清水理史の「イニシャルB」
ネットワークカメラでYouTube Live配信に挑戦! カメラ単体? それともNASとの組み合わせ?
アイ・オー「TS-WRLP」で手軽に映像配信とアーカイブができる
2019年4月1日 06:00
PCやスマートフォンであれば、手軽にライブ配信を楽しめる「YouTube Live」だが、固定のネットワークカメラで使おうとすると、とたんに敷居が高くなる。今回は、高価格な法人向けネットワークカメラや配信用機材を使わなくてもライブ配信できる2つの方法を試してみた。
店舗の監視カメラソリューションとしての「YouTube Live」
監視カメラの映像をどこまで公開すべきかは、議論の余地もあろうかと思われるが、大盛り弁当でお馴染みの「キッチンDIVE」のライブカメラは、なかなか面白い試みだろう。
平日の朝8時の段階で、すでに20人程度が視聴していて、実際に映像を見ていた視聴者から万引きのシーンが報告されるなど、さながら“ソーシャル監視”ともいうべき独特のソリューションとして成功している。
実際、監視カメラを設置したとしても、長時間の映像をどこまで細かくチェックできるかと言われると非常に難しい。だが、思い切って映像を公開してしまったことで、インターネット上の誰かがチェックしてくれているわけだ。
もちろん、映像を見ている側としては、今日はどんなお弁当があるのか? 在庫はどれくらいあるのか? といったことに興味を持って見ているのだと思われるが、思い切った手法ながら一定の効果を上げている珍しい例と言えるだろう。
こうしたソリューションが実現できているのは、無料で利用でき、しかも手軽に配信できるYouTube Liveというプラットフォームが存在するからにほかならない。YouTubeのアカウントさえあれば、誰でもライブストリーミングを始められて、しかも現状は無料で利用できるのだから、活用しない手はないだろう。
YouTube Live対応機器は高価で、ネットワークカメラで配信する敷居は高い
しかし、このように便利なYouTube Liveでも、いざ店舗などで使うネットワークカメラから利用しようとすると、なかなか敷居が高いのが現状なのだ。
YouTube Liveでは、ネットワークカメラからの映像をRTMPで受信する必要がある。しかし、そのRTMPに対応した製品はあまり多くない(ローカルのNVR向けであるRTSPに対応したカメラは多いのだが)。
これまでであれば、YouTube Liveに対応したライブ配信機器とカメラを組み合わせて映像をRTMPに変換して送信するか、単体でRTMPに対応した10万円オーバーの法人向けネットワークカメラ(AXISなど)を利用するしかなかった。
店舗での監視であれば、カメラの耐久性や安定稼働、安定した配信が求められるため、高価なソリューションになるのも仕方がない部分はあるだろう。しかし、個人でちょっと試したり、小規模な店舗で同様の監視を実現するには敷居が高かったわけだ。
アイ・オー「TS-WRLP」がYouTube Liveに対応、2018年4月公開ファームで
そこで、今回取り上げるのが、コンシューマー向けのネットワークカメラ「TS-WRLP」だ。アイ・オー・データ機器から販売されている実売1万円前後の製品で、APIが公開された際に本連載でも取り上げた製品だ。
製品を購入した当初はAPIを試すのに夢中で気が付かなかったのだが、この製品は、2018年4月公開のファームウェア(1.08.14)によって、YouTubeライブストリーミング機能に対応していた。これにより、カメラの設定ページから簡単な配信設定をするだけで、YouTube Liveに映像を公開可能となっていたのだ。
使い方は簡単で、まずYouTubeのアカウントでライブストリーミングを有効化する。現状、いくつかのUIが存在するようだが、ここでは「クリエイターツール」から「ライブストリーミング」の「今すぐ配信」で「始める」をクリックする。
アカウントでライブストリーミングが有効になるまで24時間程度かかるので、しばらく待つ必要があるが、完了すると、ダッシュボードの「エンコーダの設定」にある「サーバーURL」と「ストリーム名/キー」を取得できるようになる。
この2つの情報をTS-WRLPの設定画面にある基本設定のYouTubeライブ設定に登録し、ライブストリーミングを有効化すれば、カメラの映像がサーバーへと送信され、YouTubeから配信されるようになる。とてもシンプルな設定だ。
配信映像がアーカイブされる条件は?
YouTube Liveで映像を配信する場合は、プライバシーの設定(非公開、限定公開、公開)に注意する必要があるし、チャットの有効化/無効化などにも気を配る必要がある。しかし、監視カメラという使い方を考えた場合、最も考慮しなければならないのが、映像の保管についてだ。
YouTube Liveは、基本的に映像をライブ配信するためのソリューションだが、現在の映像だけでなく、一定の条件であれば、過去の映像を保管することも可能になっている。その具体的な条件は以下のようなものだ。
- DVR有効時は、ライブ配信中の映像であれば4時間まで巻き戻すことができる
- 12時間未満の配信であれば、配信停止後に自動的にアーカイブされる
通常のネットワークカメラであれば、映像は本体のSDカードやDVR、NASといった録画機器、またはクラウドサーバーなどに保存される。しかし、上記の条件に沿っていれば、YouTubeのアカウント上に配信した映像をそのまま保管できることになる。
最近のネットワークカメラには、ハードウェアとクラウドサービスをセットにしたソリューションとして提供される製品もあるが、こうした場合、映像を長期間保存しておくサービスが有料となる場合がほとんどだ。
YouTube Liveをうまく活用できれば、YouTubeでライブ配信するだけでなく、映像を無料で保管することもできるというわけだ。
ただし、実運用を考えると、保管しておくまでには、なかなか敷居が高い。上記の通り、アーカイブとして映像を保管するには、12時間未満で映像配信を一旦停止しなければならないからだ。
このため、毎日の監視映像を保管し続けるには、開店時にカメラの設定画面で配信を開始し、閉店時に配信を停止するという操作を繰り返さなければならないことになる。
この手間が、実はなかなか大きい。
先に触れたように、TS-WRLPはAPIが公開されているので、これを活用できれば、クラウドサービスや照明センサーなどと連携させて、自動的に配信廃止、停止を制御できそうだ。しかし、残念ながら、現時点で公開されているAPIには、YouTube Liveを制御できるこうした機能は含まれていないので、なかなか難しい状況だ。
おそらく、スケジュールを設定することでYouTubeライブストリーミングをオン/オフできたり、各種のセンサー類と連動できるようにすると、外部サービスを事実上のストレージとして「タダ乗り」できるかたちになりかねないので、メーカーとしても、この機能を発展させることができないのだろう。
NASでもYouTube Liveが可能
ここまでに解説したように、TS-WRLPを使えば単体でYouTube Liveへの映像配信が可能だ。しかし、YouTube Liveに未対応の製品でもRTSPに対応さえしていれば、SynologyのNASと組み合わせることで、同様にYouTube Liveでの配信が可能となる。
SynologyのNASには、監視カメラソリューションの「Surveillance Station」(対応機種はこちらを参照)というパッケージが用意されているが、このアドオン機能である「ライブブロードキャスト」をアプリに追加すると、Surveillance Stationで認識されているカメラの映像をYouTube Liveに配信できるようになる。
国内ではSurveillance Stationに対応したカメラの入手が難しく、ONVIF対応のカメラを使うか、RTSPで入力するしかない。このため、こちらはこちらで敷居は高いのだが、低価格の2ベイNASなどでも対応するので、カメラさえ入手できれば、試す価値はあるだろう。
なお、QNAPのNASでも、「DJ2 Live」というパッケージを利用することでRTMPによる配信は可能だが、カメラの入力に別途機材が必要なので、こちらを試す環境を整えるのは、さらに大変だ。
手軽に映像配信できるのが魅力、暗い場所は苦手なので注意
以上、アイ・オー・データ機器のTS-WRLPのYouTube Live機能を試してみたが、非常に手軽にライブ映像を配信でき、条件次第では無料で映像を保管できるため、非常に面白い機能だと言える。
もう少し制御できれば、かなり便利に使えそうなので、個人的には、ぜひAPIを公開していただきたいところだ。
ただし、TS-WRLPには、監視カメラとして使うには1つ欠点がある。暗い場所の撮影が苦手なのだ。高感度のセンサーを採用してはいるものの、赤外線撮影などに対応していないため、明かりがほとんどない環境での撮影は困難と言える。
暗い場所や屋外などでの用途には、本来はほかのネットワークカメラを使うべきなのだが、YouTube Liveに対応しているのは現状TS-WRLPだけなので、選択肢がない状況だ。ほかのモデルにもYouTube Live機能が搭載されることも、重ねて同社に要望したいところだ。