清水理史の「イニシャルB」

これぞ無骨! イチから組み上げるNASキット「ZimaBlade DeskBuild NAS Kit」を試す

NASを自作できる「ZimaBlade DeskBuild NAS Kit」

 海外で話題の「ZimaBlade DeskBuild NAS Kit」を送料込み189ドルで購入した。Intel Celeron N3450を搭載したシングルボードコンピューター「ZimaBlade」を中心に、HDDラックやメモリ、各種ケーブル類をセットにした製品で、余ったHDDを利用して低価格かつ手軽にNASを自作できる。その実力を検証した。

作って楽しむNAS

 ZimaBlade DeskBuild NAS Kitは、いわば「作って楽しむ」NASキットだ。

 自分でHDDを組み込むだけの状態で販売されている製品もNASキットと呼ばれることがあるが、本製品はもう少し自作感が強く、メイン基板となる「ZimaBlade 7700」を中心に、2ベイHDDラック、SATA×2のケーブル、16GBのメモリ、HDMIケーブル、USB Type-Cケーブルなどが同梱されたセットになる。

 完成した姿は、下の写真のような感じとなっており、ボードは固定なしのポン置き。むき出しになったHDDやSATAケーブル、PCIeスロットが、スマートさや洗練といったイメージとは正反対の「無骨さ」を醸し出している。

完成した自作NAS

 自作といっても、ラックにHDDを固定して、ケーブルをつなぐくらいなので、誰でも挑戦できるが、標準のOSだとRAIDがサポートされていなかったりして、普段使いするには一工夫が必要になる。

 実用的か? と言われると疑問だし、現在のレートで日本円に換算して考えると価格的にも安くはないが、ARMではなく、x86ベースのNASや汎用的な小型サーバーを作りたい人には面白い存在と言えそうだ。

▼ZimaBladeの日本語サイト
ZimaBlade

▼公式オンラインショップ
ZimaBlade DeskBuild NAS Kit

パッケージ内容をチェック

 まずは製品をチェックしていこう。前述したように、本製品はZimaBladeを中心としたNAS向けのキット製品だ。

送られてきたキット

 ZimaBladeは、IceWhaleが開発したx86ベースのシングルボードコンピューターだ。昨年10月に、6ベイ+1(M.2×4)というユニークな構成のNASを日本でもクラウドファンディングでリリースしており、名前を知っている人も少なくないかもしれない。

▼ZimaCubeクラウドファンディング
MAKUAKE

 ZimaBladeには2コア(N3350)版のZimBlade 3760と4コア(N3450)版のZimaBlade7700の2種類が存在するが、キットに同梱されるのは後者となる。決して新しくはないCPUだが、価格は3760が69ドル、7700が119ドルと安く設定されている。

ZimaBlade 7700
片側にSATA×2と電源、反対側に有線LANやUSBなどを搭載する

 インターフェースは、片側側面にSATA×2と電源×1、反対側にmini DP、有線LAN(1Gbps)、USB 3.2 Gen 1(USB 3.0)、USB Type-C(電源用)がある。

 また、ボード上に32GBのeMMCが搭載されており、ここにOSをインストールして利用することが可能となっている。

 特徴的なのは、PCIe 2.0×4スロットやSATAポートが搭載されている点だ。これによりPCIe接続のネットワークカードやSATAのHDDなどを簡単に接続できる。もともと、パーソナルストレージやホームサーバー的な用途を意識した製品なので、PC向けの汎用的なパーツを利用できるのがメリットとなる。

 キットに同梱されるのは以下のパーツで、2台までのHDDを搭載したNASを組み立てることが可能になっている。

  • ZimaBlade 7700
  • 16GB DDR3Lメモリ
  • MiniDP-HDMIアダプター(4K)
  • 12V 3A電源アダプター
  • 2ベイ HDDラック
  • SATA Yケーブル
  • USB Type-Cケーブル

組み立ては簡単だが……

 自分で組み立てる必要があるとはいえ、組み立て自体は簡単だ。公式のチュートリアルを参考に、ZimaBlade本体にメモリを装着すればメイン基板は完成となる。

カバーを外す
メモリを取り付ける

▼セットアップチュートリアル
ICEWHALE Community

 その後、トレイにHDDをねじ留めし、トレイの上にZimaBladeを「置き」、SATAケーブルで接続すればいい。最後に、ネットワークケーブルと電源アダプターを接続すれば、標準でインストール済みのCasaOSが起動し、ひとまずアクセスできるようになる。

HDDをねじ止め
SATAケーブルで接続

 ちなみに、ZimaBlade本体は、トレイの上に「置く」だけとなる。そう。固定せずに置く。ただ、それだけだ。無骨な自作NASに固定など必要ないのだ。

 少々不安だが、固定されたHDDとケーブルでつながっているため、思ったより安定して「乗っかっている」印象だ。

ZimaBladeは乗っているだけ

OSをどうするか?

 標準でインストールされているCasaOSは、パーソナルストレージを実現するLinuxベースのソフトウェアだ。このOSでも一応使えなくはないのだが、RAIDに対応していない。せっかくの2ベイ構成なのだから、RAIDが使えないのはもったいない。

標準ではインストール済みのCasaOSで起動する
複数台ストレージを1台として扱うことはできるが、ベータ機能だ

 一応、JBODのように複数台ストレージをまとめて構成することはできるようになっているが、現状はベータ機能として提供されている。

 ZimaBladeは、LinuxやWindows、OpenWrt、pfSense、TrueNAS Scaleなど、x86向けのさまざまなOSで利用できるので、CasaOSにこだわる必要はない。というわけで今回は、冒頭でも触れたZimaCubeで採用されているZimaOSをインストールして利用することにした。

▼ZimaOSのダウンロード
IceWhaleTech/ZimaOS(GitHub)

 ZimaOSは、CasaOSをベースにした高機能なストレージ用OSで、以下のようにRAIDやリモートアクセス、SMBのマルチユーザー利用などに対応している。ZimaCube向けなので、OS上に表示されるベイやネットワークポートの画像が今回のZimaBladeのキットと合わないが、それでもこちらを使った方が利便性は高い。

ZimaOS
CasaOSとZimaOSの違い

 上記のリンク先(GitHub)からインストーラー用のイメージ(zimaos_zimacube-1.3.1-1_installer.img)をダウンロードし、今回はRufusを使って、USBメモリに書き込んでおいた。

 さて、このメディアでZimaBladeをブートすればいいわけだが、困ったことにZimaBladeには1つしかUSBポートがない。

 このため、OSのインストール時は、USBハブを別途用意する必要がある。USBハブにインストール用メディアとUSBキーボードを装着し、同梱のHDMIケーブルでディスプレイに接続した状態で、電源をオンにする。

 ZimaBladeは基本的にPCなので、起動メニューで「DEL」キーを押してUEFIメニューを表示し、ブートデバイスとしてUSBメモリを選択すればインストールを開始できる。インストールそのものは簡単で、内蔵の32GB eMMCをインストール先として選択するだけでいい。

 あとは、USBハブやHDMIケーブルを取り外し、ネットワークに接続した状態で再起動すれば、ZimaOSが起動する。同一ネットワーク上のPCからウェブブラウザーで「http://zimacube.local」でアクセス可能だ。初期設定でアカウントを登録しておこう。

基本はPCなのでUEFIメニューからUSBメモリでブートしてインストールする

ストレージを構成する

 最初に設定する必要があるのは、ストレージの構成だ。

 ストレージの設定画面から、[Create RAID]でSATAポートに接続した2台のHDDでRAIDを構成する。RAID0とRAID1が選択できるので、RAID1を選択しておくといいだろう。

ZimaOSならRAID構成が可能

 これで、標準では「Safe-Storage」という名前でHDDが利用可能になったので、「Files」アプリから「Safe-Storage」を選択し、共有用のフォルダーを作成する。

 その後、フォルダーを選択してメニューから[Sambaで共有]を選択することで、一般的なNASと同様にネットワーク上のPCから「¥¥サーバー名¥共有名」でアクセスできるようになる。

 ZimaOSは、SMBのマルチユーザーアクセスに対応しているので、[権限]の設定でユーザーを作成して追加できる。

フォルダーを作成し、sambaで共有する

 ファイルサーバー的な発想の古典的なNASは複数人で共有することが前提となるため、ユーザー管理やアクセス権管理の画面が用意される。一方で、CasaOSもZimaOSも、基本的な設計思想は「パーソナルな」ストレージとなっており、ストレージを全て自分で使うことが前提になる。

 このため、ユーザー管理やアクセス権管理画面は、個別に用意されない。あくまでも、自分のストレージを扱う「Files」アプリの一機能として、「Samba共有」が用意されており、その設定の過程でアクセスできるユーザーを指定できるに過ぎない。既存のNASの使い方に慣れているユーザーほど、この発想に戸惑いを覚えることだろう。

リモートアクセスも利用可能

 ZimaOSでは、リモートアクセス機能も提供されており、遠隔地からも自分のストレージにアクセス可能になっている。

 具体的には、ZeroTierを利用したP2P接続が可能だ。ZeroTierは、独自のプロトコルを使用したSDNサービスで、ZimaOSで標準で有効化されており、クライアント側はZimaOS用のクライアントソフト「ZimaClient」のインストール時に自動的に構成される。

▼ZimaClientのダウンロードとインストール
ZimaClient

 リモートアクセス時は、ZimaOSの設定画面で確認できる「xxa1e5xx80xxx956」のようなネットワークIDを指定して、ZimaClientから接続する。これにより、ウェブブラウザーでのアクセスやエクスプローラーからのファイル共有のアクセスがVPN経由となり、遠隔地からも安全に自分のファイルを利用可能になる。

ZimClientアプリからネットワークIDで接続
VPN経由でのアクセス。「¥¥172.28.0.1¥Safe-Storage」で共有フォルダーにもアクセスできる

 なお、現状、ZimaClientはWindowsとmacOS用のみの提供となっており、モバイル向けのアプリは「Coming Soon!」となっている。このため、スマートフォンなどでは利用できない。

 現状、国内では、スマートフォンの写真のバックアップをしたいというニーズが高いが、今回の製品はこの用途には対応できない。

バックアップは一工夫が必要

 このほか、PCのデータのバックアップ機能も提供されているが、この機能の利用にはひと工夫必要となる。

 前述したようにZimaBladeのNASキットでは、ZimaOSが内蔵の32GBのeMMCにインストールされる。標準では、このeMMCの領域がOSとDATA用として割り当てられており、「Documents」や「Backup」などのデータ用のフォルダーもeMMC上に作成される。

 このため、ZimaClientを利用したバックアップを構成しようとすると、バックアップ先としてeMMCの領域が選択されてしまう。SATAに接続したHDDにバックアップするには、バックアップ構成時に次のように手動でパスを指定する必要がある。

HDDにバックアップする場合はパスに注意

 「Safe-Storage」はHDD構成に指定した名前で、「Backup」はSafe-Storage上にあらかじめ作成しておいたバックアップ用のフォルダーとなるが、「/media」にマウントされることが明記されていないので、パスを探すのに苦労してしまった。

「苦労」を楽しめる人向け

 以上、「ZimaBlade DeskBuild NAS Kit」を実際に試してみたが、これは完全にNASを作る工程を楽しむためのキットだ。

 低コストではあるが、CasaOSやZimaOSがまだ発展途上で、クセも強いため、使い込むほどに「あれ?」という点や「これどうやるんだろう?」という疑問に当たり、その都度、ドキュメントやコミュニティフォーラムをめぐって情報を集める作業が必要になる。

 なので、こうした苦労を楽しめる人向けの製品だ。逆に、苦労を楽しめるのであれば、CasaOSやZimaOSでなく、TrueNAS Scaleをインストールしてもいいし、Proxmoxを使ってもいい。PCIeに何を接続して使おうか考えるだけでも楽しいかもしれない。

 また、仮想マシンをインストールすることもできる。16GBのメモリを生かしてWindowsやUbuntu Desktopなどを利用できるのもメリットとなる。

仮想マシンを手軽に動かせる

 速度も十分だ。以下は、RAID1構成のストレージ(WD Red 4TB×2)上のSamba共有フォルダーに対してCrystalDiskMarkを実行した結果だ。ネットワーク速度が1Gbpsとなっているので、その上限を実現できている。

 まあ、実用性はさておき、いろいろ遊んでみたいという人におすすめしたい製品だ。

ネットワーク経由でのCrystalDiskMarkの結果
清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中