山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国ネットユーザーは、ニュースの感想コメントに前向き ほか~2016年6月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国ネットユーザーは、ニュースの感想コメントに前向き

 騰訊(Tencent)のリサーチサイト「企鵝智酷」は、中国のネットユーザーが、どんなニュースに怒り、感想を掲示板サイトや各SNSに投稿をしているのかという調査結果を発表した。

 ネットユーザーの4割がニュースの感想を書き込んだことがあるとし、男性が女性よりも高い割合で書き込んでいるとしている。書き込みたくなるニュースのジャンルは、「高騰する住宅価格や就職難」(74.2%)が最も多く、以下、「腐敗」(61.8%)、「事件」(51.3%)と続く。「芸能ニュース」(20.1%)に関心を持つ人は少ない。

ネット世論調査結果

 書き込む理由としては「事件に反感」(76.1%)、「中国や中国人を憂う」(56.7%)が多く、「コメントに反論したいから」(32.6%)、「文章がひどいから」(28.0%)、「不満を吐き出したいから」(21.3%)という意見は少ない。書き込む際に、感情的になるか理性的になるかについては「理性的」(50%)、「半々」(37%)、「感情的」(13%)となった。書き込みをした人の9割が、事件事故の詳細や続報を知りたがっているとしている。

 書き込むことをどう思うかについては、「中国ネットユーザーのモラルが上がってほしい」(56.7%)というのが最も多く、以下、「時にある誇大報道を示唆したい」(43.9%)、「民意が見られていい」(42.5%)、「ひどいコメントが多すぎる。生活圧力があるように見える」(34.2%)、「事件の続報を期待する声があるのでいい」(31.9%)、「ストレス発散にしか見えない」(19.2%)となった。

 企鵝智酷は調査結果を紹介した上で、「悪い印象のニュースでは、より社会的弱者がSNSで繋がる傾向がある。その絶対数は少ないけれど、ネットユーザーの怒りを誘導しかねない」とまとめている。

デリバリーサービス「餓了me」が、淘宝網、滴滴打車に続く500万オーダー/日

 デリバリーサービス最大手の「餓了me(eleme)」が、C2Cサービスで、淘宝網、滴滴打車に続く500万オーダー/日を突破したことを発表した。6月7日の餓了meのメディア公開デーで同社が発表した。

 餓了meは、ファストチェーンやレストランと連携したフードデリバリーサービスで知られ、また、インターネットが浸透していない業界にもインターネットを浸透させようとする「互聯網+(インターネットプラス)」で最も成功したネット企業でありネットサービスだ。この1年ではスーパーやコンビニとの連携や、野菜などの生鮮食材や花などの配送に手を広げるとともに、昼食や夕食だけでなく、その間のおやつや夜食の時間帯まで24時間カバーするようになった。現在、餓了meは、700を超える都市で7000万人が利用している。とはいえ、まだ中国で7000万人“しか”利用していないため、まだまだ市場は大きくなると言われている。新サービスとしては、ライブ動画で厨房が見えるフードデリバリー「明厨亮竃」を試験的に実施している。評価がよければ、これによるサービスが中国全土の大都市に拡大するだろう。

生鮮に対応するECサイトが増えてきた

「餓了me」で低評価を付けた利用者を食堂店長が襲撃

 6月25日午前、山東省済南でとあるネットユーザーが「餓了me」を利用した際、配達が遅いのを理由に低評価を付けたところ、夜になってそれを見た食堂の店長が激怒。刃物を携えて、ユーザーの家に行き、口論したのち、刃物でユーザーに大けがをさせた。距離の近い利用者を対象としたネットサービスで、安全をいかに確保するかが問われる事件となった。

深センの配車登録ドライバーの1000人以上が麻薬中毒者と前科者

 「滴滴打車」などの配車サービスは普及してきている中で、これを利用しないと時間帯によってはタクシーが全く利用できないという都市もある。一気に新しいサービスが普及するが、一方でその弊害が話題となった。近年、配車サービスで女性が暴力を受ける事件がしばしば発生している中で、深セン公安部は、深センの配車サービスに登録するドライバーの1425人が麻薬中毒者で、1661人が前科者という統計を発表。誰でも仕事が得られるということを考えれば、確かにならず者が集まりやすいサービスなのかもしれない。

 記事を書いた「大洋網」がアンケートを行った対象の45%は乗車時に「安全面で心配がある」、70%が「実名制でのドライバー登録をすべき」と回答している。中国メディアの北京時間調査頻道は、こうした中で監視カメラを付けるタクシー会社もあるが、客のプライバシー侵害だと嫌がる声があるということも紹介。ただ、プライバシー侵害よりも安全のために監視カメラを付けるきという声の方が大きいというアンケート結果を公開した。

 中国ではネットサービスが発展しているが、利用するか否かは一旦冷静になって考えるべきだろう。また、最近ではAirbnbに似た民泊サービスが徐々に普及してきているが、同じことがいえよう。

「支付宝」の利用金額に制限、ユーザーからは悲鳴

 エスクローサービス兼電子マネーの「支付宝(Alipay)」や「微信支付(WeChatPayment)」の利用システムが変更された。I類・II類・III類にカテゴライズされ、最も利用可能額の大きなIII類で振替や支払での利用限度額が20万元(約300万円)となった。これは実名制による管理の強化を目指した「非銀行機構網絡支付業務管理方法」という新ルールに基づくもの。

 具体的には、I類は銀行と紐付けされているアカウントで、年間ではなく累計で1000元(約1万5000円)までの利用が可能に。II類は身分証での実名登録ないしは、2つの銀行と紐付けされているアカウントで、年10万元(約150万円)までの利用が可能に。このII類のアカウントが、光熱費や鉄道切符、航空券、保険を支付宝で支払うとIII類にアップグレードし、年利用限度額が20万元になる。

 すべてのネットユーザーではないが、一部のオンラインショップなどを生業とするネットユーザーから見れば、20万元という額は非常に少ない額で、これではろくに商売ができないと嘆く声も。そのため、なんとかシステムの抜け穴を探すユーザーが絶えず、その“成功例”も報じられた。

多くの店が「支付宝」「微信支付」をサポート

騰訊、「クラッシュ・オブ・クラン」のSupercellを86億ドルで買収

 騰訊は、人気オンラインゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」や「クラッシュ・ロワイヤル」で知られるフィンランドのSupercellの84.3%の株式を、ソフトバンクから86億ドルで買収すると発表した。

 騰訊はもともとオンラインゲームを多数リリースしていたが、世界で最も著名なスマホゲームを買収したことで、中国国内での版権を手に入れることになる。中国メディアの中国周刊は、「中国が近年、知的所有権とコンテンツ産業重視を打ち出す中、騰訊がSupercellなどの世界でも著名なネットコンテンツを買収することにより、オンラインコンテンツ界のディズニーを目指しているのでは」という分析記事を掲載した。

小米、内陸拠点でネットバンクに参入

 小米(Xiaomi)は、内陸最大の都市である四川省成都に、同省の現地企業6社と提携して、ネット銀行「四川希望銀行」を創設する。小米は、現地の乳業企業の新希望(30%)に続く、29.5%の株式を所有する。モバイルインターネットと若い世代やベンチャー企業に強い銀行となることで差別化を目指す。

中国企業ランキングでネット企業が目立つ

 「世界品牌実験室(World Brand Lab)」は、「中国500強企業」を発表。50位以内には、多くの中国国営企業が入る中、IT企業では2位に騰訊(テンセント、2875億元)、5位に華為(ファーウェイ、2196億元)、12位に阿里巴巴(アリババ、1862億元)、15位に聯想(レノボ、1351億元)、35位に百度(バイドゥ、1002億元)、39位に中興(ZTE、905億元)、82位に京東(312億元)が入った。百度・阿里巴巴・騰訊の3社の頭文字をとったBAT3社がインターネット企業ではトップとなったが、1つにくくりがちなBAT3社の中でも大きな差が出てきているようだ。

「京東」のオンラインショッピングの日に今年も新記録

 BATに続き、中国企業ランキングに名を連ねたネット企業(EC企業)の「京東」は、毎年6月18日に京東の日を称したキャンペーンをを開催する。阿里巴巴系で開催される11月11日に比べれば規模は小さいが、こちらも大きなオンラインショッピングイベントの日だ。イベントをアピールするためか、ドローンによる配送も積極的に行った。

 この日も、日付が変わって10秒で3万件、1分で14万件、11時16分には1000万件のオーダーが入った。朝9時半には2014年の記録を超え、午後4時には2015年の記録を超えた。今年もさらに中国EC市場は拡大しそうだ。スマートフォンからの注文が全体の85%で、北京・広東・江蘇・上海・四川の各省市からの注文が最も多かった。スマートフォンでは、小米、ファーウェイ、アップルの順に売れた。

 お祭りは数字としては成功したが、後日、普段の値段を上げることで、そこから値引いて安く見せる、価格を偽造した特別記念価格商品が目立つ結果に。11月11日の阿里巴巴系のイベントでも、価格偽装は起きている。信用されなくなりそうだ。

「京東」はもともとデジタル製品に強い

UberのCEO、中国のネットまわりの創新環境を評価

 天津で開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)のAnnual Meeting of the New Champions(新領軍者年会)で、UberのCEOであるTravis Kalanick氏は、中国の創新環境を評価。同氏は「中国政府は新しいプラットフォームで企業に新しいよりよいチャレンジ環境を作り、既存産業にネットを入れる互聯網+(インターネットプラス)を評価」した上で、「5年後には北京がシリコンバレーを超えるのではないか」とコメントした。

世界経済フォーラムのニューリーダーの年会

身分証と裸写真を担保にする闇金が話題に

 新華社や中国青年報らは、近年台頭してきた身分証を持った裸写真撮影を担保に、若い女性に、1週間で30%という高金利でお金を貸す、闇金業者の存在を暴き話題に。お金を貸したい人と借りる人を繋ぐサイト「借貸宝」が舞台で、悪徳な貸方は、数カ月で数倍にも膨らむ返済額を期日内に返済できないと、写真をばらまくと借り手に圧力をかける。ところが借金を返済しようとそうでなかろうと、1枚1元以下で数十枚(数十人)まとめて微信やQQなどでばらまかれていることが取材で明らかに。

 中国青年報が取材した女子学生は、「ネットショップをオープンしたい。オープンすれば、返済以上のお金が儲かる」と闇金業者を利用。借貸宝は「利率は最高で年24%で、こうした行為は違法であり、案件が出たら話を聞かず通報してほしい」とコメント。増えるこの手の犯罪に対し、弁護士は「侮辱罪として刑事責任を追求することができる」としている。

動画で注目を浴びようと体を張る中年女性が話題に

 中国版YouTuberこと“網紅”の「papi醤」なる女性がブレイクしたことにより、多数の若き女性がブームに乗ろうと網紅になろうとしていることを、先々月の本連載で伝えた。網紅養成学校から、網紅を利用したドラマの撮影、それにSNSのフォロワーやアプリダウンロード数を偽装するビジネス、さらには網紅向けに多数のファンを売るサービスや、顔写真から網紅を見極めるAIまで登場している。

 このような混沌とした状況の中、「吃貨鳳姐」なる庶民的な中年女性が話題に。その女性は電球にかじりついたり、金魚を飲み込むなどの動画を配信。いくつかの動画で声が聞こえ、体の一部分が見える男性に脅迫され、やらされているのではという疑惑がネットで挙がる中、多くの動画が削除された。

越境ECの利用者は前年比で倍増、利用額も増加

 CNNIC(China Internet Information Network Center)は、中国EC市場についてまとめた「2015年中国網絡購物市場研究報告」を発表。

 2015年のEC市場は前年比33.3%増の3兆8800億元(約61兆3000億円)で、中国の小売販売額の小売販売額の12.9%に相当する。3兆8800億元のうち、B2Cは半数以上となる2兆200億元(約32兆3000億円)。EC利用者は4億1300万人で、前年比で14.3%、5183万人の増加に。モバイルによるEC利用者は前年比43.9%増の3億4000万人で、半数以上がスマートフォンでECサイトを利用する。

 また、日本など海外からの越境ECの利用者は4091万人で、前年に比べ倍増。EC利用者全体のおよそ1割が越境ECを利用している。商品ジャンルでは化粧品(53.4%)が最も多く、粉ミルクなどのベビー用品(47.6%)やアパレル(37.8%)、サプリメント(34.8%)などの健康商品が人気だ。年間での越境ECの平均消費金額は5630元で、前年比で682元増。平均利用回数は8.6回で、前年比で0.6回増とほぼ横ばい。

越境EC利用者の45%が日本に注文する

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。