iNTERNET magazine Reboot

第三木曜コラム #4

西日本豪雨に際し。避難所生活で実感した災害時Wi-Fiの重要性

 西日本を襲った記録的豪雨による死者、行方不明者は200人以上に上り、浸水などの住宅被害は3万棟以上、避難所に避難された方は5200人とのことです。亡くなられた方々のご冥福と、被災された方々のご健康をお祈りいたします。

被災体験で実感した情報の重要性

 私は2年前の熊本地震で被災した経験がある。2度目の本震に遭遇し、家が傾き、やむなく町営の避難所のお世話になったのだった。その時の経験は、「熊本地震体験記」としてチャリティー本で出版し、後にWebでも公開している。

熊本地震の避難所の様子:益城町ミナテラス、2016年4月

 そこでの経験から、被災時には「情報」がとても重要だということを実感している。いまは、ほとんどの人がケータイやスマホを所持しており、スマホ1台で多くの情報が取得できる便利な時代になった。私も被災時に、スマホとノートパソコン(Chromebook)を持っており、それらが大活躍してくれた。

 私の場合に役に立ったのは、電子メールやFacebookなどの常用ツールのほかに、災害時緊急情報の閲覧だった。たとえば、電気の復旧予測は九州電力のホームページで確認でき、それはとても正確だった。また、グーグルなどが提供してくれた道路通行実績マップは寸断された道路を避けながらの移動に役立ったし、役所のホームページからは物資の配給や周辺状況、り災証明の発行などの手続きを知ることができ、とても助かった。

 大災害では死者、行方不明者の数に衆目が集まるが、実際は、難を逃れたが住む家を失った、家は大丈夫だったが生活が困難になってしまった、という方々の数がはるかに多い。今回の西日本豪雨でも数万人規模に上ることだろう。その方々にとっては、過酷な環境の中で生活していくのにネットからの情報が大きな助けとなる。

 今回、被害の大きかった広島県の安芸市や岡山県の倉敷市のホームページを見てみたら、すでに緊急災害情報の提供が始まっていた。ほかの自治体でも同様だと思われる。いままさに避難されている方々には、これらを活用して適切な行動をとられることをおすすめしたい。

00000JAPAN

 災害時のネット接続では、有線回線はダメージが出ることが多いので無線接続が不可欠だ。具体的には、スマホのキャリアの回線か、Wi-Fi接続になる。キャリアの回線は東日本大震災以降かなり強固になったと聞いており、実際、私の場合は生きていた。しかし今回の豪雨では、不通になっているところが少なくないようだ。それに、パソコンではキャリア回線は直接利用できないので、Wi-Fi回線に期待が集まる。

 このWi-Fi回線を災害時に、非登録者を含めて誰もが無料で利用できるようにする画期的なサービスとして、災害用統一SSID「00000JAPAN」(ファイブゼロジャパン)がある。ファイブゼロジャパンは、無線LANビジネス推進連絡会が東日本大震災の教訓から、2012年に総務省の提言を受け、無線LANに関係する企業などが自主的に取り組んでいるサービスである。日本全国どこでも統一のSSID(00000JAPAN)で接続可能となるサービスで、1つのアクセスポイントでも生き残っていれば、キャリアや通信会社の垣根を越えてWi-Fi接続ができる。被災者にはとても心強いサービスだ。関係者のご努力に感謝したい。

 ファイブゼロジャパンは熊本地震で本格的に実用化された。私の居た避難所では、地震後すぐは対応できていなかったのでスマホのテザリングでWi-Fiを出し対応したが、後に対応されたそうだ。ちなみに、ファイブゼロジャパンは誰もが使えるようにするためセキュリティがかかっていないので、重要な個人情報などの利用には注意する必要がある。

気球、ドローン

 近年は、皆の予想を超える大きな自然災害が続いている。大災害では地上にあるすべての基地局がダメージを受けるかもしれない。そんな緊急時のために、空中に浮かぶ気球やドローンをWi-Fiの中継基地にして臨時回線を構築する試みが行われている。

 たとえば、ソフトバンクは気球での中継装置を配備しているし、KDDIはドローン基地局の公開実験を行っている。また、Wi-Fiではないが、グーグルの親会社であるアルファベットは、プエルトリコなどで気球を使用したLTE接続の実験を行っている。

 日本は災害の多い国である。一見、奇抜に見えるアイデアでも昨今のテクノロジーの進化がそれを実現してくれる可能性は大いにある。すでに、ファイブゼロジャパンのような素晴らしい活動がなされている日本である。ネット業界関係者の引き続きのチャレンジをお願いしたいし、我々も皆で応援していきたい。

充電のこともお忘れなく

 ところで、スマホは便利だが電気がなくては無用の長物だ。私の場合は、三又コンセントがとても役に立った。なぜ三又かというと、被災時には緊急充電所などでコンセントが貴重になるからだ。コンセントがふさがっていても、1つを抜いて、三又を刺し、抜いたプラグと自分のプラグを差して充電できる。また、スマホやタブレットの中にはコンセントの幅より大きな充電プラグがあり、それが2つ分を占有してしまっていた。それに無理やり差し込んだために、抜けなくなって困っている人もいた。三又コンセントは必需品だ。

 私はそれ以来、いつもカバンと車の中に入れている。

熊本地震の緊急充電設備の様子:益城町、2016年4月

 さらにサバイバル状況になった時のために、太陽光充電装置を常備しておくこともおすすめしたい。私は家と会社に常備しており、いまは家での充電のほとんどは太陽光でやっている。エコでもあるし、緊急時に慌てなくてすむ。

 皆さま、日本は災害と共にある国だということを、くれぐれもお忘れなく。

「iNTERNET magazine Reboot」コーナーについて

「iNTERNET magazine Reboot」は、ネットニュースの分析や独自取材を通して、デジタルテクノロジーによるビジネス変化を捉えるインプレスR&D編集のコーナーです。産業・教育・地域など、あらゆる社会の現場に、Reboot(再始動)を起こす視点を提供します。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。