インタビュー

JR東日本は鉄道だけじゃない!「宇宙」から「豊かな生活」までフル展示。次世代「ウォークスルー改札」も通り放題!?

CEATECブースは大幅拡大、電気機関車の“運転席の振動”も追体験できる

 10月13日~16日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される「CEATEC 2026」、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が出展する。

 同社は2023年にCEATECに初出展。3回目の出展となる今回は、CEATECの主催者企画エリアである「X(Transformation)パーク」内に、前回よりも大幅にスペースを拡大したブースを開設(ホール5 ブース番号5H32)。タッチレスで通れるウォークスルー改札、AIによる窓口対応などの体験コンテンツや、管内の鉄道の状況を俯瞰できるデジタルツイン、Well-beingや宇宙関連の取り組みなど、幅広い分野の取り組みを紹介する。

 鉄道というリアルなインフラを持ち、膨大な顧客との接点を持つJR東日本の強みを活かした多種多様な取り組みを紹介することにより、さまざまな企業との連携・共創を目指している同社の出展内容について、JR東日本の坂入整氏(イノベーション戦略部 Digital & Dataイノベーションセンター 所長)と古澤生成氏(イノベーション戦略部 デジタルデザインユニット 兼 Digital & Dataイノベーションセンター)にお伺いした。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の坂入整氏(左)と古澤生成氏(右)

鉄道だけでなく“人を起点”としてライフスタイルを革新

――今回、CEATECに出展する意図を教えてください。

[坂入氏]JR東日本グループは、2025年に新たな経営ビジョン「勇翔2034」を発表しました。「勇翔2034」では、「究極の安全」を追求しながら成長のための5つのエンジンとして、「すべての人にとっての安心」「グループ社員の働きがいと成長」「ヒト起点のマーケットイン」「技術力の深化と進化」「融合と連携」を挙げています。このような取り組みによって、従来の「当たり前」を超えてお客さまや地域の皆様の生活様式と社員の働き方を革新する「ライフスタイル・トランスフォーメーション(LX)」を創造し、安心と感動をお届けすることですべての人の心豊かな生活の実現を目指しています。

 JR東日本というと“鉄道オンリー”のイメージが強いと思いますが、この新たな経営ビジョンでは、鉄道だけでなく人を起点としてライフスタイルを革新し、心を豊かにしていきたいという思いを伝えたいと考えており、そのキーとなるのがAIやIT、ロボティクスなどの活用です。CEATECはこのような分野におけるビッグイベントであり、人々の生活を変革して社会にインパクトを与えたいという弊社の思いを伝えられる良い機会であると考えています。特にCEATEC 2026では「Transformation -企業が、産業が、そして社会が変わる-」というテーマを掲げており、このテーマが弊社の「変革の価値を高めて社会実装を加速させたい」という考え方と非常にマッチしていることも大きいです。

「勇翔2034」の全体像

――CEATECへの出展を通じて、具体的にどのようなことに期待していますか?

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の坂入整氏(イノベーション戦略部 Digital & Dataイノベーションセンター 所長)

[坂入氏]前回出展した一昨年のCEATEC 2024では、弊社のブースには約2000人に来場していただいたのですが、このときもさまざまな業種の方々と意見交換することができました。CEATECの来場者は技術に関心のある方や、ビジネスパートナーを探しに来られる方が多く、今回も来場者の皆様にJR東日本をもっと知っていただくとともに、パートナーとの共創につながることも期待しています。当然ながらJR東日本だけですべてを完結することは難しく、企業やスタートアップはもちろん、大学や研究機関など、多様な知見や技術を持つ皆さまとの共創が不可欠だと考えています。我々が取り組んでいる技術やサービス、目指す未来像をCEATECという場で発信することで、これまで接点のなかった方々ともつながり、新たな共創のきっかけを生み出したいと考えています。そこから新しい技術やサービスの社会実装を加速させていくことを期待しています。

「ウォークスルー改札」「みどりの窓口AI対応サービス(仮称)」を体験可能引退した電気機関車「EF64-1030」運転席の振動も追体験できる

――今回の出展内容を教えてください。

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の古澤生成氏(イノベーション戦略部 デジタルデザインユニット 兼 Digital & Dataイノベーションセンター)

[古澤氏]前回に比べるとブースの規模が約3倍と大幅に広くなり、いろいろなコーナーを回遊していただける内容となっています。また、これまではパネル展示が中心だったのですが、やはり体験していただいたうえで意見をいただくことが大事であると考えて、体験コンテンツを増やしています。

 例えば、弊社では2024年12月に、次世代に向けてSuicaの機能を順次グレードアップする「Suica Renaissance」の構想を発表しましたが、その一環として2026年2月に発表した「ウォークスルー改札」をCEATECのブースに設置します。ウォークスルー改札はタッチが必要だったこれまでの改札の“当たり前”を超える次世代の改札システムで、UWB(ウルトラワイドバンド)の無線技術を利用してタッチ不要で改札を通過することが可能です。今年5月に高輪ゲートウェイ駅直結の街「TAKANAWA GATEWAY CITY」にて開催した主催イベント「GATEWAY Tech TAKANAWA 2026」でも同じものを設置しましたが、これをCEATECでも体験することができます。

「Suica Renaissance」構想

――AIを活用したサービスの展示はありますか?

[古澤氏]JR東日本グループでは、駅におけるサービス高度化の一環として「みどりの窓口」のAI対応サービスの実現を目指しており、現在はきっぷを購入する際にお客さまが要望する利用区間・日時・人数・割引有無などの内容の整理・確認から発券対応までを一体的に支援する生成AIサービスの開発に取り組んでいます。2026年7月には立川駅と大宮駅にて実証実験を実施し、お客さまの要望の聞き取り精度および実用性を確認するとともに、話し声などが多い駅の実環境における対話の安定性や利用しやすさの評価も行いました。生成AIのシステムは、1つは日本電気株式会社(NEC)、もう1つはGen-AX株式会社というように、立川駅と大宮駅でそれぞれ異なるシステムを利用したのですが、CEATEC 2026では両方のシステムの展示を行い、実際にこのサービスを体験していただくことができます。来場者の方々には両方のシステムの比較や、追加してほしい機能などについて意見をいただければと思っています。

――そのほかに体験コンテンツはありますか?

[古澤氏]2025年11月に営業運転を終了し、引退した電気機関車「EF64-1030」の運転席の感覚を体験できるコンテンツを展示します。専用のデバイスと映像を用いることにより、運転士が運転席で感じる振動などの感覚を追体験できるというもので、お客さまに鉄道に対する興味関心を想起させることができます。このコンテンツは鉄道技術展などのイベントに出展したもので、NTTドコモの技術「FEEL TECH」を活用して作成しました。FEEL TECHとは人間の感覚をネットワークで拡張する「人間拡張基盤」を用いて他者の動作や感覚を受け手の身体や感じ方に合わせて変換して共有する技術です。人は年齢によって振動の感じ方が異なるので、年齢に応じた振動の制御などを行っています。

 この実証は、JR東日本が設立した「WaaS(Well-being as a Service)共創コンソーシアム」による実証実験の一環として実施しているものです。弊社はこのようなコンテンツの提供を通じて鉄道の魅力を楽しんでいただく取り組みを進めており、将来的にはオンラインでのコンテンツ提供も目指しています。

「EF64-1030」運転体験コンテンツ

ウォークスルー改札(★体験コンテンツ)

Suicaの機能を順次グレードアップする「Suica Renaissance」の取り組みの1つで、UWBを用いてスマートフォンと改札機との間で測距を行い、スマートフォンが所定の通過位置に近付いたタイミングで通過判定を行ってゲートを開く仕組みとなっている。

UWBを利用したウォークスルー改札

みどりの窓口AI対応サービス(仮称)(★体験コンテンツ)

きっぷの購入を求める客の要望内容(利用区間、日時、人数、割引有無など)の整理・確認業務を生成AIが補完・支援するサービス。きっぷの購入をスムーズにするとともに、多言語での対話や案内も行う。将来的には生成AIを搭載した機器によって、要望の確認から発券までの一体的な対応を実現する。

「みどりの窓口」AI対応サービス実証機(NEC製)
「みどりの窓口」AI対応サービス実証機(Gen-AX製)

電気機関車「EF64-1030」体験(★体験コンテンツ)

JR東日本、JR東日本商事、NTTドコモビジネスの3社が共同で実施している実証実験。専用デバイスの上に着座すると、EF64-1030の運転士が実際に運転席で感じる車両の振動とともに走行シーンの動画がディスプレイに映し出され、運転士の感覚を追体験できる。

振動や映像による、引退車両「EF64-1030」の運転士の追体験

Well-beingから宇宙ビジネスまで幅広い取り組み

――「WaaS 共創コンソーシアム」について、もう少し詳しく教えてください。

[古澤氏]JR東日本はWell-beingな社会における「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」を目指しており、オープンイノベーションによってさまざまなテクノロジーを活用して企業や大学・研究機関、自治体とともにモビリティや地域共創、くらしづくりなど、幅広い分野のテーマに取り組むためのプラットフォームとして、2023年4月に設立したのが「WaaS 共創コンソーシアム」です。

 JR東日本がWell-beingに着目した理由は、やはり鉄道事業者として“人々の生活に入り込んでいく”という観点で考えると、人の幸福、つまりWell-beingの実現に取り組むべきであると考えたからです。我々の強みは膨大な数のお客さまとの接点を直に持っていることですが、JR東日本だけでさまざまな社会課題を解決するのは難しいので、産官学の多種多様な組織と連携して共創を進めることにより、人々の生活を良くして幸福度を上げていきたいと考えています。このコンソーシアムでは遠隔での新しい観光体験や、都市部公共空間におけるバイオフィリック効果の検証などさまざまな取り組みを行っています。

――このほかに注目の展示がありましたら教えてください。

[古澤氏]TAKANAWA GATEWAY CITYでは2025年3月に、街を運営するうえで使用されるさまざまなシステムや鉄道運行データ、ロボット、Suicaなどの情報を集約・連携して滞在時の快適性を高める「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」を提供開始しました。このプラットフォームは共創パートナーであるKDDI株式会社と開発しており、データ収集基盤「TAKANAWA GATEWAY URBAN OS」および街独自のアプリ「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」、ロボットを制御するための「ロボットプラットフォーム」で構成されています。

デリバリーロボット「デリロ」

 2025年4月にはTAKANAWA GATEWAY CITYアプリを使って注文できるデリバリーロボット「デリロ」によるフードデリバリーサービスをデモ的に行ったことを皮切りに、現在では各棟のオフィス向けにデリバリーサービスを展開しています。CEATEC 2026でもこのデリバリーロボットを展示して実物を見ていただくことができます。

 また、JR東日本グループは「勇翔2034」の「技術力の深化と進化」の中において、AIやロボティクスなどに並んで「宇宙技術」の活用も掲げており、衛星データを活用した施設管理や、衛星情報を利用した自動決済・列車制御などのシステム開発に取り組む方針です。CEATEC 2026ではこの宇宙技術の活用の取り組みについてもパネル展示を行います。

 鉄道会社と宇宙というのは意外な組み合わせに思われるかもしれませんが、例えば衛星測位で取得した位置情報を活用して、移動経路をもとに料金が自動的に計算できるようにするとか、位置情報をもとに速度を分析して交通手段を自動判別するとか、いろいろな可能性が考えられます。また、人工衛星のデータを活用したリモートセンシングにより鉄道インフラを管理するという使い方も考えられます。

 なお、CEATEC 2026のJR東日本ブースでは、グループ企業である株式会社JR東日本情報システム(JEIS)のプロダクトも紹介し、同社が提供する衛星リモートセンシングプラットフォームを展示します。宇宙ビジネスには幅広い業種が関連しますので、JR東日本グループが宇宙関連に取り組んでいるという姿勢を見せることで、多種多様な企業と連携できる可能性があると考えています。

WaaS共創コンソーシアム(施策紹介)

一企業単独での解決が難しい社会課題に対して、オープンイノベーションプラットフォームを活用したイノベーション創出に取り組み、Well-beingな社会の実現を目指すことを目的としたコンソーシアム。2026年9月現在、運営会員が73、一般会員が35で、計108の組織が参加している。2026年度は「関係人口の創出に着目した二地域居住モデルの実証」「駅舎における清掃DX」「活動の気配がにじむ縦型商店街×BUY LOCAL」「遠隔五感体験」など9テーマの実証を進めている。

デリバリーロボット「デリロ」

TAKANAWA GATEWAY CITYではロボットを活用したフードデリバリーサービスを実施しており、オフィス内で昼食などを配送するサービスを提供している。デリバリーロボット「デリロ」は、TAKANAWA GATEWAY URBAN OSに集約されたデータを活用して最適なルートを選択。防犯カメラの映像から解析した人流情報を用いて、混雑しているエリアを回避することで迅速に商品を届けられる。

「デリロ」によるビル設備と連携した走行

宇宙フィールドへの挑戦(施策紹介)

JR東日本では2025年12月、新たにイノベーション戦略本部内に「スペースユニット」を発足。衛星測位や衛星リモートセンシングなど宇宙技術を活用する取り組みを推進している。

列車制御
リモートセンシング
位置情報等を活用した改札

JR東日本情報システム(JEIS)のプロダクト紹介

レールなどの鉄道設備を連続撮影して3Dモデルを作成できる3D撮影装置や、衛星リモートセンシングプラットフォーム、無人駅において駅構内放送などを遠隔から操作できる無人駅IoTプラットフォームの3つのプロダクトを紹介する。

鉄道用3D撮影装置
無人駅IoTプラットフォーム
衛星リモートセンシングプラットフォーム

鉄道好きにも見てほしい。JR東日本の社内用デジタルツイン「JEMAPS」アプリ版なども展示

――ところで、鉄道が好きな人にお勧めのコンテンツは何かありますか?

[古澤氏]以前のCEATECでも行った「JEMAPS」を今年も展示します。JEMAPSは、JR東日本の管内で運行するすべての列車の位置や各列車の人流を地図上でリアルタイムに可視化した社内向けのデジタルツインプラットフォームで、駅の人流や気象・防災に関する情報も把握できます。大雨や地震など災害発生時に鉄道運行状況とあわせて警報・注意報や土砂災害・浸水害・洪水の危険度分布などを確認できるほか、輸送障害の発生時に混雑状況を把握してお客さま救済に向けた計画を立てたり、社内での総合防災訓練に活用したりと、さまざまな使い方をしています。

 以前のJEMAPSはPCのデスクトップ上でしか動かなかったのですが、近年はタブレット用のアプリも作りまして、CEATEC 2026ではこのアプリ版も展示します。アプリ版では表示する列車を絞り込むことで動きがスムーズになるように工夫しているので、動作の軽快さをぜひ見ていただきたいですね。

JEMAPS(プロダクト展示)

JR東日本管内の鉄道の列車在線位置や列車混雑状況、路線の運行状況、改札機通過データに加えて、気象・防災情報など膨大な社内外データを自動収集し、1つの地図上に表示するデジタルツインプラットフォーム。2022年6月に使用を開始した。収集したデータはデータベース上に保管され、過去履歴の検索も行える。現在は社内での情報共有に利用されているが、将来的にはアプリやデジタルサイネージでの顧客への情報提供や、他の鉄道会社や企業、自治体などの連携なども検討している。

JEMAPS(アプリ版)

Viz-Rail(プロダクト展示)

線路メンテナンスを支援するための分析プラットフォーム。毎日取得するモニタリングデータの変化をもとに不具合箇所を検知する機能や、列車動揺の発生を予測する機能を搭載している。2026年4月には、最大300日分のレールの歪みデータを自動的に分析し、夏季の高温時に発生するレールの歪み(張り出し現象)の予兆を捉える新機能「Viz-Rail HARIBOU(張防)」を実装した。将来的には、この技術を他の鉄道事業者やさまざまなインフラのメンテナンスに展開することを目指している。

線路メンテナンスを支援するための分析プラットフォーム「Viz-Rail」

どこトレダイヤル(プロダクト展示)

生成AIを用いて、顧客からの問い合わせに対して電話で列車の遅れや走行位置などの運行情報を知らせる電話自動音声アシスタント。2025年7月に国内の鉄道事業者としては初めて提供開始した。ガイダンスに従って利用路線や駅を音声入力すると、各路線の遅れや運転中止の状況などが案内される。これにより、駅係員による案内やコールセンターのオペレーター対応を利用することなく、いつでもどこでも運行情報を取得できる。

生成AIを用いた電話自動音声アシスタント「どこトレダイヤル」

新たな価値創造に挑戦するパートナーや将来を担う学生に来てほしい

――来場者に向けてメッセージをお願いします。

[古澤氏]企業の方々に来ていただきたいのはもちろんですが、将来を担う学生の皆様にもぜひご来場いただき、いろいろなコンテンツを体験していただきたいと思います。JR東日本はどうしても鉄道事業というイメージが強いですが、社会課題の解決やDXなどに向けて幅広い取り組みを進めているということを見ていただきたいですね。ブースで説明するスタッフは、基本的に各プロジェクトの担当者をメインに配置していますので、そのような担当者から直接御説明させていただき、「JR東日本ってこういうこともやっているんだ」と驚きを感じてほしいですね。

[坂入氏]JR東日本ブースでは、鉄道関連だけではなく、宇宙やまちづくりなど幅広い分野にわたって多種多様なコンテンツを散りばめていますので、「社会をもっと良くしたい」「新しい価値を生み出したい」と思っている方々にぜひ見ていただき、JR東日本がどのような視点で社会課題の解決に取り組んでいるか、という点をまずは感じていただきたいと思います。JR東日本はリアルなインフラを持っている企業ですので、我々と一緒にタッグを組んで何かに挑戦し、共創したいと考えている方にも来ていただき、ぜひ連携させていただきたいと思います。