清水理史の「イニシャルB」
Wi-Fi 6で実測1Gbps超! デスクトップPCとNASを2.5GbE有線経由でWi-Fi接続してみた
ASUSのPCIeアダプタ「PCE-AX58BT」とルーター「GT-AX11000」でテスト
2019年9月20日 11:00
ASUS JAPANから登場した「PCE-AX58BT」は、Wi-Fi 6に対応したPCI Express x1接続のWi-Fiアダプターだ。Wi-Fi 6に対応したノートPCはいくつか登場しているが、デスクトップPCでも、本製品により最大2402Mbpsを実現できるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)を利用可能となった。ASUSのトライバンドWi-Fi 6ルーター「ROG Rapture GT-AX11000」との組み合わせで、実効1Gbps越えの世界を検証してみた。
デスクトップPCにもWi-Fi 6を
ノートPCを中心にWi-Fi 6こと11ax準拠のWi-Fiを搭載したPCが登場してきたが、これと同じ最大2402MbpsのWi-Fi 6を、ようやくデスクトップPCでも使えるようになるわけだ。
ゲーミング向けのマザーボードなどでは、すでに11axを搭載した製品も登場しているが、今回登場したASUSの「PCE-AX58BT」は、もっと汎用的な製品となる。PCI Expressスロットを搭載したデスクトップであれば、どのようなPCでもWi-Fi 6対応へとアップグレードすることができる。
パフォーマンスが重視されるデスクトップPCでは、できれば有線LANでネットワークにつなぎたいところだが、設置場所のレイアウトによっては、ケーブルの配線が難しいケースもある。
なるべく高速なネットワーク接続が必要なワークステーションやゲーミングPCなどでも、今回のPCE-AX58BTを使えば1Gbps越えの通信が可能となる。
スペックとしては、最大2402Mbpsの通信に対応する。これは、Wi-Fi 6対応ノートPCと同じで、2ストリーム、160MHz(80+80MHz)となっている。
デスクトップ向けということで、ルーター側と同じ4804Mbps(4ストリーム、160MHz)を期待したかったところだが、現状、入手可能なWi-Fi子機向けのWi-Fi 6モジュールは、Intelの「Wi-Fi 6 AX200」と、そのOEMとなるRivet Networksの「Killer AX1650」だけだ。
今回登場したPCE-AX58BTは、前者のIntel Wi-Fi 6 AX200を採用しているので、最大速度は2402Mbpsが上限となるわけだ。
とは言え、それでもギガビット有線LANのおよそ2.5倍だ。実効速度で、これをどこまで超えられるかが注目のポイントとなるだろう。
PCE-AX58BT | |
市場想定価格 | 1万円前後 |
搭載チップ | Intel Wi-Fi 6 AX200 |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
対応速度 | 2402Mbps(5GHz帯)、574Mbps(2.4GHz帯) |
その他 | Bluetooth 5.0(USB接続) |
接続 | PCI Express x1 |
アンテナ | 外付け2本(台座付属) |
ASUSのトライバンド対応Wi-Fi 6ルーター「GT-AX11000」と組み合わせる
PCE-AX58BTの実力を発揮させるために選択したのは、同じASUSのWi-Fi 6対応ルーターである「GT-AX11000」だ。
もちろん、従来のWi-Fi規格との互換性が確保されているため、IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)やIEEE 802.11n(Wi-Fi 4)対応のアクセスポイントとも、何の問題もなく接続できる。
しかしながら、最大の2402Mbpsで接続するには、Wi-Fi 6対応のアクセスポイントが必須だ。しかも、ただのWi-Fi 6対応機ではなく、「高速な」アクセスポイントでないと意味がない。
現状、Wi-Fi 6に対応したアクセスポイントは、海外メーカー製品が中心だ。現時点で製品を選ぶなら、日本市場で最も早くコンシューマー向けWi-Fi 6対応ルーターを発売したASUSの製品が筆頭候補になるだろう。
同社のWi-Fi 6対応ルーターには、デュアルバンドの「RT-AX88U」とトライバンドのゲーミング対応モデル「ROG Rapture GT-AX11000」がある。
今回、組み合わせたGT-AX11000は、2.4GHz帯に加え、5GHz帯を2系統同時利用可能なトライバンドに対応している非常に高速なWi-Fi 6対応ルーターで、豊富な帯域を利用できるのがメリットとなる。
前述したように、Wi-Fi 6では160MHzの帯域幅を利用可能だ。160MHz利用時には2ストリームMIMOで最大2402Mbps、4ストリームMIMOで4804Mbpsの通信速度を実現できる。ルーター製品によっては、80MHz、8ストリームで4804Mbpsとなる場合もあるが、GT-AX11000では160MHz、4ストリームの対応となる。
この160MHzというのは、Wi-Fiの帯域幅は1チャネルあたり20MHzなので、実に8チャネル分となる。
現状、国内で利用可能なチャネルは次の通りだ。つまり、160MHzを利用するということは、W52とW53(80+80MHz)のすべて、もしくはW56から連続した8チャネルを占有しなければならない(7月の法令改正でW56で144チャネルが利用可能になったが、対応製品はまだほとんどない)。
- W52 36,40,44,48
- W53 52,56,60,64
- W56 100,104,108,112,116,120,124,128,132,136,140
GT-AX11000は、5GHz帯を2系統同時利用できるため、このW52+W53という組み合わせと、W56の8チャネルという2つの帯域の両方を利用できることになる。どちらか一方ではなく、両方とも同時に使えることが、GT-AX11000におけるメリットだ。
また、GT-AX11000は、最大2.5Gbpsでの通信に対応した有線LANポートも搭載している。せっかくWi-Fi 6が2402Mbpsで通信できても、有線LANが1Gbpsでは、そこがボトルネックになってしまう。しかし、GT-AX11000であれば、2.5Gbpsの有線LANポートを利用して10Gbpsクラスのインターネット接続回線に接続できたり、NASなどLAN内の機器と高速に通信することも可能だ。
Wi-Fi 6環境を整える場合は、このように利用できる帯域が多いこと、そして無線だけでなく有線LANも1Gbps越えが可能かどうかが、重要なポイントとなる。
GT-AX11000 | |
実売価格 | 5万9449円 |
CPU | BCM4908(1.8GHz、クアッドコア) |
メモリ | 1GB |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 3 |
最大速度(5GHz-1) | 4804Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 4804Mbps |
最大速度(2.4GHz) | 1148Mbps |
チャネル(5GH-1) | W52/W53 |
チャネル(5GH-2) | W56 |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 |
ストリーム数 | 4 |
アンテナ | 外付け×8 |
DS-Lite | × |
MAP-E | × |
WAN | 1000Mbps×1(DualWAN対応) |
LAN | 2500Mbps×1、1000Mbps×4 |
USB | USB 3.1×2 |
動作モード | RT/AP/MediaBridge |
近距離では1.4Gbpsをマーク
それでは、実際の通信速度をチェックしてみよう。今回は、デスクトップPCでのテストということもあり、計測場所が限られている。iPerf3を使った計測はいつもと同じだが、PCの移動が困難なので、LANケーブルの届く範囲でGT-AX11000を1階の廊下(ドアを隔てた外)、1階洗面所(納戸を隔てて隣)へと移動し、それぞれのポイントで計測している。
GT-AX11000は、2系統ある5GHz-1、5GHz-2ともに「802.11ax HEフレーム」を「有効」に設定し、「チャネル帯域」も「160MHzを有効にする」にチェックを付けた状態で値を計測している(テストには5GHz-1を使用)。
上り | 下り | |
洗面所(納戸隔てた隣) | 319 | 610 |
廊下(ドア外) | 750 | 930 |
同一部屋内 | 1290 | 1400 |
※PC1:Intel Core i7-7700、16GBメモリ、512GB SSD(NVMe)、サーバー(NAS):Synology DS1517+(Intel X540-T2)
※5GHz1、5GHz2ともに802.11ax HEフレーム、160MHzを有効に設定。テストには5GHz-1(W52/53側)を使用
結果を見ると、同一フロア内での通信で1Gbps越えをマークしている。海外の掲示板などの書き込みでは,1600Mbps前後で通信できている例も見られるが、今回の結果は下りで1400Mbpsとなった。無線であることを考えると、1Gbps越えを実現できているだけで十分な実力と考えていいだろう。
ほかの計測ポイントでも、ドア外で900Mbpsオーバー、洗面所で600Mbpsオーバーと十分な結果は得られている。ただ、今回のテストは木造住宅内の比較的近い距離からの計測となるため、広いマンションなどでは結果が変わってくる可能性がある点には注意して欲しい。
特に、160MHzを利用した場合は、遠距離や障害物がある環境での結果が伸び悩む可能性がある。近距離では、160MHzという広い帯域を使った通信により、通信速度を大幅に上げることができるが、長距離の通信では、160MHzという広い帯域幅により、ほかのアクセスポイントからの干渉を受けやすくなるからだ。
80MHzなら帯域の干渉をうまく避けられるが、160MHzでは実質的にW52とW53すべてを占有するので、避けようにも移る先に余っているチャネルが存在しない。このため、周囲からの干渉をまともに受けてしまう場合もある。
環境によっては、160MHzではなく80MHzで運用した方が、結果的に高速になる可能性も考えられることは、頭の片隅に置いておこう。
状況に応じて160MHzと80MHzを使い分けるのが得策
まとめると、あくまでも今回のテスト結果に関しては、次のようなことが言える。
近距離は160MHzが最速で、さすがWi-Fi 6というパフォーマンスが得られる。ただし、ある程度距離が離れる場合は、干渉を受ける可能性が高くなる。このため、80MHz(2ストリームだと最大1200Mbps)の方が、結果的に高速なケースも考えられる。
ASUSのGT-AX11000は、前述したようにトライバンド対応によって5GHz帯を2系統使えるため、実際にこうした使い分けができるWi-Fi 6ルーターだ。
5GHz-1を160MHzにして近距離向けに使い、5GHz-2は、もともと利用者が少ないW56だが、さらに干渉を避けるため80MHzにして、中距離のパフォーマンスアップを狙う、といった使い分けができる。
あくまでも筆者宅でのテストの一例なので、すべての環境に当てはまるわけではないが、Wi-Fi 6では従来よりはるかに広い帯域を使うことを考えると、帯域を柔軟に使い分けられるこのようなWi-Fiルーターを選んでおくことが重要となりそうだ。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)