インタビュー

「固定IPサービス」の利用者が増加中? その理由を聞いてみた

 フリービット株式会社が2023年9月に開始した「どこでもIP」が、いまユーザー数を伸ばしているという。

 どこでもIPは、形としてはVPNサービスの一種だ。ただし、インターネット側のIPアドレスとして、ユーザーにそれぞれ専用の固定IPアドレス(IPv4)が割り当てられるのが特徴だ。

 現在では、自宅からオフィスへのリモート接続など、社内システムに外部からインターネット経由で接続するケースも増えている。それにともない、企業の接続口において、接続してくる相手をIPアドレスで制限することも多い。ただし、そうすると、外出先などでは違うIPアドレスからアクセスするため、接続できなくなってしまう。そこで、専用の固定IPアドレスを持てれば、どこからもアクセスできつつ、ある程度は本人のIPアドレスであることが確認できるわけだ。

 どこでもIPのサービスを始めた経緯や、ユーザーがどのように使っているか、今後の展開などについて、フリービット株式会社の遠藤大氏(インフラ事業本部 通信事業推進部 シニアリーダー 事業企画開発室)と、田中正幸氏(技術本部 モバイルサービス部 部長)に話を聞いた。

「ISPのISP」が持つ固定IPアドレスを有効活用

――まず、フリービットについてご紹介ください。

フリービット株式会社 インフラ事業本部 通信事業推進部 シニアリーダー 事業企画開発室の遠藤大氏

[遠藤氏] フリービットは、2000年に、DTI(ドリーム・トレイン・インターネット)というISP(プロバイダー)を運営していた石田宏樹(社長)が創業しました。ISPさんのために設備を用意してお客様にサービスを提供するためのホールセール(卸売)として始まりました。いわばISPのためのISPですね。縁の下の力持ちみたいな会社なので、名前はあまり表に出てきませんが。

 2013年ごろからはモバイルでも同じようにホールセールを始めて、今は、モバイル、固定回線、クラウドの3本柱で展開しています。

――DTIは1995年設立と、古株のISPですよね。

フリービット株式会社 技術本部 モバイルサービス部 部長の田中正幸氏

[田中氏] はい。DTIはいまはフリービットの子会社です。古くからあるという意味では、ベッコアメ・インターネットも子会社になっています。

――ベッコアメもですか。いろいろ子会社にされていますね。

[田中氏] 変わったところでは、マンション向けインターネットの株式会社ギガプライズもあります。ユーザーさんとの間にマンション管理会社が入るので、ギガプライズもあまり名前が表に出ない会社ではありますが。

――そこから、どこでもIPを始めた理由は?

[遠藤氏] ISPの設備を運営しているということから、固定IPアドレスを潤沢に持っています。通常は固定回線やモバイル回線に紐づけて付与するわけですが、さらなる活用方法を検討する中で、どの通信会社と契約しているお客様でもわれれの固定IPアドレスを使えるサービスを考えました。2年ぐらい前から検討して、ようやく去年(2023年)の9月にリリースした形です。

[田中氏] 固定インターネット回線はいま、これまでのPPPoEではユーザーに直接IPv4のアドレスをつけていたものが、IPoEに変わってきてIPv6のアドレスが付いてNATでインターネットに出るという形になっています。そこでIPv4のアドレスに余裕ができて、そこを有効活用できないかということで立ち上げたわけです。

――改めて、どこでもIPはどうやって使うものかご説明ください。

[遠藤氏] WireGuardという、オープンソースのVPNソフトがあって、WindowsやMac、iOS、AndroidといろいろなOSに対応しています。それを端末にインストールして、われわれが配布している設定情報を読み込んで、どこでもIPのVPNのサーバーに接続すると、そこからわれわれが払い出したIPアドレスでインターネットに出ていく仕組みです。

――確認ですが、お客様ごとに完全に固有のIPアドレスが割り当てられると考えてよろしいでしょうか。

[田中氏] はい。アカウントごとに同じ固定IPアドレスが付きます。

IPアドレスを制限しているサーバーへの接続にニーズ契約数は右上がりに増加

――どこでもIPは、どのようなところで使われているのでしょうか。

[遠藤氏] 引き合いの多いケースに、まずWeb制作会社さんがあります。契約相手のサーバーに接続するときに、接続できるIPアドレスが制限されていることが多くて、固定回線で固定IPを用意すると高額になるので、どこでもIPを使うパターンです。

 あとはリモートワークで会社のサーバーにアクセスするときに、社内LANを経由しなくても登録されたIPアドレスであればアクセスできるようにする、というニーズも非常に多いですね。同様のパターンとしては、海外に出ているときの会社のサーバーへのアクセスもあります。

 そのほか多店舗展開されている飲食店さんでの利用もけっこうあります。売上管理などをししている中央のサーバーに各店舗から接続するためではないかと思います。

――企業などで、接続するIPアドレスを制限しているケースは多いのでしょうか?

[田中氏] たとえば作成途中のWebページを関係者で確認する用に、Web認証をかけることが多いと思いますが、IPアドレスを認証のようにしてWeb認証を外すというパターンがあります。

 また、Webの管理画面などのアクセスで、Web認証に加えてIPアドレス制限を設けて、ちょっとした2要素での認証のようなことも多いと思います。

 最近は本格的な2要素認証や多要素認証なども増えてきていると思いますが、既存のシステムの認証部分を作り変える必要があったりして、なかなか導入も難しいと思うんですよね。それに比べるとIPアドレス制限は比較的導入しやすので、とりあえず今より少しセキュリティレベルを上げるというところで使われているんじゃないかと思います。

 弊社でもファイル交換用のサーバーで、ID認証に加えてIPアドレス認証を入れています。ブルートフォース攻撃など無闇にアクセスが来るとログがそれで埋まってしまうこともあるので、最低限IPアドレスでフィルタリングした上でID認証するという形です。

――どこでもIPの変わった使われ方などもあったら教えてください。

[田中氏] 引き合いとしては、自社の開発しているサービスや製品に、どこでもIPを組み合わせてワンパッケージで提供することを検討している会社さんからお話をいただいたこともあります。

 話としては、サーバー側に設定しようと考える人もいますね。最近AWSのグローバルIPが有料化されたので、こういうサービスを使ってもいいんじゃないかと考えて。ただし、われわれとしてはあまりサーバーサイトで常に使われるというサービスを想定していないので。

[遠藤氏] サーバーサイトで使ってしまうと、トラフィックで他のお客さんに迷惑かかってしまうので、それはやめてくださいと話をしています。

――どこでもIPを開始してから、どのぐらい引き合いがあるか、数字などはありますか?

[遠藤氏] まだスタートして半年ぐらいですが、引き合いは毎月伸びて、それも前月比のそれ以上に伸びています。

――どこでもIPに加入される方は、どのような流入経路で来ているのでしょうか?

[遠藤氏] 「固定IP」や「グローバルIP」などで検索して来るお客様がほとんどだと思います。もともと固定IPアドレスを必要としていて、その中で料金など比較して、われれのサービスを選んでいただいているかなと感じています。

――ほかにもVPNを使った固定IPアドレスのサービスがいくつかあります。その中で、どこでもIPの強みはどういう点でしょうか?

[遠藤氏] 回線などのサービス品質には自信があります。また、いまのところネットワークの帯域制限もかけていません。たくさんトラフィックを使うユーザーさんがいたら、ある程度制限しないといけなくなるかもしれませんが。われわれはある程度そこに余裕を持たせて、VPNのオーバーヘッドがあっても吸収できるような品質で提供したいと思っています。

[田中氏] フリービットはもともとISPのISPとして、自社のデータセンターを持って、ホームページサービスとかメールサービスなども代理で運用することもしてきました。そのためのネットワークやサーバーのスペックなどもそれなりのものを持っていて、そうしたリソースを使ってこのサービスを立ち上げています。そういう意味でコスト優位性が高いんじゃないかなと思っています。

 逆に、サービス自身はフラットな形で提供し、ソフトも素のWireGuardを使っています。そこでは差別化をしないで、品質と価格で勝負してる感じですね。

法人向けの直販サイトをスタート、第二段は5GモバイルeSIM

――今後の展開予定などがあったら教えてください。

[遠藤氏] フリービットはいままでB2Bがメインで、直販をしておらず、お客様の取りこぼしが発生していました。そこで、小口のお客様のニーズに耐えられるように、オンライン完結でクレジットカード払いできるサービスを考えていました。

 そこで、法人向けICTサービスを直販する「freebit Biz」というサイトを立ち上げました。その第一段が、どこでもIPなわけです。

 第二段として、3月に法人向けの5Gモバイルサービス「freebit mobile Biz」を開始します。これまでフリービットではMVNO向けのサービスをしていましたが、エンドユーザー企業のお客様にもオンラインで手軽に買ってもらえる安価なSIMとしてリリースします。

 これは、5Gと、eKYCによる本人確認、eSIMという新しい3つの技術を組み合わせています。たとえば営業マンが自分のスマホにeSIMとしてfreebit mobile Bizのセカンド回線を会社負担で入れる、といった利用ケースを想定しています。

[田中氏] いままでホールセールなので、エンドユーザーさんとの接点がなくてニーズなどの情報が上がってこなかったんですね。ここで接点を作って、市場のニーズのリサーチにも使えるんじゃないかと思っています。それがホールセールにもフィードバックされて、MVNOにも横展開していけるという、いい循環にもなるかと思っています。

――ありがとうございました。