清水理史の「イニシャルB」
入門PoE:スイッチが安くなりFire TV Stickやラズパイ4でも利用可能。Mini PCにも使えるか?
2024年9月24日 06:00
PoE対応のスイッチが安くなってきた。現状は、まだ法人向けという位置づけで、対応機器も少ないが、工夫次第ではFire TV StickやRaspberry Pi 4などでもPoEを利用でき、家庭でも活用できる機会は意外と多い。今回は、PoEの基本と使い方を解説する。
LANケーブルで電力を供給するPoE
PoEは「Power over Ethernet」の略で、通信用のネットワークケーブルを通じて、接続した機器に電力を供給するしくみだ。
法人向けのアクセスポイントやカメラなどで採用されることが多く、近くに電源接続用のコンセントが確保できない場所に設置した機器にも、LANケーブル1本だけで通信と給電ができ、運用可能になる。
利用するには、接続する機器(アクセスポイントやカメラ)側の対応に加え、電力を供給するためのPoE対応スイッチ(またはインジェクター)が必要だが、ケーブルは一般的なLANケーブル(RJ-45のCAT5以上)をそのまま使うことができる。
PoEの規格は、供給できる電力の違いによってPoE(15.4W)、PoE+(30W)、PoE++(90W)がある。産業用機器など、一部の特殊な機器はPoE++対応が必要な場合があるが、現状はPoE+対応の製品が一般的だ。
規格 | タイプ | 最大供給電力 | 給電用配線 | 対応 ケーブル | 伝送距離 |
PoE IEEE802.3af | 1 | 15.4W | 2ペア | CAT3以上 | 100m |
PoE+ IEEE802.3at | 2 | 30W | 2ペア | CAT5以上 | 100m |
PoE++ IEEE802.3bt | 3/4 | 60W(タイプ3) 90W(タイプ4) | 4ペア | CAT5以上 | 100m |
※給電用配線は、ツイストペアケーブルの4ペア8線のうち何本を給電に使うかを表す
対応機器の価格動向としては、電力を供給する側のスイッチは低価格化が進んでいる。対応する規格やポート数、トータルの供給電力(複数ポート利用時の合計)などにより幅はあるが、PoE+対応の4~6ポート前後の機種なら、1Gbps対応モデルで3000~6000円、2.5Gbps対応でも海外製なら7000~8000円前後と、個人でも手の届く価格帯となる。
なお、PoEの規格やしくみについては、大原雄介氏による以下の記事が詳しいので、興味のある人は一読をおすすめする。
▼大原氏による解説記事
4ペアでPSE最大90W、PD最大71.3Wの「PoE++」こと「IEEE 802.3bt」
PoE対応の機器なんて持ってない?
一方、肝心のPoEでつなぐ機器だが、現行の多くの製品は法人向けとなる。天井や壁に貼り付けるタイプのアクセスポイント、高画質な法人向け監視カメラなどがほとんどだ。
つなぐ機器がないのでは意味がないのでは? と思うかもしれないが、個人用の機器でも、工夫次第で接続できる。
具体的にはPoEスプリッターを利用する。PoEスプリッターは、給電側(スイッチやインジェクター)で合わせたデータ信号と電力を、再び分離して別々のケーブルに配線する機器だ。出力側のコネクタがDCジャックやUSB Type Cなどの製品があり、接続する機器に合わせて選択できる。
価格は対応する通信速度や給電できる電力によって違いがあり、対応速度1Gbpsで給電性能5V/3A前後までの製品であれば、実売1000円前後だ。
もちろん、出力が5V/3Aとなると、接続できるのは消費電力の小さな機器に限られる。具体的にはRaspberry Pi 4、Amazon Fire TV Stick、小型のトラベルWi-Fiルーターなどを動作させることが可能だ。
試しに、Fire TV Stick 4K MAXに、純正オプションのAmazonイーサネットアダプタ(USB接続の有線LANアダプタ+USB給電)を接続し、PoEスプリッター経由で接続してみた。すると、問題なく起動し、有線LAN経由で映像を再生できた。
Fire TV Stick 4K MAXはWi-Fi 6E対応である一方、今回利用したUSB接続の有線LANアダプタは100Mbps対応となるため、わざわざ有線で接続する必要があるのか? という疑問もあるが、安定性や遅延の低さという点では有線の方が有利なので、電波が届きにくい環境ではPoEを利用するメリットがあるだろう。
間違った使い方に注意
PoEの利用にあたっては、注意が必要な点もある。今回、PoEスプリッターの間違った使い方として、移行に紹介する2つの実験をしてみた。安全性に問題がある場合もあるので、まねをしないように注意してほしい。
まずは、Raspberry Pi 5の接続だ。Raspberry Pi 5は5V/5AのACアダプターを利用する仕様となっている。そこで、5V/5Aに対応したPoEスプリッターを探したのだが、現状は製品が見当たらなかった。
仕方がないので5V/4A対応のスプリッターを入手し、Raspberry Pi 5をPoEスプリッター経由で接続してみた。USB SSD、およびUSBファンを装着し、USBにも電力を供給してみたが、とりあえず起動ができたことは確認できた(起動時に警告が表示されるので電源ボタンを押して一時的に起動した)。
続けて「stress」という負荷をかけるプログラムも実行してみたが、消費電力は8W程度で済んだ。低負荷の環境なら、5V/5Aの給電ができなくても、対応でなくても稼働はできそうだ。
ただし、今回は起動できたが、USBやGPIOなどの利用状況によっては動作が不安定になる場合があるため、基本的にはおすすめしない。Raspberry Pi 4なら5V/3Aで利用できるので、Raspberry Pi 4までの利用にとどめた方がいいだろう。
次の実験はMiniPCだ。12V/2A対応のスプリッター(DCジャック接続)を用意し、GMKTecのNUC BOX G3(Intel N100)を接続してみた。PCに付属のACアダプタは出力が12V/3Aだが、12V/3A対応のスプリッターが見つからなかったため、12V/2A対応のスプリッターを利用している。
こちらはRaspberry Pi 5よりも状況は深刻だ。とりあえずWindowsを起動させることはできたが、サインインしようとしたり、Windows Updateを実行しようとしたりするタイミングで、電源が強制的にオフになった。完全に電力が不足しているようだ。
別のスイッチを利用してPoEの供給電力を確認してみたところ28Wとなっていた。PoEスプリッターの容量スペック(記載は12V/2A対応なので24Wまで)も超えており、安全性にも問題がありそうだ。
ここで紹介したのは間違った使い方の例だが、実際には機器に付属しているACアダプタのスペックを調べ、それと同じスペックのスプリッターを利用することが大切だ。
無線接続の機器を減らせるメリットも
以上、今回はPoEの基本と、PoE非対応の機器でPoEを利用する方法を紹介した。
機器を設置したい場所に電源がないぞ、という場合でも、LANケーブル1本で機器を接続できるのが、メリットとなる。もちろん、LANケーブルの配線は必要だが、電源ケーブルの延長や電源工事よりは楽だ。
また、Fire TV Stickなどの低消費電力の機器であれば、スプリッターの利用によってPoEで接続できる。遅延が低く、周囲からの干渉を受けにくい有線で接続できるメリットは大きいだろう。無線で接続する機器を減らせれば、無線の同時接続の負荷を軽減し、他の無線接続機器の通信環境も改善できる可能性も期待できる。
ただし、スプリッターは、コネクタの形状、対応する有線LANの速度、そして対応する電力によって、たくさんのラインアップがある。間違えて利用すると、動作が不安定になったり、安全性に問題があったりする可能性もあるので注意が必要だ。
理想は、標準でPoEに対応した機器がもっと増えてくれることだ。現状はまだ法人向け、産業向けだが、今後は個人向けとしても、アクセスポイントやカメラ、PCなどのPoE対応の機器が増えてくることを期待したいところだ。