第184回:ウイルスバスターとの使い分け方は?
トレンドマイクロから「スパイバスター2006」が登場



 トレンドマイクロから、スパイウェア対策専用ソフト「スパイバスター2006」が登場した。同社からは、スパイウェア対策機能が組み込まれた統合セキュリティ対策ソフト「ウイルスバスター2006」がすでに発売されているが、違いはどこにあるのだろうか?





より高度なスパイウェアに対応

スパイバスター2006。トレンドマイクロのWebサイトでは1ユーザー年額3,570円でダウンロード販売

 1月末に発表されたトレンドマイクロの「スパイバスター2006」の発売が2月10日から開始された。すでにインターネット上のソフトウェアダウンロード販売サイトなどでの扱いが開始されており、同社のホームページからも30日間の利用が可能な体験版をダウンロードできるようになっている。

 今回、発売されたスパイバスターは、その名の通りスパイウェア対策に特化したソフトウェアだ。スパイウェアの検索と駆除が可能となっており、ブラウザの設定やレジストリなどをリアルタイムに監視し、ソフトウェアによってユーザーの意志に反して設定が変更されることを防止できる。

 同様のスパイウェア対策は、従来から同社が提供してきた「ウイルスバスター2006」でも可能だが、スパイバスターは、ウイルスバスターとは異なるエンジンやパターンファイルを利用しており、その機能もより高度なものとなっているのが特徴だ。たとえば、最近ではCoolWebSearchによってブラウザの設定が書き換えられてしまったなどの被害が多いが、スパイバスターには、このようなCWS専用の駆除ツール「CWShredder」が搭載されている。


トレンドマイクロのスパイウェア対策専用ソフト「スパイバスター2006」。スパイウェアのリアルタイム検索、手動検索、駆除に加えて、CWShredderと呼ばれるCWS専用の駆除機能も搭載している

 CWShredderは、もともとインターネット上で提供されていたCWS専用駆除ツールで、元々の開発者からIntermute社に引き継がれ、それがさらにトレンドマイクロへと移行したソフトウェアだ。トレンドマイクロのホームページから単独でダウンロードできた時期もあったが、今回、スパイバスターという形で統合されたことになる。CWSは非常に亜種が多いことから、すべてに対応することが難しく、駆除も困難だとされているが、CWShredderの搭載によって高い確率でCWSの発見と駆除が可能になっているのは大きなメリットと言えるだろう。

 このほか、アプリケーションの利用履歴、ブラウザの履歴、キャッシュ、Cookieなどを一括削除する機能も備えており、これらのキャッシュから情報が漏洩することを防止することも可能となっている。スパイウェア専用というだけあって、確かにその機能は充実している印象だ。





ウイルスバスターと併用する

 このように、より高度な対策機能を備えたスパイウェア対策ソフトが登場したこと自体は歓迎すべきことだが、すでにウイルスバスターを利用しているユーザーは少々悩ましいところだろう。

 前述したように、ウイルスバスターにもスパイウェア対策機能は搭載されている。このため、ウイルスバスターによるスパイウェア対策で十分なのか、それともスパイバスターを併用した方が良いのかという判断が必要になる。さらに併用する場合は、ウイルスバスターとスパイバスターの両方のスパイウェア対策機能を有効にするべきなのか、ウイルスバスターのスパイウェア対策機能を無効にし、スパイバスターにスパイウェア対策をまかせた方が良いのかも難しい判断になる。

 と言うわけで、今回、実際に筆者が普段利用しているPCにウイルスバスターとスパイバスターの両方をインストールして併用してみた。まず、インストール自体だが、これは両者を併用しても何の問題もなかった。セキュリティ対策ソフトは、異なる製品を併用すると、そのこと自体がシステムの不調を引き起こす原因にもなりかねないが、さすがに同一ベンダーの製品であるだけあって、両ソフトを共存させても特に不具合などは発生しなかった。


トレンドマイクロのウイルスバスター2006(左)とスパイバスター2006(右)。同一PCにインストールしてみたが、特に不具合なく、問題なく利用できた

 ただし、同一ベンダーと言っても、連携機能などは一切ないようだ。たとえばスパイバスターのインストールによってウイルスバスターのスパイウェア対策機能が無効になることもなく、ウイルスバスターからスパイバスターの動作状況も監視できない。完全に個別のソフトウェアとして動作しており、まるで別ベンダーの製品を利用しているような印象さえ受けた。





両者の違いを検証する

 当初は、このように完全に別々のソフトとして両者が動作することに若干の違和感を覚えたが、しばらく使ってみると、これが逆に良い効果を発揮しているのではないかと思えるようになってきた。前述したように、スパイバスターではウイルスバスターとは異なるエンジン、パターンファイルを利用している。このため、スパイウェアの検出と駆除が異なるアプローチで可能になるからだ。

 もう少し、具体的に検証してみよう。まず、筆者が利用しているPCで両ソフトを利用してスパイウェアを検索してみた。結果はスパイバスターで45個のCookieを検出、一方のウイルスバスターは50個のCookieを発見した。Cookieの定義名称が異なることから、具体的にどこに違いがあるのかまでは検証しきれなかったが、やはりエンジンとパターンファイルの違いから結果にも違いが現れることを確認できた。


筆者宅での検索結果。ウィルスバスターでは50個のCookieを発見したが、スパイバスターでは45個となった

 続いて、アドウェアとして広く定義されているツールバーを意図的にインストールして、両者の対処の違いを見てみた。ツールバーをインストールするためのホームページにアクセスしようとすると、まずウイルスバスターが反応を示した。ウイルスバスターにはURLフィルタ機能が搭載されており、ここに定義されているサイトにアクセスしようとすると、それがブロックされるわけだ。対して、スパイバスターは、この時点では何のアクションも起こさなかった。


ウイルスバスター2006では、URLフィルタ機能によりスパイウェアやアドウェアとして知られるツールを配布するサイトへのアクセスを禁止できる。これにより未然に感染を防ぐことが可能だ

 URLフィルタが有効のままではそれ以上のテストができないので、意図的に無効にしてツールバーのインストールを試みたところ、ダウンロードとインストーラーの実行までは両者ともに何の反応もしなかった。しかし、インストールの実行が始まると、再びウイルスバスターが先に反応を示した。リアルタイム検索によってアドウェアとして知られるdllファイルがシステムフォルダにコピーされたことを検出したことになる。

 ここでもスパイバスターは無反応かと思ったが、数秒ほど遅れてスパイバスターのリアルタイム監視機能もシステムの変更を検知(ただしこちらはブラウザの設定変更という形で検出)し、警告画面がきちんと表示された。スパイバスターが効力を発揮するのは、あくまでもスパイウェアと思われるソフトウェアがPCに入り込もうとするなど、何らかのアクションを起こしてからに限られるようだ。


アドウェアとして知られるツールバーのインストールを試みたところ、ウイルスバスターが先に反応を示し、後からスパイバスターも侵入を検知した

 ここまでの動作を見る限りでは、ウイルスバスターの動作が圧倒的に優秀だ。URLフィルタによって未然にスパイウェアやアドウェアへのアクセスを防止でき、PCへの侵入を検知するのも素早い。さらに、警告の画面やメッセージも格段にわかりやすい。危険を検知したことがひと目でわかり、どのような危険なのかもきちんと明記されている。さらには、警告画面に配置されている「緊急ロック」ボタンを利用してネットワーク通信をその場で遮断することなども可能となっている。

 これに対して、スパイバスターは画面を見てもわかるとおり、表示された画面やメッセージを見るだけでは、それが果たして本当に危険なのか、どのような危険にさらされているのか、その後、具体的にどう対処すればいいのかがまったくわからない。今回は意図的に危険な状況を作り上げたので、「拒否」すればいいのだろうという想像はつくが、普段、PCを利用しているときに、突然、この画面が表示されたら、間違って「OK」をクリックしてしまいそうだ。あまりにも洗練されていない印象を受けた。


スパイバスターの警告画面。何がどう危険で、どう対処すればいいのかがわかりにくい。初心者は判断に困ってしまう可能性が高い




スパイバスターが真価を発揮する場面もある

スパイウェアをより高い精度で削除することができるスパイバスター。ウイルスバスターでも多くのスパイウェア対策が可能だが、より確実な削除が求められる場合はスパイバスターの利用が適している

 では、ウイルスバスターのスパイウェア対策機能を有効にしておけば、スパイバスターは不要なのか? と言われると、決してそうではない。スパイバスターの真価は、すでにPCに潜んでいるスパイウェアの検索と駆除において発揮される。

 たとえば、前述したアドウェアのツールバーの駆除だが、ウイルスバスターでも駆除は可能ではあるものの、駆除後にもう一度手動でスパイウェアの検索を実行すると、同じスパイウェアが何度も表示されてしまう。ツールバー自体はきちんと削除されているようなので実害はないのだが、どこかに情報が残ってしまっているのかもしれない。

 これに対して、スパイバスターでは完全に削除することができた。また、スパイバスターでは、スパイウェアの駆除の後に、自動的に履歴の削除機能も実行されるようになっている。実際に削除するかどうかはユーザーが選択できるが、アプリケーションの履歴やCookie、キャッシュなども含めて削除することで、万が一、スパイウェアを完全に駆除できなかった場合でも情報の漏洩などを防げるように工夫されているわけだ。


 このほか、スパイウェアの手動検索機能もウイルスバスターはレジストリや主なファイルだけを検索しているようだが(検索時間が極めて短い)、スパイバスターはHDD上のすべてのファイルを完全に検索するようになっている。CoolWebSearchや高度なアドウェアなど、より複雑なスパイウェアの検索と駆除を確実に行なえるという点では、スパイバスターの存在意義は大きいと言えそうだ。





併用するメリットは十分にある

 このように、ウイルスバスターとスパイバスターを比較しながら併用してみたが、個人的には併用するのが最適な印象を受けた。URLフィルタなどスパイウェアの侵入を未然に防ぎ、わかりやすいメッセージでユーザーの注意を喚起するという意味ではウイルスバスターの完成度が非常に高い。しかし、万が一、スパイウェアに感染してしまった場合、それをより確実に駆除できるのはスパイバスターだと言える。

 ただ、惜しむべきはスパイバスターのユーザーインターフェイスのわかりにくさだ。フリーソフトをそのまま販売したような印象を受ける。それなりのスキルを備えたユーザーであれば、問題なく利用できるだろうが、スパイウェアに感染する確率が高い初心者層に使いこなせるとはとても思えない。将来的にはウイルスバスターと統合されていくのだろうが、とりあえずユーザーインターフェイスの改善(特に危険を発見したときのメッセージや対処方法を具体的に明示する)ことは早急に対処すべきだろう。

 場合によっては、普段、ウイルスバスターを利用しておいて、万が一、悪質なスパイウェアに感染してしまったときに、スパイバスターの体験版をダウンロードして駆除するという使い方でもかまわないかもしれないが、今後、スパイウェアの被害が拡大する可能性があることを考えると今から併用しておくのも手だろう。

 なお、今回の検証は筆者の環境で行なったテスト的なものであり、より悪質なスパイウェアが登場した場合などは、結果が異なる可能性もある。このため、今回の結果は、あくまでも参考程度に考えて欲しい。


関連情報

2006/2/14 11:05


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。