清水理史の「イニシャルB」
メッシュWi-Fiを「自作」! 格安品やスピーカー付き、11axを混在できるASUS「AiMesh」
2019年4月22日 06:00
「メッシュWi-Fiが欲しいけど、IDS/IPSなどのセキュリティ機能やVPNサーバー機能もあきらめたくない……」。そんな欲張りなニーズに応えられるのが、ASUSから登場した「AiMesh」対応Wi-Fiルーターだ。
セット販売が当たり前となりつつあるメッシュ製品の中でにあって、モデルごとの垣根を取り払い、複数のモデルの中から自由に選んでメッシュWi-Fiを組めるようになっている。「なるべく安く」「ゲームに」「豊富な機能も」などのさまざまなニーズに応えられる新世代のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」に迫ってみた。
メッシュWi-Fiでも付加機能をあきらめなくていい
複数のアクセスポイントで広いエリアをカバーできるメッシュWi-Fiは、今やWi-Fiルーターの選択肢の1つとなり、とても魅力的なジャンルになってきた。
3階建ての一戸建てや、電波を通しにくい鉄筋で広めのマンションなど、物理的な距離や遮へい物などを理由とする電波が届きにくい環境下でも、複数のアクセスポイントを連係動作させて隅々までエリアをカバーできる上、中継の帯域など面倒なことを考えなくても済む。
しかしながらその一方、まだメッシュWi-Fiの導入に踏み切れないという人も少なくない。現在使っているルーターの付加機能に、大きな魅力を感じているケースだ。
例えば、「Wi-FiルーターをVPNサーバーとして、公衆無線LANにつないで外出先でアクセスするときにセキュリティ対策として使っている」「ゲームが趣味でQoS機能のあるゲーミングWi-Fiルーターが手放せない」「外出先から自宅のデータにアクセスするのにWi-FiルーターのUSB共有機能を使っている」などが挙げられるだろう。
現状のメッシュWi-Fi製品の多くは、セットでの利用が前提となっていて価格が高価になってしまうし、既存のWi-Fiルーターを置き換える必要があるので、それまで使っていた機能をあきらめなければならなかった。
「今使っているルーターで、そのままにメッシュWi-Fiを組めればいいのに……」。こうしたユーザーの声に応えるかたちで登場したのが、ASUSから登場した「AiMesh」という技術だ。
AiMeshは、簡単に言うと、モデルの垣根を越えてメッシュWi-Fiを構成できる汎用性の高い機能だ。
メッシュWi-Fiでは、アクセスポイント同士が協調して動作する必要があるため、同じ方式が採用された機器同士でないとペアを組むことができない。このため、ほとんどのメーカーでは、製品をセットで販売している。
これに対してAiMeshは、以下のようにASUS製ルーターの多くのモデルで採用されていて、これらのうち、どの組み合わせでもメッシュWi-Fiを組めるようになっている。
- IEEE 802.11ax対応ルーター
RT-AX88U - トライバンドゲーミングWi-Fiルーター
ROG Rapture GT-AC5300 - デュアルバンドWi-Fiルーター
RT-AC68U/RT-AC67U - デュアルバンドゲーミングWi-Fiルーター
RT-AC88U/RT-AC86U - メッシュWi-Fiシステム
Lyra Voice/Lyra Trio/Lyra mini
つまり、上記のWi-Fiルーターを既に所有しているならもちろん、これからWi-Fiルーターの買い換えを検討しているときも、上記の製品のうちのどれかを購入しておけば、後から通信エリアを拡大したくなったときに、どれか1台買い足すだけで簡単にメッシュWi-Fiを構成できるというわけだ。
実はスゴイ「選べるメッシュWi-Fi」
この「どのモデルでもメッシュWi-Fiを組める」というのは、実はスゴイことだ。
というのも現状のメッシュWi-Fiは、規格があいまいな状況だ。「IEEE 802.11s」として策定が進められてきた標準規格が一応は存在するものの、実際の製品には、チップベンダーやメーカーが独自に実装してきた技術が搭載され、相互に互換性がない状況になっている。
Wi-Fi Allianceが、メッシュWi-Fi製品間の相互接続のために、「EasyMesh」という認証プログラムの準備を進めているが、現状、異なるメーカーの製品では、メッシュWi-Fiを構成することはできない。さらに、同じメーカーの製品間でも、モデルが違えば(つまり、搭載チップが違えば)、メッシュWi-Fiを構成することはできないケースがほとんどだ。
ASUSの製品でも、これまでは、AiMeshに対応するRTシリーズと、それとは別のLyraシリーズという2つのラインアップが存在しており、メッシュWi-Fiはそれぞれでしか構成することができなかった。だが、Lyraに対して、相互接続性を確保する「AiMesh」に対応するためのファームウェアアップデートが実施され、現在のように統一された環境が整ったわけだ。
こうした垣根を取り払う努力には、想像以上の開発リソースと技術が必要なため、ほとんどのメーカーは諦めているか、様子見をしている状況だ。しかしながら、ASUSは、あえて自社の力でここに切り込むことで、少なくとも自社内での互換性を確保したことになる。この努力は賞賛に値する。
ちなみに、メッシュWi-Fiに関するこのあたりの技術的な話は、連載『期待のネット新技術』内【利便性を向上するWi-Fi規格】の第1回、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回で、大原雄介氏がまとめている。技術の違いを理解しておくと、さらにASUSの取り組みの凄さを実感できるはずだ。
いろいろなメッシュWi-Fiの組み合わせを考えてみよう
さて、AiMeshの汎用性の高さが分かったところで、ASUSのモデルごとに、どのような組み合わせでメッシュWi-Fiを構成するといいのかを考えてみよう。
とは言っても、すべてを網羅すれば組み合わせが膨大になってしまうので、ここでは1台目のWi-Fiルーターとして、IEEE 802.11ac対応のWi-Fiルーター「RT-AC67U」を使うケースを考えてみたい。
RT-AC67Uは、最大1300Mbpsの5GHz帯と、最大600Mbpsの2.4GHz帯に対応したデュアルバンドのWi-Fiルーターだ。RTシリーズのラインアップとしてはミドルレンジに位置付けられ、Amazon.co.jpの販売価格は1万3881円(税込)。
トレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ技術「AiProtection」、USB接続ストレージに保存したデータへ外出先からのアクセスや共有が可能な「AiCloud」、公衆無線LANのセキュリティ対策にも活用できるVPNサーバーなど、豊富な機能を備え、もちろん「AiMesh」にも対応する。コストパフォーマンスが高く、1台目のWi-Fiルーターとして選ぶのに適した製品だ。
ケース1:コストをかけずに手軽にメッシュWi-Fi化
Lyra Trio/Lyra mini+RT-AC67U
追加予算:1万3000円前後
1台目「RT-AC67U」に、2台目として「Lyra Trio」(もしくはLyra mini)を1台追加する
1台目のRT-AC67Uは、3本の外付けアンテナで広いエリアをカバーできる製品だが、住宅環境によっては、遠くの部屋やバス、トイレなど、電波が届きにくい場所が発生してしまう場合がある。家じゅう隅々までWi-Fiの電波をカバーするには、メッシュWi-Fi化するのが最適なので、AiMeshに対応し、かつなるべく安いモデルを追加してみるのがいいだろう。
AiMesh対応製品で実売価格(Amazon.co.jp調べ)が安いのは、1万2980円の「Lyra mini」か、1万3430円の「Lyra Trio」のいずれか。前述した通り、Lyraシリーズもファームウェアアップデートによって、AiMeshでメッシュWi-Fiを構成できるようになったためだ。
速度重視なら、最大1300Mbpsに対応したLyra Trioがお勧めだが、Lyra miniは最大867Mbpsながら、サイズがコンパクトで置き場所に困らないというメリットがある。今の時点での実売価格はあまり変わらないので、ニーズによってどちらかを選び、AiMeshに追加するといいだろう。
ケース2:ゲーミングもメッシュWi-Fiも諦めない
RT-AC86U+RT-AC67U
追加予算:2万3700円前後
ゲーミングWi-Fiルーターの「RT-AC86U」を購入し、1台目として置き換え。既存のRT-AC67Uは、長距離をカバーするためのメッシュWi-Fiへと流用
eスポーツやゲームの実況が盛り上がりを見せる中、自宅でも快適なゲーム環境を整えたいと考えている人も多いことだろう。こうしたニーズに応えられるのが、ゲーミングにも注力するASUSのルーターならではの特徴だ。
例えば、ゲーミングWi-Fiルーター「RT-AC86U」を購入し、これを1台目として利用する。RT-AC86Uは、高性能なデュアルコアプロセッサを搭載していて処理能力が高く、Wi-Fiの通信も5GHz帯が最大2167Mbps、2.4GHz帯が750Mbpsと高速だ。さらにゲームの通信を優先的に処理する「Adaptive QoS」や、ゲームサーバーへの経路を最適化できる「WTFast」などの機能が搭載されている。これを1台目に利用することで、こうした機能をフル活用できる。
その上で、余ったRT-AC67Uは、メッシュWi-Fiに活用する。RT-AC86Uは、ゲーミングWi-Fiルーターとの位置付けながら、AiMeshに対応しているので、そこにRT-AC67Uを追加することで通信エリアを手軽に拡大できる。さらに、RT-AC86Uのゲーミング機能は、RT-AC67Uへ接続したWi-Fi子機でも活用できる。家中のどこでも、快適なゲームプレイが可能になるだろう。
ケース3:大容量伝送を想定した高度なメッシュWi-Fiに
RT-AC88U+RT-AC67U
追加予算:2万9000円前後
より高性能な「RT-AC88U」を1台目に利用し、WAN環境や有線LAN環境も強化しつつ、既存のRT-AC67をAiMeshで追加してメッシュWi-Fiを構成する
Wi-Fiで4K動画を再生する可能性があったり、複数台のクライアントから大容量のアクセスがLANやインターネットに対して頻繁に発生する可能性があるときは、より高性能なWi-Fiルーターとの組み合わせを検討したい。
例えば、ゲーミングWi-FiルーターのRT-AC88Uを1台目に利用すれば、最大2167Mbpsの5GHz帯や、前述したAdaptive QoS、WTFastといったゲーム向け機能などを使いつつ、さらに高性能なCPU(Cortex A9ベースのデュアルコア1.4GHz)と大容量メモリ(512MB)による高速な処理によって、例えば、複数のWi-Fi子機による同時伝送も快適に処理できる。
また、有線LANの機能が充実しており、インターネット接続用のWAN回線を2系統同時に利用できるデュアルWANを搭載。LANポートは8ポートも用意されている上、NASなどのLAN上の機器と1Gbps×2系統の接続が可能になるリンクアグリゲーションにも対応する。無線だけでなく、WANやLANといった有線もトータルに快適化できるのが、このモデルと組み合わせるメリットだ。
ケース4:多機能かつ高性能、さらに高音質なメッシュWi-Fiに
Lyra Voice+RT-AC67U
追加予算:3万1000円前後
スマートスピーカーを使いたい場所に「Lyra Voice」を2台目として追加
Wi-Fiルーターに加えて、Alexa対応スマートスピーカー、Bluetoothスピーカーの役割を合体した1台3役の製品が「Lyra Voice」だ。
ステレオ再生にも対応する高音質なLyra Voiceを、ベッドサイドなどに置いてスマートスピーカーや音楽の再生に使ってもいいし、例えばWAN回線があり、1台目のルーターを置きたい場所でスマートスピーカーをよく使うなら、RT-AC67Uを2台目としてもいい。
Wi-Fiルーター単体として考えても11acに対応。さらに、5GHz帯×2(867Mbps+867Mbps)、2.4GHz×1(400Mbps)のトライバンドに対応する点が大きな魅力。MU-MIMOにも対応している。
トライバンドであれば、2系統ある5GHz帯のうちの一方を、AiMeshを構成したRT-AC67Uとの中継用に使うことができるため、メッシュWi-Fiの快適さが確実に向上する。PCやスマートフォン、IoT機器など、とにかく多くのクライアントをつなぐ環境にもオススメだ。
ケース5:次世代のIEEE 802.11axでもメッシュWi-Fi
RT-AX88U+RT-AC67U
追加予算:約4万7000円前後
市販モデルとしては国内初となる次世代IEEE 802.11ax対応製品「RT-AX88U」を1台目に利用し、超高速な通信を活用しつつ、わずかに残る低速エリアをRT-AC67UのメッシュWi-Fiでカバーする
2019年は間違いなくIEEE 802.11axが主流になる年だろう。先日、世界初の11ax対応スマートフォンであるSamsung「Galaxy S10」シリーズも発表されてように、今後、11axに対応したスマートフォンやPCが、さらに登場してくることが予想される。こうした状況を考えると、今から11axへの準備をしておくことは重要だ。
市販モデルとしては国内初となった11ax対応ルーターであるRT-AX88Uは、5GHz帯で最大4804Mbpsを実現できる超高速なWi-Fiルーターでありながら、既存のIEEE 802.11acにも対応。しかも、AiMesh対応で、RT-AC67Uのような既存の製品とのメッシュWi-Fiも構成できるようになっている。
このため、1台目としてRT-AX88Uを利用することで、今後登場してくるスマートフォンやPCを高速な11axで接続しつつ、今までの機器は11acによるメッシュWi-Fiによって隅々までカバーできる。短距離も長距離も高速という、イイトコドリの構成だ。
さすがに費用はかさむが、予算さえ許せば、最強の家庭内ネットワークが組めるのもASUSならではの特徴と言えるだろう。
いろいろな環境に対応可能な柔軟さが魅力
このように、ASUSのAiMeshは、モデル間の垣根を越えた互換性を手にしたことで、非常に柔軟なメッシュWi-Fiの構成ができるようになっている。もともと良い意味で「尖った」製品が多いのが、ASUSのWi-Fiルーターの特徴だったが、こうした「尖った」部分をうまく活かしつつ、メッシュWi-Fi化できる印象だ。
メッシュWi-Fiというと、セットであることの手軽さが前面に押し出され、どちらかというと初心者向けという印象がある。しかし、ASUSのメッシュWi-Fiであれば、初心者向けのライトな構成から、マニア向けのハードコアな構成まで、ニーズに合わせて選択できるのがメリットと言える。こうしたことを念頭に、この機会に、自宅のネットワーク構成を見直してみるといいのではないだろうか。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)