天国へのプロトコル
第29回
故人のスマホは本当に「葬儀の案内状」だけで解約できる? 携帯キャリアサイトの説明と実情
2025年4月23日 06:00
故人のスマホ解約、説明通りにやっても「書類不備」の地獄
都内で暮らすAさん(50代、女性)からこんな愚痴を聞きました。
「亡くなった叔父のスマホを解約するためにキャリアショップに行ったのですが、2時間待たされた挙げ句、書類不備ということで受け付けてもらえませんでした。(キャリアのウェブサイトの)ヘルプページにはスマホ本体と会葬礼状(葬儀の案内状)があればいいと書いてあるのに」
故人のスマホの解約についてはやり直しを経験している人が多いようで、昔からAさんのような声をしばしば耳にします。
待ち時間の長さに関する問題はネットの来店予約サービスを使えば解消できそうですが、解約に必要な条件はキャリアごとに微妙にルールが異なりますし、ショップによって対応の柔軟性が異なり、キャリアがウェブサイトで説明している通りの対応になるとは限らないケースもあるようです。
そこで今回は、できるかぎりスムーズに処理するために、「用意する書類」「手続きする人の続柄」「手続きに行く窓口とタイミング」などのポイントごとに、鉄板の方策を探ってみました。
用意する書類
――死亡届や戸籍謄本の写しが最強
故人のスマートフォンの契約については、通信通話契約とともに電話番号を手放す「解約」と、名義を変更して電話番号を使い続ける契約を結び直す「承継」の2通りがあります。まずは解約と承継に必要な書類や条件について、4大キャリアごとに確認しましょう。
基本的にどちらの処理でも、どのキャリアでも、死亡証明と対応者の身分証明ができる書類が求められることは共通しています。店舗での対応では対象の端末(SIMカード)も求められることが一般的です。
違いについては、第一に、各社に共通した傾向として、「解約」よりも「承継」のほうがより厳重な証明を求められることに注目してください。
承継はその電話番号や契約が継続して使われるため、引き継ぐ人と故人との関係性を明らかにする必要があります。戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)や遺言書などが求められますが、提出する戸籍謄本にページ抜けがあったり、公印が確認できなかったりして書類不備とされるケースは珍しくありません。
故人の死亡証明書類も、承継のほうがより公的なものを求められるニュアンスも感じられます。たとえば、NTTドコモの公式サイトで必要書類の解説を見比べると、解約の死亡証明の書類例では死亡届などに先だって「葬儀の案内状」や「香典返しのお礼状」が挙げられていますが、承継ページでは「戸籍謄(抄)本(コピー可)などをご持参ください」とあり、葬儀の案内状等は本文後ろの「※」印にて補足情報として言及するに留めています。
実際、葬儀の案内状を持参して、「死亡届がないと受け付けられない」と書類不備とされた事例は以前からしばしば耳にします(葬儀の案内状で死亡証明する場合はフルネームの記載が必須です。そこに不備があったケースも少なくないようです)。
以上を踏まえると、可能であれば死亡届や住民票の除票などの公的な死亡証明書の写しを持参するほうが、不備を指摘されにくいといえそうです。さらに承継の場合は対応する人との関係性も証明する必要があるため、戸籍謄本の全ページコピーがよいかもしれません。
ちなみに、解約と承継の対応割合について、auは「概ね8割程度が解約、2割程度が承継の対応をされています」(KDDI広報)となっています。
手続きする人の続柄
――配偶者や子、親などの二親等以内の身内なら盤石
続いて気にしたい重要な違いは、故人の代理で解約や承継の手続きを担う人の条件がキャリアや処理ごとに異なる点です。
NTTドコモで解約する際はとくに条件が設けられていませんが、auでは契約者の家族、ソフトバンクは法定相続人、楽天モバイルは原則として二親等以内の親族としています。
一方で、承継に関してはNTTドコモも「相続関係にある人」という条件がつき、厳重さが一段上がります。このあたりは電話番号の悪用を防ぐための必要な措置といえるでしょう。
ただ、遺族には故人との関係性を証明する手間が増える上、対応できる続柄が条件によっては相当絞られることがハードルになります。例えば、二親等に含まれる続柄は故人からみて配偶者と子、孫、親、きょうだいのみです。いとこや甥姪は条件から外れます。また、世帯が異なり、苗字も変更した場合は続柄を証明する書類が複雑になることもあります。
遺品整理の段階では故人がどのキャリアと契約していたのか分からないこともあります。そう考えると、初期段階からできるだけ続柄が近い遺族が契約関連のキーパーソンを担うのが良さそうです。
手続きに行く窓口とタイミング
――二段階認証で使う機会がなくなってからがベター
手続きする窓口もみていきましょう。こちらは契約時のショップにこだわる必要はありません。そもそも解約や承継に非対応のショップも少なくありません。
契約対応が可能な窓口には、①通信キャリア自身が運営するアンテナショップや、②代理店が運営する直営店、③家電量販店内に設けたキャリア店舗、④複数のキャリアの端末を扱う併売店などがあります。このうち、①と②が解約や承継手続きに応じるケースが多いのが現状です。
各キャリアで窓口を確認した上で、対応する人が訪れやすい窓口に来店予約を入れるのがスムーズです。なお、書類の郵送のみで対応する楽天モバイルやahamoのようなキャリアも珍しくありません。
そして解約や承継のタイミングですが、期限を設けているキャリアはありません。いつ対応しても構わないので、月額料金を考えるとできるだけ早めに処理したい気持ちになりますが、その前に故人が残したサブスクリプション契約やオンライン上の預金、SNSなどを確認すべきです。
インターネット回りの契約では、解約や名義変更などの大きな変更を行う際は二段階認証で本人確認するのが一般的です。多くの場合、二段階認証時の一時パスワードを受けとるために電話番号が使われます。
故人が残したさまざまな契約を確認しないまま電話番号を解約すると、ログインできずに処理が止まる事態が多発しかねません。承継なら電話番号が維持できるものの、故人が残した受信環境から変化が生じるのは避けられず、認証操作に新たなハードルを設ける可能性はどうしても生まれます。
また、電話番号の解約や承継処理をした後にも、オプションサービスの契約だけが気づかれないまま継続するというトラブルも発生しています。そうした事態を避けるためにも、インターネット回りの契約をしっかり確認した上で電話番号の処理に着手したほうが安全です。
以上を踏まえ、故人のスマホは書類も担当者もタイミングも万全の状態で、デジタル遺品整理の最後の仕上げといった意識で処理するのが最善といえるでしょう。
今回のまとめ |
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故人がこの世に置いていった資産や思い出を残された側が引き継ぐ、あるいはきちんと片付けるためには適切な手続き(=プロトコル)が必要です。デジタル遺品のプロトコルはまだまだ整備途上。だからこそ、残す側も残される側も現状と対策を掴んでおく必要があります。何をどうすればいいのか。デジタル遺品について長年取材を続けている筆者が最新の事実をお届けします。