天国へのプロトコル
第20回
相続したら二重課税で赤字に!? 現在の暗号資産が抱える高すぎるリスク
2024年5月24日 06:55
整備途上の怖さを抱える暗号資産
最初の暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの運用が始まったのは2009年のことです。それから15年が経過し、国内の暗号資産取引所にはおよそ1000万の口座が作られるなど、暗号資産を所持するのは珍しいことではなくなっています。
しかし、相続対象としてみるとこの財産は突出してハイリスクな存在ともいえます。銀行の預金や有価証券、従来の金融派生商品よりも歴史が浅く、まだまだ過渡期にあるからです。
相続財産としての暗号資産はどんなリスクを抱えているのか。実際のところを国税庁と暗号資産に詳しい税理士法人に尋ねました。
暗号資産リスクその1:気づかなければ相続税の延滞税がかかることも
暗号資産で第一に思い浮かぶリスクは、発見しにくさではないでしょうか。
暗号資産は電子財布(ウォレット)に入れて保管しますが、そのウォレットの場所はオンラインやスマホ内、PC内、外付けドライブ内、紙媒体など多岐にわたります。加えて、国内外の交換所を通して売買するだけでなく、個人間取引や「マイニング」「ステーキング」といった手法で新たに取得することもでき、銘柄も多岐にわたります。
本人が周囲に何も伝えずに亡くなった場合、遺族が全てのウォレットを把握するのは相当困難です。だからといって放置していると、何かしらの理由で後から発見されたときに大変なことになります。
遺産分割協議がやり直しになるだけならまだましです。時価にして数千万円を超える高額の暗号資産が残されていたとしたら、相続税(3000万円+相続人×600万円の控除分を超える遺産が対象)を納める必要が生じる可能性がありますし、発見が遅れた場合はさらに延滞税や過少申告加算税が加算されることも考えられます。
何かしらの容赦がほしいところですが、現在はとくに保護措置等はないそうです。2018年3月23日の参議院財政金融委員会で、遺族が引き出せない状態の暗号資産の相続税について藤巻健史議員が国税庁長官代行に質問したところ、そうした事情にかかわらず承継された暗号資産は相続税の課税対象になるとの答弁を残していますが、国税庁の職員に確認すると「当時から状況は変わっていません」とのことでした。
そうなると、遺族としてはいよいよ暗号資産の有無を確かめなければなりません。ノーヒントであるなら、明らかになっている故人の預金口座やデジタルの履歴から辿っていくことになるでしょう。
金融庁に暗号資産交換業者として登録が確認できる取引所での売買や契約を発見した場合はひとまず安心です。その取引所に遺族として問い合わせれば、国が定めた手引きに則って残高証明書の発行や日本円に換金したうえでの振り込みまで応じてもらえます。
しかし、海外の取引所は対応に幅がありますし、無人で動いている分散型金融(De-Fi)や個人間取引などで仲介者が不在の場合は、そもそも相談する窓口がありません。このあたりの不透明さはなおも晴れる気配がないのが現状です。
暗号資産リスクその2:あまりに高額が残されると二重課税で赤字になる危険も
すんなりと暗号資産が見つかったとしても安心はできません。暗号資産に詳しい「たまらん坂税理士法人」代表の坂本新税理士は、「100億円相当の暗号資産を相続した場合、100億円以上の税負担がかかってしまうんです」と警鐘を鳴らします。
これは二重課税によって発生してしまうリスクといえます。
相続税は相続財産の額に応じて段階的に税率が高くなっていき、6億円を超えると最大税率の55%に達します。100億円相当の暗号資産だけを相続する場合、諸々の控除分を差し引いても、家族構成によっては納税額が54億円を超えます。
さらに、引き継いだ暗号資産を日本円に交換すると、税制上は雑所得を得たことになり、税金を納める必要が生じます。雑所得には4000万円以上で45%となる所得税のほか、住民税と復興特別所得税(あわせて10%強)もかかります。交換手数料を差し引いた額で計算すると相続税の上限に近い値になり、合計額は110億円近くまで迫ります。数億円クラスの大赤字です。それに気づいて相続放棄しようにも、その期限は死亡から3カ月しかありません。
本来の財産価値を超える税を納めるというのはいささか現実離れした話にみえますが、現在の税法上は免れない構造になっているとのこと。「仕組み上のエラーですね。私どもが会員となっている日本暗号資産ビジネス協会でも3年前からこの問題の議論をしていますが、国はまだ修正していません」(坂本税理士、以下同)
あまりに高額なためについ机上のリスクのように捉えてしまいますが、坂本税理士は直近に迫る危機だと訴えます。
念頭にあるのは2014年に経営破綻したマウントゴックス社です。2023年12月から再生債務者により円建てによる弁済が始まっており、2024年10月末を目処に完了させると告知しています。
マウントゴックスが閉鎖した2014年2月の1BTCは1万8000円程度でしたが、2024年3月には1000万円を超えました。当時100BTCを同社に預けていた人が弁済を受けると100億円近くになるわけです。「そういう人が国内にたくさん現れていますし、その中には故人がいても不思議ではありません」
暗号資産リスクその3:現状では子から親への相続となるケースが圧倒的に多い
坂本税理士はもうひとつ、第三のリスクも強調します。
「暗号資産の相続は、若くして亡くなった人が残していったというケースが圧倒的に多くなっています。独身の場合、相続するのはまずご両親ということになります。一般的な相続とは向きが逆になるわけで、そこがまず大きな壁になっているんですよ」(坂本税理士)
日本暗号資産取引業協会の「暗号資産取引についての年間報告 2022年度」によると、国内で暗号資産取引所に口座を持つ人は50代以下で9割を超えます。中心層は30代(32.25%)で、一般的に終活世代とされる70代以上の人は全体の1.6%程度です。この現状では暗号資産が「子から親へ」の相続財産になるのは必然といえるかもしれません。
実際に、同税理士法人に暗号資産の相続相談をする人は、故人の父や兄弟というケースが大半といいます。
「独り立ちした子の財産を調べるのは、子が親のものを調べるよりも相当難しいわけです。一般的な財産でもそうなのに、ましてや暗号資産という新興の財産まであるという状況です。相談しようにも暗号資産に詳しい窓口はまだまだ少なく。現場で直面しているのはまさにここの問題なんですね」
他者からは実態の把握が難しく、財産価値の変動が激しい暗号資産ゆえに、所持する当事者が有事も想定して手綱を握る姿勢が求められるといえるでしょう。税制の早期の改正も期待したいところです。
今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。
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