10代のネット利用を追う

受験コミュニティ「uchico」が中高生に人気なわけ

サミーネットワークスに聞く


 サミーネットワークスが運営する中高生向け無料学習サイト「uchico(うちこ)」が会員数55万人を突破し、お悩み相談サイト「こころ部」とともに、「モバイルプロジェクト・アワード2009」で優秀賞を受賞した。「中高生は勉強しない」「携帯電話=遊び」というイメージを覆すこのサイトは、なぜ中高生にウケているのだろうか。同社新規企画本部エデュテイメントチームシニアプロデューサーの紙本亜矢美氏に話を聞いた。


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音声、動き、ゲームを利用して楽しく勉強

 まずは、「uchico」の具体的なコンテンツを簡単に紹介しよう。人気なのが「歴史deラップ」「文法ラップ」だ。ラップの音と動画に乗せて歴史の出来事や年号、文法が覚えられるようになっている。


歴史deラップ(645年 大化の改新)

歴史deラップ(1853年 ペリーの開国要求)

 「ガチンコ★暗記デコ画」は、要点を携帯電話のFlash待ち受けにしたもの。数学や理科、社会などの学習単元別に、今習っている単元に合うものを選べるようになっている。開く度に内容が切り替わるため、携帯電話を頻繁にいじる中高生にぴったりだ。

 「英語リスニング」では、字幕付きムービー&ボイスで英語をヒアリングしながら問題を解くことができる。「音声が出たり画面が動いたりすると、参考書より飽きづらい」と紙本氏。

 ケータイ小説を使って和歌などの古典の意味を知るコンテンツ「ケータイ小説で読む古典」もある。和歌や古文は独特な言葉で成り立っていてわかりづらいものだ。そこで、「恋愛の悩みが多いなど、昔も今も考えていることは同じなので、内容がわかりやすいように子どもたちが好きなケータイ小説にしてみた」という。


ガチンコ★暗記デコ画(数学)ガチンコ★暗記デコ画(理科)

ガチンコ★暗記デコ画(社会)うごく参考書(英語)

英語リスニング実力診断ケータイ模試(英語)

 「うごく参考書」はFlash待ち受けとなっており、英語・国語・歴史・古文・数学・公民・世界史・英語リスニングなどの要点をチェックしたりテストを受けたりできるようになっている。同様に「実力診断ケータイ模試」では一問一答式でテストが受けられる。そのほか、高校歴史の古代を扱ったFlash野球ゲームもある。問題に回答して正解ならヒットになり、試合の勝敗を競うというわけだ。

 「合格!メントレ」という診断テストは、自分の性格のタイプをチェックし、ぴったりの集中力アップ法を紹介するコンテンツだ。また、面接対策を漫画で学び、ゲームで実践できる「なのこの面接」というコンテンツも用意。「uchico」の全コンテンツを使えば、普段の定期テストから受験までの基礎部分がカバーされる内容となっている。


Flashゲーム

なのこの面接

 このように、「uchico」のコンテンツは携帯電話の特性を生かし、楽しみながら勉強できるようになっている。「画面が小さいために詰め込める情報が限られているが、音や動画に乗せて伝えることができたり、ゲームをしながら学べるのが利点」。携帯電話ならば移動中や寝る前など、場所や時間を選ばずに利用できるところもポイントだ。

勉強+コミュニティ=uchico

 もともと紙本氏は、着メロやデコメの企画運営をしていた。その関係で、メインターゲットである10代の子たちと話すことが多かった。話してみると、子どもたちの悩みは、受験、勉強、恋愛、友人関係など、昔から変わらないことがわかった。

サミーネットワークス新規企画本部エデュテイメントチームシニアプロデューサーの紙本亜矢美氏

 子どもたちが日常で最も頻繁に接しているものは携帯電話だ。紙本氏は「彼らの得意な携帯電話で、いちばんの悩みである“受験”をサポートするサービスができれば、成績も上がり、勉強もやる気になれるのでは」と考えた。そして2007年3月に生まれたのが、公式サイト「ウチらのベンキョー委員会」だ。

 いずれコミュニティ機能は付けたいと考えていた。しかし、当時は子どもがネットで巻き込まれる事件が多発している時期でもあり、世間がネットでのコミュニケーションに厳しくなっていた。業界基準もなかったため、まずはコミュニティ機能がない状態でサービスを開始した。

 その後、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が設立され、サミーネットワークス自身も安全にコミュニティを運営できるノウハウが貯まってきたため、コミュニティ機能も追加して2008年8月に開始したのが、現在の「uchico」だ。

ライトなコンテンツながら、勉強になる

 「uchico」は現在、会員数55万人と順調に伸びており、滞在時間も長めだ。無料コンテンツというだけではなく、さまざまな工夫が加えられたからだ。

 「uchico」では、「たけしの誰でもピカソ」出演などで知られるダンサーのスメリー氏が漫画を提供するなど、ぐっとライトなコンテンツが増えた。前述のように待ち受けで要点が覚えられるなど、内容的にも取っつきやすくなっている。

 「真面目に勉強だけでいったらここまで伸びたかどうか」と紙本氏は語る。いきなり本格的に勉強とかまえるのではなく、遊び感覚で始めて、気付いたら勉強になるように作ったのがポイントだ。「子どもたちにヒアリングしつつ、彼らに合った内容を増やしている」。

 もちろん、試験や受験に役立つことも重要だ。学習要素は教材を作る編集プロダクションに学習要項に沿って作成してもらい、楽しむ要素部分をサミーネットワークスが担当しているため、勉強になりつつ楽しいという両立が可能になっている。その成果もあり、「成績が上がった」という感想や、「受験で合格した」という感謝のメールも多く寄せられている。また、「『歴史deラップ』を兄弟で歌っている」「お姉ちゃんの成績が上がったのはなぜかと思ったら、『uchico』を使っていると勧められた」など、兄弟・姉妹で利用していることも多く、口コミで会員が増えているという。


歴史deラップ(239年 卑弥呼が魏に使いを送る)歴史deラップ(794年 平安京遷都)

普通の子が使う、受験コミュニティ

 「uchico」のユーザーの7割は中高生。2008年は中学3年生が多かったが、今は高校生が若干多めだ。男女比は6対4で女子の方が多い。成績がいい子もいれば悪い子もおり、模試の平均点から見ると「成績が中から下くらいの層が多い」。

 「uchico」では、サイト内で知り合ったユーザー同士のやりとりのほか、リアルな友達同士のやりとりもなされている。やりとりが増えるのは定期テスト前が多く、受験期に最も多くなる。受験シーズン後の3月はアクセスが減るが、学校が始まるとまた戻ってくる傾向にある。

 「uchico」内での友達は「勉とも」と呼ばれる。mixiでいうマイミク的存在となっており、1日何時間勉強したかを記録できる「勉強ブログ」などでの交流が可能だ。「同じ時間に勉強してくれる子募集」「ここがわからないので教えてください」といった交流が日々行われている。勉強はそもそも孤独なものだが、「一緒に頑張っている子がこれだけいる」と感じられるのが魅力になっているのだ。

勉強目的のコミュニティなので、出会い系はスルーされる

 「uchico」では、安全対策のために顔写真や個人情報は載せられず、住所やメールアドレスなどもやりとりできないようになっている。

 ユーザーは中高生以外にもおり、小学生や大人たちも会員となっている。大人の会員は主に保護者などだが、中には「つい懐かしくて覗いた」という人も多いという。ただし、大人と子どもの間での不純なやりとりはない。サイトの趣旨が“勉強”“受験”なので、たとえ掲示板に大人が「会おうよ」と書いてもスルーされてしまうからだ。「話題が学校、勉強、部活など子どもたちの日常の会話が多く、大人は入りづらい。『出会いの書き込みを削除してください』という依頼も来ない」。

 ちなみに、石川県議会で「小中学生の携帯電話所持禁止」が条例として可決されたことについて意見を募るトピックを立てたことがある。子どもたちからは「禁止にするのではなく、より安全な環境を作るべき」(14歳女子)、「強制的なやり方だと反感を買うだけ」(13歳女子)、「持つ持たない以前に、大人が変なサイトとかを作れないようにするべき」(14歳女子)など、大人には耳が痛い意見がたくさん寄せられているという。

寄せられる悩み、75%が人間関係

 「こころ部」は、携帯電話のリテラシーを学べるとともに、悩み相談もできるサイトだ。「携帯電話に関連する事件に子どもたちが巻き込まれるニュースを耳にして、未成年者にコンテンツを提供する事業者としてできることは何かを考えた」と紙本氏。ユーザーに携帯電話やサイトなどを安全に使ってもらいたいという願いで2008年6月に開設した。

 その中の「おなQ」というコーナーは、ユーザーからの悩みごと相談を受け付けているQ&Aだ。紙本氏をはじめ、「こころ部」の運営チーム全員が全国webカウンセリング協議会の「ネットいじめ対応アドバイザー」資格を取得し、すべて内部のスタッフで対応している。大人から叱られるのは子どもたちが喜ばないだろうと考え、「Dr.ロココ」というキャラクターに答えさせる形式を取っている。


おなQキケン体験!クリック

 相談に対する回答は他のユーザーも事例として参照できるよう基本的に公開制だが、「明日までに○万円支払えという請求が来て親にも言えずに困っている」など、緊急を要する悩みには即時対応している。そのほか、「小説サイトと思って入ったら出会い系サイトだった」「出会い系サイトとは知っていたが、無料と書いてあったのに3万円請求された」「コミュニティサイトに出会った人とメールしてもいいか」など、さまざまな悩みが寄せられる一方で、「公開事例を読むことで架空請求と気付くことができた」などのお礼メールも届くという。

 当初は、携帯電話絡みの悩みを扱うつもりで開始したが、最近は「友達と仲良くできない」「親との関係がうまくいっていない」「つきあっている彼氏とどうしたらいいか」「掲示板に嫌がらせを書かれた」「自分が悪口を書いた犯人と思われている」などの人間関係、恋愛関係、いじめなどの悩みにシフトしてきているという。全体の75%が人間関係・日常生活に関する悩みであり、詐欺や架空請求が15%、そのほか、サイトの退会方法やチェーンメールなどの悩みが寄せられている。


なのてく

 読んで学ぶコンテンツもある。「なのてく」は、出会い系サイトを通じて人と会ったり、個人情報が漏れて危険な目に遭ったらどうすればいいかといった事例を具体的に漫画で紹介しているコンテンツだ。寄せられた相談や事例をもとに描いているため、現実に即しているところがポイントだ。「ケータイ恐怖劇場」も同様に、携帯電話の利用に伴う危険が描かれている漫画だ。さらに「キケン体験!クリック」では、無料サイトでついクリックしてしまうリンクやバナーによる、フィッシング詐欺や架空請求など危険を疑似体験できる。

 「こころ部」のユーザーは、「uchico」のユーザー層とかぶっているが、若干年齢が低めだ。携帯電話を持ち始めたばかりの子が多く、小学校高学年から中学1、2年生を中心として、上は高校3年生くらいまで。30万人のユニークユーザーがおり、「おなQ」が一番人気だという。月間300通弱ほどの相談が寄せられる。

悩みの種類は増えたが、世界の広がりも

 「uchico」や「こころ部」のユーザーから見る、今の10代像を聞いてみた。紙本氏いわく、「本質的なことは昔と変わらないが、悩みの種類は多少変わってきた」。本来コミュニケーションは難しいものだ。なのに、便利なツールがあるせいで子どもたちは手軽なものだと勘違いしやすい状態にあり、それがトラブルにつながっている面があるのだ。いじめも、昔は噂だけで済んだのが、今は掲示板やメールで書かれるために、子どもたちの受ける心のダメージは大きくなっている。

 一方、「子どもたちがネットやメールに救われていることも多い」とも言う。誰にも打ち明けられないことをネット上で誰かに語ったり、解決したりしている子は多く、大人よりも世界が狭い子にとっては救いになっているのだ。「勉とも」に登録できるのは当初100人という制限を設けていたが、子どもたちの要望により1000人まで拡大した。「そこまでつながっていたい欲があるのかと驚いた。もっと見てもらいたいし、知らない人とつながりたいのだろう」。

 また、「大人がブログを書くときはかまえてしまうが、中高生は気軽に書ける上、きちんと使い分けている」という。イベントなど特別に書くことがある時はmixi、通常のつぶやきは“リアル”などという具合だ。「大人から見ると2つを使うのは大変ではないかと思うが、子どもにとってはそれが普通」。同時に、個人情報を気軽に公開してしまう傾向にあり、危機感を感じるという。

受験生が得するサイトに

 「uchico」の現在のビジネスモデルは、タイアップや広告などだ。今後、より深く学べるコンテンツについては、保護者にも納得してもらえるような形で有料化を考えている。将来的には参考書や携帯ゲーム用学習ソフトに展開するなど、二次展開・三次展開も検討している。

 「今後、『受験を控える子なら、uchicoに入っていたら得だよね』と思われるサイトにしたい」と紙本氏は抱負を語る。まだすべての教科のコンテンツがあるわけではないため、今は用意していない政治経済や倫理、地理などの教科も取り入れる予定だ。そのほか、「うちの学校と範囲が違う」という意見も寄せられており、学習範囲についても検討していくしていく。

 「こころ部」については、「事例が集積されてきたので、もっと広く子どもに見てもらって、犯罪に巻き込まれる子が減るようにしたい。保護者にも携帯電話の怖い事例を紹介したい」という。

 「中高生は勉強しない」「携帯電話=遊び」というイメージを覆すこのようなサイトを見て、携帯電話の可能性を感じた。携帯電話のコンテンツに落とし込むと、本来関心がなかったことにも子どもは興味を持つことがある。安易な携帯電話の規制は、このようなサイトが出てくる芽を摘んでしまいかねないのではないか。


関連情報

2009/11/19 06:00


高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人” が関わるネット全般に興味を持っている。