インタビュー

スマートホームこそメッシュ!? Wi-Fi構築の重要なポイントは?

~中古マンションリノベーションのリノベるとネットギアに聞いてみた

 オーダーメイドによる中古マンションのリノベーションを手掛けるリノベる株式会社では、物件のスマートホーム化にも積極的だ。そこでは、Wi-Fiの整備が重要な課題になっているという。今回は、リノベる株式会社の竹田恵氏(プロダクト本部)と、高性能なWi-Fiルーターや、メッシュWi-Fi製品の数々を提供しているネットギアジャパン合同会社の曽利雅樹氏(プロダクトマーケティング)も交え、お話を伺った。

ネットギアジャパンの曽利雅樹氏(左)とリノベるの竹田恵氏(右)

スマートホームにおけるWi-Fiの重要性とは?

リノベるが公開しているスマートホーム対応の東京池袋東口ショールーム(訪問は要予約)

 リノベるがマンションをリノベーションする際には、マンションの一室にある全ての仕切り壁を取り払い、まっさらな状態から顧客の要望に応じたデザインや設計を行っている。

 こうした物件のリノベーションでは、必要なコンセントや配線の場所をあらかじめ考慮して内装作りができるため、住居をスマートホーム化するデバイスとも好相性だそうだ。では、そうしたデバイスの活用に重要なWi-Fi環境は、どのように考えるべきなのだろうか。

――リノベーション物件のスマートホーム化する際のWi-Fiの重要性について、リノベるではどのように捉えていますか。

[竹田氏] 家の中でWi-Fiの電波が安定しないと、スマートホーム機器が正しく動作しないことがあります。家中どこからでも電波が安定して届く状況が必要になってきます。

 Wi-Fiの電波を家中へ届かせるために、具体的にどのようにWi-Fiルーターを設置するのがベストなのかは、例えばネットギアさんに情報をいただいたり、お客様がプロバイダーからルーターをレンタルする場合、そのプロバイダーに問い合わせたりしています。

 ただ、内装の設計・デザインを担当しているスタッフはネットワークの専門家ではないので、必ず安定して電波が届くとは言い切れない部分もあります。こうした面を心配せずに設計ができれば、という話もよくしています。

アンティークな雰囲気を醸し出すキッチン
カウンターでひと息つける

メッシュWi-Fiはマンションのスマートホーム化に有効

――リノベるとして今後リノベーション物件に、メッシュWi-Fiに対応した製品を導入していくことは考えてらっしゃいますか。

玄関に置かれたAmazon Echo Dot。「行ってきます」との声で、家中の家電を全てオフにし、「ただいま」と話しかけるとテレビ、エアコン、リビングの照明をオンに

[竹田氏] 実はここ最近、高所得者向けのリノベーション案件が増えてきています。以前なら「タワーマンションがステータス」といった風潮もありましたが、最近は風格ある中古マンションの内装をリノベーションして住むことも新たな選択肢になりつつあります。むしろビンテージマンションが1つのブランドになっているようです。

 そういう場合には、元々2戸に分かれていた物件の間の壁を取り払って、言わば“ニコイチ”になっていることがあります。そうした場合、広いのはもちろん、中間が壊せない躯体壁で仕切られているので、1台のWi-Fiルーターだと全体に電波を行き届かせるのが難しいんです。

 こういうケースでは、今までWi-Fi中継機を提案していましたが、そうした物件で、メッシュWi-Fiが役立つのでは、と考えています。

――広い物件は、ネットギアが展開しているメッシュWi-Fi製品の本領を発揮するところですね。

[曽利氏] メッシュWi-Fiに対応するものとしては、「Orbi」シリーズがメインの製品です。当社では早くからメッシュに取り組んできましたが、他社製品も増えてきた2018年半ばごろから、市場でもようやくメッシュWi-Fiが広く認知されるようになって来ました。

ネットギアジャパン合同会社 プロダクトマーケティング 曽利雅樹氏

 メッシュWi-Fiの需要が高まってきた背景には、スマートフォンの普及があると思います。それまでインターネットは、一家に1台のPCだけで利用されていて、高性能なルーターが1台あれば事足りていました。今では家族1人1人がスマートフォンを持ち、各自の部屋などでWi-Fiを使うようになった。今は家中のあちこちで、良質なWi-Fiに接続できることが求められています。

ルーターとサテライト(中継機)のセットで構成されるメッシュWi-Fiシステム「Orbi」と「Orbi Micro」」

中継機にはないメッシュWi-Fiの強みとは?

――Wi-Fi電波の届く範囲を広げるという意味では、先ほども挙げていただいたWi-Fi中継機を使うのも、解決策の1つではありますよね。

[曽利氏] メッシュWi-Fiのサテライトも、実は中継機ではあるのです。ただ、単なる中継機ではなく、設置が簡単で、難しい設定は要らない「より簡単な中継機」と言うべきものです。ネットワークの知識がなくても、多くの人がすぐに中継機の技術を使えるようにする点がメッシュWi-Fiのメリットの1つなのです。

 また、Wi-Fiルーターと従来の中継機の組み合わせは、それぞれが独立したデバイスでしかありません。ユーザーが移動してWi-Fiルーターから離れ、中継機に近づいても、電波の弱くなったWi-Fiルーターにつながったままで、ユーザーは手動で接続先を中継機へ切り替えなければなりません。

 ところがメッシュWi-Fiが“システム”と呼ばれるように、複数の機器が協調して動作しています。Wi-Fiルーターと、中継機となるサテライトがコミュニケーションし、ユーザーの使うデバイスの状況に応じて、自動で接続を最適な方へと切り替えます。ユーザーは今どちらにつながっているか、接続を切り替えるべきかを意識する必要がないのです。

Orbi Microなら、1台からでも購入・設置ができる

――スマートホームに対しては、メッシュWi-Fiはどのように生きてくるでしょうか。

[曽利氏] スマートホームでは、Hueのようなスマートライトのゲートウェイやリモコンユニット、スマートプラグなど、インターネットにつなげなければ利用できない機器が家中に散らばっています。Wi-Fiルーター1台で家全体をカバーしようとしても、電波の届きにくい場所にある機器は、動作しない可能性があります。メッシュWi-Fiなら、最初に1台だけ導入することもできるし、電波を届かせたい場所が増えたら、1台ずつ追加していくことができるわけです、それもプッシュボタンを押すだけで。

 それに、マンションであれば隣の部屋、一軒家でも隣の建物からのWi-Fiの電波から、影響を受けることがあります。強力なWi-Fiルーターを設置されてしまうと、電波が干渉して、自分の部屋にあるデバイスの通信が困難になる可能性すらあります。

 ところがメッシュWi-Fiであれば、システムがそうした状況も考慮し、最も高速に通信できる別のサテライトへと自動で接続を切り替えて速度を保ちます。メッシュWi-Fiは、そのエリアだけの電波を改善するのではなく、家全体のWi-Fiを自動で最適化する、というのがポイントなんです。

「生活を豊かにする」メッシュWi-Fi

――メッシュWi-Fiによって、ライフスタイルにはどんな変化がありそうでしょうか。

[曽利氏] 従来のように、強力なWi-Fiルーターを1台のみ導入する場合、データ転送速度や電波の届く範囲など、どれが自分にとってベストな性能の製品なのかを「選ぶ」必要がありました。それに対してメッシュWi-Fiは「選ばなくていい」のがメリットです。電波の必要なところに、1台追加すればいいだけですから。

 先ほど竹田さんは「生活を豊かにするのがスマートホームだ」とおっしゃいました。ネットギアとしては、メッシュWi-Fiも生活を豊かにするツールだと考えています。なぜなら「自由になる時間が増える」からです。「選ぶ」ということは、時間が奪われるということですよね。

 それに、設定が難しければ、さらにそこにも時間がとられてしまいます。Orbiはスマートフォンアプリで簡単に設定できることも特徴です。自由になる時間が増えれば、豊かな生活につながるのではないでしょうか。

――Orbiシリーズは白を基調としたデザインで、見た目もこれまでのWi-Fiルーターとは違った印象です。

スマートスピーカーとサテライトの機能を合体させた「Orbi Voice」

[曽利氏] Nighthawkシリーズのように、アンテナが角のように生えているような見た目のWi-Fiルーターであれば、できるだけ目立たない場所に設置したくなるのも理解できます。また、回線の来ているところに設置するので、設置場所は自ずと決まってきます。しかし、生活に溶け込むような丸みを帯びたデザインのOrbiシリーズは、ライフスタイルを彩る家庭向けのアイテムです。メッシュWi-Fiは、家のあちこちに置くことも前提としていますので、Orbiはあえて隠さなくていいデザインとしています。

 最近では、その「隠さなくていい」をさらにもう一歩進めた「見えるところに置きたいメッシュWi-Fi」として、スマートスピーカーとサテライトの機能を合体させた「Orbi Voice」も提案しています。スマートスピーカーとして使え、日々触れることになるOrbi Voiceで、「生活に寄り添う製品へ」という取り組みを進めているところです。

メッシュWi-Fiはトライバンドでこそ本領発揮既存Wi-Fiルーターに追加できる製品も

――メッシュWi-Fi製品を選ぶ上で、大切なことはありますか。

[曽利氏] Wi-Fiに関する不満というのは、主に「速度が遅い・電波が届かない・通信が途切れる」の3つです。これを解決するには、メッシュWi-Fi対応製品でも、帯域を3つ使えるトライバンドのOrbiが最適です。スマートフォンや、家中に点在するスマートホーム機器などのデバイスが接続する帯域とは別に、Orbiのルーターとサテライトが中継する専用の帯域が設けられているので、デバイスが増えても通信が遅くなりません。

 帯域が2つのデュアルバンドの製品だと、デバイスの通信中に中継が待機するかたちになります。スマートフォンやスマートホーム機器が増えるほど、通信速度は遅くなるわけです。

「Nighthawk X6S EX8000」(左)、「Nighthawk X6 EX7700」(中央)、「Nighthawk X4 EX7300」(左)のWi-Fi中継機3製品

――メッシュWi-Fiが便利なものだと理解していても、すでに他社のルーターを使っていて、メッシュWi-Fiを新たに構築し直すのに二の足を踏んでいる人もいるかと思います。

[曽利氏] メッシュWi-Fiシステムは、当社も他社も基本的には独自技術で実現しています。しかし、当社のNighthawkシリーズの中継機は、他社ルーターと組み合わせた場合も、同一のSSIDでルーターにも中継機にも接続できるメッシュWi-Fiを構築できるのが強みです。少ない投資でメッシュWi-Fiを実現できると思います。

 それに、当社のOrbiは、無線ではなく有線LAN接続中継によるメッシュネットワークも構築可能です。広いマンションでは躯体壁が中央にあったりするという話ですが、そうした電波がどうしても届かないような環境で、バックホール(中継ネットワーク)を有線LANにし、子機の接続はWi-Fiというかたちにすることが可能です。

メッシュWi-Fiで間取りが自由に

――リノベーションした物件には、どのようなWi-Fiルーターを導入しているのでしょうか。

さまざまな物件でストレスなく使えたというネットギアのWi-Fiルーター「Nighthawk X4S R7800」
小さめの物件に向く安価なWi-Fiルーター「R6850」

[竹田氏] 以前から使っているルーターを入居後も使い続ける方や、新たに契約したプロバイダーからレンタルされる方が多いのですが、新たに導入される場合、ネットギアさんの「Nighthawk X4S R7800」を基本に、物件の広さも考慮して提案しています。他社のルーターも含め、いろいろ試してきましたが、動作が安定しなかったり、相性の問題が多かったりしました。一番ストレスなく使えたのが、ネットギアさんのWi-Fiルーターでした。

 リノベーションでは、以前住んでいたところより小さな物件を選ぶ方も意外と多いんです。既存の物件だと廊下などが無駄にスペースを占有していることもありますが、間取りが自由なリノベーションでは、スペースを有効に使えます。50~60平方メートル程度の物件に、家族で住むケースも少なくありません。広ければ価格やリノベーション費用がかさみますし、住み始めた後も掃除が大変だったりしますから。

 そういう小さな物件では、同じネットギアの製品でも、もっと安価で1万円前後のWi-Fiルーター「R6850」などを提案することもあります。が、R7800は多くの物件で十分な性能を発揮してくれていました。コストパフォーマンスに非常に優れていますね。

――こういったメッシュWi-Fi対応製品があると、どんな間取りでも使えそうですね。

[竹田氏] これまで、実際にWi-Fi電波が家中に届くか届かないかは、ルーターの設置や設定が完了しないと分からないところがありました。このため、これまでは電波が十分に強力なWi-Fiルーターをおすすめして、なるべく家の中央に設置いただくようにしてきました。

キッチンにはAmazon Echo Showを設置。ディスプレイで時刻や天気などの情報もすぐに得られる

――生活にあまり関係ないWi-Fiルーターは、できれば家の隅に、隠すように置きたいとの声も多いですよね。

[竹田氏] そうです。そこで間取りの設計段階から、家の中央付近にウォークインクローゼットやトイレを配し、Wi-Fiルーターを作り付けた棚の上に置いて目に触れにくくするなどしていました。間取りを自由にできるリノベーションだからこそのテクニックですが、メッシュWi-Fiなら、内装の完成後に電波の弱いところが分かったときでも、サテライトを追加して簡単に補えるのがいいですね。Wi-Fiルーターの置き場所に悩む必要もなくなりますし、間取りの自由度が上がるので、お客様に対して新しい提案もできるようになると思います。

多数のスマートホーム機器を備えたショールーム

――スマートホーム化を考慮して物件を選ぶとき、何か気に掛けておいた方がいい点はありますか。

[竹田氏] 中古マンションのリノベーションでは、最初に剥がせる仕切り壁などはすべていったん取り壊し、マンションのコンクリート製の躯体だけのフルスケルトンにするので間取りも自由で、コンセントの数や位置も変えられるため、特に気を付けるところはありません。

ショールームの玄関に設置された人感センサー。帰宅すると玄関の明かりが自動で点灯する

 物件のリノベーションが前提ではないなら、例えばダウンライトが天井に埋め込みで入っていると、Hueなどのスマートライトを取り付けられなかったりするので、注意した方がいいですね。

――今回お邪魔しているこの物件には、多数のスマートホーム機器が導入されていますね。

[竹田氏] このショールームでは、27個のHueをはじめ、スマートスピーカー、家電を操作するリモコンユニット、電源のオンオフを制御するスマートプラグ、掃除機のルンバを音声で操作できます。

ルンバもスマートスピーカーに話し掛けることで操作できる

[竹田氏] 内装の設計時には、各機器の設置場所を想定した最適なコンセントの配置や、配線についてもベストな提案をします。例えばルンバの動きを妨げないように、できる限り配線を隠したり、床にコンセントを設置したり、といった具合です。Wi-Fiルーターの最適な設置場所なども提案することがあります。

リビングにはAmazon Echoや家電操作用のリモコンユニットが設置

――リノベるは、スマートホーム化によって何を目指しているのでしょうか。

[竹田氏] スマートホーム機器は、ハードウェアを買い替えなくてもソフトウェアの更新だけでできることが増えたりして、どんどん暮らしが快適になっていきます。暮らしを豊かにするための1つの選択肢と考えているのです。

――今後、リノベるとネットギアとで、積極的な協業を行なっていく計画があったりするのでしょうか。

[曽利氏] メッシュWi-Fiをどこに何台設置するといいのか、ネットワーク技術の専門家ではない内装設計やデザインを担当されている方でも簡単に割り出せるよう、協力していけたらと考えています。

[竹田氏] それができるととても助かります。ぜひお願いしたいですね。

(協力:ネットギアジャパン)