清水理史の「イニシャルB」

「Wi-Fiルーターの置き方」の定説を検証! 場所や壁で電波状況はどこまで変わる?

Wi-Fiルーターの置き場所を変えたり、遮蔽物を追加したりしながらiPerf3の速度を検証した

 Wi-Fiルーターの最適な設置場所として、よく言われる定説がいくつかある。ただ、実際に通信速度がどれくらい変わるのかの検証までしている情報源は見当たらず、効果が分かりにくい。そこで、本稿では、設置場所と遮蔽物という2つの条件を変えながら、iPerf3による実効速度を比較してみた。

「Wi-Fiルーターの最適な置き場所」は本当か?

 Wi-Fiルーターの最適な置き場所として、よく言われていることがいくつかある。

 具体的には、以下のような設置方法が定説になっており、Wi-Fiルーターメーカーのサイトでも、このような解説を行うコンテンツが確認できる。

設置場所として適していること

  • 床から1~2mの高さ
  • 部屋の中央に設置する

設置場所として避けるべきこと

  • テレビなどの遮蔽物の近く
  • 棚やクローゼットの中
  • 本棚などの中
  • 金属製のラックの中
  • 水槽の近く

▼Wi-Fiルーターメーカーのコンテンツ
Wi-Fiの置き場所で電波改善!ルーターを隠して収納していませんか?(2021年 アイ・オー・データ機器)
ホントはもっとつながるWi-Fi(2015年 バッファロー)

 主にネット上の記事のソースとなっているのは、上記にリンクした中でも、今から10年前に公開され、テレビでも放送されたことがあるバッファローのコンテンツではないかと考えられる。

 個人的にも、上記の定説を当たり前のことのように考えていたが、あまりにも昔から言われ続けてきたことなので、現在の最新のWi-Fi 7でも同じことが当てはまるのかが気になってきた。

 特にWi-Fi 6以降は、ベースとなる速度が上がっているため、現在であれば遮蔽物の影響の大きさに違いがありそうな気がしている。

 Wi-Fiの通信速度は規格により異なるため、過去の規格の製品と速度を比べても、それが何による違いか示すことは難しい。とはいえ、電波強度などではかえって分かりにくいため、今回はWi-Fi 7だけを使い、設置環境による実効速度の違いを見てみることにした。

 このため、具体的な速度については、あくまでも今回のテスト環境と機材を使った場合に限った話であり、ほかの規格や機器では異なる可能性がある点に注意してほしい。あくまでも「いい置き場所」と「悪い置き場所」の相対的な速度の違いを見てほしい

テスト環境について

 まずはテスト環境について解説する。

 利用した機器は、エレコムから販売されている最新のWi-Fi 7対応ルーター「WRC-BE36QS-B」となる。Wi-Fi 7対応といっても、2882(5GHz)+688Mbps(2.4GHz)のデュアルバンド対応で、実売価格は約1万円とリーズナブルな製品だ。ちなみに、アイ・オー・データ機器の「WN-7D36QR」も中身はほぼ一緒の製品となっている。

2882+688Mbps対応のWi-Fi 7ルーター。エレコム「WRC-BE36QS-B」

 この製品はWAN側が2.5Gbpsに対応しているため、ここにサーバーを接続し、以下の図のようにA地点とB地点の2つのポイントでiPerf3の速度を計測した。利用したPCは、ASUS Zenbook S14(UX5406)で、もちろんWi-Fi 7対応となる。

テスト環境の図解

 テスト環境としては、木造3階建ての住宅となる。壁または床を1~2枚隔てている環境を想定し、距離的には3.5m前後となる、いわゆる中距離での検証とした。

 利用した周波数帯は5GHz帯に固定している。今回利用したWi-FiルーターもPCも、MLOで接続することが可能だが、計測中に接続帯域が変更されると比較が難しくなるため、5GHzのみ利用することにした。

テスト1:見通しの良いラックの上(「理想的」な置き場所)

 まずは、基準となる速度を計測する。高さ170cm前後のメタルラックの上にWi-Fiルーターを設置し、横方向のA地点は間にクローゼット(壁1枚と扉)を挟む環境、縦方向のB地点は床を1枚隔てた環境だが、角度によっては下階の壁も障壁になる構成となる。

 前述したようにWi-Fiルーターの設置場所としては、床から1~2mほど離れた場所が定説となっている上、間に壁以外の障害物(家具など)がほとんどないため、理想に近い設置場所と言える。

テスト1の環境。ラックの上段にWi-Fiルーターを設置している
テスト1の結果

 結果は、上図のようになった。

 まずは、項目を説明しておく。結果の上段3項目「電波強度」「受信」「送信」は、Windowsのnetshコマンドで取得した値で、電波強度がWindowsのWi-Fiアンテナアイコンの数を示すときにも使われるパーセントで表した電波状態で、「受信」と「送信」はアクセスポイントとWi-Fiモジュールの間で選択されたリンク速度となる(電波状態に合わせて利用する変調方式や帯域幅などが自動的に選択された理論上の最大速度)。

 下の2項目「上り」と「下り」は、iPerf3による実測結果だ。実際に電波にデータを載せて運んだ場合に、1秒間あたり何ビットのデータを伝送できたかを示す。

 あらためて結果を確認すると、A地点は1.2Gbps前後でリンクし、実行速度も800~900Mbpsを実現できている。同一室内だと2882Mbpsでリンクして1.5Gbps前後の実効速度を実現できるが、さすがに壁を挟んでいるので速度は低下する。と言っても、実効で800~900Mbpsなら実用上はまったく問題ない。というかかなり速い。

 一方、B地点は、速度が半減する。図を見ても分かる通り、今回の検証ではPCを低い場所(床から50cmくらい)に設置したので、上半分は1階のアクセスポイントとの間の障害物が床のみだが、下半分に壁が追加されてしまう。これが影響し、実行速度は400Mbps前後となった。

 電波強度的には、A地点が84%、B地点が70%なので、さほど減っていないように見えるが、実行速度だと半減してしまう点に注目だ。

テスト2:ひとつ低い棚に置き場所を変える(低い場所)

 テスト1で基準が計測できたので、置き場所を変更していく。

 まずは、メタルラックのひとつ下の棚に置き場所を変更した。この場所は、真上に大型のスイッチが設置されているのがポイントだ。Wi-Fiルーターから見ると、10cmほどの真上に金属の壁があるため、これがどう影響するかがカギとなる。

テスト2の環境。ラックの中段にWi-Fiルーターを設置した
真上に金属製のスイッチが遮蔽物として存在する
テスト2の結果

 結果は、上記のように「最速」と「最低」が同居する面白い結果となった。これ以降、結果の数値の後にカッコ書きで、基準となるテスト1の結果を併記する。どれくらい値が変化したのかに注目してほしい。

 まず横方向のA地点だが、ここでは想定とは反対に速度が向上した。要因としては、Wi-Fiルーターの高さが下がったことで、PCとの距離が単純に近くなったこと。そして、これは予想だが、真上の金属板(スイッチ)で一部の電波が反射され横方向に向かったのではないかと考えられる。

 いずれにせよ、電波強度は88%、リンク速度は1729Mbpsとなり、実効速度が上りで1Gbpsを超えている。今回の検証では、この結果が最速の値となった。

  一方で、縦方向のB地点は、今回の検証で最低の速度となった。電波強度は43%で下から2番目と最悪ではないのだが、リンク速度は受信で432Mbpsと基準のテスト1から半減。実効速度に関しては今回のテストの中で最低の199/175Mbpsとなった。

 これは明らかに真上の金属板(スイッチ)の影響を受けている。あまりにも近い場所に金属の遮蔽物があると、かなり通信の邪魔になることが分かる。

 ある方向に対しては最高でも、別の方向に対しては最悪となるケースもあるということを覚えておくといいだろう。

テスト3:床近くの見えない場所に隠す(さらに低く障害物の多い場所)

 3番目のテストは、メタルラックの最下段に置き場所を変更した。ここは、場所的に低いだけでなく、書類が詰まった段ボール箱が両脇にそびえる隙間となる。黒い筐体と相まって、設置されていることが分からないほど目立たなくなるが、ほこりが集まりやすく放熱しにくいことを考えても、不安定さにつながる可能性が高く、一般にはまったく推奨されない設置場所と言える。

テスト3の環境。ラックの下段、段ボールの隙間に隠すように置く
テスト3の結果

 結果は上図のようになった。まずA地点だが、この結果は思ったより悪くない。PCよりも位置が下がっているうえ、経路上に書類が詰まった段ボールがあって邪魔をしているのにもかかわらず、電波状況は54%あり、リンク速度も900Mbps近くとなっている。実効速度も500~600Mbpsなので、実用上は問題ない。

 一方、B地点は大きな影響を受けており、電波強度は36%でテスト中では最悪だ。しかし、リンクは上下400Mbpsを維持できており、iPerf3の結果も200Mbps越えと、先ほどのテスト3より若干高い。

 もちろん、テスト2実施時と同様、上部には金属の壁(スイッチ)が存在するが、設置場所が金属の壁から1m以上離れたおかげで、その影響を受けにくくなったのではないかと推測できる。直前に金属の壁があると、ほとんどの電波が遮断されてしまうが、1mほど離れれば回折する電波も増えてくる。その差が出ていると考えられる。

 と言っても、テスト2と違って、縦方向も横方向も遅くなるので、この場所を選択するメリットはないだろう。

テスト4:真横にPS5を設置する(遮蔽物が多い状況)

 ここまで3種類のテストで、やはりWi-Fiルーターは床から1~2mの位置で、しかも周囲に遮蔽物がない場所に設置する方がいいことは明らかになった。

 そこで今度は、設置場所はテスト1の位置に固定しておき、Wi-Fiルーターの近くに遮蔽物を設置してみることにした。

 まずは、PCとの通信の経路上にあたるWi-Fiルーターの真横(可能な限り密接させた状態)に、サイズが大きく十分に「壁」の役割を果たしてくれそうなPS5を設置した。リビングなどでは、テレビの裏やゲーム機の隣にWi-Fiルーターが置かれている家庭もよくあるので、それを再現したテストになる。

テスト4の環境。真横にPS5を設置
テスト4の結果

 この結果は意外だ。もう少し影響を受けるかと思ったが、ほとんど受けなかった。A地点は、電波強度もリンク速度も実効速度もほぼ遮蔽物なし(テスト1)と同じで、若干、速度が下がる程度で収まっている。B地点は受信のリンク速度が落ちているが、こちらも僅かな低下で、ほとんど影響が見られない。

 PS5は、内部に金属の遮熱版や大型のヒートシンクを搭載しているので、それが影響するかと思ったが、大きいといっても完全に経路上を塞いでしまうわけではないため、速度の影響が少なかったと考えられる。

 本稿を執筆している段階になって、PS5の電源をオンの状態でも計測すべきだったと後悔しているので、後日、YouTubeチャネルで再検証してみたいと思う。

テスト5:二重の段ボール箱で底面以外を隠す(遮蔽物がさらに多い状況)

 最後に、収納ケースなどで隠してしまう場合を想定してみた。樹脂製の適度なサイズのケースを探したが手元になかったので、今回は厚めのしっかりとした段ボール箱を二重にしてWi-Fiルーターを隠すことにした。

テスト5の環境。段ボールを二重に被せている
テスト5の結果

 結果は、隠しても隠さなくても速度にほとんど影響しなかった。結果の値は、若干の誤差はあるもののテスト1とほとんど変わらなかった。木製や樹脂製だと結果が変わる可能性はあるが、素材に空間が多い段ボールだと、二重にしたくらいでは影響はなさそうだ。

 ただし、テスト4、5のような設置は、製品の安全な使い方や安定性という点では避けた方がいい。いずれも熱をうまく放出できなくなる可能性が高く、夏場の運用や長時間の駆動で動作が不安定になる可能性が高く、筆者はテストのために一時的にこのような環境を作ったが、常用するのは絶対に避けてほしい。

定説は合っているが、外れたら使い物にならなくなるほどではない

 以上、今回はWi-Fiルーターの設置場所を変えながら実際に速度を計測してみた。

 結論としては、定説で言われているように、少し高い場所に設置することが重要だ。一般家庭で1mぐらいの高さに置けば、おのずと周囲の遮蔽物は少ない環境となり、快適にWi-Fiを使えるようになる。

 ただし、避けるべきとされている置き場所に関しては、状況次第と言える。近くにある金属の状態は大きく影響するが、それ以外は、最新のWi-Fiルーターでは実用を妨げるほど遅くなるわけではない。もちろん、速度は低下するが、最低でも200Mbps近くで通信できるので、ウェブや動画の視聴などでは問題ないレベルだ。

 むしろ重要なのは安全性や安定性を損なうような設置場所だろう。放熱ができなくなるような設置方法は、電波状況とは関係なく、避けるべきと言える。現状は、この安全性と電波状況の話が一緒になってしまっているので、ある程度、切り分けて考える必要がありそうだ。

 なお、今回の検証結果、および追加の検証について、YouTubeのイニシャルBチャネルで動画の配信を予定している。興味のある人は、ぜひご視聴してほしい。できれば、チャンネル登録といいねを忘れずに。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中