イベントレポート

CEATEC 2023

阪大発スタートアップThinker、「まさぐってつかむ」画期的な能力を持つロボットハンドを展示

「まさぐってつかむ」(カメラでなく近感覚センサーによる検知により、さまざまな物を適切に持ち上げる)ことができるロボットハンドを実現した

  CEATEC 2023のスタートアップ&ユニバーシティエリアに出展したThinkerは、ばら積みの部品を「まさぐってつかむ」ことができるロボットハンドの試作品を展示している。2025年に製品化する予定だという。

 同社は大阪大学発のスタートアップ企業で、2022年8月に設立。同社の藤本弘道CEOは、パナソニックグループの社内ベンチャーであるATOUN(アトウン)で、アシストスーツの開発、販売を行ってきた人物としても知られる。

 これまでのロボットハンドでは、特定の場所に置かれた部品などを掴むことはできたが、箱になかにたくさんのネジが入っているなかから、必要なネジを「まさぐってつかむ」といったことはできなかった。

 同社が開発した「近接覚センサーTK-01」を利用することで、カメラを用いずに、赤外線とAIを組み合わせた高速、高分解能なセンシングによって、モノの位置と形を非接触で、高速に把握できる。

 赤外線発信部と、受光部および機械学習を行う回路などを約2×4cmという小型の基板に搭載した近接覚センサーTK-01によって、ハンドの押し込み具合を距離として、開き具合を傾きとして検出し、物体のばら積みピッキングを可能にした。

近接覚センサーTK-01により、さまざまなものを検知し、取り出すことができる

 「現場環境に応じた臨機応変なピックアップが可能になり、ものづくり現場を大きく変えることができる技術になる」と、藤本CEOは語る。

 近接覚センサーTK-01を利用して、すでに実用化している事例としては、近接覚センサーとフローティング機構とを組み合わせたロボットハンドにおいて、従来の産業用ロボットでは難しいとされていた鏡面や透明物質をつかむことできるケースがある。

約2×4cmという小型の基板に搭載した近接覚センサーTK-01
Thinkerが開発したAI基板

 「これまでは、カメラでの画像認識などで実現することはできていたが、高額になりやすいシステムが必要とされてきた。場合によっては、2方向以上からカメラで撮影する必要もあり、それもコストの上昇につながっていた。また、大容量のデータを機械学習する必要もあった。展示した技術では、3次元の変位計測が可能な近接覚センサーと、柔軟な関節とを組み合わせることで、カメラレスで対象物の形に合わせてつまみ上げることを可能にし、自動化システムのトータルコスト低減にも貢献する」という。

 展示ブースでは、カメラを使わずに、近接覚センサーだけで鏡面の板を挟んだり、白いコピー用紙を挟んだりといったデモストレーションのほか、ティーチングを行わずに、無造作に置かれている透明の試験管を認識して、適切な場所を挟んで、持ち上げたりする様子をデモストレーションした。

無造作に置かれた透明の試験管も、ティーチングを行わずに挟んで運ぶことができる

 「指先に頭脳があれば、自分で判断して、挟んだり、持ち上げたりできる。モノのピッキングに関わるティーチングの時間を削減したり、それに伴う労力を大幅に軽減できたりするため、さまざまな領域でのロボットハンドの活用を可能にする」としている。

 「近接覚センサーTK-01」は、小型化と薄さを生かして、ロボットハンドのなかに搭載することができる。

 「物体にあわせて姿勢制御をすることができ、物体が異なる場合でも、AIを活用して、距離と角度を持つことができる。モノに合わせてソフトウェアで制御することがないため、ロボットの活用方法を大きく変えることができる」とした。

 自動車や家電の製造現場での活用のほか、触ることによって形状が変わってしまう柔らかいものも、近接覚センサーによって、形状の変化を認識しながら持ち上げることができるという。

鏡面の板も簡単に挟むことできる

 椿本チエインの世界最小ローラチェーンを使ったロボットハンドに「近接覚センサーTK-01」が採用されたほか、20社以上でのPoCが開始されているという。

 また、CEATEC 2023においては、関西イノベーションイニシアティブ(KSII)が紹介する「関西の有望な大学発スタートアップ3社」にも選定されたという。KSIIは、関西が保有する優れた大学や企業など、地域のリソースを結集し、新しいイノベーションエコシステムの形成を目指す経済産業省の「産学融合拠点創出事業(J-NEXUS)」に採択された事業となっている。