イベントレポート

デジタルアーカイブフェス2024

「ジャパンサーチ」の連携・活用がここまで進んでいたとは! デジタルアーカイブは「保存から利活用へ」

広がるデジタルアーカイブ、そこから生まれる価値とその連鎖<後編>

 8月26日にオンラインで開催された「デジタルアーカイブフェス2024~活用最前線!~」(主催:国立国会図書館・内閣府知的財産戦略推進事務局)では、直木賞作家の永井紗耶子氏による基調講演、デジタルアーカイブジャパン・アワードの表彰、さらにはデジタルアーカイブを利用した実例の紹介が行われた。その中から本記事では、「ジャパンサーチ」をテーマとした第III部の模様を詳しくお伝えする。

ジャパンサーチ:日本のデジタルアーカイブを一元化するプラットフォームの連携方法と活用法

 国立国会図書館の眞籠聖氏は、ジャパンサーチの概要と連携方法について講演を行った。

 ジャパンサーチは、日本全国のデジタルアーカイブを一元的に検索・閲覧・活用できるプラットフォームである。国立国会図書館がシステムの開発と運用を担当し、内閣府知的財産戦略推進事務局が事務局を務める「デジタルアーカイブ推進に関する検討会」が運営している。このプロジェクトは、政府の知的財産推進計画の一環として、国全体で取り組んでいるものである。

 ジャパンサーチの特徴として「活用」機能についてフォーカスして説明を行った。このプラットフォームは、単なるデータベースとしての検索・閲覧にとどまらず、集められたメタデータを利用して新たなコンテンツやサービスを生み出すための基盤としても機能するという。これにより、利用者は検索したデータを基に独自のギャラリーを作成したり、APIを通じてデータを取り出して新たなアプリケーションを開発したりすることができる。

「ジャパンサーチとの連携 メタデータ連携」(発表資料より)

 2024年8月時点で、ジャパンサーチには51の「つなぎ役」機関が連携しており、これらの機関を通じて2000以上のデータ提供機関から3000万件以上のメタデータが集約されている。「つなぎ役」とは、特定の分野や地域でデータを集約し、ジャパンサーチに提供する役割を担う機関であり、国立国会図書館も図書館領域での「つなぎ役」を務めている。

 ジャパンサーチは大きく3つの機能を提供している。まず、横断検索機能では、全国のデジタルアーカイブを一括して検索でき、特に画像検索機能は、類似画像を探すことができる点である。次に、ギャラリー機能は、ユーザーがテーマに基づいて電子展示会を作成し、他の利用者と共有できる。この機能は、連携機関が独自の展示会をジャパンサーチ上で開催する際にも利用されている。最後に、利活用機能では、お気に入りのコンテンツをマイノートに保存したり、APIを用いてデータを他のシステムと連携させたりすることができる。

 ジャパンサーチと連携するためには、「つなぎ役」経由での連携が原則とされている。例えば、図書館領域では国立国会図書館がつなぎ役として機能し、全国の図書館から提供されたデータをジャパンサーチに集約している。しかし、特定の分野や地域でつなぎ役が存在しない場合、直接連携も可能である。

 連携の具体的な手続きは、ジャパンサーチの問い合わせフォームから行い、連携機関とジャパンサーチの間でメタデータの提供方法や連携条件を調整する。この際、コンテンツそのものではなく、検索用のメタデータが提供される点が特徴であり、連携機関が持つメタデータ項目を変更することなくそのまま登録できる。これにより連携機関の負担を軽減する仕組みが整えられている。また、メタデータには永続的なIDの付与が求められ、システムの更新によるID変更が発生しないようにしている。

 また、ジャパンサーチでは、データの利活用を促進するために、メタデータの利用条件を明確に設定している。基本的に、メタデータはクリエイティブコモンズのCC0ライセンス(“いかなる権利も保有しない”)で提供され、誰でも自由に利用できる。また、コンテンツそのものも可能な限りオープンなライセンスで提供されるよう、連携機関にお願いしている。もし細かい利用条件が必要な場合は、その条件を示すページへのリンクを提供することも可能であり、柔軟な対応が取られている。

 さらに、ジャパンサーチは利用者の多様なニーズに応えるため、多言語対応を強化し、利用の幅を広げている。特に、教育機関での利用が進んでおり、学校現場でのデジタルアーカイブの活用をサポートしている。

事例1:東京学芸大学が目指すデジタルアーカイブの教育活用拡大

 東京学芸大学の南雲修司氏は「デジタルアーカイブの教育活用拡大を目指して―ジャパンサーチと東京学芸大学教育コンテンツアーカイブの連携事例―」と題した講演を行った。

 東京学芸大学が運営する「教育コンテンツアーカイブ」は、2022年5月にリリースされ、現在、5643件のアイテムが公開されている。主に教育関連の資料や大学の歴史的なコレクションを収録しており、特に明治期の教科書や歴史的な遊具である「双六」など、教育に関連する貴重な資料が多数含まれている。

 2024年3月にジャパンサーチと連携を開始し、その結果、アーカイブのページビューが大幅に増加している。連携に至った背景には、単独のデジタルアーカイブでは資料の利用促進が難しいという課題があったが、ジャパンサーチと連携することでより広範な利用が期待できると判断したという。

 東京学芸大学では、教育現場でのデジタルアーカイブの活用を促進するためにさまざまな工夫を行っている。まず、教育情報メタデータを付与することで、教員が授業で利用しやすい資料の検索を容易にしている。また、「みんなで翻刻」というプロジェクトと連携し、歴史資料の解読を進めることで、資料の現代語訳を提供し、児童生徒が利用しやすいようにしている。

 南雲氏は、ジャパンサーチの機能が非常に充実している一方で、初等・中等教育現場ではまだ十分に知られていないと指摘した。今後は、現場の教員に向けた説明や事例紹介を充実させ、ジャパンサーチの利用をさらに促進していくことが重要であると強調した。

「東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ 収録コレクション」(発表資料より)

事例2:松原市がデジタルアーカイブを活用した文化財イベントを紹介

 大阪府松原市教育委員会事務局文化財課の大矢祐司氏が、「まつばら文化財デジタルアーカイブを活用したイベント」について講演を行った。

 松原市は、世界文化遺産である百舌鳥古墳群と古市古墳群との間に位置する地域である。2019年1月、松原市の文化財担当職員が奈良文化財研究所のデジタルアーカイブ研修を受講し、そこでジャパンサーチとの連携について知ったことが、デジタルアーカイブ構築のきっかけとなったという。2021年4月からデジタルアーカイブの構築が本格的に始まり、翌年3月には新たなウェブサイトで公開された。デジタルアーカイブの連携については、2022年8月に文化庁の「文化遺産オンライン」をつなぎ役としてジャパンサーチとの連携が実現した。

 松原市は、デジタルアーカイブを活用し、地域の文化財を身近に感じてもらうためのイベントを企画した。2023年下半期には、「丹南陣屋御城印の配布イベント」が開催された。参加者には、デジタルアーカイブや現地での探索を通じて、松原市の歴史や文化財に触れてもらうことを主眼としている。

 イベントは、デジタルアーカイブ上で公開された情報を活用し、現地に赴いて文化財を巡るという形式で行われた。参加者は、インターネット上で丹南の位置を確認し、丹南・来迎寺に残る丹南陣屋跡の石碑を訪れ、最終的には出土品が展示されている郷土資料館を訪問するという3段階のミッションをこなすことで、特別な御城印を受け取ることができるという趣向だ。このように、デジタルとリアルを組み合わせたイベントは、多くの参加者に新たな学びと楽しみを提供した。

 また、大矢氏は、ジャパンサーチとのさらなる連携を期待し、広範なデジタルアーカイブを活用した教育イベントの企画を提案した。特に、小学生向けの夏休みイベントなど、多様な分野のデータを活用した企画を通じて、より多くの人々がデジタルアーカイブに触れる機会を増やしたいと語った。

「まつばら文化財デジタルアーカイブを活用したイベント・ワークショップの活動イメージ」(発表資料より)

事例3:龍谷大学図書館が語るデジタルアーカイブとジャパンサーチ連携

 龍谷大学図書館の隨念佳博氏は「龍谷大学図書館デジタルアーカイブとジャパンサーチ連携」についての講演を行った。

 龍谷大学は、1639年に西本願寺の学寮として始まり、その歴史は380年以上にわたる。特に、大宮キャンパスは明治建築群の重要文化財として指定されており、大宮図書館には古典籍等の貴重な資料を多く所蔵している。この大宮図書館を拠点に、1998年からデジタルアーカイブの取り組みが始まり、2009年には本格的にデジタル保存と情報発信を開始した。

 龍谷大学図書館は、2021年から2023年にかけて、ジャパンサーチとの連携に向けた準備を進めた。この連携により、龍谷大学が所蔵する1万2699冊の貴重書がジャパンサーチを通じて検索・利用可能になった。特に、2022年にはクラウドサーバーの新規構築や、画像データの変換・公開体制の整備が進められ、2023年4月に連携が完了した。この連携により、学内外からのアクセスが増加し、資料の発見可能性が向上した。また、デジタルアーカイブの拠点としての役割を果たすことで、研究者や教育機関からの利用が増え、資料の保存と活用が両立される環境が整った。

 龍谷大学図書館は、ジャパンサーチのギャラリー機能を積極的に活用している。過去に行った展示会の内容をギャラリーとして再現し、ウェブ上で公開することで、展示の内容をより多くの人に届けることができるようになった。この取り組みにより、制作コストの削減と発信力の向上が図られている。

 隨念氏は、デジタルアーカイブの運営には人材やコスト面での課題があり、それらを解消するための支援が求められていると述べた。また、学生や一般利用者へのジャパンサーチの認知を高めるための取り組みも重要であると強調した。

事例4:国立劇場が語るギャラリーを活用したオンライン展示の取組

 国立劇場の宮﨑信子氏は「ギャラリーを活用した国立劇場オンライン展示の取組」について講演を行った。

 国立劇場は、1966年に東京・半蔵門で開場し、伝統芸能の保存と普及に努めている。同じ敷地内には国立演芸場もあり、さらに国立能楽堂や国立文楽劇場など、全国に複数の施設を運営している。これらの施設は、歌舞伎や文楽、能楽といった伝統芸能の他、落語や講談などの大衆芸能に関する資料を収集し、保存・活用している。

 国立劇場が扱う資料は多岐にわたり、図書資料、博物資料、視聴覚資料に分類される。特に劇場独自の資料として、舞台公演の映像や写真を記録・保存する公演記録が挙げられる。これらの資料は「文化デジタルライブラリー」として公開されており、デジタル化された資料が広く利用されている。

 国立劇場は、資料をより広く公開するため、ジャパンサーチとの連携を模索してきた。しかし、既存の文化デジタルライブラリーを直接ジャパンサーチと連携させるには、システムの大幅な改修が必要で、予算面の課題が立ちはだかった。そのため、まずは文化遺産オンラインを経由してジャパンサーチと連携する方法を選択した。

 2023年3月には、これまで文化デジタルライブラリーで未公開だった能楽資料を、文化遺産オンラインをつなぎ役としてジャパンサーチに公開。この連携により、劇場が所蔵する資料がより多くの人々に届くようになった。

 ジャパンサーチのギャラリー機能を活用することで、リアルな展示をオンライン上で再現する試みが行われている。2023年には、「演芸速記本」「幽霊・妖怪のつくりかた」「上方浮世絵展」の3つの企画展示がギャラリーとして公開された。これにより、展示が終了してもその内容をオンラインで閲覧できるようになり、資料の持つ魅力を継続して伝えることが可能となった。

 さらに、最近では「花柳章太郎コレクション-櫛-」というテーマで298点の櫛を紹介するギャラリーを公開。ギャラリーの作成では、スマートフォンでの閲覧も意識したレイアウトや見せ方を工夫し、利用者が場所や時間に制約されることなく、より詳細に資料を楽しむことができるようにしている。

 国立劇場は再整備のため現在閉場しているが、その間もデジタルアーカイブを活用して資料を公開し続けている。宮﨑氏は、ギャラリー機能を通じて、伝統芸能や舞台芸術の価値が新たに発見される可能性に期待を寄せている。また、今後もデジタルアーカイブの基盤を強化し、資料のさらなる活用を進めることで、伝統芸能の保存と普及を図るとともに、新たな価値創造に取り組んでいくと述べた。

「国立劇場 文化デジタルライブラリー」(発表資料より)

事例5:愛知県美術館のデジタルアーカイブ活用とその課題

 愛知県美術館の副田一穂氏は「愛知県美術館にとってのデジタルアーカイブ」というテーマで講演を行った。

 愛知県美術館は名古屋市にある愛知県が運営する施設である。同館は1992年に現在のかたちでリニューアルオープンし、20世紀美術を中心にコレクションを収集してきた。これまでに約8700件の作品を所蔵しており、そのうち半数近くが2003年に故コレクターから寄贈された工芸品である。

 愛知県美術館では、所蔵品をデジタル化して公開するために、データベースを整備してきた。特に、デジタルアーカイブの取り組みは、収蔵品に対する詳細なメタデータを作成し、作品の公開範囲を広げることを目指している。公開されたデータには、作品の正面だけでなく、裏面やX線画像なども含まれており、これにより作品の新たな側面を発見できる。

 ただし、近現代の美術品が多く含まれているため、著作権の問題が大きな課題となっている。パブリックドメインとなっている作品については、2008年からフリーでダウンロード可能とし、県立美術館としては初の大規模な公開を行った。この取り組みにより、多くの利用者から予想以上の反響があり、さまざまな分野で作品が活用されるようになった。

 近現代美術のデジタルアーカイブを進めるうえで、著作権の問題は避けられない。愛知県美術館では、著作権が満了していない作品については、必要最低限のピクセル数で公開することで対応している。一方で、著作物とみなされない裏面やX線画像については、積極的に公開を進めている。

 2008年から行われたパブリックドメイン画像の公開は、多くの利用者にとって利便性の高い取り組みであった。特に、予想外の利用方法として、顧客プレゼント用のカレンダー、ワインやウイスキーのラベル、ドールハウスの調度品など、幅広い分野で愛知県美術館の所蔵品が活用された。これにより、美術館が想定していなかったかたちで作品が利用され、その価値が新たに見出される機会が生まれた。

 愛知県美術館は、ジャパンサーチを含む複数のデジタルアーカイブプラットフォームと連携している。ジャパンサーチとの連携については、全国美術館会議を通じて行われており、現在は数館のみが連携している状況である。副田氏は、この連携を通じて、愛知県美術館のコレクションがより多くの人々に届くことを期待している。

「愛知県美術館コレクション」(発表資料より)

デジタルアーカイブは「保存から利活用へ」

 デジタルアーカイブについて、日常的に大きく報じられることはないが、こうした講演を通して知ると、かなり先進的な取り組みが各組織で行われていることが分かる。技術的にも見るべきところもある。そのうえで、情報の連携なども進み、複数の専門機関に分散している多様な作品や歴史的資料へのアクセスの道筋が付けられていることを再認識した。

 他方、共通する課題としては、経済的な問題や人員的な問題、そして多くの人にいかに活用してもらうかというところだろう。デジタル化するということは、決して、保存を目的とするだけでなく、その利活用を進めることができるということでもある。生成AIの技術を駆使すれば、手付かずだった翻刻が進んだり、メタデータの自動生成ができるようになったりするのは時間の問題だろう。さらには、悉皆調査が終わらずに、いまだ埋もれている資料にも光が当たることで、新たな事実の発見や価値が創出される可能性を感じる。