清水理史の「イニシャルB」

USB3.0対応のDraft 11ac対応無線LANアダプタ
アイ・オー・データ機器「WN-AC867U」

 アイ・オー・データ機器から、Draft 11acに対応したUSB接続の無線LANアダプタ「WN-AC867U」が発売された。イーサネットコンバーター以外でDraft 11acを利用可能となる貴重な製品だ。その実力を検証してみた。

867Mbpsを実現

 ようやくDraft 11acを気軽に使える環境を整えられそうだ。

 NECから登場予定の夏モデルのPCで一部Draft 11ac対応機が登場予定となったうえ(詳しくはこちら<http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20130514_598611.html>を参照)、NECアクセステクニカのAtermシリーズ向け子機となる「AtermWL900U」も5月中旬から発売予定となり、Draft 11acのクライアント環境が徐々に整い始めてきた。

 現状、Draft 11acの性能をフルに発揮するには、親機を2台購入する必要があったが、速度には若干の妥協がまだ必要なものの、もう少し低コストで高速な無線LAN環境を構築できる環境に目処が立った印象だ。

 そんな中、Draft 11acを利用するためのクライアント用無線LANアダプタとして、先行して市場に投入されたのが、今回取り上げるアイ・オー・データ機器の「WN-AC867U」だ。

アイ・オー・データ機器のDraft 11ac対応無線LANアダプタ「WN-AC867U」

 同社製のDraft 11ac対応の親機は、現状、「WN-AC733GR」という1ストリーム対応(他社の1300Mbps対応製品は3ストリームMIMO対応)で最大433Mbpsの製品しかラインナップしていないが、これに先行して、より高速な子機が発売されたことになる。ライナップとしてはちぐはぐだが、親機で遅れを取ったものの、子機では先行しようという戦略だろう。

 と言っても、「WN-AC867U」の通信速度は、製品名が表す通り、最大で867Mbps。現状のDraft 11acの最大速度は、3ストリームMIMOと80MHz幅の組み合わせで最大1300Mbpsなので、この2/3止まりということになる。

 実は、冒頭で取り上げたNECの夏モデルPCも、NECアクセステクニカが発売予定の「AtermWL900U」も、その最大速度は、同じ867Mbpsとなっており、現状は、ここが限界ということになりそうだ。

 1300Mbpsに対応できない理由は、おそらくクライアント向けのチップ問題か、アンテナの問題と予想される。特に、今回のWN-AC867UのようなUSBスティックタイプの製品では、MIMO用に3本のアンテナを配置することが難しい(同様の理由でDraft 11ac対応スマートフォンなどもMIMOなしの433Mbpsまでの実装が一般的になると思われる)。

 1300Mbps対応の子機や内蔵PCがいつ登場するかは不透明だが、しばらくはDraft 11ac対応クライアントと言えば、867Mbpsという状況が続きそうだ。

USB 3.0対応で高速化

 それでは、製品を見ていこう。まずは、外観だが、「結構大きいな」というのが第一印象だ。

 本体前面に、必要に応じて引き起こせるようになっている可動式のアンテナを搭載している影響もあり、サイズは幅32×奥行き101×高さ14.2mm(USBコネクター除く)と、なかなか大きい。

 もともと無線LANのUSBアダプタはMIMO用に複数アンテナを搭載する必要がある影響で、USBメモリなどと比べるとサイズが大きくなりがちだが、その中でも、存在感がある方と言えそうだ。

無線LANアダプタとして見ても若干大きめ
可動式のアンテナを搭載
USB3.0で接続する
実際にPCに装着したところ

 外観で特徴的なのは、やはり接続インターフェイスだろう。Draft 11ac対応によって通信速度が867Mbpsと、USB2.0の480Mbpsを越えたことから、より高速なUSB3.0に対応している。

 もちろん、USB2.0で接続することも可能だが、その場合、若干、転送速度が落ちてしまうので、USB3.0で接続するのがおすすめだ(詳しくは後述)。

 なお、本体側面にボタンが搭載されているが、これは本製品では使用しない。本来は、専用のユーティリティなどを利用し、WPSの接続などに使うためのものと思われるが、本製品にはユーティリティは同梱されず、接続にはWindowsの無線LAN接続ツールを利用する。このため、ボタンを使う機会はない。

 このため、インストールもシンプルだ。付属のDVDから、ドライバーをインストールし、USBポートに本製品を取り付ければ利用可能になる。接続方法も、前述した通り、Windowsの無線LAN機能を使うので、特別な操作や手順は不要だ。

接続ユーティリティなどは付属せず、ドライバのみをインストール。接続にはWindowsの機能を利用する
アダプタのプロパティ。設定できる項目もあまり多くない
リンク速度の上限は867Mbps

867Mbpsでも十分な速度を実現

 肝心のパフォーマンスだが、USB接続の手軽なクライアントとして考えると悪くない印象だ。

 以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にNECアクセステクニカのAtermWG1800HPを設置し、1~3階の各フロアから速度を計測した結果だ。参考として、以前、本コラムで計測したAtermWG1800HPを2台利用時の値、AtermWG1800HPとIntel Advanced-N 6250AGNの組み合わせの値も掲載する。

【表1】FTP転送速度(専用クライアント)
親機子機使用周波数帯・速度
GETPUT
AtermWG1800HPAtermWG1800HP5GHz(1300Mbps)1F186.71463.31
2F186.43400.94
3F127.26236.02
WN-AC867U5GHz(867Mbps)1F106.91258.99
2F84.4200.14
3F54.17148.63
Intel Advanced-N 6250AGN5GHz(300Mbps)1F112.9186.43
2F77.84129.36
3F42.88105.47
  • クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • FTPサーバー:Synology 1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ1GB)
  • 100MBのZIPファイルを転送
【表2】iPerf速度(TCP Window Size 256K)
親機子機使用周波数帯・速度
UPDOWN
AtermWG1800HPAtermWG1800HP5GHz(1300Mbps)1F497513
2F432426
3F251298
WN-AC867U5GHz(867Mbps)1F323296
2F246168
3F156104
  • PC1:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • PC2:Intel DC3217IYE NUC(Core i3、128GB SSD、メモリ4GB)
  • サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t60 -i1
  • サーバーとクライアントを変更してUPとDOWNを計測
【表3】iPerf速度(TCP Windows Size 256K,Parallel 3)
親機子機使用周波数帯・速度
UPDOWN
AtermWG1800HP5GHz-1000BASE-Tコンバータ5GHz(1300Mbps)1F631728
2F510560
3F306333
WN-AC867U5GHz(867Mbps)1F444303
2F310158
3F157107
  • PC1:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • PC2:Intel DC3217IYE NUC(Core i3、128GB SSD、メモリ4GB)
  • サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t60 -i1 -P3
  • サーバーとクライアントを変更してUPとDOWNを計測
【表4】USB2.0/USB3.0比較
親機子機使用周波数帯・速度
UPDOWN
AtermWG1800HPWN-AC867U5GHz(867Mbps)USB3.0106.91258.99
USB2.096.59163.73
  • クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • FTPサーバー:Synology 1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ1GB)
  • 100MBのZIPファイルを転送

 値としては、順当といった印象だ。FTPによる計測では、上り方向のPUTで258Mbpsを実現できており、1300MbpsのDraft 11acの半分程度とはなるものの、IEEE802.11nと比べるとワンランク上という印象だ。遠距離の3階でも実行で148Mbpsと十分な速度を実現できている。

 iPerfによる計測も良好で、通常転送で300Mbpsオーバー、-P3オプション付で平行転送した場合で400Mbpsとなった。こちらも傾向としては同じで、1~3階ともに1300Mbps時の約半分の速度で通信することができた。

 これなら、デスクトップPCの無線化なども十分に現実的なうえ、IEEE802.11nを内蔵したノートPCの無線強化という目的でも十分に利用する価値がありそうだ。

 なお、USB2.0とUSB3.0の差については、以下のようになった。同じ1階でのFTPによる計測だが、GETはほぼ同等、PUTで100Mbps前後の差が付いた。近距離であれば、インターフェイスがボトルネックになってしまうが、それでも163Mbpsは出ているので、距離が伸びて無線側がボトルネックになれば、さほど気にする必要もなくなりそうだ。

 基本的にはUSB3.0で使うべきだが、USB2.0でもDraft 11acの恩恵を受けることができるだろう。

Draft 11ac環境のお伴に

 以上、アイ・オー・データ機器のDraft 11ac対応無線LANアダプタ「WN-AC867U」をテストしてみたが、Draft 11acの親機と組み合わせた際に、既存の300Mbpsクラスの内蔵無線LANよりも高速な通信ができることがわかった。

 せっかくDraft 11ac環境を手に入れても、クライアント側の無線LANが遅ければ意味がないので、この環境を活かすための「お伴」としてはいい投資と言えそうだ。実売価格も6000円強なので、Draft 11acの親機を2台購入するよりも遙かにリーズナブルだ。

 Draft 11acがPCに内蔵されるようになるまでには、まだしばらく期間がかかりそうなので、それまでのつなぎとして購入するのは悪くないと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。