清水理史の「イニシャルB」

DTCP+でnasneの録画番組をインターネット経由で視聴 アイ・オー「RECBOX HVL-A2.0」

 アイ・オー・データ機器から、AV用途の最新NAS「HVL-A」シリーズが発売された。最大の特徴は「DTCP+」に対応し、外出先からHVL-A上の録画番組を再生可能な点だ。回線との組み合わせなども考慮しつつ、実際にどこまで使えるのかを試してみた。

DTCP+でリモート視聴

 DTCP+の技術は面白いが、実際に使うには運用上の工夫がいくつか必要。

 アイ・オー・データ機器の「HVL-A」を使った感想を一口で言えば、そんなところになるだろうか。

 VULCANO FLOWなどの従来のソリューションに比べれば、確かに、録画したデジタル映像をそのままの画質のままで再生できるDTCP+の恩恵は大きく、条件さえ揃えば、外出先でも高品質の録画番組を再生することができる。

 しかし、録画した画質そのままと言っても、現実には、DRモードで録画した地デジを伝送できるわけではなく、予約時にあらかじめ画質が5Mbps前後になるように録画設定したり、ビットレートを上回るような実効速度が期待できる回線で、しかも通信の妨げになるNAT方式を回避できる環境を用意しなければならない。

 「外出先からリモートで録画番組を視聴」と聞くと、「高速化したスマートフォンのテザリングあたりで試してみるか……」、と思うかもしれないが、実際には、そううまくいかないケースも少なくない。

 要するに、結構敷居が高いのだ。いわゆる「わかっている」人が使うには、とても面白い製品だが、「ちょっと試してみたい」程度なら、個人的には「慎重に」と言いたいところだ。

アイ・オー・データ機器のAV用NAS「HVL-A」シリーズ。DTCP+に対応し、外出先から録画番組を再生することができる
正面
側面
背面

デジオンのDiXiMリモートアクセスサービスを利用

 それでは、実際の製品について見ていきたいが、ハードウェアやDTCP+自体については、僚紙AV Watchの甲斐氏のレビューが詳しいので、そちらも参考にしていただきつつ、本コラムでは実際の使い勝手を中心に見ていこう。

 まず、しくみについてだが、これはDTCP-IP 1.4で新たに規定されたDTCP+の仕様に基づいており、現状、ローカルネットワーク上に限られていたDTCP-IPのしくみをリモートに拡張したものとなる。

 より具体的なしくみは以下のようなイメージとなる。外出先からアクセスするためには、自宅のネットワークを特定する必要があるが、そのためのしくみとして、デジオンが提供するDiXiMリモートアクセスサービスを利用する。

DiXiMリモートアクセスサービスの概念図(http://www.dixim.net/service/より)

 DiXiMリモートアクセスが提供するサーバーが、いわゆるSTUN(Simple Traversal of UDP through NATs)サーバーとして動作し、NAT越えのしくみとして利用される(よって通信もUDPを利用)。これにより、外出先のPCから自宅にアクセス可能な環境を提供し、DTCP+によって、デバイス認証やストリーミング再生が可能になるわけだ。

 とは言え、実際の利用時には、このようなしくみは一切意識する必要がないように工夫されており、基本的には、以下のステップで簡単に利用することができる。

ステップ1:設置

 HVL-Aの設置。HVL-Aの背面にLANケーブルと電源ケーブルを接続し、起動する。

ステップ2:機器登録

 クライアントPCに「DiXiM Digital TV 2013 for I-O DATA」をインストールし、同一LAN上で、アプケーションをHVL-Aに登録する。

ステップ3:コンテンツ準備

 録画用のコンテンツを準備する。スカパー!チューナーからHVL-Aに録画したり、DTCP-IPムーブ対応の機器から番組をムーブする。

ステップ4:再生

 クライアントに持ち出したクライアントから、「リモートサーバー」を選択すると自宅のHVL-Aが表示され、録画した番組を再生できる。

 外出先からの映像再生というと、DynamicDNSやルーターのポートフォワードなど、さまざまな設定が必要になりそうなイメージがあるが、こういった設定は一切不要で、単に「DiXiM Digital TV 2013 for I-O DATA」から簡単な設定をするだけでいいわけだ。

NAT方式によっては利用できない

 このように、基本的には簡単に利用できるHVL-AのDTCP+機能だが、1つ大きな注意点がある。利用する通信機器によっては、サービスを利用できない場合があることだ。

 前述したように、DiXiMリモートアクセスサービスでは、SIPなど、音声や映像のUDP通信のNAT越えに広く使われるSTUNを利用するが、STUNは、NATの4方式のうちフルコーン、制限コーン、ポート制限コーンには対応できるものの、対象型NAT(Symmetric NAT)では利用できない。

 対象型NATでは、NAT配下の端末が通信する際に、送信元ポート番号とNATのインターネット向けポート番号がランダムに割り当てられるため、STUNサーバーに通知される端末のポート番号が、NAT配下の端末のポート番号と一致しないケースがあるからだ。

 この問題のやっかいなところは、HVL-Aを設置した自宅のネットワーク環境だけでなく、DiXiM Digital TV for I-O DATAをインストールしたクライアント側も、この制限が適用される点だ。

 以下は、手元にあった端末を利用して、リモートアクセス可能かどうかを検証した結果だ。DiXiMリモートアクセスサービスでは、サービスの利用可否を検証するためのチェックツールを配布(http://www.dixim.net/service/device.htm)しており、このツールで判定されたタイプと、実際のアクセス結果を掲載している。

【表1】接続テスト結果
ステータス結果
SC-05DNTTドコモ(*1)タイプ5(*2)×
HTL21Jauタイプ5(*2)×
iPhone 5auタイプ4
AtermWM3800RUQ WiMAXタイプ4
Intel6250(内蔵)UQ WiMAXタイプ1*3
*1:spmode、moperaUともに同じ結果
*2:Wi-Fiテザリング、USBテザリングともに同じ結果
*3:Windowsファイアウォールで遮断されている場合は「タイプ6:現在の環境ではご利用いただけません」
【表2】DiXiMリモートアクセスサービスチェックツールのタイプ別可否
タイプ利用可否原因
タイプ1インターネットに直接接続しているため利用可能
タイプ2ルーターによる制限がないため利用可能
タイプ3ルーターを経由しているが現在の設定のまま利用可能
タイプ4基本的に利用可能だがルーターの設定変更が必要な場合もある
タイプ5×NAT方式の制限によりサービス利用不可
タイプ6×ルーターまたはPCのファイアウォールの設定でUDPが遮断されている
タイプ7×NAT方式を識別できないため判定不可
チェックツールでのテスト結果(SC-05Dテザリング時)。タイプ5と表示された場合は利用出来ない

 結果を見ればわかるとおり、Android端末のテザリング機能の場合、チェックツールで「タイプ5」と表示され、接続が不可能となった。これらの接続でも、DiXiM DigitalTV for I-O DATAのリモートサーバーから、登録したHVL-Aが見えるものの、接続しようとすると、「アクセス出来ませんでした」というエラーが表示される。

 デジオンの中継サーバー(STUNサーバー)まではアクセスできているものの、クライアントからSTUNサーバに登録されたポートが、実際のNAT配下のポートと異なるためにアクセスに失敗したと考えられる。

 このように、リモートからアクセスする場合は、iOS端末のテザリングを利用するか、モバイルルーター、PC内蔵の通信環境を利用する必要があると言えそうだ。なお、今回は検証できていないが、接続できるかどうかは、回線環境ではなくNATの方式に左右されるため、WiMAX以外のモバイルルーターでも、通信可能な可能性はある。チェックツールで確認してみるといいだろう。

 また、ファイアウォールの設定にも注意が必要だ。UDPが遮断されると、実際の通信はもちろんのこと、チェックツールでも「タイプ6」と表示されてしまう。DiXiM Digital TV for I-O DATAやチェックツールのプログラムをファイアウォールで許可しておくことも忘れないようにしよう。

PC内蔵のWiMAXの結果。タイプ6はファイアウォールで通信が遮断されていることが原因。プログラムをファイアウォールに登録しておこう

 ちなみに、今回は発売前の試用機を利用したためだと思われるが、一度、接続できない環境(Androidのテザリングなど)からアクセスに失敗すると、その後、本来接続可能な環境に接続を切り替えても、サーバーへの接続に失敗してしまうという現象が見られた。この場合、少々面倒だが、HVL-Aを再起動することで接続を復活させることができたことを付け加えておく。

ビットレートの目安は5Mbps

 このように、利用環境を選ぶHVL-AのDTCP+機能だが、実際に利用するには、さらに回線速度と映像のビットレートも意識しなければならない。

 結論から言えば、快適に映像を再生したいのであれば、映像のビットレートが5Mbps以下になるように、あらじめレコーダーなどの設定して番組を録画しておく必要がある。

 試しに、nasneで録画したDRモード(15.8Mbps)、3倍モード(6.5Mbps)、スカパー!光のチューナーで録画したSD番組(3.1Mbps)の3種類の映像を用意して、WiMAXとauひかりの環境でテストしたのが以下の表だ。

【表3】再生テスト
WiMAXauひかり
15.8Mpbs音声途切れ音声途切れ
6.5Mbps音声途切れまれに音声途切れ
3.1Mbps快適快適
※いずれも無線LAN(IEEE802.11n/2.4GHz)で接続
※WiMAXの実効速度は下り8.301Mbps/上り5.656Mbps(Radish)
※auひかりの実効速度は下り71.40Mbps/上り37.94Mbps(Radish)
※HVL-Aは、NTTフレッツ光ネクストに有線LANで接続

 WiMAXの場合、回線速度が下り8.3Mbpsと、ギリギリということもあり、6.5Mbpsの映像でもまともに再生できず、常時「ブツブツ」と音声が途切れた状態でしか再生できなかった。この6.5Mbpsの映像の状況は、クライアント側に光ファイバーを利用した場合でも大差無く、安定時は十数秒ほど快適に再生されるものの、しばらくすると、やはり音声が途切れ途切れになる現象が度々見られた。

 回線速度のばらつきを考慮すると、5Mbpsでも厳しい印象で、確実に再生できるレベルを考えれば、3Mbps前後を目安にしたいところだ。

 となると、困るのは録画環境だ。たとえば、nasneの3倍モードは10Mbpsのビットレートが目安になっているが、映像によって6~8Mbps前後となるケースが多い。よって、3倍モードで録画しておいても、まともに再生できるかどうかがわからない状況になる。そもそも、外で見るためだけに、3倍モードに画質を落とすのはイヤだという人もいることだろう。

 nasneは、録画時にモバイル機器への書き出し用データ(720×480)を同時保存しているので、これを利用できれば話が早いのだが、残念ながら利用できない状況だ。

 また、HVL-Aには、nasneとの連携機能として、ブラウザから設定ページの「コンテンツ操作」にある「他からダウンロード」を利用することで、nasneで録画した映像を参照し、ムーブすることができるようになっているが、この操作も、もっと工夫できそうに思えて仕方が無い。

 転送自体の操作は簡単なうえ、転送にかかる時間も3.2GBの容量の45分番組で11分30秒で転送できたため、さほど長くはない。また、タイマー機能も搭載されており、選択した番組を今すぐ転送するか、指定した時間に転送するかを選択できるようになっているのも、悪くはない工夫だ。

タイマーによる転送予約が可能。せっかくなら、キーワード検索などで条件を指定して、特定の時間に自動的に転送できるようにしてほしいところ

 しかし、結局、何が面倒かというと、外で見たい番組があるたびに、この転送操作をしなければならない点だ。スマートフォン向けの設定画面も用意されているため、手元のスマートフォンからnasneの録画番組を転送することもできるが、毎回、手動で転送しなければならないのは同じだ。

 時間を指定して転送できるのだから、たとえば、キーワードを設定しておいて、条件に合う番組を定期的に検索して、転送リストに登録。夜間など、指定した時間に自動的に転送するといった使い方もできそうなものだ。

 こういった使い方ができるようになれば、依然としてビットレートの問題はあるものの、nasneとの連携させて使うというシーンも現実的に思える。ついでに、モバイル用の録画データを転送するようになれば、なおうれしい。

利用環境を十分にチェックしてから購入すべき

 以上、アイ・オー・データ機器のDTCP+対応録画用NAS「RECBOX HVL-A」シリーズを実際に使ってみたが。やはり「惜しい」という印象だ。

 製品自体は、スカパー!HDチューナーやネットワーク経由での録画に対応したテレビの録画先として使えるうえ(レグザなどから録画した映像をDTCP+で再生するにはダビング操作が必要)、レコーダーのダビング用として活用することもできるので、基本的な性能に文句はない。

 しかし、最大の特徴でもあるDTCP+は、あまりにも快適に使える環境が限られすぎている。録画データは5Mbps以下(理想は3Mbps前後)にすべきで、クライアントはWindowsのみ、しかも対応するNAT方式の通信機器を利用しないと再生できない。これでは、購入したはいいものの、外から見たいという目的のためだけに、既存の録画設定を見直し、通信機器を買い直すという、本末転倒な結果になりかねない。

 DTCP+に関しては、相互接続がほぼ期待できないなど、まだ規格として未知な部分も多い。また、ビットレートの問題を解決するには、本体でトランスコードするなどの工夫が必要だと思われるが、おそらく現状のハードウェアでは対応できないだろう。

 どうしても、欲しいというのであれば、最低でも、DiXiMリモートアクセスサービスのチェッカーを実行して、利用環境を確かめてから購入すべきだが、個人的には、今の段階で手を出すのは時期尚早という印象だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。