清水理史の「イニシャルB」

マイクロソフトのAI「Copilot」もここまで進化した! 無料でも高い実用性になった機能まとめ
2025年9月1日 06:00
無料で使える「Copilot」が静かに進化している。最新モデルのGPT-5も導入された上、Copilot Visionで「見ているもの」について答えられるようになりつつある。2025年8月時点の無料版Copilotの状況を整理しつつ、注目の新機能をピックアップしてみよう。
無料版Copilotの進化
Windows 11のタスクバーにあるアプリだけでなく、最近ではメモ帳のツールバーにも登場するようになった「Copilot」。2025年8月にはOpenAIの最新モデルであるGPT-5が無料版にも提供されるなど、気づくと進歩している状況となっている。
Windows 11のサイドバーから専用アプリに変化したり、Windowsの操作など使えなくなったりと、一時期はシンプルなチャットしか使えない混迷期(暗黒期)もあったが、むしろ現状は進化が加速している印象がある。
下表は、2025年に入ってからのCopilotの主な強化点や新機能をリストアップしたものだ。
日付 | 主な改善・追加(機能、対応プラットフォーム) | 提供対象(地域、言語/Insider、Pro限定など) |
2/25 | Think DeeperとVoiceを無料無制限化(o1活用) | 全ユーザー |
2/27 | Copilot Vision(Edge) | Proかつ米国 |
ページ&動画要約(Edge) PDF・Wordアップロード | 全ユーザー | |
3/5 | Copilot for macOS(App Store) | 一部地域(米・印・日・英・独・加・墨・伯) |
4/8 | ファイル検索(Windows) Copilot Vision(Windows) | Insider(ファイル検索はグローバル、Visionは米国先行) |
4/16 | Copilot Lab(実験機能) 新ボイス Birch・Rain Android連携(アラーム・リマインダー・SMS) ビジュアル応答(天気・財務・スポーツ拡充、短編動画) | 全ユーザー |
ショッピングカード(価格推移・レビュー等) | 米国 | |
5/2 | Copilot Pages(デスクトップ&モバイル) | 全サインインユーザー |
新ボイス Alder・Elm(ヒスパニック系) アップロード上限 50MB | 全ユーザー | |
Deep Research(copilot.com) | Proかつ英語 | |
5/15 | 4o Image Generation | 全ユーザー |
クイズカード(copilot.com、モバイル) | 全ユーザー | |
Cppilot Visionアップデート(Windows) | Insiderかつ米国選考 | |
6/4 | Copilot Actions(ウェブ作業代行:ホテル予約・花注文など/Labs) | Proかつ米国 |
Instacart連携(レシピ→材料購入) | 米国 | |
6/12 | Copilot Vision on Windows+Highlights(Labs) | 米国(その後欧州以外に拡大) |
Deep Research&ファイル検索対応(Windows) | Proかつ英語 | |
6/25 | Copilot Vision(モバイル) | 米国(その後欧州以外に拡大) |
Deep Research(Windows) | Pro | |
Copilot Actions 対応国拡大 | 米・豪・加・英・印・NZ・南ア | |
暗号資産ファイナンスカード(copilot.com) | 全ユーザー(リリースノートに明記なし) | |
8/7 | GPT-5 を Copilot に実装 Edge「Copilotモード」(期間限定無料) | 全ユーザー |
直近では前述したGPT-5の実装が大きな注目を集めたが、期間限定で試験されているEdgeの「Copilotモード」やWindowsとの連携も実現できそうな「Copilot Vision」など、ほかにも注目すべき機能が登場している。
初期のCopilot(もしくは前述した暗黒期のCopilot)に失望し、それ以来使っていないという人も少なくないかもしれないが、現状のCopilotは無料版でも、かなり実用的なサービスに仕上がっている印象で、筆者も普段の仕事で英語のウェブページやPDFを読み込むときにEdgeのCopilotを活用したり、ちょっとしたイラストを生成するのに4o Image Generationを使ったりしている。
この機会にCopilot、それも無料版のCopilotを、もう一度、試してみることをおすすめする。
無料版Copilotでできること
Copilotには、無料版に加えて、月額料金を支払って利用するサブスクリプション版も存在する。具体的には、Copilot Pro、Microsoft 365 Personal/Family、法人向けMicrosoft 365の契約者向けに提供されるサービスとなる。
法人向けのサービスでは、テナント内の情報(SharePointなど)についてのCopilotや管理機能などが提供されるが、ややこしいので、ここでは個人向けのみの主な違いをまとめておく。
全ユーザー向け
料金:無料
使える機能:Copilotアプリ、EdgeのCopilot、ウェブ版のCopilot、毎月15のAIクレジット
個人向けMicrosoft 365 Personal/Family契約者向け
料金:月額2130円(personal)/2740円(family)
使える機能:無料版の機能に加え、OfficeアプリでのCopilot、メモ帳やペイントアプリのCopilot、OneDriveのCopilot(提供予定)、毎月60のAIクレジット
Copilot Pro
料金:月額3200円
使える機能:無料版の機能に加え、Copilotアプリの追加機能として「Deep Research」、無制限のクレジット、混雑時の優先アクセス
要するに、無料版ではOfficeアプリやメモ帳などのアプリに組み込まれたCopilotが利用できず、Microsoft Designerで画像生成するときなどに消費するAIクレジットも毎月15と少ないことになる。
無料版Copilotのおすすめ機能
こうしてみると無料版では機能的に物足りない印象があるが、実はそうでもない。具体的な機能を見ていくと、これでも十分に日常の作業を効率化可能だ。
最新モデルを利用した回答
無料版のCopilotでは、回答方式を選ぶことで回答の精度を変更できるようになっている。簡単な質問やアイデアの壁打ちなどでは「クイック応答」で何度もやり取りするのが適しているが、論理的な思考が必要な質問の場合は「Think Deeper」を利用するといい。
例えば、以下の質問の回答は「(4×7×9+1)×8」で5つの数字の組み合わせが最小となるが、クイック応答では正解にたどり着けない一方、Think Deeperならほぼ正解にたどり着ける(タイミングによって5つ以外の回答になるケースもある)。
次の条件に従って答えが2024になる数式を考えてください。
1.使える数字は1,2,3,4,5,6,7,8,9のみ
2.使える演算記号は+,ー,×,÷とカッコのみ
3.各数字が使えるのは1回のみ
4.数字を並べて2けた以上の数として扱うのはNG
5.できるだけ使う数字の個数が少なくなるように工夫する
※出典:2024年度開成中学入試問題算数問1(AI向けに文章を書き換えている)
もちろん、日常生活やビジネスシーンで入試問題を解くことはあまりないが、同様にプロンプトによって指定された制約に従って、試行錯誤しながら回答を導き出す必要があるケース、例えばスケジュール調整や意見のすり合わせなどではThink Deeperが役に立つ。
じゃあ、「スマート(GPT-5)」を選べば、もっと賢いのか? というとそうでもない。上記の例だと、思考時間も取らず、即回答し、6個の組み合わせを回答する。
バックエンドのしくみが不明なので、はっきりとしたことは言えないが、Copilotの「スマート(GPT-5)」はクイック応答と同じような高速回答するモデル(GPT-5-MainやGPT-5-Main-mini)を選びがちな印象がある。GPT-5は、入力されたプロンプトの内容によって、内部のルーターで、どのモデルを使うかを選択する。どうも、Copilotは、積極的に高速モデルを選ぶ傾向が強いように見える。
というのも、同じ質問をOpenAIのGPT-5で質問すると、短時間ながら思考時間を確保して正解の5つの組み合わせを回答してくれる。モデルとしては一緒のはずだが、このあたりに何らかの違いがあるのかもしれない。
資料をもとにした回答
AIの使い方にもよるが、ビジネスシーンでは、何かもとになる資料についてAIに質問するケースが多い。いわゆるRAGやCAGといった使い方だが、Copilotも入力されたファイルやテキストなどのコンテンツをコンテキストとして利用し、その内容をもとに回答することができる。
例えば、EdgeのCopilotは、海外ウェブページやPDF文書を読むときに活用すると便利だ。ウェブページやPDFを表示した状態で、Copilotを起動すると、表示しているウェブページやPDFの内容がコンテキストとして扱われ、学習済みの知識やウェブ検索の結果ではなく、コンテキストの内容に基づいて回答させることができる。これにより、ウェブページやPDFの内容を要約したり、内容について内容について質問したりできる。
例えば、8月に公開されたGPT-5のシステムカードなどがいい例だ。ダウンロードしたPDFをEdgeで開いて、Copilotを呼び出せば、概要を説明してもらうことができるし、「このページから回答してください。ハルシネーションを防ぐためにどんな工夫をしていますか?」と質問したり、「○○については何ページに記載されていますか?」とソースの所在を確認したりできる。
こうした、資料をもとにした回答はCopilotアプリでも可能だ。PDFに加えて、WordやPowerPointのファイルをドラッグして登録して、質問することが可能になっており、アップロード可能なファイル容量も従来の5MBから50MBに増えた。
ただし、こちらの機能はファイルによって中身を読み取れないケースもあるようだ。筆者の環境でも手元にあるファイルのうち、きちんと内容を読み込めるものと、そうでないものがある。この違いがどこにあるのかが、よく分からない。
4o Image Generation
画像生成もかなり品質が向上している。それも、筆者などが仕事でよく使う「説明的なイラスト」の生成品質が非常に高くなった。
従来のCopilotは画像生成にDALL-Eシリーズを利用していたが、現状のCopilotでは4o Image Generationを利用している。このモデルは、タッチがモダンなほか、画像内に文字を入れることも可能になっており、本稿のような記事や書籍などの挿絵として使うイラストを生成しやすくなっている。
例えば、下図は筆者が書籍や小冊子を作成する際に、日常的に使っている方法だが、こんな感じでPowerPointの図形で荒い概要図を作り、そこにテキストで説明を加えることがある。これをデザイナーやイラストレーターが見て、イラストのラフを作ってくれる。
これをそのままCopilotに読み込ませると、下図のようなイラストを生成してくれる。余計な矢印が追加されている、ボックスがずれている、、日本語も文字化けしているなどの難点もあるが、元の概要図やテキストの意図が、それなりに反映されている。
完成度としては、6割くらいという感じだが、一発で、この下絵が完成するのだから悪くない。当然、本職のイラストレーターやデザイナーのように、「適当な指示でもよきに計らってくれる」という感じはないが、もう少しプロンプトを修正したり、ダウンロードした下絵を手動で修正したりすれば、十分に使えるイラストになりそうだ。
今後に期待のCopilot Vision
今後、注目される機能としては、Copilot Visionへの期待は大きい。国内では、現状、EdgeのCopilotでのみ利用可能だが、音声モードをオンにすると、現在表示しているウェブページをCopilotが認識し、その内容について音声で会話ができる。
この機能は、さらに拡張される予定になっており、Windowsとの連携によってEdge以外のほかのアプリの画面をCopilotが見られるようになったり、スマートフォンのカメラで映している映像をもとに会話したりできるようになる予定だ。
現状のEdgeのCopilot Visionは、面白い機能という感じで、実用的かどうかの判断が難しいが、Copilotが、いろいろなものを「見る」こと可能になることで、さらに使い方が広がりそうだ。
ビジュアライズされた回答
このほか、細かな点だが、回答に絵文字が多く使われたり、天気や株価、スポーツの結果など、特定の回答がカードと呼ばれる形式で表示されたりと、回答がビジュアライズされるようになったのも特徴だ。
言語モデルというと、回答がテキストのみになるため、回答が長くて読む気がなくなってしまうケースもあるが、そうならないように工夫されている。AIアシスタントとして、より身近な存在をめざしていると考えられる。
慣れれば使い易い? Copilotモード
最後に現状、期間限定でテストされているCopilotモードについて触れておく。Edgeで有効にすると、Copilotボタンがアドレスバーの左側に移動し、新規タブで表示されるページもCopilotの画面に切り替わる。
従来の検索やURLの入力も、Copilotの入力欄を使う形式となるため、最初は質問を入力すべきなのか、今まで通りURLや検索ワードを入れればいいのか迷うが、このあたりは自動的に判断されるようになっている。普通に検索してほしいのにCopilotが回答してしまうこともあるので、今までと勝手が違うことに戸惑う印象だ。
慣れれば使い易くなるのかもしれないが、最初は違和感が大きく、かなり微妙な印象のデザインだ。
同様に、Copilot Labsで実験中のサービスを体験することも可能で、本稿執筆時点では2D写真を3Dモデルにするサービスも提供されていた。また、ファイルの検索機能も新機能として紹介されているのだが、筆者の環境ではファイルを見つけることができなかった。今後のCopilotの方向性が見えてくるので、一度、Copilot Labsは見ておくことをおすすめする。
使ってみよう無料版Copilot
以上、今回は進化したCopilot、それも無料版の機能について紹介した。実験的な機能もあり、粗削りな印象もあるが、個人的にはEdgeのCopilotで資料を読み込んだり、4o Image Generationで資料の挿絵を作ったりできるのが便利だと感じている。シンプルに言語モデルとしても進化しており、活用の幅が広くなったと言えそうだ。
昨今、「壁打ち」という言葉もよく耳にするが、ぼんやりとしたアイデアをCopilot相手に話し、意見を求めたりすることで、アイデアを深めたり、発展させたりするのも、いい使い方だと思う。AI相手なら、気にせず何度でも話しかけられるし、的外れな意見をぶつけても真面目に答えてくれる。
せっかく無料で使えるのだから、普段の仕事などに活用してみるといいだろう。