清水理史の「イニシャルB」

値上げの波がWi-Fiルーターにも。もう1万円以下では買えない!? クラスごとの価格を予想する

 Wi-Fiルーターの価格が、どうやら上がりそうだ。普及モデルのデュアルバンドのWi-Fi 6対応ルーターでも、もしかすると2万円台が当たり前になってくるかもしれない。Wi-Fi 6Eにこだわらなければ、今のタイミングで購入した方がお得になる可能性もある。

 2022年10月21日付けのプレスリリースで、NECプラットフォームズがWi-Fiルーターの価格改定を発表した。対象となる製品は、先日発表されたWi-Fi 6E対応製品を除く、エントリーからミドルレンジのモデルで、出荷価格改定率は5.9~20.1%となっている。

Wi-Fiホームルータ製品 価格改定のお知らせ(NECプラットフォームズ)

NECプラットフォームズの価格改定のお知らせ

半導体の価格高騰や輸送費の上昇、円高が影響

 価格改定の理由は、世界的な半導体部品の供給ひっ迫や価格高騰、原油価格の高騰による輸送費の上昇、加えて急激な円安の影響としており、個人的にも、これは致し方ないところだと感じる。

 むしろ、新発売のWi-Fi 6E製品、特に「Aterm WX7800T8」の実売価格を2万5000円前後に抑えてきたときは、かなりの苦労があったのではないかと思った。新製品を戦略的な価格に抑える一方で、既存製品がついに耐え切れなくなってしまったことになる。

 こうした値上げの動きは、今のところ(10月31日時点)、NECプラットフォームズ以外からは公表されていない。とはいえ、公表されていないだけで、ほかのメーカーも検討していると考えられる。

 現状、Wi-Fiルーターの価格帯は、最も安いモデルで1万円以下。中には6千円台という製品もあるが、価格改定の要因が輸送費や為替の影響だとすると、こうした低価格製品ほど、価格上昇の割合が大きくなると考えられる。

 もしかすると、1万円以下でWi-Fiルーターが買えるのは、今だけになってしまうのかもしれない。

現状のWi-Fiルーターの価格をクラス別にチェックする

 それでは、現状、Wi-Fiルーターは、実際にいくらで販売されているのだろうか?

 ひと口にWi-Fiルーターと言っても、モデルはさまざまだ。今回は、以下のように製品を「ハイエンド」「ちょい上」「普及モデル」「エントリー」「価格重視」の5つのクラスに分け、各メーカーの代表的な機種について、2022年10月24日時点でのAmazon.co.jpの実売価格を調べてみた。

 本稿が掲載されるのは、先のNECプラットフォームズの新価格が適用される11月以降となるはずなので、本稿で紹介している価格が、実際のAmazon.co.jpなどの販売価格とどれくらい変化しているのかを比べることで、値上げの状況が見えてくるはずだ。

クラスの分類
クラススペック
ハイエンド無線4804Mbps対応、有線2.5~10Gbps以上、トライバンドが望ましい
ちょい上4804Mbps対応または2402Mbps対応トライバンド、有線1~2.5Gbps
普及モデル2402~4804Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps
エントリー1201~2402Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps
価格重視1201Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps

「ハイエンド」はもともと高額なことから、値上げ幅は小さいと予想

 ハイエンドモデルは、各社でもっともスペックが高いモデルを選定した。最大速度が2402~4804Mbpsで、有線が2.5Gbps以上、できればトライバンドという条件となる。

「ハイエンド」クラスの価格調査結果
メーカー製品名無線速度有線速度(WAN/LAN)Amazon価格(2022/10/24)
バッファローWXR-6000AX12S4803+114710/103万8280円
NECプラットフォームズAterm WX11000T124804+4804+114710/105万4978円
アイ・オー・データ機器WN-DAX6000XR4804+114710/103万2309円
エレコムWRC-X6000XS-G4804+114710/12万2700円
TP-LinkArcher AX110004804+4804+11482.5/13万6820円
ASUSGT-AX110004804+4804+11481/2.53万5820円
NETGEAROrbi RBK852(2台)2402+2402+11472.5/17万1793円

※表中の無線速度は「Mbps」、有線速度は「Gbps」の単位をそれぞれ省略している。以下も同様

 単純な価格ではネットギアのOrbi RBK852が7万円オーバーと高いが、Orbiはメッシュ製品なので2台セットの価格となる。単体でもっとも高いのは、NECプラットフォームズの「Aterm WX11000T12」で、5万円オーバーとなる。

 かつては、海外メーカーのゲーミングモデルが多かったクラスだが、どうやらWi-Fiルーターに関してはゲーミングというクラスが、日本では受け入れられにくかったようで、現在はむしろWi-Fi 6E対応の国内メーカー製品が市場をリードする存在となっている。

 もちろん、輸送費などのコストはクラスにかかわらず等しくかかるので、このクラスも値上げの対象になりそうだが、もともと製品価格が高いことから、このクラスは、さほど大きな価格変動はないと予想できる。

「ちょい上」では、すでに影響を受けていそうなモデルも

 普及モデルよりも、少しスペックも価格も高いモデルを、ここでは「ちょい上」と位置付けてみた。具体的には、Wi-Fi 6E対応やメッシュ対応、トライバンド対応、有線2.5Gbps対応、ゲーミングモデルなど、何らかの付加価値を持った製品がこのクラスに入ってくる。

「ちょい上」クラスの価格調査結果
メーカー製品名無線速度有線速度(WAN/LAN)Amazon価格(2022/10/24)
バッファローWNR-5400XE6/2SN(2台)2401+2401+5732.5/14万3980円
NECプラットフォームズAterm WX7800T82402+4804+5741/12万5278円
アイ・オー・データ機器WN-DAX5400QR4804+5742.5/11万6460円
TP-LinkDeco X90(2台)4804+1201+5742.5/14万2000円
ASUSROG Rapture GT-AX60004804+11482.5/2.55万4336円
ASUSZenWiFi AX XT8(2台)4804+1201+5742.5/15万6400円
NETGEARNighthawk AX12 RAX2004804+4804+11481/2.52万4552円

 ここで注目したいのが、ASUSのROG Raptor GT-AX6000だ。8月に発売された新製品だが、実売価格が5万円オーバーと、先に触れたハイエンドのNECプラットフォームズのAterm WX11000T12より高い。機能が豊富なのは分かるが、ハードウェアスペック的に、このクラスとしては高すぎるので、おそらく輸送費や為替の影響を受けた結果、この価格になっているのではないかと考えられる。

 今後は、このように、従来モデルに比べて明らかに高価だったり、同一スペックの製品と比べて高すぎると感じたりする価格の製品が増えてくることが予想される。

 それにしても、こうして比べてみるとアイ・オー・データ機器が価格的にかなり頑張っていることがよく分かる。ひと昔前は、コスパと言えばTP-Linkだったが、コスパ的なリーダーはアイ・オー・データ機器と言ってもいいほどだ。

「普及モデル」は現状横並び、TP-Linkの動向が鍵か?

 多くの人が興味があるのは、このクラスだろう。スペック的に少し余裕がある4804Mbps対応の製品が多く、価格帯も2万円以下で、どのメーカーもほぼ横並びだ。

「普及モデル」クラスの価格調査結果
メーカー製品名無線速度有線速度(WAN/LAN)Amazon価格(2022/10/24)
バッファローWSR-5400AX6S4803+5731/11万4998円
NECプラットフォームズAterm WX5400HP4804+5741/11万9778円
アイ・オー・データ機器WN-DAX3600QR2402+11742.5/11万3596円
エレコムWRC-X3200GST32402+8001/11万454円
TP-LinkDeco X50(2台)2042+5741/12万3312円
TP-LinkArcher AX734804+5741/11万3950円
ASUSTUF-AX54004804+5741/12万3625円
NETGEAROrbi mini RBK752(2台)2042+1201+5741/14万3035円

 とはいえ、やはりこのクラスになってくると、TP-Linkのコスパの高さが目立ち、デュアルバンドながら2台セットのDeco X50が2.3万円となると、他社がかわいそうになる。

 個人的には、今後、TP-Linkが価格設定を改訂するのか、しないのかという点が非常に気になっている。TP-Linkに戦略的な低価格を維持されてしまうと、コスト増に耐えられなくなるメーカーが出てくる可能性も考えられる。

 個人的には、このクラスは、今後、2万円台が当たり前になってもおかしくないと考えているが、TP-Linkの動向次第というところだ。

「エントリーモデル」ではNECプラットフォームズ追従の動きがあるか?

 続いては、エントリーモデルだ。

「エントリーモデル」クラスの価格調査結果
メーカー製品名無線速度有線速度(WAN/LAN)Amazon価格(2022/10/24)
バッファローWSR-3200AX4S2401+8001/11万300円
NECプラットフォームズAterm WX3000HP22402+5741/11万5378円
アイ・オー・データ機器WN-DAX3000GR2402+5741/11万1760円
エレコムWRC-X3000GS22402+5741/11万1502円
TP-LinkArcher AX552402+5741/11万1187円
ASUSRT-AX3000V22402+5741/11万3829円
NETGEAROrbi micro RBK352(2台)1201+5741/11万2536円

 エントリーモデルといっても、ここでは最大通信速度が2402Mbpsに対応したモデルを選定している。スマートフォンやPCで160MHz幅の2402Mbpsが一般的になってきたので、実際に購入する場合、個人的には、2402Mbps対応を最低ラインとして考えたい(リストはOrbi microのみ2台セットのメッシュなので1201Mbps対応を選択している)。

 エントリーモデルは1万円台前半が中心で、こちらも各メーカーほぼ横並びとなっている。このため、メーカーがけん制し合って、値上げは難しいのではないかとも言えるが、さすがに利益率が高いとは思えないので、このエントリーと次の価格重視の低価格帯のモデルは、値上げせざるを得ないだろう。

 冒頭でも触れたように、NECプラットフォームズは、このリストにあるAterm WX3000HP2の価格改定を発表している。仮に、発表されている値上げ率の最低となる5.9%の値上げで1万6000円前後、10%の値上げで1万7000円前後、20%なら1万8000円前後となる。

 もともと、上記リストのようにAterm WX3000HP2は高価なモデルだが、今回、NECプラットフォームズが値上げに踏み切ったことで、他社も追従しやすいはずだ。

「価格重視モデル」は値上げ必至か、性能的には上位クラスの購入も検討を

 最後に、各メーカーで最も安いモデルを見てみよう。

「価格重視モデル」クラスの価格調査結果
メーカー製品名無線速度有線速度(WAN/LAN)Amazon価格(2022/10/24)
バッファローWSR-1800AX4S1201+5731/16300円
NECプラットフォームズAterm WX1500HP1201+3001/19328円
アイ・オー・データ機器WN-DEAX1800GR1201+5741/18079円
エレコムWRC-X1800GS-B1201+5741/16153円
TP-LinkArcher AX231200+5741/18080円
ASUSRT-AX551201+5741/19400円

 下はエレコムとバッファローの6千円台、高くても1万円以下となっている。このクラスは、輸送費などのコスト増を現状の利益率でカバーできるとは考えにくいので、必ず値上げとなるはずだ。現状の1万円以下という価格は、もはや維持できず、1万円以上になることが想定される。

 個人的には、先にも触れたように、これからWi-Fiルーターを買うなら、最低でも2402Mbps対応がおすすめで、家族で使うなら同時通信で余裕がある4804Mbps対応をおすすめしたいが、一人暮らしなどの環境なら、1201Mbpsのこのクラスでも十分といえる。

 メーカーには、ぜひ1万円以下の手軽なモデルを残してほしい気がするが、現実的には難しいのではないかと思える。

今後の価格帯を予想する

 というわけで、現状の価格を見た結果、今後、年末から2023年にかけてのWi-Fiルーターの価格帯を予想してみたのが以下の表だ。

今後のクラス別価格予想
クラススペック2022年10月の価格帯今後の予想
ハイエンド無線4804Mbps対応、有線2.5~10Gbps以上、トライバンドが望ましい3~5万円→変わらず
ちょい上4804Mbps対応または2402Mbps対応トライバンド、有線1~2.5Gbps2~3万円→若干上昇
普及モデル2402~4804Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps2万円以下↑2万円台前半
エントリー1201~2402Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps1.5万円以下↑1万円台後半
価格重視1201Mbpsデュアルバンド、有線1Gbps1万円以下↑ほぼ1万円

 最低でも1万円以上、普及モデルに関しては2万円台前半がメインになるのではないかと予想される。

 もちろん、筆者の個人的な予想に過ぎないので、メーカーの努力によって値上げが進まない可能性もあるが、そんなチキンレースは得策とは言えない。身近な製品の値上げに慣れてしまったとは言いたくはないが、時代の流れとして受け入れるしかないだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。