読めば身に付くネットリテラシー

100万ドルの賞金に当選した!? 「手数料が先」は100%詐欺なので一切応じないこと

「事例を知る」「兆候を見抜く」「即断で連絡を絶つ」――ネット詐欺被害を回避する3つの心得です

 イーロン・マスク氏は2024年米大統領選の期間中に、有権者のうち毎日1人に100万ドル(約1億5000万円)を贈るというキャンペーンを行いました。このニュースは大きな社会的・法的な議論を呼んだため、覚えている人も多いと思います。

 そして2025年10月、静岡県伊豆市に住む50代の女性がX(旧Twitter)で知り合った人物から「あなたの投稿が社長のイーロン・マスクの目に留まりました」「100万ドルの賞金を貰うことができる者に選ばれました」とのメッセージを受け取ったことをきっかけに、お金をだまし取られる詐欺事件が発生したとの報道がありました。

 やり取りの中で「賞金を受け取るには手数料が必要」と求められ、女性は10月中旬までに市内のATMから指定口座へ現金約30万円を振り込みました。その後、「さらに150万円必要です」と追加請求があり、不信に思った女性は10月20日に警察へ届け出て、詐欺被害が発覚したそうです。

 SNSのアカウントから届く突発的な当選告知と前払いを伴う手続きが組み合わさった、典型的なネット詐欺事案と言えます。この手口は、著名人や有名企業の名をかたって被害者の警戒を緩め、「当選」「選ばれた」「即時受け取り可」といった甘言で期待を喚起しつつ、「受け取り手数料」「手続き費用」「税・保管料」など、名目を変えながら送金依頼を重ねる「前払い金詐欺」の一種です。

 詐欺師は、イーロン・マスク氏の権威性を看板に据え、「あなたの投稿が目に留まった」「当選者に選ばれた」といった言葉で優越感や希少性を煽る一方、受け取り期限や即時対応を強調して冷静な判断ができないようにします。

 アカウント名がそれらしく見えても、プロフィールの作成日が新しい、投稿履歴が乏しい、フォロワーが不自然に少ない、メッセージの日本語が不自然、外部サイトのURLが公式ドメインでないなどの特徴があれば、なりすましの可能性は極めて高いと判断できます。Xの認証バッジの有無も、絶対に信用できるとは限りません。

 また、応募していない懸賞で前払い金を求められる時点で詐欺です。実在の企業・著名人・プラットフォームが、賞金の受け取り条件として個人宛に手数料の先払いを指示することはありません。

 さらに、DMから外部チャットや個人メールへ誘導する動きも危険信号です。

 送金する期限についての「今日中」や「今だけ」といった時間的圧力、「社内手続きだから秘密に」といった守秘要請、前払い金は最初は少額から始めて徐々に高額化していき、それらを取り戻そうとする心理を突いてくる“サンクコスト戦術”など、複数の心理的トリックを束ねてきます。相手は人をだます話法のプロであり、やり取りを重ねるほど、怪しいと思いつつもあきらめづらくなる構造が仕掛けられています。

 防ぐための原則は単純です。見知らぬ相手からの金銭要求は全て詐欺と疑い、前払いが条件の賞金・補助金・投資話には一切応じないことです。メッセージに記載されているURLにも、絶対にアクセスしないようにしましょう。必要があれば、別経路で公式サイトにアクセスして、告知の有無を確認します。

 X上で告知しているプレゼントなどのキャンペーンは、過去の告知履歴やキャンペーン形式、告知先サイトのドメイン、連絡先メールの所属などを複合的に確認し、1つでも疑わしい点があれば即座にコンタクトを遮断します。家族や友人などとも相談して第三者の視点を挟むだけでも、被害の連鎖を断ち切る効果があります。

 万一送金してしまった場合は、時間との勝負です。まず振込先の金融機関へ連絡し、送金停止や口座凍結の可否を相談します。国内口座宛てであれば「振り込め詐欺救済法」に基づく被害回復手続きの対象となる可能性があるため、金融機関に申請してみましょう。同時に、消費者ホットライン「188」や警察の相談専用電話番号「#9110」へ相談して支援を受けたり、最寄りの警察署へ被害届の提出を行ったりしましょう。

 やり取りの履歴、DM・メール・通話記録、振込明細、相手が示したアカウントやURLは証拠として保存し、スクリーンショットも時系列で保全してください。あわてて、やり取りを削除しないように注意し、以降はコンタクトしてきても一切応じないでください。

 ネット詐欺は、金銭的困窮や社会的承認への欲求といった人の心の隙を突いてきます。「応募していないのに舞い込む大金」「前払い金や手数料」「期限を区切った要求」「外部サイトや個人宛て決済への誘導」の4点セットがあったら、疑うのではなく、「詐欺」と断定して距離を置くのが最善手です。

 事例を知り、兆候を見抜き、即断で連絡を絶つ。これで、被害を未然に防ぐことができます。ぜひ覚えておいてください。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと