清水理史の「イニシャルB」

Wi-Fiルーターの中身はどうなっている? どう動く? Linksys「E7350」を分解してみた

 使わなくなったWi-Fiルーターを、資料として分解してみた。技適の関係で二度と電源を入れられなくなったが、どのようなチップが内蔵されていて、どんな役割を担っているのかが分かりやすい、いい資料となってくれた。今回は、分解の過程に沿って内部の構造を見ていき、Wi-Fiルーターが動く仕組みも解説しよう。

改造や分解した機器は技適が無効になってしまう

 最初にお断りしておくが。Wi-Fiルーターのなど本体が技術基準適合証明を受けている機器は、以下の総務省のQ&Aにあるように、改造すると技適が無効になる。

【質問10】
技適マークが付いている無線機を改造するとどうなりますか?

【回答10】
技適マークが付いている無線機を改造すると、技術基準適合証明の効力が無くなり、技適マークが付いていない無線機と同じ扱いになります。このような無線機を使用すると、電波法違反になる恐れがあります。

総務省 電波利用ホームページ 技適マーク、無線機の購入・使用に関すること

 この「改造」には、意図的に改造するだけでなく、単にケースを開けるなどの行為も含まれ、分解した時点で技適の証明が無効になる。このため、本稿のように分解したWi-Fiルーターは、以後、電源を入れて使用することはできない。筆者は、分解後は資料用に保管する。

 分解禁止を知らせるシールを施していたり、特殊なネジを使用したりして分解しにくい構造にしている製品もある。こうした機器を分解するだけなら問題はないが、それを再び組み立てて電源を入れると、法令に違反することになるので、注意してほしい。

出番がなくなったLinksysのWi-Fi 6ルーター「E7350」を分解

 今回、中身を確認したのは、Linksysから販売されている「E7350」というWi-Fi 6ルーターだ。

 実売価格は1万円以下。デュアルバンドで1201Mbps(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)に対応し、有線LANは全て1Gbps対応で、WAN×1+LAN×4というエントリーモデルだ。性能的には悪くない製品だが、いかんせん国内では知名度が低く、あまり目立たない存在となっている。

 筆者は、この製品をWi-Fi EasyMeshの相互接続テストのために購入したのだが、Wi-Fi EasyMeshのメーカー間相互接続はあまり好ましい状況でなく、結局、検証できないまま長らく眠っていた。これを思い切って今回分解することにしたわけだ。

 デュアルバンドで2ストリーム対応となるため、かなりシンプルな設計だが、おかげで構成するパーツが見やすく、内部を理解するためにはちょうどいい教材となってくれた。

Linksys E7350

第一形態:ケースに収まった状態を見る

 ケースを開けると、すぐに基板が現れるが、標準ではヒートシンクや金属製のシールドで覆われており、中身は容易に確認できない。

 Wi-Fiルーターの場合、冷却はほぼヒートシンクで、PCのようにファンが使われることは滅多にない。これは、長期利用を前提としてなるべく可動部品を使わないようにする目的もあるが、家庭用製品の場合、さほど負荷が高くなることがないので、これだけで十分に冷却できるためだ。

 なお、有線LANが10Gbpsに対応したハイエンドのWi-Fiルーターには、巨大なヒートシンクが内蔵されるケースもある。ハイエンド製品のサイズが大きくなりがちなのは、こうした理由もある。

ケースを開けたところ。開けた時点で技適は無効だが、底面の技適シールをはがしてしまうので、そういった意味でも再び電源を入れて利用することは不可能になる(ユーザーが貼ることは許可されていない)

第二形態:基板とヒートシンクを取り外してみる

 続いて、ケースから基板を取り外し、前面を覆っているヒートシンクも取り外す。

 これでようやく基盤が見えるようになるが、この段階で見えるものはまだ多くない。有線LANポート近くにあるイーサネット用のパルストランス(LG2P109RN LF)と基盤の背面側にあるフラッシュストレージ(W29N01HVSINA)、そしてアンテナが見える程度だ。

 Wi-Fiルーターで動作するプログラム、いわゆる「ファームウェア」が書き込まれているのが、このフラッシュストレージとなる。

参考:
Winbond W29N01HVxxNAデータシート(PDF)

LANポート近くにあるのが信号のやり取りや保護を目的としたパルストランス
背面側にWinbondの1Gb(ギガビット)フラッシュストレージが搭載される

 アンテナは、本製品の場合、本体に直結されている短いものと、ケーブルで接続されている基板状のアンテナの2種類がある。正確な情報がつかめなかったので、これは予想ではあるが、おそらく基板直結のアンテナが2.4GHz用、ケーブルで接続されているアンテナが5GHz用と考えられる。

 なお、本製品は2ストリームMIMOに対応した製品だが、アンテナの数はMIMOのストリーム数と同じだけ用意されるのが一般的だ。

基盤直結のアンテナ
ケーブルで接続されたアンテナ

第三形態:シールドをはがしてチップを見る

 さて、いよいよチップをカバーするように配置されている金属のシールドをはがして、中心となる部分を見ていくことにしよう。

シールドをはがした全体像

CPUとメモリ

 基板上のチップは大きく2系統に分かれている。まずは、上記写真右側だが、ここにはCPUとメモリが搭載されている。

上がCPUで下がメモリ

 本製品は、台湾のMediaTek社のチップセットで構成されており、メインのプロセッサーは「MT7621AT」という32bit MIPSプロセッサーだ。デュアルコア880MHzで動作し、ネットワーク向けの製品となっており、5ポートのGigabitスイッチや、ルーティングやNATのアクセラレーターも組み込まれている。

 ここでルーターとしてのプログラムを稼働させたり、各機器を制御したりすることで、全体をコントロールしていることになる。

参考:
MT7621A

 MT7621Aに隣接するチップはメモリだ。Nanya「NT5CC128M16JR-EK」というDDR3L-1866のSDRAMで、容量はスペック表によると2Gb(ギガビット)となっている。エントリーモデルなので、メモリ容量もさほど多くない。

参考:
NT5CC128M16JR-EK

Wi-Fi関連チップ

 左側でシールドされていた部分には、Wi-Fi関連のチップが搭載されている。

 まず右側の少し大きい方がベースバンドチップのMediaTek「MT7915DAN」で、左側の小さい方がRFチップのMediaTek「MT7975DN」だ。

右がベースバンドチップで左がRFチップ

参考:
MediaTek MT7915 Wi-Fi 6 Wave 1+ chipset builds in a range of industry firsts

 Wi-Fiで通信をするには、PCのデータをWi-Fiでやり取りされる電波に変換する必要があるが、こうした役割をこれらのチップが担う。

 仮にPCからデータを送信する場合を考えてみよう。PCのデジタルデータは、そのままでは電波に乗せられないので、これを変換する必要がある。このデジタル信号の処理を担うのがベースバンドチップとなる。なお、MT7915DANは、5GHz帯で80MHz幅までに対応しており、2ストリームで最大1201Mbpsの速度(PHYレートと呼ぶ)に対応している。

 ベースバンドチップによって処理されたデータはDA変換でアナログ信号へと変換されてRFチップへと受け渡される。これをWi-Fi送信するために変調(256QAMなどルーターのスペックなどにも表記されている変調方式)して、アンテナ経由で送信することになる(受信は逆の流れ)。

 要するに、データを電波に乗せたり、逆に電波からデータを取り出したりするためのチップがこの2つになる。

最新機種はもっと複雑な構造をしている

 以上、Wi-Fiルーターを分解して、中身をチェックしてみた。知らなくてもまったく困らないことだが、参考になれば幸いだ。

 なお、最新の製品や上位モデルになると、アンテナの数など、より複雑な構成になる。冒頭でも触れた通り、分解すると二度と使えなくなるので、正直、自前の高価な製品を分解したくないが、機会があれば挑戦してみたいと思う。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。