その区別が付かなくて混乱したりする。

 「利用者識別番号」をオンラインで申請しようとすると、おそらくそれだけで1時間くらいかかります。マイナンバーカードをスマホにタッチするとか操作も複雑です。そのうえで「登録番号」を取得するわけですが、西原先生がおっしゃるように、ほとんどの方にとって初めてです。

 10月1日に間に合えばいいやと駆け込み申請を考えている方がもし読者の中にいらしたら、その点には本当に注意してほしいです。ちなみに、iDeCo(個人型確定拠出年金)も最近話題ですが、「書類だけ申請して手続きができていない」という方は周りにすごく多いです。それもオンライン手続きの難しさゆえ、でしょうね。

西原:ちなみに「登録番号」は、申請の方法によっても番号が通知されるまでにかかる時間が異なります。(7月下旬の時点で)4月下旬まで申請された方については、e-Taxでのオンライン申請の方なら6月上旬に通知されているはずですが、書類郵送で申請した方は8月上旬に通知されるめどということになっています。

国税庁がサイトで公開している「適格請求書発行事業者の登録件数及び登録通知時期の目安について」では、登録申請を提出してから登録通知が届くまでの目安を掲載している。8月10日時点では、e-Taxの場合:提出から約1カ月、書面の場合:提出から約2カ月半となっており、「制度開始となる令和5年10月1日より前に登録通知を受領したい方は、e-Taxをご利用ください」と呼び掛けている。

3カ月先延ばしで2024年1月1日から課税事業者になるという選択はアリか?

酒井:インボイス制度に伴い課税事業者に転換するかで悩んでいる方は多いと思いますが、登録申請の「手続き」のほうも決して甘くは見ないほうがいいですね。もし自力で無理な場合は、税理士に頼むか、税務署へ相談しに行くのがいいですか。

西原:そうですね。というか、最終的にその2つに行き着いてしまうというか……。いずれにせよ、今からインボイス制度開始までに間に合わせようとすれば、事実上、e-Taxでのオンライン申請しか選択肢がないことには注意してほしいです。紙の申請では10月1日に間に合わない。

酒井:逆算すると、8月中旬までにオンライン申請しないと、10月1日の時点で「登録番号」がまだない、という事態になりますね。ただ、それでも10月1日なってからお尻に火が付いて、行動を起こすという人もいそうです。現実問題として、10月1日から課税事業者になるのは諦めて、2024年1月1日から課税事業者になるという選択肢もありますか?

西原:われわれと取引のある事業者様の中に、実際にそういう方はいらっしゃいます。3カ月くらいであれば、何かあっても事後対応で乗り切れるという判断をされたのでしょう。

酒井:そこは意外と難しい判断の気もします。逆に、消費税の申告を3カ月分だけ2024年春にできるのは、練習には最適とも言えますし。

西原:これはもうケースバイケースの話になりますね。ただし、10月1日なのか1月1日なのかという判断はありつつも、「腹を決めるならこの夏しかない」とは思います。免税事業者のままでいるか、課税事業者になるか、ここで判断しておかないと今後の取引先との関係にも影響が出てしまうかもしれません。夏を過ぎたら後戻りはできない。そんな重要な時期だという気がします。やはり取引先との協議はなんらかのかたちでしてほしいと思います。

課税事業者は帳簿付けをよりしっかりと

酒井:登録申請手続き以外に、10月1日のインボイス制度開始に向けて注意すべきポイントはありますか。

西原:免税事業者が課税事業者に転換するという観点から言いますと、請求書の様式が変わるだけでなく、年に一度の申告計算が義務になる/せざるを得なくなるわけですから、つまりは日々の帳簿付けが大変重要になってきます。

 今までは消費税をなんら意識することなく帳簿付けしていたでしょうが、課税事業者になれば帳簿付けを行う目的として消費税の申告計算が加わります。これまでなら手入力でやっていた帳簿付けが、物量的に無理ということになれば、何かしらのアプリケーションを使う必要が出てくるかもしれません。

酒井:具体的には会計ソフトの導入、ですね。

西原:はい。安価なもので構いませんので、消費税の集計機能があるものを使うのもよいと思います。主要どころの会計ソフトはほぼ全てインボイス制度対応が進められてますので、そこは安心できます。

 今では所得税の申告が青色申告か白色申告かに関わらず、帳簿付けは義務化されています。消費税の申告は、所得税の申告とは全く別に行わなければなりませんので、「白色申告だから消費税計算は必要ない」なんてことはありません。インボイス制度開始に伴い、免税事業者が適格請求書発行事業者となって課税事業者に転換する以上、事務負担が必ず増えるというわけです。

酒井:とはいえ、帳簿は1つあればいいんですよね?

西原:もちろんです。今までの帳簿に、消費税計算のための様式、例えば課税であるとか非課税であるとか、8%なのか10%なのかという記述が加わるイメージです。

酒井:インボイス制度は10月1日スタートですから、このタイミングで課税事業者になる方は、2024年春の確定申告期に、2023年10~12月の3カ月分の消費税を申告することになるんですよね?

西原:そうです。もう本当にすぐの話で、ボヤボヤしてはいられません。

酒井:所得税の申告に手慣れた方でも、消費税の申告は初めてという人が多いでしょう。来春の確定申告シーズンには、パニックも予想されます。

西原:混乱される方は多いでしょうね。税務署への問い合わせも増えるでしょう。「ものすごく」というレベルで。

酒井:心配ですね。その対策は?

西原:われわれが作った本をぜひ読んでください(笑)。 知識をいっぱい身に付けて備えましょう。監修者としてのお世辞は抜きにして、適格請求書発行事業者として登録したあとの事務作業などについて、ここまで言及している本は少なく、貴重だと思います。

酒井:ありがとうございます(笑)。私は一企業の社長なのですが、会社としては消費税を毎年納付しています。そして普段からライターやデザイナーの皆さんにギャラをお支払いして、原稿などを作ってもらう立場でもあります。

 こうしたライターさんの中には年収1000万円以下で免税対象の方も多いと思いますが、消費税分は支払っています。ですが、インボイス制度が始まると、そうした取引先に支払っていた消費税分を仕入税額控除できなくなり、結果的に私の会社が負担を被ることになる――大きな企業ならそれもできるでしょうが、規模の小さい会社では会社が潰れかねない。

 免税事業者も小規模な企業も、今までは消費税をうやむやにしてきました。それが、インボイス制度が始まる10月1日からは“ルール化”されるようになる。それは確かです。「インボイス制度が始まると税金をむしり取られる。悪」というイメージも相当強いですが、ルール化の意義についてはしっかり認識しておきたいと思います。

10月1日からスタートする「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」によって、これまで免税事業者だったフリーランスや自営業者はどのような影響を受けるのか? そもそも、インボイス発行事業者(課税事業者)になるべきなのかどうか?

本書『マンガと図解でよくわかる インボイス 消費税の基本と手続きの仕方がわかる本』では、インボイス制度および消費税の仕組みについての基礎を解説するとともに、インボイス発行事業者になるべきかどうかの判断について、職種・年収のケース別にアドバイス。さらにインボイス発行事業者になるための登録申請の具体的な手順、請求書や納品書の発行・保存、経費精算、確定申告の仕方など、制度開始~開始後に必要となる知識を1冊にまとめています。