清水理史の「イニシャルB」

SynologyのNASでM.2 SSDや10GbE、拡張性を手に入れた5ベイ製品「DiskStation DS1517+」

 SynologyからNASの新製品「DiskStation DS1817+/DS1517+」が登場した。10万円台前半のリーズナブルなNASながら、M.2 SSDや10GbEに対応できる高い拡張性を備えているのが特徴だ。5ベイのDS1517+の実力を検証してみた。

いろいろな装備を選べる

 スタート費用はディスクレスで税込12万円弱(2017年4月25日Amazon.co.jp調べ)。

 HDDは好みで選んでもらうとして、さて、ここからの選択がうれしい悩みどころ。

 M.2 SSDでランダム性能を引き上げるもよし。

 10Gで映像編集やバックアップを快適化するもよし。

 メモリを増設してDockerで話題の自前Mastodonサーバーなどに使うもよし。

 Synologyから新たに登場したDS1517+は、後々の拡張でいかようにも進化させられる素性のいい5ベイNASだ。

Synology DiskStation DS1517+と付属品

 従来モデルとなる「DS1515+」と比べてみると、CPUやUSBポートの数などは同じだが、新たにPCIeスロットが搭載されており、ここにM.2 SSDアダプター「M2D17」や10GbEのNIC(対応情報はこちらで検索)を装着可能となっている。NICについては、(時期は未定だが)Synology純正品の10GBase-Tカードを発表する予定もあるとのこと。

 残念ながらPCIeスロットは1本なので、M.2 SSDにするか、10GbEにするかは排他となるが、パフォーマンスに影響するシーンがはっきりとしているので、どちらを使うかは用途によってある程度の目安を付けやすい(詳しくは後述のベンチマークテスト参照)。

 また、メモリの増設も柔軟性が高くなった。DS1517+には、標準でメモリが2GBと8GBの2モデルが用意されているが、標準モジュールを交換することで最大16GBまでメモリを増設可能となっている。

 トータル20万円前後の予算を確保できれば、5本のHDDにプラスして、いずれかのパワーアップをさらに楽しむことができるので、RPGで新しい武器を買った後、残ったお金で盾を買うか、グローブを買うか、ブーツを買うかを迷うような楽しみがある。

従来モデルとの比較
DS1517+DS1515+
実売価格11万9400円※18万7800円
CPUAtom C2538(2.4GHz、クアッドコア)
メモリDDR3 4GB×2DDR3 2GB×1
最大メモリ8GB×22GB+4GB
ドライブベイ5
M.2 SSDキャッシュオプションで対応可×(※2)
LAN1000Mbps×4
10GbE対応オプションで対応可×
LAG
USB 3.0フロント1、背面3背面4
eSATA2
拡張スロットPCIe 2.0 x8×1×
GPU対応××
HDMI××
ハードウェア暗号化
ハードウェアビデオ変換×
オーディオ出力××
サイズ(幅×奥行き×高さ)250×243×166mm248×233×157mm

※1:2GBモデルは10万8600円、※2:SSDキャッシュ自体には対応可。ただし、5ベイのうちSSDキャッシュ用にベイを消費する必要あり

RAID 6向きの5ベイ

 それでは、実際の製品を見ていこう。前述した通り、DS1517+は最大5台のHDDを装着可能な5ベイのNASだ。各ベイが横に並んだ横長の筐体となっており、外観のデザインや質感は従来のDS1515+と大きな違いは見られない。

 5ベイのNASは、少し前まではQNAPなどにも一部モデルが存在したものの、どちらかというと少数派で、最近ではあまり見かけなくなってきている。

 しかしながら、最大2本までのHDDの故障に耐え得るSHR2やRAID 6でディスクを構成しようとしたときに、4ベイより多く容量が確保できる上、かといって6ベイほど本体価格が高くならず、容量とコストのバランスがちょうどいい。サイズ的には、4ベイのNASに比べると幅があるため、若干設置場所を選ぶが、個人的には小規模なオフィスへの導入にお勧めしたい製品となっている。

正面
側面
背面
HDDはネジレスで装着可能。今回は、SeagateのNAS向けHDD「Ironwolf ST6000VN0041(6TB)」を使ってテストした

 ちなみに、競合は? と聞かれると少し難しいところだ。価格レンジで言えば4ベイの高性能モデルと比較したいところだが、オプションとは言えM.2 SSDや10GbE対応などハイエンドクラスの機能も取り込まれているため、ライバルをピックアップするのが難しい。

 同じくPCIeでM.2 SSDを拡張できるNASとしてはQNAPのTS-653Bなどがあるうえ、スペックや価格で考えるとTS-653Aもあるが、これらはいずれも国内では未発売だ。

 国内で入手可能で、しかもSSD対応となる製品となると、QNAPのTVS-882あたりとなるが、スペックは若干上であるものの価格は2倍近く高価で、中小の現場には過剰な印象がある。

 一方、10GbE対応と価格で考えればNETGEARのReadyNAS 526Xが挙げられる。DS1517+に別途10GbEカードを追加すると価格的にも近くなるが、CPUスペックが若干低く、M.2 SSDにも対応できず、こちらは少し物足りない。

 あらためてDS1517+を見てみると、M.2 SSDや10GbEというNASの最新トレンドをオプションという形で取り込みつつ、SOHOや中小でも導入しやすい価格設定をしたモデルで、「ミドルハイ」というか、既存のモデルにはない「ちょうどいいところ」を突いてきた製品と言える。

競合製品のスペック
QNAP TVS-882NETGEAR ReadyNAS 526X
実売価格25万6800円14万203円
CPUCore i3-6100(3.7GHz、デュアルコア)※1Pentium D1508(2.2GHz、デュアルコア)
メモリDDR4 4GB×2※2DDR4 4GB(ECC)
最大メモリ16GB×4-
ドライブベイ6(3.5インチ)+2(2.5インチ)6
M.2 SSDキャッシュオプションで対応可×
LAN1000Mbps×410Gbps×2
10GbE対応オプションで対応可
LAG
USB 3.0前面1、背面4前面1、背面2
eSATA×1
拡張スロットPCIe 3.0 x16×1、PCIe 3.0 x4×11
GPU対応Radeon RX7/RX480×
HDMI3×
オーディオ入出力入力:6.3mm×2、出力:3.5mm×1×
サイズ(幅×奥行き×高さ)292.8×319.8×231.9mm287.5×192×259mm

※1:16GBモデルはCore i3-6500(3.2GHz、クアッドコア)、※2 16GBモデルは8GB×2)

 続いて、インターフェイスを見ていこう。フロントは、上部の電源ボタン、中央のHDDベイに加え、新たに右下にUSB 3.0ポートが1つ追加された。最新OSとなるDSM 6.1に搭載された「USB Copy」という機能を想定しての配置だろう。この機能は、USBメモリーなどを装着すると、ボタンを操作しなくても、自動的にデータをNASに取り込むことが可能なものだ(企業での利用時は運用に注意)。

 そのほかのインターフェイスは背面に搭載されている。同じくUSB 3.0が3ポート、リンクアグリゲーションにも対応するLANが4ポート、ストレージ拡張用のeSATAが2ポート装備され、背面から見て右端に、今回の新製品のポイントとなるPCIeスロットがある。

 本体サイズは、従来モデルよりほんの少し大きくなったこともあり、前面も背面もさまざまなポートが余裕をもって配されている印象だ。

DS1517+の特徴となるPCIeスロット。M.2 SSD(キャッシュ用)や10GbEのNICを装着できる

Mastodonも動かせる16GBメモリ

 メモリについては、底面に用意されている専用カバーを取り外すことでアクセス可能だ。

 従来モデルでは背面のネジを外して、本体カバーを取り外し、側面の空いているスロットに増設(HDDベイ内側から標準メモリの交換も不可能ではない)する形となっていたが、今回のDS1517+では、本体カバーを取り外す必要がなく、手軽に増設・交換が可能となったのはうれしい限りだ。

 今回のモデルは8GBモデルとなっていたため、4GBのDDR3L SO-DIMMが2枚装着されていたが、これを取り外して、8GB×2の構成にすることで、最大16GBにまで増設可能だ。

 今回は、同社から純正メモリ(Samsung M471B1G73EB0-YKO)をお借りしたが、個人的に所有していたTrascendとPanramのDDR3L SO-DIMMを装着してみたところ、問題なく動作した。

 もちろんサポートの問題があるので、純正メモリを使うことを強く推奨したいが、場合によってはノートPCや小型PC用のDDR3L SO-DIMMでも代用できるのは心強いところだ。

底面のカバーを開けるとメモリを増設・交換可能
今回のモデルは標準で4GB×2のメモリを搭載していた
Synologyの純正メモリなどで最大16GBまで増設可能
サポート外となるが、手元にあったDDR3L SO-DIMMでも動作した

 ちなみに、一般的なファイルサーバーとしての使い方であれば、CIFS/FTP/AFPの同時接続数は、メモリ2GBで512、8GBで2048となっているため、標準でも十分な性能が得られる。

 しかしながら、最近のSynologyのNASは、メールやカレンダー、Office、チャットなどの生産性を向上させるアプリを動作させられたり、Dockerによる仮想化プラットフォームとしても活用できるようになっており、メモリは多ければ多いほどありがたい。

 筆者が本稿を執筆している4月24日現在、インターネット上では「Mastodon」の話題で盛り上がっているが、SynologyのNASでもDockerを使ってMastodonのインスタンスを走らせることは簡単にできる。

 筆者が1512+で試したところ、Mastodonのインスタンスを立ち上げただけで、CPU(2.13GHz、デュアルコア)とメモリ(3GB)の使用率が常時50%を超えてしまうので、実用はあきらめたが、メモリを16GB搭載するDS1517+なら実用になりそうだ。

 開発環境やテスト環境はクラウドで、というのが今の主流だが、普段はNASとして使えるテスト環境がローカルにもあるのは利便性が高いと言えそうだ。

Dockerでいろいろな環境を動かせるのもSynologyのNASの魅力。ウェブ上の手順を参考にすれば、SSH経由でアクセスして、Mastodonのインスタンスも立てられる(Dockerやgitの準備はGUIでOK)

基本性能をチェック

 今回のDS1517+は、M.2 SSDキャッシュや10GbEなどのオプションによって、どれくらいのパフォーマンスを引き出せるかが最大のポイントと言える。そこで、まずは基本性能(メモリは16GBに増設済み)のパフォーマンスをチェックしてみた。

 1Gbpsの有線で接続したPC(Core i7-4770/16GBメモリ/512GB SSD/Intel I217 NIC)から、共有フォルダーに対してCrystalDiskMark 5.2.1を実行したのが以下の値だ。1GiB、8GiB、32GiBの3種類で測定し、比較対象として筆者宅のDS1512+の結果も掲載しておく。

DS1517+(左)とDS1512+(右)のCrystalDiskMark結果(1GiB設定時)
DS1517+(左)とDS1512+(右)のCrystalDiskMark結果(8GiB設定時)
DS1517+(左)とDS1512+(右)のCrystalDiskMark結果(32GiB設定時)

 DS1517+の搭載HDDがSeagate IronWolf ST6000VN0041(6TB)×5である一方、DS1512+は、Western Digital WD Red WD40EFRX(4TB)×5という古い構成なので、結果は言うまでもなくDS1517+の圧勝だ。

 シーケンシャルについては、どの結果も読み込み118MB/s、書き込み117MB/sと、ほぼ有線LANの上限1Gbpsに達している。ランダムアクセスも、1GiB設定時の4K Q32T1は読み込みで90MB/sを超えており、こちらもほぼ有線LANの上限に近い速度でアクセスできている。

 要するに、1Gbpsで1台のPCからアクセスしている限り、本製品の真の実力が分からないことになる。

 そこで、今度は、複数台のPCから同時アクセスを試してみた。4つのLANポートすべてでLAGを構成し、LAG対応のスイッチを経由して4台のPCを接続。それぞれのPCからエクスプローラーを使ってファイルの読み書きを実行し、ダイアログボックスで転送速度を目視で確認したのが以下のグラフだ。

 なお、同一スペックのPCを用意するのが困難だったため、1台(グラフ中のPC1)はWindows 7を搭載したレトロPC(ThinkPad Z61t)となってしまった。一応、1GbpsのLANを搭載しているが、転送速度が1台だけ遅いのは、PCが古いことが原因になっていることをあらかじめお断りしておく。

4台同時ファイルコピー時のスループット
PC1PC2PC3PC4
1ファイル(2.8GB)Read24349492
Write18263842
697ファイル(2.35GB)Read33388155
Write22263537

 DS1517+の公称スループットは1179MB/s(10GbE LAG時)となるが、1Gbps×4で測定した結果は、1ファイル読み込み時で最大244MB/sとなった。より高速なPCを使えば、もっとパフォーマンスが出そうだが、とりあえず今回の結果からは、複数PCからの同時アクセスで、少なくとも2台は1Gbpsの上限に近い速度でアクセスできることが確認できた。

 複数ファイルの読み込みでは、1ファイルより若干落ちるが、それでも200MB/sを超えている上、各PCで数十MB/sの実用十分なスピードが確保できているため、複数ユーザーが小さなファイルを同時に読み書きするようなシーンでもパフォーマンスに不満を覚えることはないだろう。

 基本性能としては、文句のないレベルと言って差し支えなさそうだ。

M.2 SSDキャッシュでどこまで高速化できるか?

 続いて、オプションとして提供されているM.2 SSDアダプター「M2D17」を使ってみた。

 こちらはメモリとは異なり、本体カバーを開けて装着する必要がある。背面のネジを6本外し、カバーを上方にスライドさせるようにして取り外す。背面のPCIeスロットカバーの金具を取り外せば、装着準備完了だ。

オプションの「M2D17」。M.2 SSDをキャッシュに利用できる
今回、テストに利用したCrucial MX300 CT275MX300SSD4(275GB)
アダプターに付属の台座を使い、両面からネジで固定する
2枚装着。1枚でもキャッシュは可能だが、2枚あるとRAID 1を構成できる

 M2D17は、あくまでもPCIeスロットにM.2 SSDを装着するためのアダプターなので、SSD自体は別途用意する必要がある。今回は、Crucial MX300 CT275MX300SSD4(275GB)を2枚利用した。実売価格はM2D17が1万7900円、Crucial MX300 CT275MX300SSD4が1万3439円×2なので、合計で4万4778円の出費となる。

 M2D17には、SSDを固定するネジ穴が3カ所あり、装着するM.2 SSDモジュールのサイズによって穴を使い分ける仕様になっている。位置を合わせて2枚のモジュールを固定した状態で、M2D17をDS1517+のPCIeスロットに装着した。

 装着後にSSDを利用できる状態にするには、「ストレージマネージャ」からの設定が必要になる。まずは、ストレージマネージャから「SSDキャッシュ」を選択する。新規作成では、「読み取り専用キャッシュ」と「読み書きキャッシュ」を選べるが、ここでは後者を選択し、装着したモジュール2枚をRAID 1で構成する。

 M2D17に2枚のSSDを装着するのは、ここでRAID 1を選択できるからだ。これにより、書き込まれたキャッシュデータの冗長性を確保しながら、万が一の故障時などにもキャッシュデータを保護できるようになる(読み取り専用キャッシュではRAID 0も選択可能)。

本体カバーを外す必要があるが、簡単に装着可能

 従来のDiskStationシリーズでSSDキャッシュを構成する場合、本体のHDDベイにキャッシュ用SSDを装着する必要があった。しかも、今回の例のようにキャッシュの冗長性を確保しようとすれば、2つのベイを消費しなければならない。このため、HDD側の容量や冗長性が低くなってしまっていたが、PCIeを利用することで、この欠点が見事に解消されるわけだ。

 さて、キャッシュとしてどれくらいの効果があるのかを検証するために、まずはCrystalDiskMark 5.2.1を実行してみた。

DSM 6.1のストレージマネージャでSSDキャッシュを構成
DS1517+のCrystalDiskMark結果(SSDキャッシュ構成、1GiB設定時)
DS1517+のCrystalDiskMark結果(SSDキャッシュ構成、8GiB設定時)
DS1517+のCrystalDiskMark結果(SSDキャッシュ構成、32GiB設定時)

 1GiBに関しては、ほぼキャッシュなしの状態と同等だが、8GiBでは4K Q32T1のリードが1GiB並みの97MB/s前後まで上昇している。32GiB、および全般的な書き込みに関しては、目に見えるほどの向上は見られないが、ここは1Gbpsのネットワーク帯域がボトルネックになっている印象だ。

 なお、SSDキャッシュの設定時、標準ではシーケンシャルに関してはキャッシュをパススルーする設定となっている。これは、SSDの寿命を考慮しての配慮だが、シーケンシャルに関してはSSDキャッシュなしでも有線LANの上限である1Gbpsに近く、十分に高速だ。このオプションはそのままに、ランダムアクセスに対してだけSSDキャッシュを使う設定が適していると言えるだろう。

SSDの寿命を考慮して標準ではシーケンシャルがパススルーとなる

 続いて、複数台のPCから同時アクセスしてみたのが以下のグラフだ。今回はテスト時間と手間の関係で、4台ではなく2台のPCでテストを行っている。

2台同時ファイルコピー時のスループット(SSDキャッシュ有効・無効時)
PC1PC2
キャッシュ無効Read1ファイル113112
697ファイル5258
Write1ファイル5754
697ファイル4047
キャッシュ有効Read1ファイル113112
697ファイル9476
Write1ファイル5258
697ファイル414

 シーケンシャルは設定通り変化なしだが、697ファイルの転送では、やはり読み取りの値が向上している。これは明らかにキャッシュの効果と言えるだろう。

 キャッシュの状況は、ストレージマネージャから確認可能で、過去のヒット率や現在の状況(画面の「リールタイム」はいわゆるカタカナ語の「リアルタイム」だと思われる)を確認できる。テスト中に眺めていると、たまに68%や100%など、高い確率でキャッシュにヒットしていることが確認できた。

テスト中のSSDキャッシュの画面。リアルタイムでキャッシュのヒット率が表示される

 この画面では、テストの度にキャッシュ容量が増えていくことが確認できた。読み込みだけでなく書き込みの影響もあると思われるが、テストを実行した後のキャッシュ容量は1.10GBで、テストで転送したデータの容量よりも小さかった。SSDキャッシュのアルゴリズムはLRU(Least Reacently Used)とされているが、転送したすべてのデータがキャッシュされるとは限らないためか、今回のテストでは書き込みの値に変化が見られなかった。読み込みの値についても劇的な変化につながらなかったと考えられる。

 この機能が有効に発揮されるのは、やはり複数ユーザーで日常的に同じようなファイルを使う業務が頻繁に発生するケースだろう。今回のように単純かつ短時間のテストでは、キャッシュの効果は表れにくい。だが、それでもきちんと効果があったので、導入を検討する価値は十分にありそうだ。

 なお、キャッシュの容量をどう設定するかは悩みどころだ。ストレージマネージャには「SSDキャッシュアドバイザー」という機能が搭載されている。これは、読み書きのデータを解析することで、よくアクセスされるホットデータやウォームデータの容量を確認できるもの。このため、しばらく実環境で運用し、これらの容量を確認してからSSDキャッシュを導入するのも一つの選択肢だ。

 また、SSDキャッシュは、1GBのキャッシュごとに416KBのシステムメモリを消費する。SSDキャッシュを導入する場合は、同時にメモリを増設することをお勧めしたい。

SSDキャッシュアドバイザーを利用すると、頻繁にアクセスされるホットデータやワームデータが表示される。これらがキャッシュに入る候補となるため、この容量を目安にSSDの容量を決める

シーケンシャルの向上には10GbEが効果大

 もし、NASをバックアップに使ったり、4Kの映像編集など、シーケンシャルの速度が要求されるシーンで使いたいなら、SSDキャッシュより、10GbEのオプションにPCIeスロットを活用することをお勧めする。

 以下は、SSDアダプターのM2D17を取り外し、代わりにIntelのNICである「X540-T2」(10GbE×2)を装着し、同じく10GbE対応のIntel「X540-T1」を装着したPCと直結した状態で、CrystalDiskMark 5.2.1を実行した結果だ。

今回テストに使ったIntel X540-T2。2ポートの10GBASE-T対応NIC
10GbE接続時のCrystalDiskMark結果(1GiB設定時)
10GbE接続時のCrystalDiskMark結果(8GiB設定時)
10GbE接続時のCrystalDiskMark結果(32GiB設定時)

 データサイズの違いが転送効率の差に表れたのか、若干値にばらつきがあるが、シーケンシャルのリードで600~800MB/s、ライトで350MB/s前後の圧倒的なスピードを実現することができた。

 数は少なくとも大容量のファイルをやり取りする場合は、やはり10GbEの効果が大きいと言えそうだ。

 なお、10GbE対応のカードは、Synologyの純正品としてはSPF+対応の「E10G15-F1」か「E10G17-F2」のみしか提供されない。手軽に利用するには、やはり銅線の方が楽なので互換性のあるIntel製のカードなどを使うといいだろう。ちなみに、今回使ったIntel X540-T2の実売価格は1万8000円前後。実際に利用するには10GbE対応のスイッチも必要になるので、トータルのコストは10万円前後を見込む必要がある。

4つの1Gbpsポートに加え、2つの10GeEポートを利用可能になる

スモールビジネスでもおすすめ

 以上、Synologyの新製品となるDS1517+を実際にテストしてみた。標準のままでも十分なパフォーマンスを備えているが、M.2 SSDもしくは10GbEをオプションで追加することで、さらなる性能向上が期待できる優秀なNASと言えそうだ。

 スタートアップ企業などが、初めは安く導入して、規模の拡大とともに性能を上げていくという使い方もできるし、スモールビジネスとはいっても扱うデータサイズが大きい場合には、心強い存在となる。

 個人的に残念なのは、動画のハードウェアエンコードに対応しない点だ。ビジネス向けという点では、あまり重要視されないかもしれないが、最近ではビジネスシーンでも動画を扱う機会があるため、このクラスでもハードウェアエンコードに対応してくれると需要はありそうだ。

 そのほかの点については、ほとんど欠点らしい欠点は見当たらない。 相変わらずHDDの装着はドライバーレスで簡単だし、動作音も静かで、セットアップもウェブブラウザーから簡単にできる。アプリの豊富さも、頭一つ抜けた印象で、それぞれのアプリの完成度も高い。

 同社の製品は基本3年間の保証を受けられるが、今回のDS1517+、DS1817+、DX517(HDD拡張ユニット)は、さらに2年の延長保証(EW201)をプラスしてトータル5年の保証とすることもできる。

 また、PCIeの装着で何度か分解していて気が付いたのだが、ファンの交換が容易にできるようになっていることにも関心した。サーバー機器ではさほど珍しいことではないが、あらためてメンテナンス性の良さに関心した(さすがに電源交換は無理だが……)。

 ソフトウェアの完成度で定評があるSynologyだが、今回のモデルでハードウェア面でも他社を追い上げにかかってきたことがうかがえる。予算さえ許せば、個人的にはSynologyのラインナップの中でも、特にお勧めできるモデルと言える。

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(協力:Synology)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。