第141回:離れた部屋や外出先からでもテレビや録画番組が視聴可能
ネーミングを変更して再出発するソニーの「ロケーションフリーテレビ」



 これまで「エアボード」として親しまれていたソニーのワイヤレステレビが「ロケーションフリーテレビ LF-X5」というネーミングで再出発を図った。IEEE802.11a/gの無線LANを利用して、テレビの映像をワイヤレスで伝送、付属の7インチモニターで再生するという製品だ。「ロケーションフリー」の名前通り、場所を選ばずテレビを見ることができるのか。早速検証してみた。





「欲しい」と思わせるだけの魅力は十分

 本連載で製品レビューを執筆する際、家電に関しては家族に製品を触らせて、その感想を聞くことにしているのだが、今回のロケーションフリーテレビ「LF-X5」は、ここ最近ではもっともカミさんのウケが良かった製品だ。しばらくの間、台所や洗面所などいろいろな場所に持ち歩いてテレビを見ており、自分の好きな場所でテレビをるという使い方にかなり魅力を感じた様子だった。

 今回、ソニーから発売されたロケーションフリーテレビ「LF-X5」は、無線LANで映像を伝送することでワイヤレスでテレビを楽しむことができる製品だ。ベースステーションと7インチの液晶モニターという2つの機器構成で、ベースステーション側で受信したテレビ映像をIEEE 802.11aもしくはIEEE 802.11gで伝送し、モニター側で受信して再生するという仕組みになっている。


ロケーションフリーテレビ LF-X5。右側がチューナーと無線LANのAPを兼ねたベースステーション、左側が7インチ液晶を搭載したモニターベースステーションの背面。アンテナ端子、インターネット接続用のLAN端子に加え、ビデオ入力用端子も2系統備える

背面左側にLANポートを搭載上部にはCFスロットとスタイラス

 最近のPC向けのテレビチューナーカードなどでは、ネットワーク機能が搭載されているものも多く、デスクトップPCで受信した映像をノートPCなどでワイヤレス再生できるが、これを専用機で実現したものと考えればわかりやすいだろう。無線LANの電波が届く範囲であれば、寝室だろうと、トイレだろうと、ベランダだろうと(ベランダは屋外のため、屋内のみの11aは利用できない)、どこでも手軽にテレビを視聴できる。7インチモニターも575gと軽く、持ち運びも苦にならない。個人的にも、非常におもしろい製品だと感じられた。





使い方は簡単。HDD&DVDレコーダも遠隔から操作可能

 実際に使ってみた印象としては、まず使い方がカンタンなことに感心した。前述したように、ベースステーションとモニターの間は802.11a/gの無線LANで映像が伝送されるが、この設定は購入時点で完了しており、ユーザーは設定を一切する必要がない。ベースステーション側にテレビアンテナのケーブルを接続して電源を入れれば、すぐにテレビが再生される。

 7インチモニターはタッチパネル式のインターフェイスを備えており、操作も直感的に行なえる。チャンネルを変えたければ、画面を軽くタッチして、右側のメニューからチャンネルを選ぶだけだ。映像がベースステーション側で変換されてから伝送されるため、起動時やチャンネル変更時に、映像が再生されるまで若干(2秒程度)時間がかかるが、気になるほどではなかった。


ベースステーションにアンテナを接続し、電源を入れれば、特に設定しなくてもすぐにテレビを再生できる

 特筆すべきなのは、テレビだけでなく、HDD&DVDレコーダやビデオデッキで録画した映像も再生できる点だろう。ベースステーションに用意されているビデオ入力端子に機器を接続し、赤外線のコントローラを接続しておけば、モニター側から「タッチパネルリモコン」を利用して、これらの機器をコントロールし、映像を再生することができる。

 同様の機能はBS/CSチューナーなどでも採用されており、録画予約をするときなどに利用されているが、LF-X5の特徴は、タッチパネルリモコンの完成度がとにかく高いことだ。対応機種については、ソニーのホームページで確認できるが、接続する機器によっては本体付属のリモコンとそっくりなタッチパネルリモコンがそのまま画面上に表示される。


PSXなどを接続し、映像の再生や制御が可能。PSXでは本体付属のリモコンとそっくりのタッチパネルリモコンが利用できる

 試しにPSXを接続してみたところ、上記の画面のようにPSXのリモコンがそのまま画面上に表示され、何の苦もなくPSXを制御できた。タッチパネルリモコンを利用してPSXの電源を入れることはもちろんのこと、画面を見ながらメニューを操作して映像を再生することも可能だ。このほか、番組表を見て録画予約をしたり、極端な話ゲームをすることなどまでもできる(入力と再生にタイムラグがあるため実用的にはやや厳しいが……)。

 もちろん、接続する機器によってはリモコンを完全に再現できない場合もある。たとえば、筆者宅で利用している松下電器産業製の「DIGA DMR-E500H」でも試してみたが、実際のリモコンとタッチパネルリモコンのボタンが完全に一致せず、別のボタンが割り当てられていた。とは言え、ボタンのアサインを覚えるだけなので、さほど違和感なく利用できる。ソニー以外の製品も利用可能な点は高く評価したいところだ。


他社製の機器を接続した場合は、タッチパネルリモコンが実際の配置と多少異なる。ただし、アサインさえ覚えてしまえば問題なく利用できる




快適に使えるかは電波状況次第

 画質に関しても悪くはない印象だ。もともと画面サイズが小さいので細かな部分が気にならないというのもあるが、普通に見るには十分なレベルだと感じた。ただし、これはあくまでも電波状況が良い場合の話だ。無線LANの電波状況が悪くなれば、画質もそれに応じて悪くなる傾向にあった。

 試しに、筆者宅(木造)の1Fにベースステーションを設置し、2F、3Fでテレビを再生してみたところ、2Fではほぼ問題なかったが、3Fでは頻繁に映像がとぎれる現象が見られた。また、帯域に応じて画質も変更されるようで、電波状況が悪い場所では動きの速い映像でブロックノイズが目立ち、画質も荒い印象だ(HDDレコーダなどの低画質で録画した映像を見るような印象)。あらゆる場所で快適にテレビを見られるかどうかは、ひとえに無線LANの電波状況がどれほど良好かに依存すると言えるだろう。

 LF-X5は、前述したようにIEEE 802.11aとIEEE 802.11gの両方の無線LAN規格に対応しており、電波状況を自動的に判断して最適な規格とチャンネルを選択するようになっているが(ほとんどの場合11aで接続される)、物理的に離れた場所や遮蔽物がある環境ではやはり電波状況が悪くなることは避けられない。また、筆者宅のようにすでに無線LANのアクセスポイントが稼働している環境や近隣で無線LANが利用されている環境では、干渉の問題も大きく関係する。干渉しないチャネルがうまく空いていればいいが、運悪くチャネルが空いていなければ、快適な映像再生は難しいだろう。

 ちなみに、LF-X5のベースステーションは、無線LANのアクセスポイントとして利用することも可能だ。標準ではPCからの接続は受け付けない設定になっているが、これを有効に設定し、SS-IDや暗号キーなどをPCに設定すれば、PCの無線LAN環境としても同時に利用できる。モニター側の映像再生を考えると、PCとの同時利用は得策ではないが、場合によっては同時に無線LAN環境の構築も可能だ。


PCからの接続を許可すれば、無線LANのアクセスポイントとしても利用できる




インターネットの利用も可能

 このほか、LF-X5のモニター側には、ブラウザ、メールソフトなども搭載されており、インターネット端末としての利用も可能だ(ベースステーションをLANに接続する必要がある)。背面のCFスロットからデジタルカメラで撮影した画像を取り込み、モニターで表示することもできる。


ブラウザを利用してホームページを閲覧することも可能。このほか、メールの利用や画像表示なども可能だ

 さらに興味深いのは、外出先からの利用も可能な点だ。具体的には、モニターを外出先の公衆無線LAN環境などに接続し、そこからインターネット経由で自宅のベースステーションへとアクセスする。これにより、インターネット経由でテレビ放送を再生したり、前述したようにタッチパネルリモコンを利用してHDD&DVDレコーダなどを制御することが可能となる。

 もちろん、外出先からのアクセスには、固定IPやダイナミックDNSの利用、自宅のルータでの設定が必要になるが、ルータの設定に関してはUPnPを利用して手軽に設定できるように工夫されている。あらかじめ自宅にモニターを設置した状態で、設定画面から「NetAV」の設定を選び、「ルータ自動設定(UPnP)」を行なうと、自動的にルータと情報をやり取りし、ポートフォワードの設定が完了する。


NetAVを有効にすれば、外出先から自宅にアクセスしてテレビを見ることも可能。設定も簡単でルーターの設定はUPnPで自動的に設定できる

 今回、バッファローの「WZR-RS-G54HP」を利用して自動設定を試してみたが、何の問題もなく設定を行なうことができ、ダイナミックDNSで取得したアドレスで外出先から自宅のベースステーションにアクセスできた。利用するルータによっては正しく設定できない可能性もあるが、利用するポート番号(5021)さえ確認すれば手動でも設定できる。インターネット経由での再生の場合、さすがに帯域の問題で画質はあまり良くないが、出張先などで録画した映像を見たいといった場合に便利だろう。


NetAVを利用して映像を再生した画面。帯域の問題で映像の品質はかなり落とされるが、視聴だけなら十分




価格とバッテリー駆動時間が課題

 このように、LF-X5は、なかなか興味深い機能を備えた製品である上、無線LAN設定が不要な点やUPnPを利用してルータの自動設定ができる点など、高度な知識が必要なく、誰にでも手軽に使える工夫されているなど、その完成度は非常に高い。自宅に1台あったらさぞかし便利だろうと心から感じた製品だ。

 しかしながら、軽く10万円を超える(125,000円前後)実売価格を考えると、実際の購入はかなり躊躇してしまう。これだけの値段だと、さすがに手軽に買うというわけにはいかないだろう。

 また、バッテリー駆動時間もさほど長くない。添付の標準バッテリーの場合、連続使用時間は2時間程度だ。映画の場合ギリギリの駆動時間なので、場合によってはオプションの大容量バッテリー(BP-LX5B)の購入も検討すべきだろう(重量は標準バッテリーより約60g重い約220g)。さらに、12.1インチのモニターを備えた「LF-X1」(NetAVなどの機能はない)の方にはオプションで「お風呂ジャケット」が用意されているのだが、LF-X5には用意されていない。お風呂で使いたいというニーズもあると思われるので、ぜひ用意してほしいところだ。

 このほか、個人的にはSIPを搭載するとおもしろいのではないかと感じた。NTT東日本が専用端末「フレッツフォン」を使ったテレビ電話サービスを行なっているが、LF-X5にカメラとマイクを搭載して、テレビ電話端末としても使えるようになれば、かなり便利だ。10万円以上もする高額な製品なだけに、さらに便利な付加価値を期待したい。


関連情報

2005/3/29 11:05


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。