iNTERNET magazine Reboot
時代が求める“シビックテック”、その定義と活動の概要
書籍『シビックテックイノベーション』からPickUp
2018年5月23日 06:05
少子高齢化が進む日本において、行政のあり方や市民向けサービスには新しい枠組みが求められており、“シビックテック”もその役割を担うもののひとつだ。書籍『シビックテックイノベーション』(副題:行動する市民エンジニアを社会を変える)は、地方行政に携わる著者が、国内・海外のシビックテックの活動を取材し、書き下ろしたものである。今回はその中の「Chapter2 時代が求めるシビックテック」より、定義や考え方について解説した部分を紹介する。(NextPublishing編集長・錦戸 陽子)
多数あるシビックテックの定義
シビックテックの定義は、まだ十分に確定しておらず、諸説ある。
Wikipediaによると、Civic Technology(シビックテクノロジー)を「市民が公的な関係の強化や協働と参画のために、より強靭な開発や、市民のコミュニケーションの質を高め、政府インフラの改良、公的な利益の改良を可能とするテクノロジーである」と定義している[*1]。
一方、e-Bayを創設したピエール・オミダイヤ氏が設立したOmidyar Networkの定義によると、シビックテック(シビックテクノロジー)とは、「市民にエンパワー(権限移譲)する、または、政府へ十分に効果的にアクセスしやすくすることを支援するために使われるあらゆる技術をさす」としている[*2]。
Microsoftのシビックテック部門のディレクターであるマット・ステムペック氏は、定義は多様であると前置きしたうえで、シビックテックとは、「公共の利益のために技術を使うこと」や「少数ではなく、多くの人々の生活を改善するために使われるあらゆるテクノロジーである」と述べている[*3]。
米国のナイト財団の報告書によると、「シビックテックは1つの集合体」であると述べている。すなわち、①企業財産との共創、②政府のデータ、③コミュニティ組織化、④ソーシャルネットワーク、⑤クラウドファンディング、等の要素が有機的に結合したのが、シビックテックのフィールドであるとしている(図1)。
本書では、シビックテックの定義について広く技術一般とするのではなく、IT関連の技術と知見を有し、自らの意思で市民とコミュニケーションおよびネットワーキングしながら公益となる解決方法を模索し、共創する人々をシビックテックと呼ぶ。
デジタル世代のシビックテックは、ハードウェアだけでなく、アプリケーションなどソフトウェアが課題解決する領域が拡大している。さらに、オープンソースコードを活用することにより、市民の共有資産とする役割も果たすことができる。
本書のタイトルである「シビックテックイノベーション」活動とは、産学官民が自らのモチベーションで、各自が持つ技術と経験とを活かし、社会地域の課題を解決することを目的として、人々が共感して共創する結果、社会の厚生に革新をもたらす活動をさすと定義する。したがって、活動に参加するのはITエンジニアだけに限らず、まち作り活動を企画・実践する人々、デザイナー、行政職員など多様な人々を含む。
この活動プロセスは、伝統的な統治の概念を超えて、政治家や市民と行政とが意思決定するためにやり取りする概念を示す「オープンガバナンス」である[*4]。それらは、民主的な権利、推進組織と政策、デジタルツールと公開データから構成されている。
シビックテックイノベーションは、市民によるアプリの開発・活用や、政府を支える情報プラットフォームの構築・改善、ならびにそれらに関わる法社会制度の設計構築やその他のソフトウェア開発と活用も含むと広く解釈する。
これらのオープンガバナンスの実現に必要な要素を踏まえて、シビックテックの活動を公式化すると以下となる。
ただし、アウトカムはソリューションだけでない。共創によるコミュニティやネットワークの形成、オープンソースやアプリの共有、行政データの整理・公開やオープンガバナンス推進に関する制度整備など、多くの副次的な産物がもたらされる建設的なものである。
シビックテック活動の対象による分類
シビックテックの活動の相手方は誰なのか。また、活動範囲はどのようなものか。広がるシビックテックの活動を概観することにより、具体的なステークホルダーとその関係性が見えてくる。
日本のシビックテック活動は、活動を働きかける対象別に分類すると、大きく3つ分けられる。
(1)市民エンジニアが、市民のためにボランタリーに技術を提供して解決手法を生み出すC2C活動
(2)行政サービスの向上を求める市民自らが提案して、サービス向上を先導するC2G活動
(3)市民エンジニアが、行政サービスの改良や効率化を提案し、技術を提供するGov Tech活動
などがある(図3)。
(1)(2)は、草の根的な市民活動であり(グラスルーツ系)、(3)は行政とのコラボレーションである。
(1)C2C:(市民《シチズン》から市民へ)市民の技術による市民の利便性向上
例:ハッカソン、コミュニティ作り、データ活用コンテストなど
(2)C2G:(市民から政府へ)市民の技術による行政サービスの利便性向上
例:オープンデータ推進、市民協働コミュニティ作り、アクセシビリティ改善(自治体Wi-Fi)、市民サービス向上、クラウドソーシング、政府の透明化など
(3)Gov Tech:(政府サービスの効率化)市民の技術による行政サービスの向上
例:データ分析、電子政府、選挙管理、インフラ高度化、調達、雇用など
(1)~(3)の活動に共通する目的は、市民エンジニアの技術による公共・公的サービスの向上であり、市民自らが改善案を提案し、その持てる技術を提供する結果、多くの市民がその恩恵を享受するという、共通利益を協働して創る動きである。シビックテックの介在により、市民のエンパワーメント(社会や組織の各人が、発展・改革に要する力をつけること)が増加していく。
シビックテックの活動による分類
また、シビックテックの活動をステークホルダー(市民)側からの目線で見ると、そのサービスやメリットが見えてくる。大きく分けて、地域コミュニティの課題解決をめざすものと、技術力向上をめざすもの、社会一般の課題を解決しビジネス展開をめざすもの、行政との協働により変革をめざすもの、とに分類される(図4)。
[*1]……https://en.wikipedia.org/wiki/Civic_technology
[*2]……出典:「Engine of Change」(Omidyar Network)
http://enginesofchange.omidyar.com/docs/OmidyarEnginesOfChange.pdf
<原文>“civic tech to mean any technology that is used to empower citizens or help make government more accessible, efficient, and effective.”
[*4]……Transperancy International UK
http://www.transparency.org.uk/who-we-are/
(※編集部注)次回は、具体的な活動の内容を紹介する。
書誌情報
タイトル:シビックテックイノベーション 行動する市民エンジニアが社会を変える
著者:松崎 太亮
小売希望価格:電子書籍版1500円(税別)/印刷書籍版2000円(税別)
ページ数:242ページ(印刷書籍版)
ISBN:9784844397991
発行:株式会社インプレスR&D
松崎 太亮(まつざき たいすけ)
神戸市企画調整局創造都市推進部ICT創造担当部長。総務省地域情報化アドバイザー。1984年、神戸市入庁。1995年、阪神・淡路大震災が発生した翌日より神戸市ウェブサイトで被災状況を発信。2006年、国立教育政策研究所 教育情報ナショナルセンター運営会議委員、200年、JICA「トルコ国防災教育普及支援プロジェクト」専門調査員、2012年、国会図書館東日本大震災アーカイブ利活用推進WG座長、2012~14年、武庫川女子大学文学部日本語学科非常勤講師(図書館経営論)。共著書『3.11 被災地の証言 ‐東日本大震災 情報行動調査で検証するデジタル大国・日本の盲点‐』(2012年、インプレス)ほか。
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