第253回:ついに登場したデュアルチャネル対応のドラフト11n
最大300Mbpsを実現する「Aterm WR8400N」の実力は?



 NECアクセステクニカから、IEEE 802.11n ドラフト2.0、W56、そして40MHz幅のデュアルチャネルに対応した新製品「Aterm WR8400N」が登場した。新機能が豊富な同製品だが、最大の特徴は最大300Mbpsという有線に匹敵する速度だ。実測を交えながら製品を検証した。





最新技術を満載

WR8400N、WL300NCのセットモデル

 今回、NECアクセステクニカから発売された無線LANルータの新製品「Aterm WR8400N」は、まさに最新技術を満載した製品だ。見た目こそ従来から販売されているAterm WR8200Nとほとんど変わりがないが、

  • IEEE802.11n ドラフト2.0準拠
  • IEEE 802.11aの新帯域であるW56対応
  • デュアルチャネル対応
  • 2.4GHzと5GHz帯をまたがるオートチャネルセレクト
  • マルチSSID
 などなど、ざっと並べただけでもこれだけの新機能を搭載している。このほかにも前回本コラムで紹介した「インターネット悪質サイトブロックサービス for BBルータ」に対応していたり、同社ならではの簡単設定方式である「らくらく」シリーズをサポートするなど、まさに最新技術がこれでもかというほど詰め込まれている。

 残念ながら2.4GHz帯と5GHz帯は切り替え式で、IEEE 802.11b/gとIEEE 802.11aを同時に利用することはできないが、これができていたとしたら、まさに「全部入り」と呼んでも良いほどの多機能さだ。


WR8400N本体側面にらくらく無線スタートボタン

背面。LANポートは10BASE-T/100BASE-TXデュアルチャネルやW56、11n ドラフト2.0に対応した無線LANカード「WL300NC」




W56を使える現状で唯一の選択肢

 機能が満載なだけにすべての機能はとても紹介しきれないので、今回は特に新製品の要とも言えるW56対応とデュアルチャネルを中心に検証していくことにしよう。

 読者の興味は300Mbpsを実現するデュアルチャネルにあるかもしれないが、その前にW56について紹介しておこう。W56は今年(2007年)の1月、新たに開放されたIEEE 802.11a向けの帯域だ。以下の図のように、新たに5.6GHz帯の周波数帯が無線LAN向けに開放され、100~140chまでの11チャネルが新たに利用可能となった(W56は屋外での利用も可能)。

 IEEE 802.11b/gで利用されている2.4GHz帯は、現状13のチャネルが利用可能だが、各チャネルが隣接するチャネルと干渉するため、実質的に干渉を避けて利用できるのは最大4チャネルと限られていた。


IEEE 802.11bが利用する2.4GHz帯。13チャネルが利用できるが、干渉を避けて利用できるのは実質的に最大4チャネル

 これに対して、新たにW56が加えられたIEEE 802.11aの5GHz帯は合計で19チャネルとなり、しかもそれぞれのチャネルの干渉を避けて利用できるようになっている。これは企業などがフロア内での干渉を避けつつ無線LANのアクセスポイントを配置する際にも非常に有利だが、家庭などでも近隣からの干渉を避けるのが難しくなりつつあるIEEE 802.11gからの移行に適しているだろう。


日本独自の方式「J52」から世界標準の「W52」に帯域を変更し、さらにチャネル数が大幅に拡充されたIEEE 802.11aの5GHz帯。他のチャネルの干渉を受けず最大19チャネルが利用できる

 前述したようにW56は今年の1月にすでに開放されていた帯域だが、対応機種がなかなか登場せず、今回ようやく本製品が登場した。W56の帯域でも、既存のシステムとの干渉を避けるために、チャネルをサーチして干渉するようなら自動的にチャネルを変更するDFSの搭載が義務づけられているが、この要件が非常に厳しく、実装が難航していた模様だ。

 実際、W56に対応した製品はAterm WR8400NとカードのWL300NC、バッファローから無線LANカードが登場している程度でほとんど見かけない。要するにこの厳しい実装要件を満たした現状で唯一W56を実用可能な製品が、このAterm WR8400Nということになる(2007年7月17日現在)。

 と言っても難しい設定などは必要なく、単純にアクセスポイント側の設定でW56の100~140のチャネルを選ぶだけで良い。まだ使っている人がほとんどいない帯域となるので、干渉を避けた高速な通信をしたいという場合は、利用すると良いだろう。


W56に対応しており、5GHz帯では合計19チャネルを利用可能。また、オートチャネルセレクトに対応しており、2.4GHzと5GHz帯の横断的なチャネルサーチも可能だ




40MHz幅の利用で300Mbpsを実現

 続いて、期待の大きいデュアルチャネルについて検証してみよう。デュアルチャネルは文字通り無線LANのチャネルを2本同時に利用することで転送速度を高速化する技術だ。米国などでは「ターボモード」などと呼ばれ、従来から利用可能だったが、こちらも省令改正によってようやく国内で利用可能となった。

 従来の無線LANでは1チャネルあたり20MHz幅の周波数帯を占有していたが、これを2チャネルに増強することで、「20MHz+20MHz=40MHz」を利用できることになる。利用できる周波数帯が増えれば、それだけ電波に多くにデータを載せることができることになり、結果的に転送速度の高速化が可能になる。具体的には、従来の144.5MHzの倍+制御信号用帯域の活用により、最大300Mbpsでの通信が可能となっている。


デュアルチャネルのイメージ。Aterm WR8400Nでは2.4GHz帯、およびW52のチャネルでデュアルチャネルが利用可能となっている

 なお、デュアルチャネルは2.4GHz帯でも利用可能だが、前述したように単体チャネルでも干渉しないチャネルを選ぶのが困難な状況の中、干渉しない2チャネルを同時に確保することは事実上不可能とも言える。このため、通常は5GHz帯での利用をお勧めしたい。また、Aterm WR8400Nは、2.4GHzと5GHzの切り替え式であり、仕様上の制限によってデュアルチャネルはW52でしか利用できないが、とにかく高速な通信をしたいという場合は割り切りが必要だろう。


デュアルチャネルは設定画面から有効、無効を選択できる。2.4GHz帯、もしくはW52での利用が可能だ

デュアルチャネルは設定画面から有効、無効を選択できる。2.4GHz帯、もしくはW52での利用が可能だ

 さて、気になる速度だが、木造三階建ての筆者宅で計測した値は以下の通りだ。なお、間取りなどについては過去の記事を参考にしていただきたい。PLCの計測に使った間取り図だが、この環境でほぼ各フロアの中央付近で無線LANの速度を計測している。

周波数帯チャネル数GET/PUT1F2F3F
W52デュアルチャネル(36+40)GET81.263.544.9
PUT79.552.145.8
2.4GHzデュアルチャネル(7+11)GET74.066.237.7
PUT74.865.144.7
W56シングルチャネルGET59.555.545.2
PUT62.958.842.2
2.4GHzシングルチャネル(PC内蔵)GET24.020.75.2
PUT24.824.44.6
※サーバーにはAthlon64 X2 3800+/RAM1GB/HDD160GB搭載PCを利用。OSはFedoraCore5、vsFTPd使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad T60(CoreDuo T400/RAM1.5GB/HDD160GB)、Windows XP SP2
※コマンドプロンプトからFTPによるPUT/GETを実行し、極端に高い値と低い値を除いた5回の平均を計測
※PC内蔵11gはIntel PRO/Wireless3945ABG

測定結果のグラフ

 比較のため、W52のデュアルと2.4GHzのデュアル(7ch+11ch)、さらにW56のシングル、さらに2.4GHzモードのAterm WR8400Nにノートパソコン内蔵の無線LAN(Intel PRO/Wireless3945ABG)で接続した場合の値も計測してある。

 結果を見ると、デュアルチャネルの効果は抜群に高いことがわかる。FTPによる計測であるため、プロトコルやサーバー側のボトルネックなども考慮しなければならないが、W52のデュアルチャネルの場合、1Fで80Mbps近くという非常に高い速度で通信できている。ここまでの値なら、ほぼ有線LANと互角と考えて良いだろう。ただし、Aterm WR8400NはLANポートが100BASE-TXのため、これがギガビットイーサネットに対応していたらさらに高い値も期待できる可能性がある。これは惜しまれるところだ。

 2F、3Fでの特性も高く、2Fで65Mbps前後、3Fでもコンスタントに40Mbps前後の速度を実現することができた。ただし、3階については、グラフ中のW56シングルの値とほとんど差がない。3Fでの計測中にリンク速度を観察してみると、130Mbps以下でしかリンクしなかったため、おそらく電波状況を判断してデュアルからシングルへと自動的に切り替わっているのではないかと予想できる。


筆者宅3階での測定時の様子。2.4GHz帯の7+11チャネルデュアルだが、リンク速度は130Mbps前後を行き来している。この間でデュアルとシングルが切り替わっている可能性もある

 ADSLなどでもそうだが、送信できる信号の強度が限られている場合、帯域を広くすれば各周波数の信号強度は落とさざるを得ない。つまり、遠くまで電波を飛ばそうとするなら、デュアルよりもシングルの方が有利というわけだ。

 このため、デュアルチャネルの効果が期待できるのは、それなりに電波状況が良い場合に限られると言える。もちろん、ユーザーが意識する必要はないので、普段はデュアルチャネルに設定しておいて、あとは端末まかせにしておけば良い。





コストパフォーマンスを考えるとベストの選択

 以上、NECアクセステクニカのAterm WR8400Nを利用してみたが、デュアルチャネルの効果は絶大で、電波状況さえ良ければ有線に匹敵する速度を得られることがわかった。また、W56を利用できるのも大きなメリットで、効率的なチャネル配置ができることを考えるとオフィスなどでの利用にも検討したいところだ。

 ただ、個人的には、やはり2.4GHz帯と5GHz帯の同時利用ができて欲しかったところだ。特に、本製品に搭載されているマルチSSIDを利用すると、たとえばPC用にはAESによる強固な暗号化を設定したまま、ゲーム機など用にWEPのSSIDを追加で設定することができる。しかし、現状のAterm WR8400Nは切り替え式となるため、ゲーム機に合わせるとPC側も2.4GHzで使わざるを得ない。このため、デュアルチャネルで電波干渉を避けるのが難しいだけでなく、せっかくのW56も使えないことになる。これはもったいない仕様だ。


マルチSSIDでゲーム機用などにSSIDを追加し、WEPなど別の暗号化設定ができる。ゲーム機が11g対応ということを考えると、やはりPC用の11aとデュアルバンドで使いたい

 だからといって、デュアルバンドを搭載し、2.4GHz帯と5GHz帯の同時通信に対応し、さらにLANポートがギガビット対応となると、機器のコストも高くなってくる。機能が満載な代わりに価格が3万円を超える、などと言われると、通信機器にそこまで投資できないというのが正直なところだ。現状の価格を考えると、ここまでパフォーマンスを実現でき、同時に、使いやすさも十分に備えている。バランスとしては良いところで、個人的にもお勧めできる製品だ。


関連情報

2007/7/17 11:08


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。