イベントレポート

CEATEC 2023

CEATEC 2023で高市大臣が基調講演、AI戦略を語り「マイ・ドラえもんの世界」にも期待を寄せる

Innovators Gathering Openingレポート

内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の高市早苗氏

 CEATEC 2023の開催初日となった10月17日に、「Innovators Gathering Opening」の名称で、最大1000人が収容できる大ホールでのリアルセッションが行われた。

 「サステナビリティ」「AI」「デジタル田園都市国家構想」の3つのテーマで、それぞれにセッションを用意。いずれもパネルディスカッションを中心とした構成で議論が行われた。

 AIに関しては、「AI等のエマージング技術を活用したデジタル社会基盤の構築」と題した内容で、日本政府のAI戦略について、内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)の高市早苗氏が基調講演を行ったほか、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センターの松尾豊教授をはじめとしたAIに関する4人の専門家が登壇し、AIが社会にもたらす可能性と問題意識を共有するとともに、豊かな未来を拓くための示唆を発信した。モデレータは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)理事長の齊藤裕氏が務めた。

 なお、CEATECの23年間の歴史のなかで、現職の大臣がCEATECで基調講演を行うのは高市大臣が初めてのこととなった。また、その後に行われた「デジタル田園都市国家構想」をテーマにしたセッションでは、デジタル庁の河野太郎大臣が講演した。

次世代を担う人材で発足したAI戦略会議

 登壇した高市大臣は、「AIがもたらす社会変革」をテーマに講演した。

 冒頭、「よく聞かれるのが、国会答弁の作成に生成AIを使っているのかということである。だが、私の国会答弁は、官僚も想定できないことを言い散らかすので、生成AIといえども生成できない」と断言。しかし、「技術の進歩は目覚ましく、様々な用途が期待される。問い合わせへの対応、事業所の安全管理、文献調査、議事録作成などへの活用が始まっている。また、市民との対話のなかから虐待や認知症の疑いがあることをAIで探知したり、新たな材料開発や薬品開発にAIを用いたりといったケースもある。サイバー攻撃対策や災害予測などにも利用されている」などとし、生成AIの利用の広がりを強調した。

 一方で、「AIのリスクを抑えることは政府にとっても、産業にとっても重要なことである。また、日本のIT産業が、AI開発力を身につけることは重要だが、IT産業以外の業界がAI導入の遅れによって、競争力を失わないようにする視点も重要である」とも述べた。

 2023年5月にスタートした政府のAI戦略会議の取り組みについても言及。「北野宏明氏(株式会社ソニーリサーチ 代表取締役 CEO )を除くとすべてのメンバーが、40代以下の構成だ。北野氏も精神年齢は30代であり、次世代を担う人たちに、次世代のことを議論してもらっている」と前置きし、リスクへの対応、AIの利用促進、AI開発力の強化の3点を主要な施策に位置づけていること、検討中のAI事業者向けガイドラインは、信頼できるAIシステムの開発、提供、利用を目的にしており、それに則り、遵守すべき事項を示すことになるとした。

データセンターの拡充を重視、AIがもたらす未来への期待も

 日本のAI開発力強化については、「官民のデータセンターを拡充し、計算資源を整備することを、政府も後押しするが、時間がかかる。そのため、まずは外資系企業のクラウドサービスを借りて、迅速にモデル開発ができる支援を行う。データセンターが使用する膨大な電力消費の課題を解決するために、AI計算処理向けの省エネ半導体の開発支援にも取り組む。ディープラーニング向け半導体は世界的に独占状況にあり、その解消も目指すべきである。さらに、偽情報対策技術の開発や、中小企業や医療分野をはじめとした重要領域でのAI利用の促進も進める。2024年度のAI関連予算は約1600億円を要求しており、このほかに補正予算も検討している」と語った。

 さらに、「個人的な意見も含めたものだが」と前置きしながら、「AIの開発には、巨大なデータセンターが必要になる。そのため、開発された少数のAIを、世界中の人たちが使っているのが現状である。このような寡占状態は健全ではない。将来的にはデータセンターの大容量化、低コスト化、省エネ化が進み、分野ごとや業界ごとにチューニングされた多様なAIが登場し、使用できるAIの選択肢が増える可能性がある。個人がパーソナルAIを所有し、『マイ・ドラえもん』の世界が実現するかもしれない。それにより、AI関連産業はさらに拡大し、成長する可能性がある。生成AIはまだ黎明期であり、歴史の出発点に立っている。その点でも、あとで振り返ったときに、あのときが転換点だったと思えるのが、今年にCEATECになる」と期待を述べた。

「日本ではスピード感を持って、生成AIに取り組んでいる」と評価

 パネルディスカッションでは、AI戦略会議の座長を務める、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻長の松尾豊教授が、生成AIの動向について説明した。

 「大規模言語モデル(LLM)はパラメーター数が多くなるほど性能が高まると言われており、GPT-4は、2兆パラメーターに達するとも言われている。これに対して、日本の企業が作っている生成AIは数100億パラメーターであり、かなり差がついている。日本にはGPUのリソースが足りない。また、Googleやマイクロソフトは自社のサービスに生成AIを使えば利益を生む構図になっているが、日本の企業ではそれができていないため、いくら投資をしても続かないという課題がある。だが、日本の企業は、LLMをもっと大規模化していく必要があり、医療、金融、製造といった業界や分野に特化したもの、日本語能力を高めたものが必要になる」と指摘した。

 その一方、「日本ではスピード感を持って、生成AIに取り組んでいる」と、現状を評価。5月11日にAI戦略会議が発足してから15日後には、AIに関する暫定的な論点整備が公表された。デジタルテクノロジーに対して、日本がここまで速く反応できたことはなかった。これはすばらしいことである。また、日本のユーザーは生成AIに対してポジティブである。生成AIに関しては、世界においても、日本がいいポジションで議論を進めることができている」とした。

 また、調査結果として、生成AIによって、80%の労働者が影響を受け、高賃金や参入障壁が高い仕事ほど、生成AIの影響が大きいと言われているほか、主要な経済圏では3億人規模のフルタイム労働者の仕事が自動化の影響を受けるが、労働者間の不平等を解消でき、能力が低い労働者には、生成AIが利益をもたらすとの予測が出ていることなども示してみせた。

 今後の生成AI市場については、LLMの開発、自己学習、アプリケーション活用の3つのレイヤーで構成されると予測。「日本は、『広島AIプロセス』をしっかりと進め、現行法の周知徹底、インフラ整備を行うことが最初の取り組みになる。そして、生成AIの活用を通じて、国内産業に付加価値を提供できる環境を作り、その成果をグローバルに展開していくことができると、日本のAIが、世界で戦っていけるようになる」と提言した。

 また、2023年8月に、岸田文雄首相が、東京大学松尾研究室を訪れ、3時間にわたってAIについての学習を行ったエピソードを紹介。「忙しい岸田首相が、3時間も生成AIのプログラミングの勉強を行い、LLM開発の演習までを体験した。GPT-2をベースに、首相演説290回分を加える継続事前学習を行い、ハイパーパラメーターを調整した。岸田首相がこれだけやっている。みなさんも、もっと生成AIを勉強した方がいい」と提案した。

パネルディスカッションの様子。写真左から、大阪大学社会技術共創研究センター 招へい教員の工藤郁子氏、慶應義塾大学大学院 法務研究科 教授の奥邨弘司氏、慶應義塾大学メディアデザイン研究科 教授/一般社団法人超教育協会理事長の石戸奈々子氏、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻長 教授の松尾豊氏、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)理事長兼デジタルアーキテクチャ・デザインセンター長の齊藤裕氏

表現力の向上、知的財産権の保護など、AIを巡る論点が提示される

 デジタル絵本作家としても活躍している、慶應義塾大学メディアデザイン研究科 教授/一般社団法人超教育協会理事長の石戸奈々子氏は、AIの利用者の立場から発言。「すべての人が、AIを使いこなす社会を実現するために、なにをすべきかを考えていきたい」とし、「日本は、ITインフラを整備しても、それが利活用されないために、デジタル敗戦となった。AIでも同じことが起きてはいけない。今後は、AIを使って、すべての人が自らの創造力や表現力を高めることが大事である。クリエティブの質がAIによって向上すると考えている。AIを活用して、新たな創造表現領域を開拓することが求められている。日本の強みであるコンテンツを、生成AIにどんどん学習させて、AIと人間の共創による創造表現領域を実現できる環境を整備したい。新たなテクノロジーに対して、恐れずに、自ら変化していくことが大切である」などと述べた。

 慶應義塾大学大学院 法務研究科 教授の奥邨弘司氏は、生成AI時代の知的財産権について言及。「生成AIが、自動的に生み出したコンテンツは著作権では保護されないが、人間が生成AIを道具としてコンテンツを作った場合には著作権で保護される。これは日米共通の考え方である。議論されているのは、人間による創作と、AIによる表現作成の間ではなにが違うのかという点である。米国では630回のプロンプトでは認められないという例があった。著作権の世界には『額の汗は保護しない』という格言があり、汗をかいたから著作権が認められるわけではなく、思想、感情、個性が込められていることが重要である」とした。

 また、「機械学習は大量の著作物を学習するため、これらのすべての許諾を取るのは現実的ではないということから、2018年の著作権法改正で、非享受目的利用であれば無許諾でも著作権侵害にはならないとする権利制限規定が整備され、機械学習を行いやすい環境が整った。しかし、生成AIが出力したコンテンツが、学習対象のコンテンツと市場で競合し、権利者の利益を不当に害するとの懸念がある。さらに、著作権法では画風や作風、アイデアは侵害にはならないが、この考え方をそのまま生成AIに当てはめていいのかという議論がある。これらの課題を解決しながら、生成AIを使いこなしていく必要がある」と強調した。

 また、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者などを務める、大阪大学社会技術共創研究センター 招へい教員の工藤郁子氏は、「AIを含むエマーシング技術を社会実装するには、数々のハードルを乗り越えなくてはならない。カメラが登場したときには、そのままの風景を映し出すテクノロジーに対して、著作権法を大きく変えなくてはならなくなった。テクノロジーと社会のギャップを埋めるためには、粘り強い議論だけでなく、共創できる場を作ることが必要である。とくに生成AIの場合には、グローバルで議論し、共創する場が必要だ」とし、G7広島サミットにおいて、広島AIプロセスを立ち上げ、今後、国際的な指針づくり、行動規範づくりに取り組んでいること、それらの取り組みが、ルールや政策に留まらず、標準化や研究開発投資についても広がっていることを指摘。「これまでの閣僚級会合の声明のなかではないようなテクノロジーにまで踏み込んだ内容になっている」と評価した。また、10月9日に、京都市で開催したインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)2023において、岸田首相自らが、G7以外の国や、フォーラムに参加したNPOなどに対しても、広島AIプロセスに対するフィードバックを求めたことも評価した。

 モデレータを務めた情報処理推進機構(IPA)理事長兼デジタルアーキテクチャ・デザインセンター長の齊藤裕氏は、「AIをはじめとするテクノロジーは急激に進歩を遂げており、社会全体のデジタル化が、過去に例がない勢いで進展している。企業活動だけでなく、暮らしや教育、医療などに大きな変革をもたらすことは間違いない。だが、テクノロジーが進化するスピードと、社会がそれを受け入れ、適用するスピードには大きなギャップが生じており、これが社会問題になりつつある」と問題を提起。「AIの開発や活用によるイノベーションを止めるべきではないし、止まるものではない。AIを活用しながら、生活をよくすることに取り組むべきである。一方で、技術革新がもたらす課題に対する配慮は必要である。IPAの様々な活動においてもAIを核にしていくことが必要だと考えている」としたほか、「政府には、国際協調できる場をつくることや、広島AIプロセスで議論が進んでいる生成AIを巡る国際的ルール形成にも期待したい」とまとめた。

会場の様子