天国へのプロトコル
特別編
ぼくらのデジタル生活には落とし穴が空いてる―12月7日開催「デジタル遺品シンポジウム」の狙い
2023年11月21日 06:00
遺品になった途端に現れる“デジタルサービスの落とし穴”
来る12月7日に、死後に残るデジタルデータや契約などについて話し合う「第5回 デジタル遺品を考えるシンポジウム」を開催します。
- デジタル遺品を取り巻く現状について詳しく知りたい
- 企業や組織で、ユーザーのアカウントやデジタル資産の継承問題に携わっている
- デジタル終活やデジタル遺品サポートに関連した事業を検討している
そもそものところ、なぜ「デジタル遺品を考える」必要があるのでしょうか?
答えはシンプルで、死後に現れる“デジタルサービスの落とし穴”に対処するためです。
現在の日本はスマートフォンの世帯保有率が9割を越え、国民の8割がSNSを利用し、キャッシュレス決済比率が10年以上前から右肩上がりを続けて36%に達するなど、デジタルが普段の生活にすっかり定着しています。いまもしINTERNET Watchがプレ創刊した1995年の暮れに戻ったら、老若男女問わずものすごく不便に感じるでしょう。インターネットが誕生したばかりの時期で、カメラ付きケータイもネット銀行もまだありませんでしたから。
われわれの暮らしに欠かせない存在となったデジタルですが、持ち主が亡くなって「デジタル遺品」となると、途端にどうすることもできない困った事態に嵌まり込むことがあります。
たとえば、スマホは非常に強固なセキュリティで守られていますが、解く鍵は持ち主が自分で設定するパスワードです。このパスワードを誰にも伝えないまま持ち主が亡くなると、端末内にのみ保存しているデータ――直近の行動履歴や家族写真、仕事のデータなど――が閉じ込められてしまいます。ノーヒントでこじ開けられる専門業者はほとんどありません。
故人が残したサブスクの契約も、クレジットカードの退会だけで済まないケースが多々あります。この場合、誰かが代理で個別に契約した窓口を探して解約手続きをとる必要がありますが、導いてくれる総合的なサポートやガイドラインのようなものはまだ存在しません。遺族はノーヒントで一つひとつのIDとパスワード、契約窓口などを突き止めなければならないのです。
何しろデジタル機器やデジタルのサービスは、使用履歴が物理的にはほとんど残らないため、ログアウトした世界からはかなり見えにくい仕組みになっています。それが利用者にとっては安全性と快適なカスタマイズ性に繋がりますが、遺族にとっては冷淡で融通の利かない存在になってしまうわけです。
デジタル遺品について10年以上取材を重ねてきましたが、このギャップはいまでもよく見かけますし、それについてのサポートが見当たらないことも珍しくありません。そうして訪れる、処分も解約も相続もできない詰みの状況。これが“デジタルサービスの落とし穴”です。
デジタル遺品問題を集合知化するきっかけに
この落とし穴を埋めたり、柵を作って落ちないように対策したりするために情報を持ち寄って話し合うことが、シンポジウムの狙いです。
では、どこにデジタル遺品に関する情報があるのかといえば、やはり現場です。デジタル遺品に直面した遺族や周囲の人の経験もそうですし、問い合わせを受けた通信キャリアや各種サービス、あるいはほかの遺品や財産とともに相談に乗った、相続や遺品整理、生前整理の専門組織にもさまざまな経験が蓄積していると思われます。
それらのケーススタディをできるかぎり一堂に集めて集合知化すれば、明日の誰かを陥れる落とし穴に有効な手が打てると思うのです。従来の遺品よりも未整備な領域が多いデジタルこそ、それをすべきだと。
何しろデジタルが世の中に浸透してまだ30年程度です。提供する側からすれば、利用者本人のユーザビリティの向上を優先して整備することは当然でしょう。しかし、人は死にます。死ぬ前に心身に不調が現れて、十分な操作や判断が困難になることもあります。
元気なうちだけ快適に感じられるけれど、ひとたび不調に陥ったらボコボコと空いている落とし穴に嵌まり込んでしまう。そんなリスキーな環境を見つめ直して、できる限りの対応策を探し出す。65歳以上の人口比率が3割に迫るなか、官民をあげてDXを推進しているいまの日本には急務だと思うのです。
今回のシンポジウムがそのきっかけになれたらと切に願っています。12月7日(木)15時30分からインプレスセミナールーム(東京・神保町)で実施します。ぜひチケットを購入して、足を運んでください(追って、YouTubeと弊誌でもレポートを発信します)。