清水理史の「イニシャルB」

10GbE×4+1Gbps×8でマネージドなスイッチが3万円から!

小規模環境ならコレ1台で済むQNAP「QSW-M408」シリーズ

 NASベンダーとして知られるQNAPから、小規模環境向けのマネージドスイッチ「QSW-M408」シリーズが登場した。10GbE SFP+×4のQSW-M408Sが2万9000円からとリーズナブルながら、ウェブ画面での管理が可能で、リンクアグリゲーション(LAG)やVLAN、LLDP、RSTPなどの機能を利用できる。1Gbps×8も搭載するため、小規模な環境ならコレ1台で済む注目の製品だ。

QNAPの10GbE対応スイッチ「QSW-M408-2C」

オススメは最上位の「QSW-M408-4C」

 今回、QNAPから登場した10GbE対応のマネージドスイッチ「QSW-M408」シリーズには、10Gbps対応ポート構成の違いによって3つのモデルが存在する。

型番10GbE SFP+/RJ4510GbE SFP+1000BASE-T市場想定価格(税別)
QSW-M408-4C484万9000円
QSW-M408-2C2283万9000円
QSW-M408S482万9000円

 筆者が購入したのは、このうちの中間グレードとなる「QSW-M408-2C」で、10GbE対応ポートとしては、一般的なLANケーブル(CAT5eやCAT6A)を接続可能なRJ45とエンタープライズ向けのSFP+のコンボポート2つと、SFP+のみのポート2つを搭載したモデル。

 購入時の価格は、Amazon.co.jpで税込4万438円と、10Gbps対応のスイッチとしてはなかなかリーズナブルだった。

SFP+/RJ45×2とSFP+×2の構成のモデル

 ライバルとなるのは、LAGやVLAN、QoS、ACLの機能面が互角で、実売価格も税込で4万1465円と同程度のNETGEAR製スマートスイッチ「MS510TX」あたりになりそうだが、こちらは1Gbps×4+2.5Gbps×2+5Gbps×2+10GbE RJ45×1+10GbE SFP+×1というポート構成となる点が異なる。

 2.5Gpbsのマルチギガ対応機器を多数接続するなら、MS510TXのポート構成が活きてくるが、10Gbpsで2台以上の機器を接続したいなら、QSW-M408シリーズを選ぶメリットが見えてくるだろう。

 今回は、SFP+/RJ45コンボ×2+SFP+×2という構成のモデルを選んだが、実際に購入する場合はSFP+/RJ45コンボ×4の「QSW-M408-4C」がオススメだ。

 実売価格は税込で5万円ほどとなるが、QSW-M408-2Cあたりを選んでも、後から10GBASE-T SFP+モジュールなどを購入すると、結局1万円プラス、2万円プラスと費用がかさむことになる。

 SFP+の機器を接続することが確実ならばQSW-M408SやQSW-M408-2Cの価格は魅力的だが、特殊な趣味を持っている人でもなければ、個人でSFP+の機器をつなぐ機会はほとんどないはずなので、最初からRJ45ポートを4つ備えたQSW-M408-4Cを選ぶことをオススメする。

個性的なデザインのACアダプター用電源端子

正面

 それでは実機を見ていこう。

 外観は、樹脂製で底面のみが金属で構成されており、どちらかというとコンシューマーを意識したフレンドリーなデザインだ。

 個性的なのは、本体上部の円形の電源部分だろう。ACアダプターのコネクタ部分が円柱状になっており、本体上部からはめ込むような感じで接続するタイプとなっている。

側面
底面
電源の接続部分がユニーク

 デザイン上のワンポイントとなるアクセントとしての意味合いもありそうだが、水平方向にクルクルと回るようになっていて、ケーブルを取り回しやすい。例えば、背面をピッタリと壁際に付けて設置しても、側面側からケーブルを引き出せるようになっている。

 ケーブルの抜け防止にも役立っているようで、コネクタが上部から本体に差し込まれているため、本体を引っぱっても、ケーブルが抜けにくい構造になっている。最初は、個性を出すためだけのデザインかと思ったが、思いのほか機能的な工夫で驚いた。

回転するのでケーブルを楽に取り回せる

 側面と上部には冷却用のスリットが刻まれており、内蔵ファンにより効率的に冷却できるようになっている。

 ファンの回転数は可変のようだが、筆者宅の環境では、980rpm前後で常に稼働している。だが、音は全く気にならない。もちろん、本体に耳を近付ければ音は聞こえるが、オフィスなどでは雑音にかき消されて全く気付くことはないだろう。逆に、熱対策は大丈夫なのか? と心配になるほど静かだ。

 ポートは全て前面に配されており、今回のQSW-M408-2Cでは、メンテナンス用のコンソールポート×1、1Gbps対応のRJ45×8、10Gbps対応のSFP+×2、10Gbps対応のSFP+/RJ45コンボ×2という構成となっている。

 2つの10Gbps対応ポートだけでなく、1Gbpsのポートも8つ利用できるので、小規模な環境なら、PCやネットワーク機器の接続をこれ1台でまかなえそうだ。

ウェブベースのグラフィカルなインターフェース

 設定は、ウェブブラウザーで機器の管理画面にアクセスするオーソドックスなタイプ。

 デスクトップを模したNASの管理画面ほど凝ったものではないし、現状は英語と中国語の表示のみだが、イラストやグラフなどを多用した分かりやすい設計なので、さほど困らない印象だ。

ウェブベースの設定画面を搭載

 例えば「Overview」では、各ポートの接続状況をイラストで確認できる上、通信状況もリアルタイムにグラフ化して表示できる。ケーブルの接続状況や速度(10Gのリンクも表示される)などを、実際のポートを見なくても設定画面から確認できるので便利だ。

 設定項目は、「VLAN」(LANを論理的に分割)、「Link Aggregation Group」(複数ポートを使った負荷分散/冗長性確保)、「RSTP」(論理的なツリー構造の冗長構成を高速に実現)、「LLDP」(構成情報のアドバタイズ)、「IGMP Snooping」(VLAN構成時にマルチキャストを送信ポートを指定)、「ACL」(アクセス制御)、「QoS」(帯域制御)となっている。

 このうち、よく使いそうな機能は、LAGとVLANだろうか。

 LAGに関する設定は簡単で、あらかじめ容易されているLAN1~6のグループにポートを割り当てれば設定できるので、割りと直感的に操作可能だ。試しにQNAP製NAS「TS-453A」と2ポートのLAGをLACPで構成してみたところ、当たり前だが問題なく構成できた。

Link Aggregationの設定画面

 VLANは、ポートベースとタグに対応にしており、VLAN IDに対してポートを割り当てていくという設定のスタイルとなっている。結果的に表形式にポートが表示されるため、こちらも比較的分かりやすい。

 ただ、マルチプルVLANには対応していないようで、例えばルーターやサーバーなど、複数のVLANから共通でアクセスできるような機器をポートベースで構成することはできない。こうした構成が必要な場合は、タグを使って上位のルーターと組み合わせてネットワークを構成する必要がある。この点は少々残念だ。

VLANの設定画面。ルーターやサーバーの接続を共有したいならタグを使う必要がある

安いSFP+モジュールを利用可能だが……

 SFP+に関しては、エンタープライズ向けの製品と異なり、ベンダーロックはかかっていない。このため、低価格な(と言っても安くはないが)モジュールを使い、SFP+をRJ45へ変換することもできる。

 試しに、Amazon.co.jpで9200円で購入した10GTekの10GBASE-Tモジュールと、同じく4300円だった10G SFP+ケーブル(10GBASET-CU)を接続してみたが、どちらも接続と通信は問題なくできた。

10GTekの10GBASE-T SFP+モジュール
同じく10GTekの10GBAST-CUケーブル

 しかしながら、10GBASE-Tモジュールに関しては、とにかく発熱がすさまじい(10GBASET-CUケーブルはさほどでもない)。

 通信は問題なく可能で、iPerf3で8~9Gbps前後出るので速度も問題ないのだが、装着直後からかなり高熱になり、しばらく使っていると触れられないくらいにまで熱くなる。そこそこの発熱は覚悟していたものの、ここまでとは想定外だ。

10GBASE-T SFP+モジュールは発熱がすざまじい。数秒と触っていられないほど熱くなる

 本稿執筆時点(2020年8月13日)は記録的な暑さとなっているが、エアコンをかけて室内温度25℃前後の環境でも、しばらく電源オフにして放置してからでないと、モジュールが取り外せない(熱くて掴めない)ほどの温度となった。

 このままだと、おそらくスイッチの動作に影響を与えかねないので、温度をチェックしてみることにした。

 室温25.4℃の状態で、複数台の機器を接続したQSW-M408-2Cの内部温度は、設定画面で確認する限り55℃となっていた(少し高い気がするが、これが平常時の温度と言えそう)。

SFP+未使用の状態の温度は55℃

 次に、同じ環境でSFP+の10GBASE-Tモジュールを装着し、10Gbps経由でNASへと接続して、動画を10分ほど視聴してみた。

 結果は、54℃……。

 「そうかあ、そんなに影響しないのかぁ」と思っていたところ、数分後に、スイッチが突然シャットダウンしてしまった。おそらくは熱が原因だと考えられる。SFP+を利用するなら、モジュール側の選択も重要と言えそうだ。

SFP+は熱いが内部温度はさほど高くない。しかしながら動作は不安定になりがちだ……

お買い得な10Gbpsスイッチ

 以上、QNAPのQSW-M408-2Cを実際に試してみたが、非常にコストパフォーマンスの高い製品と言って良さそうだ。

 SFP+を使うときはモジュール選択に注意が必要だが、それ以外は、普通に使っている範囲では問題ない。もちろん、通常時でも、それなり発熱は大きいので設置場所には気を配る必要あるが……。

 欲を言えば、QNAPの管理画面から管理とか、クラウドでNASとスイッチを一緒に管理できるとか、もう少し連携して欲しいので、今後は、こうした管理関連の進化を期待したいところだが、低価格なスイッチとしては完成度は高いと言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。