インタビュー

携帯電話のSoCだけじゃない?! 大手半導体メーカーのメディアテックが狙う次の一手

 「MediaTek(メディアテック)が事業を開始したのは1997年。大手がかなり長く事業を続けている半導体の世界では、新興に近いメーカーかなと思ってますが、さまざまな製品を手掛けており、高い技術力を持っています。一般には携帯電話関連での認知が強いものの、あらゆる規模に活動領域を広げてきているんです」――。

 そう話すのは、MediaTekの日本法人であるメディアテックジャパン株式会社でシニアカウントマネジャーを務める出石賢氏。MediaTekは、台湾に本社を置くファブレス半導体企業で、日本で一番知名度が高い分野はスマートフォン向けのSoC(System-on-a-chip)だが、光学ドライブ、デジタルテレビ、無線LAN製品など、さまざまな分野向けのSoCでも大きなシェアを持っているという。

 今回は、出石氏に同社の戦略と日本での展開を聞いた。

メディアテックジャパン シニアカウントマネジャーの出石賢氏

世界で10番目の半導体企業

――まず、MediaTekという企業を読者にご紹介いただけますか。

 台湾で1997年に創業してから20年ほど事業をしている半導体メーカーです。工場を持たないファブレスの半導体メーカーとしては、クアルコム、ブロードコムに次いで世界で3番目の規模になります。半導体メーカー全体でも10番目となり、約9000億円近くの売上を上げています。

ファブレスの半導体メーカーでは3位、全半導体メーカーの中でも10位の売上規模をほこるという

 一般には、スマートフォンなどの携帯電話系で知られていることが多いかと思いますが、それ以外でも大きなシェアを持っているメーカーです。当初は、光学ドライブの安価な製品を出すために作られたSoCからビジネスをスタートしており、その技術を利用してDVDやBlu-rayといった製品を手掛けてきました。また、画像系のテクノロジーを活用してデジタルテレビへ進出し、メインのSoCとしては業界トップの地位を築いています。

 電話を手掛けたのはその後で、フィーチャーフォンからスマートフォンへとビジネスを展開しました。スマートフォン向けのSoCでは(Snapdragonなどを手掛けるQualcommに次いで)2位に付けているほか、Androidタブレット向け、フィーチャーフォン向けではシェア1位を獲得しています。

 昨今のスマートデバイスには、あらゆるテクノロジーが集約されていますよね。オーディオ、ディスプレイを綺麗に見せるための技術、モデムもそうです。2Gから3G、4G、そして5Gへと通信技術を蓄積しています。当社はこうした技術を広く持っており、それを生かしている、といった状況です。

 光学ドライブやデジタルテレビでも1位、ネットワーク製品でも3位のシェアがあるように、さまざまな製品、技術を持っているんですね。

 一方、将来的な柱の1つとして期待しているものに音声アシスタントデバイスがあります。まだまだ市場規模は小さいですが、家庭での普及が見込め、電話などに匹敵する市場の広がりあるだろうと注目して、開発を進めているところです。こちらでも、トップシェアを持っています。

携帯電話やスマートフォンだけでなく、多くの製品分野で高いシェアを持っている

――やはり有名なのはスマートフォン関連のSoCかと思いますが、それだけではないのですね。

 はい。MediaTek自身でもさまざまな製品を手掛けていますが、無線LANやブロードバンド向けなどを提供していたRalink Technology、テレビ市場で強みを持っていたMStarを買収していますし、Richtek、ネットワーク関連製品を手掛けるEcoNetやNephosといった企業を傘下に持ち、グループとして活動しています。

 また、先進企業との協業も盛んに行っています。Amazon TVやFireタブレットのメインSoCにも当社の製品が採用されていますし、少し時間が経ってしまってますが、Sonyが提供しているAndroid TVでも当社のSoCが利用されています。

 加えて国内では、キャリアとの取り組みを進めてきました。NTTドコモとは、将来の5G通信の展開に向けた共同開発を実施していますし、ソフトバンクが提供しているレノボ製タブレットにも当社のSoC(MT8735)が採用されているのです。

 Googleとも協業していまして、(対話型アシスタントの)「Google Assistant」に対応したSoC(MT8516)をリリースしました。

 このように、プラットフォームからコミュニケーションデバイスまで幅広い分野において、そして地域も台湾、中国、日本を含めてさまざまなところで活用されているのです。

次の成長分野へ積極的な投資を実施

――音声アシスタントデバイスという例が出ましたが、今後はそれ以外に、どんなところに注力していくのでしょうか。

 MediaTekが次の成長分野として期待しているものには、AI/ディープラーニング、5G、IoT、Industry4.0、車、ソフトウェア/サービス、AR/VRなどがあり、こうした新たな事業領域に対して開発投資を行っていく方向性を打ち出しています。

 向こう5年間で2000億台湾ドル、日本円で約7000億円の投資を計画していまして、IoTに対しても大きな投資を行います。その1つとして今回、日本において「CEATEC JAPAN 2017」への出展を決めました。

次の成長分野として、AIや5G、IoTなどに5年間で2000億台湾ドルを投資するという

――なぜ、日本の展示会への出展を決めたのでしょう

 当社が新たな事業領域に対して開発投資を行っていく方向性と、日本の市場やお客さまが関心を持っている方向性のベクトルが同じ方向になりつつあると感じており、双方が交わるところが近い将来出てくるだろうと考えて、今回の出展を決めました。

 IoTに関しては社内にビジネスユニットがあり、いかにモノをネットワークへつなげるのか、という前提で製品開発を行っていまして、スマートウォッチやスマートメーターなど、現在は家庭内に置かれるような製品を中心に提供しています。

 しかし、IoTの世界はもちろん、これだけではありません。将来的には、車をはじめとするさまざまなデバイス、アプリケーション、ソフトウェア、サービスなどがすべて連動した形で組み合わさり、将来のIoTの世界になるのかなと思っていすので、デバイスを作るというよりは、エコシステム、新たなビジネスを作る動きを進めていきたいのです。

 当社の投資の方向性と日本の市場の動きが近くなっている状況の中では、海外でパートナーシップを組んでいるようなビジネスモデルが、日本のお客さまとも形作れないか、といった期待をしています。

 日本のスタッフとしては、そういうような方々との密な関係作りをしていきたい。CEATECは、そういうきっかけにならないか、と考えました。まだ、具体的にどれとどれを出すか、というのは決まっていませんが。新しい製品を中心に出展していく予定です。例えば、車という点では日本のメーカーは強いですからね。うまくつながっていければいいなと思っています。

 またパートナーとのエコシステムということでは、当社の製品を用いて何らかの形を作り、販売してくれるValue Added Reseller(付加価値再販業者)も重要です。その1社である加賀電子にも今回、ブースを共同で出展していただきます。彼らが当社のIoTデバイスを活用する例が出てくるでしょう。

 なお今回のCEATECでは、デバイス・ソフトウェアのエリアに出展しますが、できる限りわかりやすい、デモ機として展示したいと思います。IoTを中心においた展示にはなるでしょうが、できるだけ当社のテクノロジーがどういうものなのか、どういうものをやっているのか、というのも見ていただきたいですね。

――国内での出展はこれまでも行ってきたのでしょうか。

 5Gの展示を行ったことはありますが、小規模なものでした。今回初めて、かなり大規模な出展をすることになります。

 現在、お客さま、取引先から当社への要望、お問い合わせはあるものの、それほど大きなものではありません。冒頭でも触れましたが、当社は競合と競い合える高い技術を持ち、さまざまな分野の製品を手掛けているのですが、日本では広く認知されている、とは言いがたい状況です。今回の出展は、それを改善するきっかけになればと考えました。

 IoTに力を入れている展示会ですから、IoTを中心に置いた展示をしていきますが、当社のテクノロジーはどう優れているのか、どういうものをやっているのか、といった点を訴求できるものも見ていただきたいのです。

 どうしても、欧米系の企業の方がイメージが良くなりがちですが、当社のテクノロジーが安かろう悪かろうではなく、高い技術を持った企業である、ということを浸透させたいと思っています。

 そういう点で、CEATECに期待することは大きいですね。